世が世ならレイザーラモンHGが「フォー!」と宣伝していたに違いない、マーベル・コミック原作の実写映画『ファンタスティック・フォー』が公開されています。
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既に見ている人々から毀誉褒貶の激しい、数々の感想が流れてきています。
20世紀フォックスとしては、コミック版「マーベル・ユニバース」でも重要なキャラクターであるファンタスティック・フォーの映画化は、ディズニー/アベンジャーズ組と張り合うためにも、“大”のつく成功を納めなければならない所でした。
その『ファンタスティック・フォー』の評価が大きく賛否別れたのは何故なのか、その理由を探っていきます。
基礎知識:原作『Fantastic Four』
出典:http://www.comicvine.com/forums/battles-7/superboy-primedark-avengersvsfantastic-fourspawnul-565908/
『ファンタスティック・フォー』の歴史は古く、初登場の第1巻は1961年に刊行されたコミックになります。自家製のスペースシャトルで宇宙飛行中に謎の光線を浴びてしまい特殊な能力を持つことになった“ファンタスティック”な4人が、様々な侵略者と戦う、というシリーズです。
身体を自由に伸び縮みさせるチームリーダー“ミスター・ファンタスティック”ことリード・リチャーズ!
身体を透明にしたりバリアを張る能力の持ち主、“インビジブル・ウーマン”ことスー・リチャーズ!
人間たいまつ“ヒューマン・トーチ”のあだ名の通り、身体を炎に包んで空を飛ぶジョニー・ストーム!
全身を固い岩石で覆われた大男で、あのハルクと肩を並べる力持ち“ザ・シング”ことベン・グリム!
……コミックならまだしも実写映画となると、どう作ったところでバカバカしさを必然的にまとってしまう、荒唐無稽な設定だと言えるでしょう。
実写映画化の死屍累々
このコミックの実写映画化権利を最初に取得したのは「B級映画の帝王」ことロジャー・コーマンです。手っ取り早く安く仕上げることで、大ヒットにはならずとも絶対に損を出さないことで有名なコーマンをもってしても、「ファンタスティック・フォー」は難題だったのか、それとも単に権利の転売目的だったのか、映画化権はなかなか行使されずにいました。
いよいよ期限が切れるというところで、権利期限延長の条件クリアのため、どこから見てもやる気を感じさせない消化試合の様な映画をでっち上げます。ロジャー・コーマン・プレゼンツの『ファンタスティック・フォー』の誕生です。
端から公開する気も無かったであろう本作は、アリバイ的にビデオ・スルーされたのみで、マーベル映画の黒歴史としてべっとりと記憶されるに至っています。めでたく期限を延長したコーマンから(おそらく)多額の譲渡金をせしめ取られて実写化権利を取得したのが20世紀フォックスです。
すでに『X-メン』シリーズをヒットに導いた製作陣は、『ホーム・アローン』のクリス・コロンバスをプロデューサーに、『バーバー・ショップ』のティム・ストーリーを監督に迎え、コメディ寄りの作品に仕上げます。
ジェシカ・アルバが透明になる度に下着姿になる『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』が、それなりのヒットを飛ばしたことで、すぐに人気キャラクター「シルバー・サーファー」が登場する続編『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』が作られます。しかし、シルバー・サーファーの姿を見たコミック・ファンたちは、サルエルパンツを穿いた母親を見たような微妙な気持ちに陥ったのです。
「4」のマークの入った揃いのボディ・スーツを着た4人組で、内1人は身体をビロビロ自由自在に延ばせる、というスーパーヒーローをコミカルに寄せることで何とかバランスを保っていた所に、銀色のサーフボードに乗って空を飛ぶ、ツヤツヤした真面目な男が登場したことで、虚構性のバランスは崩れ、笑うしかない領域へ突入してしまったのです。
2度目のリブート
数々の屍を越えて、新たにファンタスティック・フォー実写映画化の難題にチャレンジをするのはジョシュ・トランク監督です。
ナイーブな青年が超能力を得たことで、狂気に囚われていく様子をPOV方式で描いた傑作『クロニクル』のジョシュ監督が再び、超能力を得てしまった4人の若者を描きます。
出典:http://comicbook.com/2015/04/09/fantastic-four-official-look-at-the-thing-is-a-bit-rocky/
新作『ファンタスティック・フォー』は小学生時代のリードとベンの出会いから始まります。自分の発明に絶対の自信を持つも非力ゆえにいじめられてしまうリード少年と、乱暴でケンカは負け無しだが年上の兄からはいじめられてしまうベン少年。2人の繊細なやりとりをセンチメンタルな筆致で描いていきます。
中盤「異次元にある惑星」へのテレポート旅行で特殊な能力を持ってしまった4人は軍に幽閉されるのですが、ここから、今までの映画版とも原作コミックとも違った展開を見せるのです。
リードはグネグネと自由に身体を伸ばす能力で拘束を解き、必ず助けに戻ると言い残し逃げていきます。“ザ・シング”(The Thing:無機物体)となったベンは、怪力と岩石の身体を見込まれ、紛争地に派遣され戦闘に参加します。
ジョニー・ストームも飛行訓練で逃げるドローンを火球で落とすなど、能力の兵器利用に前向きです。スーはそんな彼らに疑念を抱きながらも、能力除去のため協力をしていきます。
ジョシュ監督は「ある日、奇妙な能力を持つに至った若者たち」をあくまで現実的(リアル)かつ深刻に描いたのです。
アメコミ映画成功の法則
ディズニー/アベンジャーズ組が成功した理由は明確です。キャプテン・アメリカに目の覚めるようなアメリカ国旗のコスチュームを着せた事。アイアンマンを赤とゴールドのツートーンにした事。ヴィジョンに真っ赤な顔とブルー・グリーンのボディにマントを着けさせた事、などなど。
全て原作コミックを踏襲したスタイルです。
出典:http://13thdimension.com/13-quick-thoughts-on-avengers-age-of-ultron/
もちろん優れた脚本や演出も大事ですが、原作の持ち味をどう活かしたのかがアメコミ映画を見る観客たちの注目ポイントです。アメコミ・キャラクターの持ち味とはキャラクター自身の魅力です。キャラクターの魅力が実写版にも持ちこされていれば、そのまま原作の魅力も実写映画版に取り込まれることになります。
「ファンタスティック・フォー」の実写化で言えば、皮肉なことにロジャー・コーマン版が原作の持つ鷹揚な雰囲気を取り込んでいるとも言えます。「原作と違う!」といった、いわゆる“原作厨”の批難の声は、単に難癖をつけたいワケでは無く、キャラクターの魅力が持ちこされていない場合…… も、あるのです。
だったら新生『ファンタスティック・フォー』のココを見よ!
出典:http://comicbook.com/2015/04/09/fantastic-four-official-look-at-the-thing-is-a-bit-rocky/
逆に言えば。新生『ファンタスティック・フォー』は深刻なファンタジー映画として楽しめる作品になっています。
若くナイーブな青年たちが苦労して開発した装置を政府に取り上げられてしまう失意。裏方に徹底させられる科学者たちのルサンチマン。嫉妬心から先走って装置を作動させる若気の至り、など。青春の敗北が描かれています。
また、超能力が覚醒してからは『AKIRA』そっくりな場面が登場し、「“あの場面”が実写だとコウ見えるのか!」という体験が出来ます。ファンタスティック・フォーの面々も軍部からナンバーで呼ばれるなど、かなり『AKIRA』を意識しているのは間違いないでしょう。
コスチュームこそ揃ってはいませんが、やはり“ファンタスティック”な面々の活躍は心躍るものです。終盤の決戦では、それまでの静謐さをブチ壊す大活躍を見せてくれます。手足を伸ばし敵を翻弄するリード。野郎たちを文字通り“見守る”スー。ザ・シング「お仕置きの時間だ!」とジョニーの「フレイム・オン!」のキメ台詞がチャンと飛び出すあたりも、面目躍如と言えます。
毀誉褒貶の激しい新生『ファンタスティック・フォー』ですが、「駄作」か「傑作」かと問われれば……
ピッタリ真ん中あたりに位置する映画だと言えるでしょう。
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※2020年11月27日時点のVOD配信情報です。