深田晃司監督最新作『よこがお』は、主演・筒井真理子の“横顔”が出発点【インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した深田晃司監督が、同作で毎日映画コンクール女優主演賞をはじめ、数々の映画賞受賞に輝いた筒井真理子と2年ぶりに再タッグを組み、自身のオリジナル脚本で放った最新作にして問題作、『よこがお』が公開に。

よこがお

今回描く女性は、看護師として正しく生きてきた、ごく普通の女性・市子の物語。予期せぬ理不尽な事態に巻き込まれ、築き上げたすべてが崩壊する絶望の淵のなかから、人生に復讐を仕掛けるヒロインの生き様を描く衝撃作で、カンヌ・ヴェネチアに並び、世界でもっとも歴史ある映画祭のひとつスイス・ロカルノ国際映画祭にも正式出品が決定している。夏の邦画で熱い視線を集めている本作について深田晃司監督にインタビューした。

よこがお

ーーなんでも筒井真理子さんの横顔が美しいから、という理由が映画製作の出発点だとうかがい、すごくびっくりしました。

深田監督 そうですね。「原作・筒井真理子」みたいなもので(笑)。前の映画が終わった後、プロデューサーと次もやりましょうという話になって、その時には筒井さん主演でいこうと決めていたんです。筒井さんには女優としてのポテンシャルが読めないというわくわく感があって、なによりどの作品、どの役柄、どの場面でも全力で取り組まれる方なので、ご一緒したかった。

よこがお

ーー筒井さんが放っている芳醇な美はもちろん、お芝居も非常にハイレベルですよね。

深田監督 俳優さんであて書きする場合、いろいろなパターンがあって、自分は経験ありませんがもしまったく演技ができない新人をプロデューサーから押し付けられたら、書ける内容がかなり限定的になってしまうはず。演技の幅が少ないから。その意味では筒井さんという最高に広いキャンバスを与えられたようなもので、何をやっても答えてくれるだろうと。だから今回みたいに二種の人格が並行して進行するような役柄でも、筒井さんなら演じられるという深いポテンシャルに惹かれた、ということはあったと思います。

ーー実際、撮影が終わったいま、いかがですか?

深田監督 今回の場合は、ほぼ出ずっぱりなんですよね。市子というキャラクターを、一緒に作り上げたという手応えはありますね。僕にとっても一人の人物を追っていく作業は新境地で、その結果は観客に委ねますが、筒井さんとも初めてがっつり取り組み、信頼関係が途中で崩れたら大変ですが、そうじゃなかったので、やり切った感はあります。新境地でいうと映画では『ブルージャスミン』(ウディ・アレン監督作)、『ブルーバレンタイン』(デレク・シアンフランス監督作)などもそうですが、物語を入れ子のようなトリッキーな構造にしたことは自分にとって初めてでした。

よこがお

ーーまた、筒井さん以下、共演の俳優陣も実力派ばかりでした。

深田監督 ありがたいですね。監督の仕事は<いい俳優を集めれば6割終わる>と聞いたことがありますが、本当にその通りだと思いますね。あとはもう演出というよりは、いい俳優さんがちゃんと力を発揮できるような脚本と現場を準備することだと思います。監督の仕事は、早い段階で終わっているようなもの。

市川実日子さん、池松壮亮さん、初めましての俳優さんと、それなりにきちんとお仕事できたので、俳優さんへの接し方という意味では、ちょっと経験値は上がったかなと思います。でも実際どうかはわからない(笑)。

よこがお

ーー苦手?

深田監督 いや、人見知りでしょうかね。初めての俳優さん相手だと人見知りが出て緊張して、普段から早口なのがさらに早口になって、何を言っているかわからないと言われたりもする。ちょっとずつ慣れてくればいいのですが、最初はダメですね。

ーーそれでいて、ご自身のカラーはどう出していくのでしょうか?

深田監督 監督はきちんとコントロールをするべきだとは思います。ただ、コントロールしすぎると、俳優が監督にふりつけられた人形みたいになってしまう。映画の場合はやっぱり集団創作で、また偶然に満ちた世界にカメラを向ける以上、いかにカメラの前に魅力的な偶然を呼び込めるかが大事になってくる。カメラにとって魅力的なものって止まっているものではなく、次の瞬間、どう動くかわからないものが基本的には面白いんですよね。たとえば動物や子どももそうですよね。予測不能。

でも、よく訓練された俳優の演技だと、その生々しさがなくなってくる。ちゃんと脚本通り、キャラクター通り正しくセリフを言ってしまうような。そうすると次にどう動くかわからないような生々しさがなくなってしまうけれど、いい俳優はちゃんと決められたセリフを言いながらも、その生々しさを保てると思っていて、あとは脚本をどう解釈しているかの問題。俳優自身もアーティストなわけで、いい俳優は脚本をどう理解したか見せてくれる。筒井さんは、そういう俳優のおひとりかなと思います。

ーー復讐や再生などが物語のエッセンスとしてあるなか、メインテーマは何でしょうか?

深田監督 それはなんだろう。でも、メインモチーフは、筒井真理子です(笑)。最終的に描けるものって、自分にとって信じられるものだと思っていて、結局どの作品にも通じることですが、「人は孤独である、孤独ではあるけれども、生きて行かなくちゃいけない」っていう部分かなと思っています。あえて言葉にすると。それが自分にとって信じられる世界観なので、その世界観が今回の『よこがお』にも反映されていると思っています。

よこがお

ーー悲観的なのでしょうか?

深田監督 特別に悲観的だとは思いませんが、生きていて辛いなとは思いますよね。そして誰しも孤独だと思う。孤独のままで生きることが辛いから家族を作ったり、家族や国家や宗教などに所属することによって、孤独を忘れながら生きようとしていて、でもふとした瞬間に孤独であることを人は思い出すもの。そういう瞬間を映画の中ですくいとっていきたい。

ーー映画を観ていて、気づきたくない、目を背けたい瞬間ってありますが、孤独もそうですね。

深田監督 でもそれは、誰しもの人生に訪れるであろう辛い瞬間の予行練習だと思いながら観ていただければ。僕は意外と真面目にそう思っています(笑)。(取材・文・写真=鴇田崇)

映画よこがおは、2019年7月26日(金)より全国ロードショー。

よこがお

出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮 ほか
監督:深田晃司
脚本:深田晃司
公式サイト:
yokogao-movie.jp
(C)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

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  • Masahiro
    -
    これがどこまで計算されていて、 どこから作り手の意図を越えていったものなのか。わからぬ。すごい。 一側面であるよこがおの向こう側を、能動的に想像させるってのは、どれだけ難しいことか。 これは「映画」の楽しさそのものだと思うから、やっぱ深田さんすごい。筒井さんも。
  • はるま
    4.5
    2019145
  • YS
    3.5
    2019/7/26 配給 KADOKAWA 好いていた横顔があっという間に憎く見え、その人の横顔は復讐で悲しげな顔に変わり、平たい、ただののっぺらぼうになってしまった。 現代と過去がモンタージュで構成されて、ちょっとテンポに緩さを感じたけど、 俳優陣の素晴らしさに、淡々と事件が垣間見れて、じわじわと重たくなって行った。 ほんのちょっとのこと。 ほんのちょっとのズレ。 何に期待して、何にがっかりするのでしょうか、人間は。 横から見てるだけじゃ分からないですね、きっと。 しっかり向き合わないと…
  • 幸村
    3.9
    映画が上手い! 深田晃司監督の映画は初。 脚本、演出、演技諸々込みで、雑な言い方だけど、とにかくとてつもなく上手な映画だなと思った。 特に序盤の喫茶店で、射し込む光の色がスーッと変化していくシーンは凄かった! …まあ浅瀬勢の自分がこれを言ったところでどれ程の褒め言葉になるかは分からないけど。 まさにタイトルが示す通り、どんなに親しい相手、何なら自分の事すら完全に理解することはできないという、人間の多面性について色々と考えさせられたし、「復讐なんて馬鹿らしいよ!前向きに生きよう!」みたいな安易な着地をしないところも、とても深かった。 あまりにも深すぎて、観賞直後の感想は「百合を拗らせすぎるとろくなことにならない」くらいしか出てこなかったが、まあこれは見る側の問題ということで。 皆様の感想を拝読すると、『淵に立つ』が名作らしいので、機会があれば見てみようと思います。
  • mononcle
    4.8
    この不穏さと緊迫感! 力作《淵に立つ》よりますます深化している。アラ環にして脱ぎっぷりのよい筒井真理子は、深田作品のミューズになりつつある。市川実日子もキャリアを重ねて、複雑な心理表現が必要な難役をこなしている。 筒井のよこがおが撮りたかったのが、この作品の初期衝動らしいが、なんのなんの心理の襞にひたひたと迫る傑作である。
「よこがお」
のレビュー(1374件)