「蜷川アレルギーを起こさず観てほしい」蜷川実花、奇跡の連鎖が創り出した『人間失格 太宰治と3人の女たち』【インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

小栗旬がトップスター作家・太宰治を退廃的に演じる映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、太宰の世界的ベストセラー「人間失格」の誕生秘話を、<太宰治と3人の女たち>を軸に描く蜷川実花監督の野心作だ。映画は時に太宰視点になり、時に女たちの視点になり、さまざまな表情とともに物語を見事に紡いでいく。監督自身、これまでとは異なる手応えを感じたという本作について話を聞く。

人間失格

ーーこれまでの監督作品ともまた印象が異なる新機軸と言えそうですが、ご自身での手応えはいかがでしょうか?

蜷川監督 実はすごいの撮れちゃったかも!?って思っています。これまで、写真を撮ればあんなの写真じゃない、映画を撮れば映画じゃないと言われ続けてきたのですが、今回は、ちょっといい映画が撮れちゃったかも、と手応えはすごくありました。

ーーこれまでの蜷川カラー全開ではなく、計算された照明などチャレンジも感じました。

蜷川監督 どうしてこう奇跡的な出来事が起こるの?という展開も含め、天才的なキャストやスタッフが揃い、流れるように素晴らしいものができていく瞬間を、何度となく体感しました。人生に何度もないようないい経験ができたと思います。

人間失格

ーー小栗さんを筆頭に、皆さんお芝居が飛び抜けて素晴らしいですよね。どういう演出をされたのでしょうか?

蜷川監督 本当にそうですよね。私は動きを決める程度で、すごく直したという記憶はないですね。シチュエーションを作って気持ちを説明して「それではお願いします」という流れが多かったと思います。「こういう表情をしてください」「こういうイメージです」という話はしなかったです。

人間失格

ーーそもそも、太宰治のどこに惹かれたのでしょうか?

蜷川監督 太宰にはすごく華やかでスター性があるけれども、どこか“太宰治”を自分自身で演じているような部分があり、わかってもらえないしんどさがある。太宰が抱えている文壇に正当に評価されきれないもどかしさは、全然規模は違いますが、少なからず自分の中にもあるし、“文豪”のような権威に対する違和感や嫌悪感、そういう気持ちも分かりますね。

ーー冒頭の写真と映画の話ですね。

蜷川監督 あとは撮影している時も編集している時も自分の胸に突き刺さったのは、太宰と坂口安吾とのくだりですね。ものを作る者にとって重要なキーワードがいっぱいあると思っていて。「壊れたら困るものは持つべきではない」「馬鹿にも分かるものを作らなければいけない」など、特に映画をやっていると感じますね。

写真はもう少し写真が好きな人たちが対象の狭い世界だけれども、映画をやると、途端に風圧が高くて。ああなるほど、これだけ多くの人に観てもらえるものを作っているのかと痛感すると同時に、どこまでわかりやすくみんなが観たいものに寄り添って、どこを捨てて、どこを守り切らなければいけないのかと考えたりします。

ーー永遠の命題のような話ですね。

蜷川監督 メジャーであることをある程度強要される――そう思った時に太宰の本物でありながらもスキャンダラスでもある、そういう到達点は眩しくもあり、そこに行くまでには血反吐を吐くような葛藤――欲望にどこまで忠実か、どこまで人としてきちんとしていなければいけないのか……。特に今の時代はバランスとることがすごく難しいと思うので、割と身につまされることが多かったです。

人間失格

ーー最初のほうの飲み会のシーンで、しんどそうな太宰のアップのシーンが最高でした!

蜷川監督 本当に自分がやりたいように生きるという太宰の生き方は一つのモデルだと思います。でも、太宰の場合、それを振り切って全然気にしなければいいけれども中途半端に人間くさいので、自分がやったことに対して傷ついたりするでしょう? そんな立場ではないのに(笑)、そこをどう人間的に共感を持っているように見せるか、ということがすごく生命線でした。

太宰は女性から見て完璧ではないですけれども、ある女性たちから見ると抗えないほどの魅力を放つ人。「夢中になるのはしかたない」と思わせる説得力をいかにもたせるか、ということはすごく重要で、同時に難しいポイントでしたが、小栗くんがしっかり体現してくれたと思います。

人間失格

ーー監督のお気に入りのシーンはどこでしょうか?

蜷川監督 いっぱいありますね(笑)。宮沢りえさんと子どもたちのインクのシーンは、わたしに子どもがいなければ、もしかしたら思いついていなかったかもしれません。インクを使ってやりたいというアイデアはわたしが出して、やっていられない瞬間は誰にでもあって、そういうシーンを書いてほしいと脚本家の方にお願いをしました。あれは奇跡のシーンというか、子どもたちの芝居が本当に素晴らしくて、それをりえちゃんが受け止めてくれて。あのシーンはわたしが母親じゃなかったら、ああいう風にはならなかったかもしれないなと思っています。すごく気に入っているシーンですね。

人間失格

ーー男性目線のシーンもあれば女性目線のシーンもあり、公開後の反響が楽しみですが、世代的にはどの層に観てほしいですか?

蜷川監督 若い時に観れば若い時の感想があるでしょうし、女性も20代、30代、40代の女優さんが演じているので、たくさんの人が感情に寄り添えるし、男性が観ても面白いのではないかなと思う。私の作品の中では、いろいろなことに偏らないものになったのではないかなと思います。

ぜひたくさんの方に蜷川アレルギーを起こさずに観てほしいです(笑)。(取材・文=鴇田崇/写真=iwa)

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、2019年9月13日(金)より全国ロードショー。

人間失格

出演:小栗旬宮沢りえ沢尻エリカ、二階堂ふみ ほか
監督:蜷川実花
脚本:早船歌江子
ヘアメイク:NOBORU TOMIZAWA(CUBE)
スタイリスト:斎藤くみ(ドレス/ヌキテパ ブラック、シューズ/セルジオ ロッシ)
公式サイト:ningenshikkaku-movie.com
(C)2019 『人間失格』製作委員会

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  • Miki
    3.5
    奥さんできた人や
  • 青猫
    -
    子供たちが突然たくさん出てくるシーンが少女椿っぽくて良かった それ以外のシーンも美をみせることにこだわってるなあと感じる
  • さすらいの旅人
    3.5
    助演俳優陣が活躍する文芸作品。WOWOW録画視聴。 ・2019年度キネマ旬報ベストテン【助演男優賞】成田凌 ・2019年度日本アカデミー賞【助演女優賞】二階堂ふみ 自由奔放で本能のまま生きる太宰治の生きざまを、小説『人間失格』の誕生を背景にして描いた蜷川監督の野心作。 本作は蜷川監督らしく極彩色に飾られた絢爛豪華なセットとカメラワークは良かった。しかし、太宰の日本純文学作家としての天才的な才能についての物語が抜けていたように思う。女性スキャンダルの誇張は映画的に面白いが、太宰は今でも日本中から愛される作家なのです。子供の頃読んだ「走れメロス」は感動したなあ…。 俳優陣では小栗旬は好演したが、私は逆に助演者を高く評価したい。出版社の佐倉を演じた成田凌は、観客側の立場で冷静に人間としての太宰を追った。愛人山崎を演じた二階堂ふみは3名の女性の中では脱ぎ損であったが、太宰に優しく接する演技はリアルで妖艶であった。 本作の主人公は実在人物なので、人間性については賛否が分かれるだろう。
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    「君は僕が好きだよ」???僕は君が好きだよ、じゃなくて??やば??? 太宰治の作品大好きなんです、、、昨年の春先に、三鷹へお墓参りに行かせていただきました、、いつか桜桃忌にも行って、墓石にさくらんぼ詰めてみたい笑(だめです) 『斜陽』も『人間失格』もまた読みたくなったから、再読しよう!! えちえち!!!色気すごい!!!やっぱ小栗旬はガタイがいいから和装も洋装も色々似合うな!!外套が!かっこよすぎる!黒が似合う!濡れた感じの細い髪の毛もいい!!!目も!手も!途中から本当の太宰治に見えてきた、結局女は悪い男が好きなんだって、この世の心理っすよ……… さすがみかさん、全ての画面がおしゃれだし、美しい!光の具合や指先の角度、細部にこだわりが感じられる、あ〜みかさん!!って感じ!! 西洋に憧れた時代の日本だけど、音楽といい視線や動きの感じのいい、この映画は洋画っぽいなと感じました。スカパラの曲もめちゃいいね!!! 太宰の家、『桜桃』や『ヴィヨンの妻』を読んだ時にわたしが想像したまんまでびっくりした!!!玄関とか蚊帳の感じが!嬉しい!!!赤ちゃんどうするんだろうって思ってたら、この子、ダウン症の子なのかな?? 世間、愛、恋、革命、… 残酷だなぁ、残酷って美しいなぁ、時代性もあるけれど、人を詩的に錯覚させちゃうすごい人だわ。 いじらしい、っていう感情が素敵ね、 死ぬ気の恋なのか、太宰が女の頼みを断れない臆病者な道化なだけなのか??
  • minami
    2.8
    蜷川実花作品はリアルの追求はされないので、古い町並みやそのセットが「THE人工物」という香ばしさぷんぷんなのだけど、そこに少しばかり引っかかる度に「まぁ映画だからね、それはそれでそういう作り方も否定されるべきものではないもんね」と自分を納得させながら観る感じ。 でもストーリーや人物像にはその耽美な世界観が合っていたと思う。 小栗旬も似合っていた。 太宰治については、教科書に載っていた『走れメロス』でお腹いっぱいになってしまって他作品を読んだことのないスーパーにわか勢ですが、でも3人の女性たちの在り方はよく聞く話と同じだったので、一定の感情移入はできました。 美知子の覚悟がよかったな。 私は絶対に修治みたいな男性は嫌なので、どの女性にも共感することはできなかったけど、それでも彼女の涙にはちょっとぐっとくるものがありました。 修治も本当に特別に思っていたんじゃないだろうか。 最後の入水自殺の際も修治のものと思わしき下駄の摺り跡があったと聞いているし、本当に富栄とああいう会話がなされていたのかもなぁと思う。 なんともクズな男だ。 でも昔は、本当に自らまでも壊し、そのすべてをさらけ出さないと傑作小説なんて書けなかったのかも。 坂口安吾との小説家同士の会話シーン良かったです。 『人間失格』、読もうかな。
人間失格 太宰治と3人の女たち
のレビュー(20797件)