『惡の華』伊藤健太郎が経験した“向こう側”「食べ物も喉を通らない」「死ぬ気でやった」【ロングインタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

初主演映画『デメキン』にて、高校生にして福岡最大勢力の暴走族の総長となり暴れまわった伊藤健太郎が、次なる主演映画『惡の華』では一変、同級生の女生徒に振り回される地味な中学生(/高校生)を演じた。「ブレイク俳優」、「若手筆頭株」と言われ、フレッシュさに少しの風格さえ纏うような伊藤とは、似ても似つかないような人物像を演じきれたのは、役をとことん理解するために心を砕いて向き合ったからだと、インタビューで明らかになった。

惡の華

押見修造による同名漫画を映画化した『惡の華』は、思春期の暗黒面に苛まれる主人公・春日高男(伊藤)の中学から高校までの在りし日を描いた作品。田舎町で息苦しい日々を過ごしていた中学2年生の春日は、ボードレールの詩集「惡の華」だけが心の拠り所。ある日、ひそかに心を寄せる同級生・佐伯奈々子(秋田汐梨)の体操着を衝動的に盗んでしまった春日は、その姿を問題児の仲村佐和(玉城ティナ)に目撃されてしまう。バラされたくない一心で、その日から彼は仲村の要求をのむことになる。

仲村の命令で、春日は盗んだ体操着を着用したまま佐伯本人とデートをしたり、仲村に馬乗りになられたり、教室に自分が変態であると書きなぐりさえする。徐々に狂気の沙汰に陥っていく春日を、伊藤は怪演。葛藤や息苦しさを抱えた不安定な感情を、声色や表情を場面ごとに調整し変貌した。伊藤の「死ぬ気でやった」という人知れぬ苦労、その裏側を聞いた。

惡の華

――これまで様々な中高生を演じてきた伊藤さんの役の中でも、春日は歴代随一と言えるほど、濃い人物だったのではないかと思います。1か月間お酒を抜いたりなど、準備はいろいろされたそうで?

伊藤:はい。そもそも春日のような男の子を演じてきたことがなかったので、こうした役を演じるチャンスをもらえたことがうれしかったですし、ありがたかったです。高校生もですが、中学生時代もやるので「春日になろう」という気持ちよりは、まず「思春期の少年に近づこう」と思いました。具体的には、過去の自分と向き合ったんです。自分が中学生のときに何を思っていたかと考えると、理由もなくイライラしていたり、何かわからないけどモヤモヤしていたりして、感情の起伏が激しかったんです。それこそ思春期ならではの感覚だったと思うんですけど。その感覚を、21歳(※撮影当時)の自分でどう出そうかと考えたときに、お酒は控えようかな、となりました。『惡の華』はなかなかヘヴィーな物語だし、考えるところがすごく多かったので、疲れることもたくさんあったんです。そこでお酒を飲んだら、リフレッシュしてしまうじゃないですか。

惡の華

――お酒の場の楽しい時間も含め、ということですよね。

伊藤:そうです。楽しい時間も含めてリフレッシュしてしまうので、やめようと思ったんです。自分の中でストレスを溜め込むと、この作品にとってはいい意味で、わけもわからずイライラすることにもなると思いましたし。その感覚が、中学生や高校生の思春期とどこかリンクするんじゃないかなと照らし合わせて、思春期の春日を作り上げていきました。

――思春期を取り戻せた感覚は大きかったですか?

伊藤:はい、いろいろ思い出しました。やっぱり反発してしまっていましたし。ただ、僕は思春期にそうなる気持ちを否定はしないというか、ある種、健康的なことだと思うんです。思い返すと「バカだったな」とはなりますけど。作品きっかけで、昔の自分と向き合った時間でした。

惡の華

――思春期のやりきれなさや、そこはかとない期待も、春日の行動に大きく表れていたと思います。伊藤さんからは、春日という人間はどう見えていたんですか?

伊藤:『惡の華』の表面で描かれていることを見ると、刺激的だし、行動的にも……うん、すごいことをしているじゃないですか。だけど、根っこの部分はすごく普遍的なことを描いているんですよね。特に、思春期を通り過ぎてきた男だったら、誰しもきっと、春日のことは理解できるんじゃないかなと思うんです。春日のやっていることの方向性は自分とは違いますが、内面の思いは、僕はすごくわかりましたし。

惡の華

――突飛な行動で言えば、憧れの女子の体操着のにおいを嗅ぐシーンも。

伊藤:「体操着」とか「嗅ぐ」という部分がおかしいだけで、好きな人が自分の目の前を通ったときのシャンプーの香りとかは、嗅ぐじゃないですか?……あ、嗅ぐんですよ、男って(笑)。「なんか、今いい匂いした!」みたいな。行動が違うだけで、同じような気持ちだと思うんです。

――ブルマを嗅ぐシーンは原作にはありませんが、井口監督のアイデアですか?

伊藤:はい。『惡の華』においては、ブルマというアイテムがすごく大事なものなんです。ブルマのシーンに関しては、監督が演出も、カメラのアングルもかなりこだわっていて、それくらい大事な場面でした。ブルマ文化のない海外の人が観たとしても、ブルマに惹かれる男の気持ちがわからないと成立しないんですよね。初めて観たときに「何だ、この素晴らしいものは……!」と感じてほしいし、ブルマを魅力的に感じてしまう春日と同じ気持ちを観客の皆さんにわかってもらわないといけないのがあったから。監督がすごくこだわっていましたし、僕も大事なシーンだと思っていました。

惡の華

――井口監督とは『覚悟はいいかそこの女子。』から、短いスパンでの再タッグとなりました。同じ監督に呼ばれる喜び、プレッシャーなどはありましたか?

伊藤:1回ご一緒できた方ともう1回仕事ができることは、純粋にすごくうれしいです。この作品は、もともと井口監督が7年間くらい温めてきて、「やっと実現できたんです」と言うほど大事なものでした。その物語の主人公である春日を僕に任せていただけたことが、すごくうれしくて。そこに対してのプレッシャーはなかったですが、僕にできること、全力でやれることはやり切りたいと強く思って、参加しました。

惡の華

――そんな監督からのコメントで「伊藤さんが吐くくらい辛かった」とあったんですが、どこのパートでなのか、感情でなのか、詳細を教えていただけますか?

伊藤:現場にいるときは、キャスト、スタッフの皆さんがいたから、大丈夫でしたが、ホテルの部屋に帰ってひとりになった瞬間に、すごくしんどくなっていました。普段あまりそういうことはないのですが、この作品で初めて「もうやばいかも……」という心境に陥ったというか。お酒をやめてストレスを溜め込んでいたのもありましたし。でも、春日を演じる上では、それが逆によかったなと思っているんです。そこが役者の変態な部分だと思うんですけど(笑)。けど……きつかったですね。食べ物も喉を通らないし、不思議な感覚でした。

――それだけ役に没頭していたということですね。特にしんどくなったピークはありましたか?

伊藤:基本的に、全部苦しかった(苦笑)。そうだな……春日の考えていることを理解できた瞬間からが、一番つらかったです。「春日はこんなことを考えるのか」、「きついな」とわかった瞬間からがしんどくて。怖かったですね。

惡の華

――春日を演じることで、伊藤さん自身が解放されるようなところ、発見されるところもありましたか?

伊藤:Mな部分については、初めての感情でした。基本的に、お芝居においてのM的な部分はいつもあるんです。満足したいけど、したくない、みたいな気持ち。でも、対人(たい・ひと)においてのM的な部分は、僕、まったくないんですよ。「叩かれて、うれしい」、「いじられて、うれしい」とかは皆無なのに、『惡の華』をやった1か月間限定で、ちょっとそのあたりもMになっていたと思う(笑)。

――玉城さんの絶大なる効果がでましたね(笑)。

伊藤:そう! 仲村に「クソムシが!」と言われても、「……おお……悪くない……もっと濃いレベルのワードある!?」みたいな(笑)。たま~に仲村が春日をちょっと認めてくれるところがあったりすると、その「たまに」が普通の喜びどころか、倍以上の喜びになるんですよ(笑)。春日に引っ張られてM的な部分が目覚めかけたのは、新鮮だったし、面白かったです。今ですか? M的要素、全然ないです(笑)。

惡の華

惡の華

――『惡の華』は伊藤さんの破壊的でありながら繊細なお芝居が堪能できる1本としても、そもそも楽しめると思っています。本作に出演したことで、俳優としてのステップアップというか、なぞるならば“向こう側”に行けたような、どこか抜けたような実感はありますか?

伊藤:春日という役、『惡の華』という作品への出演は、僕の中でチャレンジでした。出演が決まったときから、「チャレンジだな、すっごい楽しみだな、今までやったことのないタイプの作品だし役柄だな」と思っていて。この作品を乗り越えたら、間違いなく一歩前に進めるという気持ちはあったので、今回、春日を作っていく作業も新しいことをやってみようと、すごく意識したんです。お酒のことや昔の自分と向き合ったことも全部そうですし、インする前に所属事務所の高校1年の子と会って、いろいろ話を聞いたりもしました。

これまでの僕は、現場で監督と話したり、雰囲気を見て役を固めるタイプでしたが、今回は現場に入る前に、初めて情報収集したりして、今までまったくしてこなかったタイプのアプローチをやってみた作品でした。そうやって事前に役を考えすぎたり、固めすぎると、僕は身動きが取りづらくなりそうだから苦手かなと思って避けてきたんですけど、作品によってはこのやり方もありだな、というのは発見でした。

惡の華

――しっかり準備をしても、がちがちになって現場で変えられないようなこともなかったから、ということですよね?

伊藤:そうですね。ベースが出来上がっていると、柔軟にできるというか。0スタートより1スタートのほうが違った見方もできるし、もっと広く捉えられたことはありました。

――お話されていた「間違いなく一歩前に進める」という予感は実感に変わりましたか?

伊藤:『惡の華』を死ぬ気でやったので、乗り越えられたことが自信にもなるな、と思いました。実際、出来上がった作品を自分で観たり、試写で観てくださった方からもいろいろな反応をいただけて、「ちょっとは前にいけたかな?」という感覚は、少しだけあります。進んだ分、課題も増えるんですけど。

正直、インする前はめちゃくちゃビビッていましたし、不安でしたし、こんなにもインが怖いのは今までなかったんです。けど撮影が終わって、乗り越えられて、観てくれた人が「よかった」と言っていただけたことが、すごくうれしくて。もちろん、これから公開されて、観客の皆さんがどう思われるかはわからないですが、どんな評価をされたにせよ、僕は自信を持って世の中に出せるものだと胸を張りたいです。

惡の華

――『惡の華』が伊藤さんのフィルモグラフィーに深く刻まれることは、感慨深いですね。

伊藤:作品を観た感想は人それぞれだとは思いますが、僕と同じようなことを感じてもらえたらうれしいというか。『惡の華』は、人間がどうしても隠したくなるようなことを剥き出しにして、素っ裸にして出している、めちゃくちゃ素直でストレートな作品だと思っているんです。モラルを考えると隠すことが正解だろうけど、全部抜きにして「人間」を考えたら、「こうなってもおかしくないよな」とすごく感じる作品だと思っていて。いいか悪いかは置いておいて、人間の本性みたいなものが少しでも伝わればうれしいなと思います。

あとは、昔の自分を振り返るきっかけの1作になってくれたらうれしいかな。振り返ったからといって、何がどうなるわけではないですが、大人になっていくと、中高生時代のことを考えなくても過ごしていけるじゃないですか。今回、振り返ったときに、僕自身が面白かったので、『惡の華』の魅力を全方向から受け止めてもらえたら、うれしいです。(取材・文=赤山恭子、撮影=齊藤幸子)

惡の華

映画『惡の華』は2019年9月27日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。

惡の華

出演:伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨 / 飯豊まりえ ほか
監督:井口昇
脚本:岡田麿里
原作:押見修造
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:akunohana-movie.jp
(C)押見修造/講談社 (C)2019映画『惡の華』製作委員会

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応募締切 2019年10月4日(金)23:59までのご応募分有効

【応募資格】
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  • 役満
    3.3
    役者達の頑張りで楽しく見れた
  • むらこ
    3.5
    完成披露試写会 8/8 公開記念舞台挨拶 9/28
  • まっぽ
    4.5
    玉城ティナが至高 でした 挿入歌のリーガルリリーはちょっと爽やかすぎて自分には合わなかったかな。。 もっかい見たいです、よかった。
  • なにがでっきょんな
    3.3
    記録2019 12月2本目 累計274本目 アニメを子供と一緒に2話ぐらいは見たかな。絵が亜人のアニメみたいだった印象が残ってます。 さて実写ですが、正直言ってハマらなかった。思春期拗らせてないのかな。 あまりにも彼等の行動が突飛すぎて、それに田舎であの事件おこしてあの程度の引越しで済む? あと中学生には見えないよね。 子供に見たよと伝えたら、え、見たの?って反応でした。響いてないんでしょうね。
  • HxMxYxSx
    1.0
    ソレイユ2にて鑑賞 2019.11.30
「惡の華」
のレビュー(1441件)