新作公開の度に賛否両論を集め、独自の世界観で国内外問わず人々を惹きつけて止まない映画監督、園子温。
2019年2月に心筋梗塞で緊急入院するも現在は復帰し、2019年10月にはNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』が配信スタート。鬼才とも称されるその類まれなる才能で、新たな挑戦を続ける園子温監督のキャリアと作品をご紹介します。
園子温 プロフィール
1961年12月18日生まれ、愛知県豊川市出身。映画監督、脚本家。
17歳で詩人デビューを果たし、「ユリイカ」「現代詩手帖」などに続々と詩が掲載され、大学入学後は8mm映画を手掛けるようになる。
1986年、8mm映画『俺は園子温だ!』がぴあフィルムフェスティバルに入選。1990年には、ぴあフィルムフェスティバルスカラシップ作品として制作された16mm映画『自転車吐息』がベルリン国際映画祭正式招待のほか、数々の映画祭で上映された。1993年に制作した『部屋』はサンダンス国際映画祭審査員特別賞を受賞し、こちらもベルリン国際映画祭はじめ、多くの映画祭で紹介された。
その後も映画制作を続けるかたわら、街頭詩パフォーマンス「東京ガガガ」を主宰。渋谷や新宿をストリートジャックするなど一大ムーブメントを起こす。
2001年に公開された『自殺サークル』、その続編にあたる『紀子の食卓』など衝撃的な内容で再び映画監督としての注目を集めると、2008年には約4時間に及ぶ映画『愛のむきだし』を公開。国内外で数多の映画賞を受賞。園子温の名を一気に知らしめることになる。
その後『冷たい熱帯魚』『恋の罪』など実在の事件を基にした作品を立て続けに公開し、プライベートではこの2作にも出演している神楽坂恵と結婚した。
2012年には東日本大震災の影響を色濃く受けた『ヒミズ』『希望の国』を公開し、社会派としての側面も。その一方で、2013年にはエンターテイメント性の強い『地獄でなぜ悪い』、2014年に漫画原作の『TOKYO TRIBE』、2015年に同じく漫画原作『新宿スワン』、小説原作の『リアル鬼ごっこ』、2017年にはロマンスポルノ『アンチポルノ』など、特定のジャンルに縛られることなく次から次へと新作を発表する。
2019年に心筋梗塞で倒れるも無事に回復し、10月にはNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』を公開。
また、吉高由里子、満島ひかり、安藤サクラ、二階堂ふみ、清野菜名など、園子温作品出演後にブレイクした女優も多いことでも知られる。
『俺は園子温だ!』(1985)
園子温監督が自身を撮影した8mm映画。暗闇の中でカメラに向かって語りかける自撮りに始まり、街を疾走し、奇声をあげ、女性とふざけあったり、髪をバリカンで刈り上げたりと、当時22歳の園監督の創作意欲が奔放なスタイルで爆発した自主映画。
第9回ぴあフィルムフェスティバルに入選を果たした。
『部屋 THE ROOM』(1993)
園子温が監督・脚本・編集を手がけた、自身初の35mm劇場用長編作品。かつて殺し屋だった初老の男(麿赤兒)が、不動産屋の女性と一緒に物件を探す様子がモノクロで描かれる作品。なかなか気に入った物件が見つからず、二日目にようやく希望にあった物件を見つけると、男はある行動に出る……。
延々と長回しで撮影されるモノクロの映像に、囁くようなセリフ、時折入るドラムロール。淡々と静かに進む物語の中にも、園子温監督ならではの表現への挑戦を感じることができる。
『桂子ですけど』(1997)
火葬場から盗みだした父の骨とともに、東京都中野区のアパートに一人で暮らす女性・鈴木桂子が、21歳最後の3週間を大切に生き、その日々を記録していく様子をドキュメンタリー風に描く。
毎秒世の中は移り変わっていくことを表現するような、多彩な衣装や美術が印象的。「時間」というテーマに対して、上映時間を1時間1分1秒という制限の中で表現した意欲的な作品。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『自殺サークル』(2002)
当時、日本国内で相次いだ「集団自殺」をテーマにしたサスペンス。石橋凌、永瀬正敏らの出演で、現代生活の闇、命の重さに無頓着な風潮、連鎖自殺の恐怖を描いた。
夜の新宿駅のホーム、54人の女子高校生たちが手をつないだまま集団自殺をするというショッキングな事件が発生。警察が原因を突き止めようと奔走する中、各地で次々と自殺が起こる。これは事故なのか、事件なのか? 自殺をした彼らにはある共通点があった……。
おびただし血が流れるスプラッター表現も多く、特に冒頭の駅ホームで起こる集団自殺のシーンは脳裏に焼き付く。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『紀子の食卓』(2005)
大きな反響を呼び、物議をかもした『自殺サークル』の続編にあたる本作は、自殺とは違う観点から「生きる実感」を問うたヒューマンドラマ。
家族との関係や学校生活に不満を抱えていた女子高生・紀子(吹石一恵)は、停電の隙をついて家出をして東京へ。その後、帰らない姉の後を追って妹のユカ(吉高由里子)も失踪する。父親は娘たちのPCの履歴から“自殺サークル”の存在を見つけ、彼女たちを連れ戻すため東京へ向かう。
第40回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で特別表彰を受賞。さらに、第10回プチョン国際ファンタスティック映画祭で主演女優賞を吹石一恵が、第28回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞を吉高由里子が受賞するなど、女優陣の受賞も目立った。
本メディアのインタビューで、園子温監督は本作について「『紀子の食卓』がなければ『愛のむきだし』はなかったと思う」「僕の中ではひとつのステップになっている作品」と語っている。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『図鑑に載ってない虫』(2007)
園子温が出演した、三木聡監督・脚本、伊勢谷友介主演による脱力系コメディロードムービー。
編集長に借金をしているルポライターが、死後の世界を体験した記事を書くため、幻の”死にモドキ”を探して奔走する。三木聡監督らしい、独特なセンスの小道具やギャグが印象的。
園子温は「ツボ師匠」と呼ばれる、物語のキーマンを好演。監督だけではなく、役者としての才能も垣間見せた。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『愛のむきだし』(2008)
実話をもとに、宗教、暴力、変態行為、家族、そして愛について描く、上映時間237分にも及ぶ奇想天外な純愛エンタメ長編作品。
敬虔なクリスチャンの父子家庭で育った男子高生のユウ(西島隆弘)は、神父である父から求められる懺悔に答えるために盗撮を繰り返す毎日。ある日、運命の女性・ヨーコ(満島ひかり)に恋をし、彼女もまたユウに惹かれていく。しかし二人の背後に、新興宗教「ゼロ教会」の魔の手が迫っていた……。
第59回ベルリン映画祭にてカリガリ賞と国際批評家連盟賞を受賞した他、数多の賞を受賞。園子温の名を世界中に轟かせただけでなく、主演の西島隆弘、満島ひかりも新人賞を受賞した。
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2017年には編集初期段階での6時間バージョンをベースにした“最長版THE TV-SHOW”が制作され話題を呼んだ。
『冷たい熱帯魚』(2010)
1993年に起きた猟奇殺人事件に着想を得て、人間の愛と狂気を描いたサスペンス・スリラー。熱帯魚店を営んでいる主人公の男(吹越満)が、恐るべき裏の顔を持つ男(でんでん)と知り合ってしまったがために、恐るべき殺人事件に巻き込まれていく。
登場人物たちの狂気じみた演技が印象的で、特に連続殺人犯の村田幸雄を演じたでんでんは、日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞の他、多くの映画賞で男優賞を受賞した。
『ヒミズ』(2011)
「行け!稲中卓球部」「ヒメアノ~ル」などで知られる古谷実の同名コミックを実写映画化。ごく平凡な15歳の少年と少女が、ある事件をきっかけに絶望と狂気に変わりゆく中でも、必死に生きる姿をセンセーショナルに描く。
東日本大震災の影響を受け、原作とは大きく改変されたラストに胸を打たれる。主演の少年少女を演じた染谷将太と二階堂ふみが、第68回ヴェネチア国際映画祭で新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞をW受賞した。
『地獄でなぜ悪い』(2013)
『ヒミズ』や原発問題に挑んだ『希望の国』で社会派と呼ばれるようになった園子温監督が一転、そのイメージを自ら破壊するように、アクション、恋愛、コメディ、サスペンスなど、様々な映画ジャンルの要素を盛り込んだエンターテインメント作品。
獄中の妻のために娘(二階堂ふみ)を主役にした映画を撮りたいヤクザの組長(國村隼人)と、それに巻き込まれた人々の騒動をコメディタッチで描く。第70回ヴェネツィア国際映画祭で初上映された際には、観客から7分間に及ぶスタンディングオベーションが送られた。
『TOKYO TRIBE』(2014)
井上三太の人気コミックを実写映画化。近未来のトーキョーを舞台に、さまざまなトライブ(部族)に属する若者たちが繰り広げる抗争を描く。
主演はYouTubeで開催されたオーディションにより選ばれたYOUNG DAISが務め、MC漢、練マザファッカーなどHIP-HOP界で活躍するラッパーたちを起用。世界初のバトルラップミュージカルに仕上がった。園子温監督らしい鮮烈な演出や予測不能な展開も印象的。
『新宿スワン』(2015)
和久井健による大人気コミックを実写映画化。新宿・歌舞伎町を舞台に、人生のどん底にいた男が、苛烈な争いの中でスカウトマンとして成り上がり、人間としても成長していく姿を描くドラマ。
主人公のスカウトマンを綾野剛が演じたほか、伊勢谷友介、山田孝之、沢尻エリカなど豪華キャストが集結。脚本は人気放送作家の鈴木おさむ。大ヒットを記録し、2017年には続編となる『新宿スワンII』が公開された。
『リアル鬼ごっこ』(2015)
度々映画・ドラマ化がされている山田悠介の同名ベストセラー小説を園子温監督によって実写映画化。女子高生を狙う謎の存在が周囲の女子を次々と殺していく中、逃げ惑う3人のヒロインたちの壮絶な戦いを描く。
全国の「佐藤さん」の命が狙われるという原作の設定を、全国の女子高生が狙われるという新たな切り口で再構築。公開後、賛否両論を巻き起こしたが、第19回ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞、同映画祭でヒロインのひとりを演じたトリンドル玲奈が最優秀女優賞を受賞するなど、高い評価も得ている。
『クソ野郎と美しき世界』(2018)
新しい地図の稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾がそれぞれ主演を務めるオムニバス映画。園子温監督は稲垣吾郎主演の『ピアニストを撃つな!』を担当。
マスクをした極悪人マッドドッグ(浅野忠信)が愛した女・フジコ(馬場ふみか)は、彼から逃げるようにして天才ピアニスト(稲垣吾郎)のもとへ向かう。3人が会した時、愛と才能を巡る駆け引きが始まる。
オムニバス映画の中でも、園子温監督らしい色彩と演出が光る。2週間限定の上映ながら、28万人を超える観客動員数を記録した。
『愛なき森で叫べ』(2019)
Netflixオリジナル映画。実在の猟奇殺人事件に着想を得て製作されたサスペンススリラー。
狂気を漂わせながらも、不思議と人を惹きつける冷酷な天才詐欺師と、彼を主人公にした映画を撮影する若者たちに降り掛かる惨劇を描き出す。
主人公の詐欺師・村田を椎名桔平が務め、彼の話術に翻弄される若者たちを満島真之介、日南響子、鎌滝えりらが演じる。さらに園監督作『冷たい熱帯魚』で怪演を見せたでんでんも共演している。
【文/真央masao】
(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ、(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ、(C)2012「地獄でなぜ悪い」製作委員会、(C)2014 INOUE SANTA / “TOKYO TRIBE” FILM PARTNERS、(C)2015「新宿スワン」製作委員会、(C)2015「リアル鬼ごっこ」学級委員会
※2020年9月28日時点のVOD配信情報です。