バック・トゥ・ザ・フューチャー記念日(10月21日)に合わせてあまり知られていない制作秘話を紹介した、「10月21日はバック・トゥ・ザ・フューチャー記念日!~パート1製作秘話~」の続編です。
未読の方はまずはパート1を!
to be continued
様々な紆余曲折と苦渋の決断の末に完成した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は全世界で大ヒットを記録し、ゼメキスは“ブランド化”します。ヒットに恵まれず未知数だったゼメキスの力量が証明されたことで、停滞していた肝入り企画『ロジャー・ラビット』も、にわかに再始動し始めました。
そんな順風満帆大忙しな中『BttF』ビデオ化に際し、ゼメキスはちょっとしたお遊びを加えます。
出典:https://www.youtube.com/watch?v=n33k5EhSIzY
ジョークのつもりでつけたラストの「to be continued」(続く)です。愉快で楽しい『BttF』が「続く」で終わった事に観客はもちろん、スタジオも驚喜しました。
「ヒット・シリーズでガッポガポや!」
ゼメキスは「マーティの人生がまだ続くという意味だ!」と説明しましたが後の祭りです。「監督はオメエじゃなくても作っちゃうよ!」そんなスタジオ側の脅し文句に負け、ゼメキスは『ロジャー・ラビット』を作りながら、ボブ・ゲイルと共に『BttF』の続きをヒネり出さなければならないハメになります。
しかも、1作目ラストでドクがマーティとジェニファーを連れて未来へ旅立った、その続きからという縛り付きです。
キャストの呪い
ゼメキスはまたもキャストで泣かされることになります。マーティの恋人ジェニファー役のクラウディア・ウェールズが母親の病気により引退してしまい、お父さんジョージ・マクフライ役のクリスピン・グローバーはイメージが固定化されるのを嫌い続編から降板してしまいます。
元々、冒頭とエンドクレジット前にしか出てこなかったジェニファー役はエリザベス・シューへ、しれっと変えてしまいます。
問題はクリスピンです。『BttF』はマーティを媒介としたジョージ・マクフライ:クリスピンの物語だと言っても過言では無い最重要人物です。続編にだってまるで登場させないワケにもいかない上に、クリスピン演じるジョージは奇天烈なボディアクションとエキセントリックな顔立ちが共に強く印象付けられています。
そこで、ジョージ・マクフライの出番を極限まで減らし、物語の軸をいじめっ子のビフと、お母さんのロレインへとシフトするのです。
ジョージ・マクフライの少ない出番はジェフリー・ウェイスマンという細面の俳優に、クリスピン・グローバーそっくりに見える特殊メイクを施し、同じ声色、同じ演技をさせ、代理の「ジョージ・マクフライ」を仕立てあげます。
出典:http://cinemania.es/noticias/hemos-cambiado-al-actor-alguien-lo-ha-notado/
(左がクリスピン本人、左がメイクアップを施したウェイスマン)
クリスピンにとっては、イメージが固定化されるのがイヤで降板したハズなのに、自分の顔と声で自分と同じ演技をする、自分以外の俳優の登場に驚愕します。
近年でもシリーズ物で出演しない前作の登場人物を死んだことにしたり、全く別人がその人物だと言い張って登場することはありますが、別人が特殊メイクで当人になりすまして出演するという異常事態に、クリスピンは訴えを起こします。
それまで、整っていなかった俳優の肖像に関する権利や法の整備が、この訴えによって明確化することとなります。CG処理が当たり前な現在では、このクリスピンの訴えは先駆的な事件として知られています。
しかし、当時のゼメキスはこの訴えに“狂わんばかり”に怒ったそうです。よほどの怒りだったのか、ゼメキスはこの経験を活かし、過去のニュース映像とトム・ハンクスを共演させまくった『フォレスト・ガンプ 一期一会』を作ることになります。
クリスピンとは、後に和解し『ベオウルフ/呪われし勇者』で、悪役グレンデルとして起用します。ただ、他の俳優は本人と見紛うばかりの正確なモデリングがされていますが、クリスピン/グレンデルだけは異形で不気味な顔の、しかも極度のマザコンになっているのは、この件を鑑みればゼメキスの意匠返しにも思えます。
承転承転転結転転……
出典:http://www.noporkpies.com/blog/advertising/retargeting/
(ちなみに、劇中『ジョーズ パート19』を監督に名前を出している「マックス・スピルバーグ」とはスティーブン・スピルバーグの実の息子の名前で、その名の由来は『マッド・マックス』からだと言われています。)
パート2は1作目のラストから始まります。未来の息子を助けて戻ると“現在”が変わっており、その原因を“未来の”ビフによる陰謀だと突き止めると、またもや1955年のヒルバレーに戻り、“過去の”ビフと“過去に戻った”マーティに気付かれないように、陰謀を阻止しなければならなくなります。
この、がんじがらめな物語上の制約はサスペンスを煽り尋常では無い緊張感を持つ、歪んだ怪作を産むこととなりました。
通常、娯楽映画で語られる物語は「起承転結」と言われるように、序盤で事件が起こり、とりまく条件を承認し、いきわたった所でクライマックスで転じ、そして終結します。緊張はクライマックスを頂点とした山のようになります。
しかし『BttF2』は出だしから高いテンションで進みます。誰も見た事の無い未来から物語がスタートし、すぐに前作中盤のアクションシークエンスを未来版にブローアップした場面で幕を開けます。
さらに、85年に戻ってあらぬ方向に物語が転じると、今度は前作のクライマックスと同時進行で本作のクライマックスがビートの裏打ちのように展開していくのです。「起」をすっとばして「承」と「転」が重なって混じわり合いながら繰り返されて「結」を向かえた後でまた「転」が起こり、転がったまま終わってしまうのです。
先鋭的で複雑過ぎて、終わる事すら拒絶したアバンギャルドな『BttF2』は多くの観客をおいてけぼりにする事となりました。
当時の一般的な声としては「映画が話の途中で終わるなんて信じられない!」といったところです。今となれば『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『ハリー・ポッター』シリーズなど続編を前提とし、謎や展開が宙ぶらりんなままに終わる映画はままあります。
『BttF2』は80年代という軽薄短小な時代に作られた不幸があります。今、改めて観ると当時は見えなかった素晴らしさがようやく見えてくる、数十年は早過ぎた大傑作なのです。
これで本当におしまい
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『BttF2』の脚本を作る際に出たアイデアは1本の映画としては長過ぎたので『BttF3』を同時進行で作ることになります。
一度に使われる制作費としての額は膨大ですがセットが流用できるし、俳優の拘束時間も2本別々に撮るより短く、安くつきます。なによりヒット作の続編が2本同時に出来る事を考えれば断る理由もありません。これは後に「ロード・オブ・ザ・リング」でも使われた製作手法です。
公開された『BttF2』は多くの観客の期待を裏切りながらもそれなりなヒットを記録します。そのエンディングには「to be continued(続く)」ではなく「to be concluded(次でおしまい)」で締められます。
出典:https://www.youtube.com/watch?v=mO9TTJjskNo
ゼメキスにとって『BttF』シリーズは映画監督生命を賭け、魂を削るように作った作品です。自分以外の人間によって「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート4」なんて物が作られるのも堪え難いと感じたからでしょう。
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『BttF3』は落雷のショックで1885年に飛ばされたドクとマーティが西部の世界からの帰還をめざすという物語です。『BttF2』が未来、現在、過去と飛び回りまくったのと比べると終始一貫して西部の町で進行する『BttF3』は「ウェスタン」という時代遅れな見てくれとともに、さらに多くの観客の足を遠ざけます。
回を重ねるごとに興行収入を減らしていきましたが、それでも続編2本の興行収入は日本だけで総額100億円を越える大ヒットとなります。
大衆性のあるキャッチ、息もつかせぬ展開、ニコニコと劇場をあとに出来るさわやかなエンディング、それら全てを備えた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は80年代を代表する傑作シリーズとして多くの人々の記憶に残ることとなりました。
しかし、その裏にはロバート・ゼメキスの、非情とも言える主役のすげ替えや、凄まじい重責を課せられたプレッシャーなど、計り知れない苦労があったのです。
参考動画:『BttF3』公開当時のホンダ/インテグラのCM。