東京国際映画祭クロージング作品『起終点駅 ターミナル』の見どころをチェック

Nobody's Perfect.

久保田和馬

現在開催中の第28回東京国際映画祭のクロージング作品として上映される篠原哲雄監督の『起終点駅 ターミナル』

ターミナル

邦画が同映画祭のクロージング作品になるのは昨年の『寄生獣』に続いて3度目のことで、東映配給作品が選ばれるのは第8回の『藏』以来実に20年ぶりのことです。

今回の映画祭でワールドプレミアとして上映される、映画祭の目玉作品として注目を浴びております。

直木賞作家・桜木紫乃、初映画化。

『ホテルローヤル』で第149回直木賞に輝いた女性作家・桜木紫乃。彼女が2012年に発表した同名短編小説を映画化した本作。

彼女は出身地である北海道・釧路市を舞台にした作品が多く、男女の心の機微を丁寧な文体で描き出し、一見すると暗い雰囲気を漂わせながらも、切なさと人間の温かさを感じさせる、どこか忘れがたい物語を次々と生み出しています。

今年の2月に、代表作のひとつ「硝子の葦」がWOWOW制作でドラマ化されましたが、映画化されるのは本作が初。的確な心理描写によって築かれている物語の土台がしっかりしているので、脚色もしやすい、非常に映像化向けの作家であると思えるので、今後彼女の作品が映画化されることは増えていくことでしょう。

「小説原作映画」で才能を発揮する篠原哲雄監督

監督を務めた篠原哲雄は、90年代後半以降の日本映画を語る上では欠かすことのできない中堅監督のひとりです。

きゃべつ

96年に公開された『月とキャベツ』は90年代邦画ミニシアター映画の代表作とも呼べる秀作。

歌手・山崎まさよしの俳優デビュー作であり、カルト的人気を誇るアニメ映画『秒速五センチメートル』の主題歌としてのイメージも強い、「One more time, One more chance」はもともと、本作の主題歌として発表された曲です。

彼の作品の大きな特徴は、優れた「小説原作映画」の作家であり、彼のフィルモグラフィーを見ると、多くの人気文学の実写映画化を務めていることがわかります。

2000年には赤川次郎の人気ミステリー『死者の学園祭』を深田恭子主演で映画化、2002年には芥川賞作家・柳美里の自伝を映画化した『命』を発表。

また翌年には村上龍の人気小説を映画化した衝撃作『昭和歌謡大全集』を発表するなど、作品のジャンルを問わず、原作が持つ個性と世界観を生かした映画を生み出すことで、その才能を発揮する職人監督として名を馳せます。

こいび

そして2004年にはベストセラー小説「天国の本屋」シリーズの1作目と3作目を基に映像化した『天国の本屋〜恋火〜』がスマッシュヒット。人気絶頂の竹内結子が一人二役を務めたことでも話題になった、ゼロ年代の邦画ラブストーリーを代表する作品を作り出したのです。

それ以後も携帯小説を映画化した『クリアネス』、藤沢周平原作の時代劇『山桜』『小川の辺』や、池上司の戦争ドラマ『真夏のオリオン』など、あらゆる層の観客に対応した作品を発表し続け安心して観ることのできる中堅監督としての位置を獲得するわけです。

映画全体に伝わる北海道の空気感

 

前述の通り、桜木紫乃原作の本作の舞台となるのは北海道東部の釧路市。これまで多くの映画やドラマのロケーションとして使われている北海道は、テンプレートのように「雪」と「雄大な大地」のイメージが根付いてしまっております。

しかし、本作では主に10月の、雪が降り始める前の北海道第4の都市・釧路であるという舞台背景によって、街のリアリティある姿を活写し、北海道が明確に物語の舞台となり、単なる背景として甘んじていないという印象を受けます。

タイトルにもなっている「起終点駅」である釧路駅は、札幌から続く根室本線の終点であり(その先の根室までは花咲線という名称になる)、網走に向かう釧網本線にも接続されるこの駅は、東北海道の鉄道の基点となる場所です。

また、幣舞橋や和商市場といった釧路市が誇る名所が登場するだけでなく、ザンギやイクラといった北海道を象徴する食文化も映画の重要な要素として登場します。

他にも注目すべきポイントが勢揃い

主演を務める佐藤浩市は近年すっかり大御所感が増してまいりました。今年は『アンフェア the end』や『HERO』といったヒットドラマの映画化作をはじめ、代表作の続編『GONINサーガ』。本作と同じく北海道を舞台にしたヒューマンドラマ『愛を積むひと』と、出演作が相次いだ年になりました。

年末以降の映画賞でも何らかの賞に絡む予感がし、ますます父・三國連太郎に匹敵する名優へと成長していくであろうと、期待が膨らみます。

相手役の本田翼は、持ち前の明るいイメージを払拭する、影を持った女性の役を好演。昨年は『ニシノユキヒコの恋と冒険』『アオハライド』で印象に残る役を演じた彼女にとって、本作は代表作となるでしょう。

また脇を固める俳優陣も、尾野真千子や中村獅童、泉谷しげるといった安定した実力派俳優に加え、TEAM NACSの音尾琢真、テレビドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」での好演も記憶に新しい和田正人など、個性的な面々が集まっております。

そして、映画の最後をまとめあげるエンディング曲には、篠原哲雄作品『深呼吸の必要』以来の映画主題歌となるMy Little Lover。この曲を聴くためだけでも映画館に足を運ぶ価値があります。

本作は10月31日の映画祭最終日に上映がありますが、チケットはすでに完売しております(当日券の有無については映画祭事務局へお問い合わせください)。

しかしながら、ご安心を。11月7日より全国ロードショーされますので、お近くの劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

『起終点駅 ターミナル』公式サイト 

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  • たき
    3.5
    ばっさー目当てで観ました。 なんというか。アバンタイトルがですね、最悪なんですよ。 女が死ぬ理由も、男が逃げる理由も、古き良き昭和の察しと思いやりにおんぶに抱っこな独りよがりな作劇で(でもやっぱあの主観映像にはエモさを感じざるをえない)、これって劇場公開なんですよね? 五輪真弓とかが主題歌歌ってそうなサスペンスとかでなく? どうしようかと途方に暮れたその矢先、ばっさー登場あたりから一変します。 しかもよもやよもやのそうくるか。ありそうであまりなかったドストライクの展開が待っていたのでありました。 生きていればひとは罪を犯す。 けど生きていればより美味しいものも食べたくなるだろうし、愛する息子の結婚をお祝いしたくもなるだろうし、なによりばっさーのあられもない姿に欲情したりもするだろうさ。にんげんだもの。 でもそれでいい。 生きていれば、償えない罪なんてない。 生きていれば、いつか必ず赦される日もくるって。信じてもいいんじゃないかと思わせる。 よいおはなしでした。 尾野真千子が、尾野真千子史上最もエロい尾野真千子。 けどあまりにバックボーンが描かれてないので、ただのメンヘラ扱いなのですよね。それはそれでアリではあるのですけれど。原作ではもうちょい掘り下げられたりしてるんだろうか。 ともあれなんだかんだゆってばっさーがとにかくほぼ全編に渡っておみ足むき出しにして立ち回っちゃったりしてくれちゃってるのでほぼほぼ内容があたまに入ってこなかったりするわけですが。←脚ふぇちもたいがいにしろ。
  • にく
    1.9
    特にこれといって無し
  • たぶ
    2.5
    冒頭の尾野真千子が「この街を出るまで他人のふりしよっか」と言って距離をとっての列車を待つホーム、入線してきた列車に、佐藤浩市の驚きの表情とけたたましい列車のブレーキ音で、尾野真千子の決意の行動を描写。 …このシーンがこの作品のピークだったかな。 それから、本田翼の図々しさがなんとも気になって、迷惑な女だなぁと思うだけで、色気も同情も感じられないので、映画の世界にいまいち入り込めず。 ザンギやイクラの醤油漬けのグルメ映画として評価はするが、本田翼が物語上いろいろ苦労してるはずなのに、それがいまいち伝わってこない。なのでクスリやってる男が厩舎でのたれていようが、感情を揺さぶられるものがない。という感じでなんか登場人物があまり深みを感じられず…原作はもっと感情を揺さぶられる、人生などを考えさせる内容なのかな? 尾野真千子は色気あるんだけど、気だるい人生に疲れた役は、あまりしっくりこなかった。
  • ごとう
    2
    これもね、きっと原作は面白いんだろうなと思うシリーズ。 映画だと本田翼の役どころが良くわからんのよ。 最初、私の発想が単純だから実は尾野真知子が産んだ佐藤浩一との娘なのか?とか思ったんだけどそうじゃないしね。 何故、弁護してもらったおじさんにあんなに絡んで来るんだろう? その辺りが何ともパッとしない。 そしてエンディングの音楽がMy Little Loverってのがまた、映画の軽さを助長。 冬の北海道ってすごく暗く、重い雰囲気があってきっと原作の世界観には合っているんだろうけど、マイラバはないわ〜。
  • ruifan
    4
    佐藤浩市 本田翼 尾野真千子 良かった。
起終点駅 ターミナル
のレビュー(2097件)