マッツ・ミケルセン、YouTube出身監督に惚れ込み出演を決めた最新作「これまででもっとも過酷な撮影だった」【来日インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

ドラマシリーズ「ハンニバル」(13〜15)、『ドクター・ストレンジ』(16)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)などで知られる“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンの主演最新作は、飛行機が墜落して北極で窮地に立たされた男の、<生>への闘いを描く骨太なサバイバル映画『残された者-北の極地-』だ。

残された者

平均気温はマイナス30℃、刻々と変わりゆく天気の中で行われた撮影は、ミケルセンをして、「これまで経験した中でもっとも過酷な撮影だった」と言わしめるほどだったという。そして説明的な台詞、映像表現を一切排除したスタイルは、台詞で多く語らず自然の過酷さと生命の素晴らしさをキャリア史上最高の演技で魅せるミケルセンを送り出す。来日したミケルセンに、この迫真のサバイバル・ドラマについてインタビュー。現在の心境も聞いた。

残された者

――過酷な目に遭う主人公ですが、演じられた感想はいかがでしたか?

ミケルセン 興味深かったことは、キャラクターよりも人間そのものを描いている物語で、人間を描く人物像であり、作品だと思ったことだよ。だからこそこのキャラクターの過去や家族について、たとえば仕事は何をしていて、などの情報は明かしたくなかったね。古典的な映画の手法であれば、観客にいろいろな感情を喚起させるためによく使うが、今回はあえてそうせず、誰でもがなりうる話にしたかった。そうすれば、我々がこの作品のテーマだと思っているサバイバルと生きることとは、まったく違うものだと考えているので、その差をより感じてもらえると考えたよ。

残された者

――劇中のパイロットの女性は、彼にどういう影響を与えたと思いますか?

ミケルセン 本当に多くの意味で彼女が彼を救う、そういう存在だと思っている。最初はルーティンをこなしているだけで、そこには未来もなく夢もない。生存本能だけで、彼は存在している。だが、彼女の登場によって、すべての人間性が彼に立ち戻ってくるわけだ。彼女の存在なくしては、彼は何十年と同じ生活を繰り返しただろう。言ってみれな、救世主のような存在だね。

残された者

――ところで監督は当初、スカイプを使って15分でオファーしなければならなかったところ、3時間に延びたそうですね?

ミケルセン もともと脚本の段階でわくわくしていてね。僕にとってはサプライズがあった脚本だった。そういう作品はいままでにもあったけれど、ありがちな罠にけっこうはまっている傾向があって、たとえば記憶がフラッシュバックするものであったり、家族の写真が出てきたり、そういうものが一切ないクリーンな感じだった。物語でありながらいろんな感情が喚起され、そこがいいと思っていた。それで2時間、3時間の会話になったのさ。

残された者

――なんでも監督はYouTuber出身という、いまふうの経歴の持ち主ですが、今回のコラボはいかがでしたか?

ミケルセン 彼は確かに、初めての長編監督だったね。でも、初めてではあるけれど、ビジョンがまったくぶれなかった。自分が何を求めているかはっきりと見えていて、それが僕が見えていたものと合致していた。脚本を読み、オファーをもらい、2か月後にはアイスランドで撮影していたので、展開は早かったよ。ああ、それと(前述の話で)写真は1枚確かに出てくるけれど、すごく意味のあるものだ。それはアプローチとしてよかったと思う。

残された者

――さてマッツさんご自身、いまや大人気ですが、生活が変わったことを客観的にどうみていますか?

ミケルセン 道を歩いていて気づかれるなど、生活は一変したよ。実はそれまで、そういうことについて、考えたことがなかった。いまの若い世代は、自分が認識されることは大切なことかもしれないが、僕がキャリアをスタートした当時は、自分が大好きなアメリカ映画などの要素を取り込めないか、新しいデンマーク映画が作れないかと思っていただけだが、一晩で人生が変わった。だから、その対価がどういうものかまったく考えておらず、ひとたびそうなると戻ることはないからね。程度の差こそはあれ、認識されるようにはなった。それほど支障はないけれど、たとえば公園などで人間観察をしたいけれど、ほかの人が自分を見つけてしまうので、できなくなってしまった。だから、顔バレしないほかの国を見つけるしかないね(笑)。それも難しいけれど。でも変わったことは、そうそうないかな。

残された者

ミケルセン でも、有名だからといって、パラノイアになることはないかな。いつも、そういうこと考えてるわけでもない。記憶力はいいほうだけれど、自分が有名であるということの記憶はものすごく短期的なものだから、ドアを出る時は忘れていて、誰かにアプローチされて思い出すくらいの感じだよ。(取材・文・写真=鴇田崇)

映画『残された者-北の極地-』は、現在公開中。

残された者

出演:マッツ・ミケルセン、マリア・テルマ・サルマドッティ
監督:ジョー・ペナ
脚本:ジョー・ペナ、ライアン・モリソン
公式サイト:arctic-movie.jp
(C)2018 Arctic The Movie, LLC.

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • オクやん
    3.0
    一人芝居の映画は昔から有るけれど、やっぱり普通のドラマが描かれた映画がいいなぁ、と改めて認識した作品でした。決して退屈ではなかったけどね。
  • ふーたら
    3.4
    墜落して、1人生き残った几帳面な主人公が、魚を釣って、SOSの文字を地面に掘って、救助信号を発信すると言う、日々のルーチンを守って生活をしていたところ、やっと救助に来てくれたヘリも目の前で墜落、ほぼ危篤状態で生き残った女性を連れて、救助の可能性の高い目的地に向かって、サバイバルしつつ、進むってお話し。 登場人物は、2人なんだけど、1人は重体なので、実質は主人公の1人芝居。 白銀の世界で、緊張感のあるサバイバル生活の中で、さまざまな困難があるけど、必死に、冷静に生きようとする主人公の姿に、見入ってしまいます。 緊迫した良い映画でした。 2020年に劇場で観た映画の中で2位(3本中)です。 (2020/01/06 ユナイテッド・シネマなかま16 2D 字幕)
  • ホニャララ
    3.3
    事故って暫くたった、ある程度極限を受け入れてる状態から始まるのと、最初っから一人っつーのが「生きてこそ」との違い。なんか淡々と粛々と飄々としてんなー、わーわー騒がないのは人種の違いか?騒いでも仕方ないしそんな体力もないってことか。カップラーメンそのまま齧るとき、いきなりあんな強めの塩分摂取して死んでまわんか?とか、寝てるこいつがアシリパさんならあの窮地でなんか有益なアドバイスのひとつでもしてくれるのにとか野暮なこと考えてしまった。コンロだってあんな惜しみなく使ってたらそらあっという間に燃料が尽きるよ。とは言うても私ならあんな自然の前では秒で淘汰されっから、おっさんはメンタルもフィジカルも運も北極圏最強。
  • 郭公
    4.0
    決して観ていて楽しい映画ではない。 登場人物は3人(+熊)だけ。 台詞らしい台詞があるのもマッツ・ミケルセンだけ。 劇的な山場らしい山場があるというわけでもなく、ひとつ危機が訪れる都度、試行錯誤して、乗り越えられたり回避したりしながら前へ進んでいくだけ。 画面も殆ど白一色。雪と氷の世界なので、画面の派手さもない。 全編にわたって凍りつくような絶望感に満ちている。 現実的にはこれでも緩いんだろうけど、それでももう誰でもいいから早く彼らを助けてあげて!と言いたくなる。 そういう絶望的な状況の中で、女性を助けるために敢えて困難な方へ進もうとする主人公を演じるミケルセンの一人芝居が凄かった。台詞がなくても彼の抱える葛藤に胸が苦しくなった。
  • やましん
    4.1
    投稿のみ
「残された者-北の極地-」
のレビュー(478件)