『殺人の追憶』、『グエムル -漢江の怪物-』、『母なる証明』、『オクジャ/okja』とジャンルを限定しないフィルモグラフィーで、世界の映画ファンを虜にしているポン・ジュノ監督。最新作『パラサイト 半地下の家族』では、第72回カンヌ国際映画祭で、最高賞にあたるパルム・ドールを韓国映画として初めて受賞し、キャリアにさらなる磨きをかけている。
全員失業中、“半地下”で暮らす貧しい一家が、高台の豪邸で暮らす裕福な一家のもとへ忍び寄る本作は、先の読めない面白さと肝を冷やすような場面が入り混じり、珠玉のエンターテインメントとなった。
2019年秋、プロモーションのために来日したポン監督と、俳優の仲野太賀が対談を実施。元来よりポン監督の手掛けた作品が「大好き」と熱いラブコールを送っていた仲野に対し、ポン監督もうれしそうに、倍の熱量で応えるやり取りが続いた。俳優ならでは、仲野ならではの視点で繰り出す確度の高い質問には、「鋭く観ていただいてありがたい」というポン監督の言葉が何回か飛び出すほどで、映画を愛する者たちならではの鼓動が伝わるインタビューとなった。前半に続き、後半を贈る。
ポン・ジュノ
(映画監督・脚本家)
■プロフィール
1969年、大韓民国・大邱広域市生まれ。有名監督のもと助監督や脚本家を務めたのち、2000年の映画『ほえる犬は噛まない』で監督デビュー。2作目となる『殺人の追憶』(2003年)が国内で大ヒットし、“韓国のアカデミー賞”ともいわれる大鐘賞で監督賞・作品賞を受賞。続く『グエムル -漢江の怪物-』、『母なる証明』も国際的大ヒットを記録、韓国を代表する監督となった。本作『パラサイト 半地下の家族』では、第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画では初となる最高賞を獲得。
仲野太賀
(俳優)
■プロフィール
1993年、東京生まれ。2006年に俳優デビュー。映画『フリージア』、『バッテリー』などに出演したのち、2008年の『那須少年記』で映画初主演を飾る。その後も映画『桐島、部活やめるってよ』(2012)、ドラマ『恋仲』(2015)をはじめ、多くの作品に出演。2016年のドラマ『ゆとりですがなにか』で“ゆとりモンスター”山岸ひろむを演じ、大きな脚光を浴びた。その後もコメディからシリアスまでさまざまな役どころで映画・ドラマ・舞台など幅広く活躍。2020年の出演作は映画『静かな雨』(主演)、『僕の好きな女の子』など。
なぜ悪魔や悪党が存在していないのに、おぞましいことが起こってしまうのか?
仲野:監督の作品は、一貫して善と悪のようにふたつで語り切れないものがある気がしています。特に『殺人の追憶』、『母なる証明』、『オクジャ/okja』は、ラストシーンがとっても印象的で。水平の上に善も悪も、貧も富もあり、そこだけでは語り切れない複雑さが、人間の根源的な生命力のように感じます。それがこんな形のエンターテインメントになるのか、ということに非常に感動しました。
ポン監督:すごく正確にご指摘頂いたな、と思います。特に映画やドラマを観ていると、裕福な人たち、お金持ちたちは悪党だったり、貪欲な人々という描かれ方が多いですよね。それはある意味、イージーチョイスなのかな、と思うんですね。現実はそれほど単純ではないので。
『パラサイト 半地下の家族』では、お金持ちの家族も貧乏な家族も、どちらも天使でも悪魔でもない。グレーゾーンにいる人々、という感じになっていると思います。映画の中には、いわゆる「悪人」は登場しないけど、ラストにおぞましいことが爆発して起こりますよね。そうすると、「なぜ悪魔や悪党が存在していないのに、こんなことが起こってしまうのか?」と、私たち自身に質問せざるを得ない。その質問そのものが、この映画が伝えようとしていることじゃないかな、と思います。
映画は面白く、美しいものであるべき
仲野:そもそも、映画は娯楽的な面もありながら、社会を映す窓みたいな要素もあると思っています。ポン監督自身は、現代における映画の役割は何だと思いますか?
ポン監督:役割が何なのかは、正直よく分からないですね。僕は映画を撮る、またはシナリオを書くことを完成させるだけで精一杯で、映画のストーリーを書きながら、どう辻褄を合わせていき、起承転結をきちんとさせていくのかを一生懸命やっている感じなんです。映画にメッセージがあって、映画を観る前と後では人生が変わるようなことになれば、もちろん素晴らしいことだと思います。それが意図したからといって、簡単にできるものでもないですし。そして、僕は映画が道具や手段になってしまうことは、あまり賛同できません。それよりも、映画そのものとして映画は面白くあるべきであり、美しいものであるべきだ、という考えを持っています。
20年間で7本を撮ってきて、簡単だったことは一度もなかった
仲野:今年、日本では表現の自由について考える出来事が沢山ありました。日本の作家、作り手も本音を言いづらいような、息苦しい状況に置かれそうになっていますが、それでも、やっぱり僕たちも作品を作り続けなければいけません。それは簡単な作業ではなく……、そういう意味で、ポン監督自身が映画を作り続ける原動力を教えていただきたいです。
ポン監督:韓国でも、つい最近まで「ブラックリスト」と呼ばれる芸術家たちを弾圧する事件もありましたし、90年代半ばまでは検閲が実際にあったんです。今は権力や政治的なものによる検閲はなくなりましたが、お金・資本による検閲が存在しているように思います。誰かが露骨に行使するものではないですが、創作者自らが、「このシーンは出資をする人たちが嫌がるんじゃないか?」とか、「この役柄ではスター俳優がキャスティングできないんじゃないか?」、だから「この俳優がキャスティングできないなら、出資を受けるのが難しいんじゃないのかな」という不安や恐怖を感じて、自主的に検閲してしまう部分もあるかと思います。
でも、どんな時代でも、どんな国であっても、創作者たちには苦難の道のりがあったと思うんです。いつでも何でもできるような、思う存分創作ができる、楽しみながら花を咲かせられるような楽園のお花畑のような状態は、いつの時代にもきっとなかったと思うんです。様々な苦難や大変さも、創作者たちは抱えながら生きている。それは我々の勲章のようなものだと受け止めたほうがいいのかな、と思います。作り手たちには自分が撮りたいもの、書きたいものへの執着がありますよね。自分の気持ちに従っていくしかないですよね。
仲野:ポン監督は世界を代表するクリエイターだと思いますので、今の言葉はすごく励みにもなります。「面白いものを作りたい」という一点に尽きますし、自分もそういうものを作り続けたい気持ちにますますなりました。
ポン監督:面白くあるべきだと思います。面白くなければ、メッセージも、伝わるものも伝わらない。僕はこれまで20年間にわたって7本撮ってきていますが、簡単だったことは一度もありませんでした。毎回、何かしらおかしなこと、苦難な状況がつきまとっていたんです。このことを語り出すと、明日の朝までになってしまうから……(笑)、また機会があったらお話できればと思います。
仲野:本当にぜひ、よろしくお願いします!
(取材=仲野太賀、文=赤山恭子、撮影=西村 明展、ヘアメイク=須賀元子、スタイリスト=石井大、衣装協力(仲野太賀着用)PHIGVEL)
映画『パラサイト 半地下の家族』は、2020年1月10日より全国ロードショー(2019年12月27日、TOHOシネマズ 日比谷/TOHOシネマズ 梅田にて先行公開)
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク ほか
監督・脚本:ポン・ジュノ
公式サイト:parasite-mv.jp
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