
カンヌ、ベネチア、ベルリン、世界三大映画祭【監督賞】のトロフィーを手にした唯一の映画監督、ポール・トーマス・アンダーソン待望の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』が10月3日、ついに日本上陸した。主演を務めるのはハリウッドを象徴するスーパースターであり、アカデミー賞(R)俳優の演技派レオナルド・ディカプリオ。アンダーソン監督の名を世界に轟かせた傑作『ブギーナイツ』(1997年)のオファーを蹴った事を後悔し続けていたディカプリオにとって、まさに30年越しに叶った念願のタッグとなる。そこに同じくアカデミー賞(R)俳優のショーン・ペンとベニチオ・デル・トロら主役級俳優たちがクセの強いキャラで乱入!毎度一筋縄ではいかないPTAワールドに、いまだかつてないブーストがかかり、ひと足先に公開を迎えた本国でも「今年ベスト」「アカデミー賞確実」など絶賛の声が溢れ、さらにはスティーヴン・スピルバーグ監督やマーティン・スコセッシ監督もいち早く鑑賞し絶賛しており、日本公開前から映画界を騒がせてきた作品だ。


開始から没入!夢中になって観ているうちにエンディングを迎えてしまう
アルコールとハッパを両手に、無気力な日々を送る冴えないパパのボブ(ディカプリオ)。その冴えない日々には、革命家だったかつてのアグレッシブな面影はない。唯一の心の支えは、革命活動を通じて愛し合ったカリスマ革命家の妻(テヤナ・テイラー)との間に生まれた最愛の娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)だけだ。
ところが過去からの亡霊のように現れた変態軍人ロックジョー(ペン)の思惑によって、ウィラがさらわれてしまう!大パニック&ブチ切れのボブは、空手道場のセンセイ(デル・トロ)の手を借りて愛娘奪還バトルに身を投じていく…。
ダイレクトに伝わるストーリー
アンダーソン監督が本作のインスピレーションの源泉に挙げるのは、伝説的作家トマス・ピンチョンによるパラレルな長編小説『ヴァイランド』。アンダーソン監督は『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)でピンチョンの原作に挑戦しており、その偏愛ぶりが伺える。
本作には、ボブをはじめとして、ボブを追うロックジョー、さらにはボブのピンチになぜか登場するセンセイだけでもクセが強すぎるのだが、メインキャラクターのほかにも、暗闘する活動家グループや上級白人による秘密結社、女・子供は殺さない賞金稼ぎが登場する。一見するとゴチャりそうなものだが「元革命家だけどすぐテンパってしまう父親によるウィラ奪還」に焦点を絞った無駄のない運びとリズム感は抜群で、2時間42分という長尺に思えたランニングタイムが嘘のようにラストまで怒涛の一気爆速だ。
冒頭で示される臨場感バッキバキの革命活動(アクション)、中盤で提示される16年後のボブのドタバタ劇(コメディ)、後半で巻き起こる荒野のハードチェイス(追走劇)。ここまでジャンルを横断しているのに、観客を1秒たりとも飽きさせず前のめりにさせるのは、アンダーソン監督の語り部としての巧みさだ。複雑に見せて、実はしっかりと交通整理がなされており、難しい事を考えなくともダイレクトに伝わる明解なストーリーが観客を楽しませる。
荒地に続く起伏の激しいジェットコースターのような一本道を舞台にした、追い抜け追い越せのチェイス場面の表現は映画館の大きなスクリーンを想定したルック。ダイナミックな映像を再現するべく、スタンダードサイズの2倍以上の撮像面積を使うビスタビジョンで撮影したのも、映画館で観るための“映画”としての格調を意識したからに違いない。
笑いあり涙あり、親子愛ありの王道エンターテインメントである一方、今現在の世界が抱える根深い社会問題にも言及し、奥行きを忍ばせる。アンダーソン監督が振るタクトの正確さを「センス」と呼ばずしてなんと表現すればいいのだろうか。スティーヴン・スピルバーグ監督は本作を3度も鑑賞するほど大激賞。全米公開後の米批評家サイト「ロッテン・トマト」では98%の高評価をゲット。誰もが唸る傑作が誕生したと言っても過言ではないだろう。
アカデミー賞(R)受賞俳優たちがネクストレベルへ 本作で再受賞なるか⁉

唯一無二の天才監督が作り上げた唯一無二の世界観で、アカデミー賞(R)受賞経験者たちも未知なる引き出しをこじ開けられているところも本作を何度もリピートしたくなる理由のひとつ。ディカプリオ、ペン、デル・トロ、主役級俳優の「こんな○○、見たことない!」と思わず声に出したくなる狂演の“One Battle”ならぬ“Three Battle”が観られるのだから。
まずはハリウッド界を代表する永遠の貴公子、ディカプリオ。革命グループの爆弾魔として生き生きと活動していた過去と16年後の現在のボブの対比を別人レベルで表現。ロックジョーによるテロリスト壊滅作戦によって妻が捕らえられ、身分を偽って逃亡生活を余儀なくされたボブだが、16年も活動から離れると緊張感も皆無に。男手一つで育てた娘ウィラは思春期だし、現在のリベラルな考え方にはどうも付いていけない。退屈で怠惰な日々の癒しは、革命映画の名作『アルジェの戦い』を観ながらラリること。
娘がさらわれ必死に行方を特定しようとする中、かつての活動家グループに久々にコンタクトを取る。ボブは16年前の精彩を取り戻すのかと思いきや、暗号の文言を忘れて門前払いを喰らって「このクソリベラルがっ!」などとFワード満載で大激怒。包囲網から転がるように逃げ回る様はスラップスティック・コメディのようだ。まさに「こんなダメダメなレオ様みたことない!」瞬間である。
そんなテンパりパパだが、革命を捨てて誓った娘への愛だけは不動。無精ひげを蓄え、髪の毛を振り乱し、着の身着のまま(部屋着の)ローブ姿ながらも、命を懸けてウィラを追跡する。革命家だった背景を除けば、その姿はどこにでもいそうな休日のお父さん。でもそれが段々愛おしく見えてくるのは、さすがディカプリオ。終始困惑の眼差しでボブという男をカッコ良さゼロで演じるディカプリオの新境地を目撃してほしい。
主役を喰う超ベテランのアソビ


登場した途端、トンデモな痴態をさらす変態軍人ロックジョーを嬉々として乗りこなしたのは超ベテランのペン。その成り切りぶりと存在感は、主演を喰ってしまいかねない勢いで、賞レース最有力候補の一人として記憶されるのは間違いなさそうだ。アンダーソン監督とは前作『リコリス・ピザ』(2022年)で組んでいる事もあり、アンダーソン監督が喜びそうな“アソビ”を十二分に理解しているパフォーマンスを見せる。
持ち前の低音ボイスで威厳を響かせる一方で、なぜかピチピチのTシャツを着てボブの妻に一目惚れしたドMというロックジョーの本性をシリアスに体現。シリアスであればあるほど滑稽さは増し、登場するたびに次に何をしでかすのか期待値は上がる。下の歯で上唇をアグアグする神経質そうな癖も妙にハマっている。行動原理が正義ではないのも、人間臭くていい。あまりの狂いっぷりに笑いをかっさらい、なぜかおかわりしたくなってしまう。
右往左往するボブに手を差し伸べる“センセイ”をチョビ髭マリオスタイルで演じるのは、渋さを増したデル・トロ。表向きはウィラの空手の師範だが、裏の顔はボブも驚く心優しき活動家だった。ラテン系コミュニティに尋常ならざる情報網を持ち、ボブの窮地を何度も救う。
どんなピンチにも焦ることなく、陽気で軽妙洒脱。コメディリリーフのようなポジションで、そんなセンセイの横でひたすら焦燥するボブとの対比も面白い。とある緊迫シーンでの「ボブ、土足で畳は踏むな」というセリフには思わず吹き出してしまう。2時間42分、ノンストップで繰り広げられる怒涛のチェイスバトルのなかで“ちょうどいい”ゆるさが最高に効いている。
なお空手のセンセイを演じたベニチオと日本の縁は実は深い。ベニチオは映画『裸の島』(1960年)等で知られる新藤兼人監督の熱烈なファンであり、新藤兼人回顧展をニューヨークで開催したり、来日して生前の新藤監督と対談したりしている。そうなると日本文化をルーツにしたこの役を演じたのは宿命かも?
闘争/逃走劇の道の果てに見えるのは、親子愛!?

明日への希望を繋ぐバトンの継承には感涙を誘う爽快感すらある。ジャンルに捉われない、今までに観たことのない映画だからこそ、目線を変え、視点を変え、何度でも観たくなってしまう中毒性が本作にはある。まさに『ワン・バトル・アフター・アナザー』、闘いの次にまた次の闘いが襲ってくる怒涛のエンターテイメントに身を任せて、とことん楽しんでほしい。トム・クルーズ(『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』)、ブラッド・ピット(『F1/エフワン』)ときた2025年ハリウッドスターYEARの締めくくりは、実力派スター総出の『ワン・バトル・アフター・アナザー』で決まりだ。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』作品情報
2025年10月03日(金)大ヒット上映中
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/
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