『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』などで知られる異才アリ・アスター監督による最新作『エディントンへようこそ』が2025年12月12日(金)よりいよいよ日本で公開を迎える。舞台は、未曽有のパンデミックでロックダウン状態となった、ニューメキシコ州の小さな町・エディントン。エディントンの保安官ジョー(ホアキン・フェニックス)が市長選に立候補したことを機に、日常がゆがんでいくさまを忍び寄る恐怖で描き出した。
FILMAGAでは、プロモーションのため来日したアリ・スター監督にインタビューを実施。ホストを務めたのは、アスター監督作品を敬愛してやまない俳優の北村匠海だ。北村が監督・脚本・企画を務めた映画『世界征服やめた』では、『ヘレディタリー/継承』のとあるシーンにインスパイアされてカットを考えたとしたほど(北村匠海さんへの取材記事はコチラ)、影響を受けた人物だという。
対談では、『エディントンへようこそ』の製作意図から、ホアキンとの作品作りにまつわる貴重なエピソード、アスター作品のルーツに至るまで話が及んだ。アスター監督からの一つ、一つの言葉に呼応するように思いのたけを返し、質問を重ねる北村。その熱心な姿に、アスター監督の表情はすぐさまほどけ、どことなく愛弟子を見つめるような情熱までたたえていた。映画という総合芸術の海で自在に泳ぐ二人ならではの対談、純度そのままに届けたい。

北村:はじめまして、北村匠海と申します。本日はよろしくお願いします!
アスター監督:はじめまして。お会いできてうれしいです。
北村:僕は監督の大ファンでして、最新作『エディントンへようこそ』もすごく楽しませていただきました。アリ・アスター監督の今まで紡いできた映画から一歩外れたと言いますか、新しいアリ・アスター監督の作る映画を観られた気がしました。ワクワクとドキドキと、そして恐怖にまみれた非常に素敵な映画体験でした。
アスター監督:すごくうれしい感想です、ありがとうございます。

北村:パンデミック禍が描かれているこの映画を観て、僕はやはり当時のことを思い返しました。コロナが世界中で起こったときは、様々な陰謀論が勃発したり、人々の間では悲しみや怒り、反対に愛情も湧きおこったりと、いろいろな感情が渦巻いていたように感じていました。それをSNS、ネット、ロックダウンした街からも、肌でも感じ目でも見ることができて、僕の中でも様々な思いが胸にあった期間だったんです。
『エディントンへようこそ』で起こっていることは、まさにあの頃を思い返すと同時に、映画全体が一人の人間の中で巻き起こっている、いろいろな感情の具現化に見えました。そのメッセージを特に強く僕はキャッチしましたし、映画の中では様々な皮肉が散りばめられているようにも思いました。アリ・アスター監督が、この映画で大切にしたことを聞かせてもらえますか?

アスター監督:感じていただいたように、私は現代のアメリカ社会で起こっている崩壊というか、ブレイクダウンが起こっているところを描きたかったんです。それはつまり、人々がインターネットの上で生活しているということなんですよね。登場するキャラクターたちは、みんな世界のことを心配したり、未来のことを気にかけています。ただ、何が起こっているかということに関しては、各々が違う情報を得ているので、みんなが同意しないし、お互いに阻害されているという状況です。アメリカではそれが起こっているんですが、日本ではどうなんでしょう…?おそらく、ご自身がお分かりだと思うんですが。
私はそういう現実を反映したものを作りたいと思いました。人々はコミュニティの中にいるんだけれども、それは実はコミュニティでない。同じ部屋にいるんだけれども、違う情報の球体の中にいるというところを描きたかったんです。この映画は進むにつれ、どんどん不条理に、クレイジーになっていって、最後はカオスになってきます。「今の時代が、すごく不条理になってきているんだ」ということを大事にしたいと思いました。
北村:なるほど……!
アスター監督:インターネットが現実社会に入ってくるのは、そういうことだと思うんですよね。まるで現代に対する毒になっているとでもいうか。私は、すべてのいろいろなことがバラバラに起こっているけれど、ごちゃごちゃになっていることをまとめたような話を作りたい、というのがありました。

北村:すごくつながりました。序盤はとてもストレートにホアキン・フェニックスさんが芝居をしていて、中盤まで話が進んでいき、すごく凪の状態が続いているような感じがありました。そこから確かにいろいろなことが少しずつ巻き起こり、最終的にはカオスになっていく。現代のアメリカというお話でしたが、それで言うと、確かに日本もカオスな状況になっていると僕は思っています。2020年、コロナが世の中に蔓延してから、年々、人々のやさしさも増えていますが、同時にカオスな側面は大きくなっていますよね。今アリ・アスター監督がおっしゃっていたことで、この映画の僕が感じていた点と点がすごく線になった気がします。
アスター監督:(笑顔で)そうでしたか。
北村:主演のホアキン・フェニックスさんについても、お聞きしたいです。僕はもともとリヴァー・フェニックスさん(※ホアキンの兄)が好きで、それからホアキン・フェニックスさんも大好きになったんです。監督とホアキンさんは『ボーはおそれている』に続き、二度目ですよね。僕はアリ・アスター監督とホアキンさんの組み合わせにすごく親和性を感じていますし、ゴールデン・タッグだと思っています。監督から、ホアキン・フェニックスさんという役者はどう見えているんでしょうか?『エディントンへようこそ』でホアキンさんを真ん中に立たせることで、何を託したんですか?

アスター監督:私もホアキン・フェニックスが大好きです。一緒に仕事をするのが楽しかったです。俳優としても素晴らしいし、人としてもすごく素晴らしい方です。それに、すごくシリアスな役者さんなんですね。『ボーはおそれている』でホアキンと一緒に仕事をする前、今までの彼の作品を観ていて「きっと本能的にやる人なのかな」と思っていたんです。いわゆるクラシックな意味での演技のトレーニングはしていなくて、技術的に積み上げていく人ではないだろうなと考えていました。ところが一緒に働いてみると、実はすごくテクニカルで意識的・意図的に考えてやっている人だと知りました。ある種本能的にやるところもあるんだけれども、基本的には同じことを何度も繰り返すことができる俳優なんです。
また、キャラクターに時間をかけて、脚本についてものすごくいろいろなコミュニケーションを必要とする人でもありました。だから彼とはいろいろな話をしました。脚本について話し合ったりしていくそのプロセスは、私にとってもすごく助けになりましたし、ものすごくインスピレーションを受けるものでした。『ボーはおそれている』のときも同じようなプロセスを経ていました。私たちは同じようなユーモアの感覚を持っているし、働く倫理観や体力も同じなので(笑)、一緒に仕事をするのが楽しみなんです。

北村:『エディントンへようこそ』でのホアキン・フェニックスさんからは、伸び伸びしている印象を受けました。ユニークさももちろんですが、本当に今目の前で起きていることであり、そのお芝居を心から楽しんでいるように、僕の目には映ったんです。『エディントンへようこそ』の中盤に差し掛かるまでの、僕が感じた心地よさに特につながっていたのかなと思っています。これからもお二人のペアを観たいです。
アスター監督:おっしゃる通りで、ホアキンも楽しんでやっていたと思います。彼も実際私に言ってくれましたし、私も感じました。彼は面白い、笑えるような演技をしていたと思っていますし、それを感じていただけてすごくうれしく思います。また一緒に彼と仕事をしたいと思っています。

北村:わあ!あとですね……もし日本に興味がおありなら、日本を舞台にしたアリ・アスター監督の映画も観たいです!
アスター監督:日本で映画を撮りたいかと言われたら、もちろんYES、撮りたいです! 日本は本当に美しい国だし、食べ物はほかにないぐらい最高ですよね!そういえば、何かおすすめのお食事はありますか?
北村:え~っと……お寿司!もいいと思うんですけど、餃子なんていかがですか?…あっ、餃子は日本料理ではないか(笑)。
アスター監督:お寿司、おいしいですよねぇ。話の続きになりますが、私が毎回日本に来て感動するのは、すべてのことがとても目的を持って、シリアスに意図的になされていると感じられることなんです。アメリカに行くと、それがないなぁと日本が恋しくなります。なので、いつか日本で映画が撮れたらいいなと思います。

北村:とてもうれしいです。せっかくなので、アリ・アスター監督のルーツについても聞かせてもらえますか。これまで僕は『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』、『ボーはおそれている』、そしてアリ・アスター監督の卒業制作も拝見していて、本当に監督の作品が大好きなんです。自分が映画の監督をしたときも、『ヘレディタリー/継承』のじわじわ人物に寄っているのか、寄っていないのかわからないカメラワークに影響を受けて、チャンレンジする経験もありました。
すべての作品において、不安や恐怖に駆られたり、すごくドキドキする瞬間もあったりして、いつも惹きつけられています。アリ・アスター監督の映画は、美しい狂気だと思っているんです。監督は映画とどう向き合って、いろいろな作品に落とし込んでいるのか、ご自身のルーツを聞かせていただきたいです。

アスター監督:ありがとうございます。自分のどこがと言われるとわからないんですが、どんなものを作ってもやっぱり自分が出てしまうと思うんです。なるべく匿名性の高いものを作ろうとか、つまらないものを作ってやろうと思っても、やっぱりそこに自分が出てしまう。みんな自分からは逃れられないので、どんな映画も自分が作っているものはパーソナルな映画だと思います。……という意味で、なぜこういう風なスタイルなのか、なぜこういうものを作るのか、自分でうまく説明できないんです。言えるとするなら、世界が狂気に満ちていると思うし奇妙だから、それに忠実であろうとしています。
センスや、気性・気質みたいなところ、何を醜いと思うか、何を美しいと思うか、何が退屈だから避けようと思うか、面白いと思うからそれに惹かれるとか……そういうところは、やはり言葉にできないんですよね。自分の人生や生活というものは映画に出てしまうと思いますし、自分の態度みたいなものが映画のスタイルという前に入ってしまう、テイストとして出てきてしまうのかもしれないです。なので、私のスタイルあるいはテイストというものがお好みに合ったようで、すごくうれしいです。
北村:僕はアリ・アスター監督のスタイル、映画に滲み出ているものもすごく好きです。お話を聞いていて、勝手ながら……どこかで世界の捉え方が似ているのかもしれないなというのも今感じました。それにしても、愚問でしたよね(苦笑)。確かに言語化できないことがすべてで、滲み出るものなんですよね。それが確かにクリエイティブだと思います。改めて敬意を表します。
アスター監督:ありがとうございます。そんなふうに言っていただけて、感謝しています。

北村:最後の質問になります。僕は、日本で役者や監督をやったりしています。アリ・アスター監督が触れてきた日本のカルチャーや、先ほどお話いただいた日本の美しさ、映画などから、監督の中で作品の種になったり、ご自身の人生に影響を与えたものはありますか?あと、好きな日本映画も教えてください。
アスター監督:日本の映画というのは、私にすごく影響を与えてくれています。お気に入りの方もいっぱいいます!『エディントンへようこそ』に影響を与えた一人の監督の名前を挙げるなら、今村昌平さんです。『復讐するは我にあり』、『楢山節考』、『赤い殺意』に代表されるように、いわゆる高尚の文化と低俗の文化を合わせたところ、すごく洗練された形やとってもユーモアがあったり、ちょっとお下劣なところがあったりするところが、すごく面白いと思っています。
そのほか、日本の監督にはすごく影響を受けています。大好きなので名前を挙げたらキリがないんですがオヅ、ミゾグチ、コバヤシ、スズキ、オオシマも好きです(小津安二郎、溝口健二、小林正樹、鈴木清順、大島渚)。それから『ゆきゆきて、神軍』というドキュメンタリーにもすごく影響を与えられました。三池崇史、黒沢清も大好きでしたし、このお話をすると止まらないですよ(笑)。

北村:たくさん聞けてうれしいです! 実は三池監督は僕も12歳のときに仕事をしたことがあって、僕の役者人生に影響を与えた一人でもあります。いつか世界の映画の祭典で、僕も日本の映画を持って、またアリ・アスター監督にお会いできる日を楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。
アスター監督:そうなんですね!私もまたお会いできる日を願っています。
(取材:北村匠海、文:赤山恭子、写真:You Ishii)
Filmarks公式Instagramでは、本インタビューでの北村匠海さんに密着したビハインド動画も公開中!
映画『エディントンへようこそ』は2025年12月12日(金)公開予定。

脚本・監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー
公式HP:https://a24jp.com/films/eddington/
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※2025年11月26日時点の情報です。
