生誕100年!日本映画史上最強のモダニスト・市川崑とは!?

2015.11.06
映画

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

今年は、市川崑の生誕100周年

それを記念して、彼の代表作である『炎上』(1958)、『おとうと』(1960)、『雪之丞変化』(1963)が4K解像度で初Blu-ray化され、本日11月6日に発売となります。

来年1月には、角川シネマ新宿にて「市川崑映画祭」の特集上映も予定されているとのこと。この機会に、日本を代表する巨匠の作品に触れてみてはいかがでしょうか?

文芸作品やミステリー、コメディ、ドキュメンタリーと多岐に渡る作品を世に送り続け、華麗な映像表現で常に映画界をリードしてきた市川崑。この稿では、日本映画史上最強のモダニストである彼の生涯を駆け足で紹介しつつ、主要作品を振り返ります。

華麗な転身!アニメ作家から都会派コメディの名手へ

あまり知られていませんが、市川崑は実はアニメーター出身です。ディズニーに憧れて撮影所に入り、1936年には短編アニメ『新説カチカチ山』を発表。押井守や原恵一など、最近でもアニメーション監督が実写を手がけるケースはありますが、その先鞭をつけたのが市川崑といっていいでしょう。

1948年には東宝撮影所で知り合った和田夏十(わだなっと)と結婚、1950年代に入ってから本格的に実写映画を手がけるようになります。

和田夏十は市川作品のほとんどの脚本を手がけた脚本家でもあり、公私ともに市川崑を支えたパートナーでした。市川+和田コンビは『結婚行進曲』(1951)や『プーサン』(1953)など、現代社会を風刺的に描く都会派コメディを発表。日本人離れしたスタイリッシュでクールな作風で、早くもモダニストとしての本領を発揮します。

この路線の到達点といえるのが、『黒い十人の女』(1961)でしょう。あまたの女性と浮気しているテレビプロデューサーを、妻と愛人の総勢10人が共謀して殺害を企てるというシニカル・コメディで、元ピチカート・ファイヴの小西康陽も、そのグラフィルカな映像センスを激賞。

’90年代にリバイバル上映されたときには、“渋谷系映画”として多くの観客を集めました。

黒い十人の女

全盛期〜画期的な映像表現を駆使し、世界的な監督へ

市川崑の快進撃は止まりません。1956年に発表した『ビルマの竪琴』が、ヴェネツィア国際映画祭のサン・ジョルジョ賞受賞し、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされるなど世界的評価を高める一方、『炎上』(1958)、『鍵』(1959)といった文芸作品も精力的に発表し、ジャンルにとらわれないオールラウンダーとして八面六臂の活躍。

新しい映像表現の可能性にも意欲的で、1960年に発表した『おとうと』では、現像の際に銀を取り除く行程をあえて省くことで、陰影の強い独特の映像になる「銀残し」という手法を取り入れています

日本が誇る撮影監督・宮川一夫によって実用化されたこの「銀残し」は、『セブン』(1995年)、『プライベート・ライアン』(1998年)など、後にハリウッド映画でも数多く用いられました。

おとうと

1965年には、「芸術か記録か」という大論争を引き起こすことになる『東京オリンピック』を発表。本来スポーツ放送では、選手の位置関係を分かりやすく明示するために引きのショットが用いられますが、この映画では選手の表情や筋肉の動きを極端なクローズアップでとらえ、生々しい緊張感を生み出しています

既成の表現を“良し”とせず、画期的な映像表現を模索し続けてきた市川崑らしいアプローチといえるでしょう。

東京オリンピック

低迷期〜金田一耕助シリーズで華麗なる復活!

市川崑の実験精神は、映画だけにとどりません。’60年代当時新進のメディアだったテレビに注目し、『源氏物語』や『木枯し紋次郎』などのドラマや、大原麗子を起用したサントリーレッドのコマーシャルを手がけます。

ただ肝心の映画ではこれといったヒット作に恵まれず、最愛のパートナーである和田夏十が乳癌による長い闘病生活に入ったこともあり、「市川崑はもう終わったのではないか」と囁かれるようになりました。

しかし1976年、彼は起死回生の一打を放つことになります。当時角川書店社長だった角川春樹が、「本を売るなら自分たちで映画をつくって宣伝してしまおう!」というとてつもない発想で横溝正史の『犬神家の一族』の製作に乗り出し、その監督に抜擢されたのが市川崑だったのです。

犬神家の一族

元々彼はミステリーの熱心なファンで、脚本にクレジットされている久里子亭(くりすてい)は、アガサ・クリスティーをもじった彼自身のペンネーム。以降、『悪魔の手毬唄』(1977)、『獄門島』(1977)、『女王蜂』(1978)、『病院坂の首縊りの家(1979)と、石坂浩二を金田一耕助に据えたシリーズを5本製作することになります。

細かいカット割り、矢継ぎ早に物語が進行するテンポ感、明朝体がL字型に配置されるタイポグラフィーのセンス(後年、庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』にも影響を与えました)「よーし、分かった!」と手を叩いてはことごとく間違った推理を披露する警部(加藤武)のコメディリリーフぶり…。

それまでのおどろおどろしい日本情緒的世界から離れ、市川崑らしいモダン・センスが存分に投入された結果、日本映画史上屈指のミステリー映画が誕生したのです。

晩年期〜実験精神は最後まで失わず!

その後も市川崑は、やや出来不出来はあるものの、コンスタントに異色作・意欲作を手がけていきます。特撮を大々的に使用した『竹取物語』(1987)、赤穂浪士の物語を謀略渦巻く頭脳戦として描いた『四十七人の刺客』(1994)、セルフ・リメイクの『犬神家の一族』(2006)…。

特に『新撰組』(2000) は、黒鉄ヒロシの原作キャラクターを切り絵にして操演する人形アニメで、85歳の老齢とは思えない実験精神に溢れた作品です。2008年2月13日、肺炎のため92歳でこの世を去るまで、市川崑は映画界の最前線で奮闘し続けたのでした。

その華麗な映像マジックは、今なお現代の映像作家たちに刺激を与えています。彼へのリスペクトを表明している映画監督の岩井俊二は、2006年にドキュメンタリー映画『市川崑物語』を発表し、同じ“映像派”としてその創作の秘密に迫っています。

作品中、横溝正史の『本陣殺人事件』を岩井俊二&市川崑の共同監督で製作する予定があったことが語られていますが、新旧映像派による夢の競演が実現していたら…と夢想せずにはいられません。

市川崑物語

願わくは第二、第三の市川崑が登場して、日本映画界を盛り上げてくれることを!

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  • yu
    4.8
    めちゃくちゃいい女たちが、愛するどうしようもない男を殺す企てをする。男を好きになってしまうと、だめですね(笑)ほんと、だらしなくてどうしようもないダメ男なのに、あいしてしまったがゆえに、嫉妬して憎んでそれでも恋しくて。女優陣の色気もすごい。眼力に凄みがあるので、めちゃくちゃ怖い。モダンでスタイリッシュなファッションで決めてくるのですごくカッコイイです。 結託してるかのようで皆自分のことだけを考えてるので、「あなた、ほんとにいい人なのねぇ…」なんて台詞も純粋には聞こえやしない。 船越英一郎が問題のカゼを演じているんですが、これまためちゃくちゃいい男なんです。 今の船越英一郎しか私は知らなかったので、、一瞬誰だこれ!と衝撃を受けました笑 若くてイケメンな船越英一郎を見てみたいという人にもぜひ見てもらたいな、、。
  • サラリーマン岡崎
    4.6
    まさに『オーシャンズ10』。 10人の女たちの犯罪計画だが、 オーシャンズとは違い、そんなにうまく事が進まないのが面白い。 前半までは共通の愛人男を殺す計画をするまでの話だが、 その後の展開がうねり過ぎて、 飲み込まれる。 やはり女たちは思惑があり、 愛する人を殺すことになるので、 そりゃうまく行かない。 当の殺されようとしている男(船越英二)が これまた憎めないほど可愛いキャラで、 こりゃいろんな女性が母性本能働くなと思うわw 全然悪役ではないので、みてる俺も10人の女たちにも完全に共感はできず、 だからこそ、彼女たちのてんやわんやが面白く見えてくる。 だから、これは船越英二も入れたオーシャンズ、『オーシャンズ11』である。 それにしても、女たちが本音でバトルするのは清々しい。 若々しい中村玉緒が取っ組み合いしてるシーンは好物すぎる。
  • のん
    3.8
    スタイリッシュでよく考えるとダークかもしれないブラックコメディ。 レビューしたはずが消えてたので以上。 その後、ケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台版リメイクだけ観ました。
  • kotobuki
    3.5
    モダンライフ♡陰影の立体感
  • キッチー
    3.8
    これはちょっと衝撃的、邦画でこんな作品見たことない...フランス映画のようでした。 モノクロの画面に浮かぶ往年の大女優(あまりよくは知らないのですが...)の面々。ジャケ写にもなっている、男を囲んで颯爽と立っている女性10人のシーンも、インパクトありました。 それにしても、船越英二さんが演じたプレイボーイ役はとても軽くて、日本人離れしていましたね。熱中時代(水谷豊さんのテレビドラマ)の時の校長先生役しか見たことなかったので意外でしたが、wikiを見たら、若い頃は「和製マルチェロマストロヤンニ」と謳われていたらしく、納得しました。 もっとも、今作は個性的な女優陣の演技が面白かった~。山本富士子さんVS原恵子さん、宮城まり子さんVS中村玉緒さん(若い!)...とか色々な組み合わせで進む会話劇の部分も見所ありました。それと、愛人の名前に1から10(妻が2で双葉と言う名前とか...)、そして100と数字が入っているとか、役名の付け方もユニークですね。当時のテレビ局の裏側を見られるのも良かったです。少しですが、クレイジーキャッツも本人役で出てきます。 物語は、テレビ局のディレクターをしている風松吉(船越さん)が妻(山本さん)の他にも次々に愛人(恋人)を作り、なぜか妻にも愛人にも彼の浮気性が周知されており、妻、愛人たちの間では、嫉妬や女のプライド等、複雑な感情が蠢いています。 全ての元凶である「風さん」を殺してしまえば、丸く収まるなんて冗談めいた話が女性たちの間で囁かれるようになり、それを利用して身辺整理をしようと「風さん」が考えたことから、事態は思わぬ方向に進んでいきます。 後半、幽霊が出てきたり、コメディ要素もありましたが、そこはサラッと流して、ラストの纏め方も邦画っぽくなく、終始、シニカルな感じも良かったです。しかし1961年にこんな強い女性たちを描くなんて異色ですね。 市川崑監督作品。和田夏十(監督の奥さん)のオリジナル脚本。 この作品は、後年テレビでセルフリメイク(2002年)されたらしいですが、観てみたかったですね。 市川作品は『犬神家の一族』を見たっきりだったのですが、今作を観て、興味でてきました。他も観ていこうと思います。
「黒い十人の女」
のレビュー(1094件)