【芸術の秋だからこそ観たい】芸術性を感じさせるショートフィルムの世界

劇場未公開作品を愛してやまない田舎人

フレスコの傘

ショートフィルム(短編映画)最大の魅力はなんと言ってもその短さ。10分前後で鑑賞できる作品が多く、最長でも30分程度しかないので忙しい人でも手軽に観られるという点は非常に助かりますね。

映画は好きだけど、その日の体調によっては映画自体観る気力が起きない・・・。そんな日も大丈夫。ショートフィルムには台詞自体が用意されていない作品も多いので、映像だけを感覚的に楽しめる側面も持ち合わせているのです。

今回はDVDで観ることができるショートフィルム作品をご紹介します。

入門編:CINEMA 16シリーズ 『CINEMA 16 EUROPEAN SHORT FILMS』

ヨーロッパ出身の監督たちによる16編のショートフィルムを集めた作品集です。

有名どころではルイス・ブニュエルとスペインの画家サルバドール・ダリがタッグを組んだ『アンダルシアの犬』、ヤン・シュヴァンクマイエルの『ジャバウォッキー』などがあり、その他ラース・フォン・トリアー、ジャン=リュック・ゴダール、クリストファー・ノーランといった名監督たちの名前が並んでいます。

また映画監督だけではなく、スコットランドの名優ピーター・マランによる作品も収録されているのも特徴。もともとショートフィルムはヨーロッパで確立されたジャンルですので、その懐の深さを知るにはもってこいの作品集と言えるでしょう。

pickup!『アンダルシアの犬』(1928年/16分)

アンダルシアの犬

有名な眼球を剃刀で真二つにされる女性の映像から始まり、手から這い出てくる蟻の大群、ピアノの上に横たわる動物の死体・・・。淡々と羅列されていく映像はどれもショッキングですが、その映像は意味があるようで全くないのかもしれません。

アヴァンギャルドやシュールレアリスムといった小難しい言葉は何もいらない。観る者をただ感性の赴くままに導いていく16分間の世界がそこにはあります。

『CINEMA 16 AMERICAN SHORT FILMS』

前述のEUROPEANと対になっている作品です。こちらはアメリカ編。

前衛映画のパイオニアと呼ばれるマヤ・デレンの『午後の網目』をはじめ、ティム・バートン、ガス・ヴァン・サント、マイク・ミルズ、ジョージ・ルーカスといったヨーロッパ編に引けを取らない監督たちの作品が収録されています。

pickup!『午後の網目』(1943年/14分)

午後の気怠い日差しが射す中、夢の中を微睡んでいるかのような世界が展開されていく。一輪の花、ナイフ、受話器、鍵、鏡といった何気ない道具の使い方がとても印象的です。

監督のマヤ・デレンが主役を演じておりマヤのエキゾチックな容姿は魅惑的なのですが、同時にどこか危険な香りもする。そこに焼き付いた彼女の姿は今もなお大勢の人々を魅了することでしょう。

また音楽を彼女の3番目の夫となったテイジ・イトーが手掛けており、和楽器を使用した日本風のBGMが目だけでなく耳をも刺激する内容になっています。

テーマの共有が面白い『ROOM13』

ROOM13

13人のフランスの監督たちによるショートフィルム・ムービー。1組の男女のうちどちらかは必ず死ぬという設定と1938年~2000年代にかけてとあるホテルの13号室の中で起きる出来事という限定されたテーマがとてもユニークな作品集です。

1話の時間数は約6分程度。全て同じ素材なのに蓋を開けてみれば13通りの料理が出てくるスタイルはある意味実験的とも言えるかもしれません。

カンヌ国際映画祭で絶賛された短編5作品『カンヌSHORT5』

short5

スタンリー・キューブリック監督作品『シャイニング』の舞台となったオーバールック・ホテルをCGアニメで再現した『Do You Have the shine?/ドゥー・ユー・ハブ・ザ・シャイン?』。

イギリスの美しい田園風景とともに映し出される少年たちの歪んだ狂気を描いた『field/フィールド』。

オランダの湿原、用水路の中で水と戯れながら眠る女性。白昼夢のなかに永遠に佇むかのような不思議な雰囲気を持った『Play with me/プレイ・ウィズ・ミー』などを収録。

いずれもヨーロッパ各国の監督たちによる作品となっています。

刹那の時間を彩ってゆく芸術性

film画像

ショートフィルムは短い時間の中で構築された世界観を一瞬にして体感できる素晴らしい映像表現です。

短さ故に夢から醒めるのも早いのですが、その短さならではの名残惜しさというものがあり、それはそれで心地の良い感覚だったりするのです。これはまさに芸術と言う他ありません。

芸術の秋も日々深まるばかり。皆さんも秋の夜長にお気に入りのショートフィルムを見つけてみてはいかがでしょうか?

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    4.8
    すごい。生みの親にして最高傑作と思わせる。 音楽・伊藤貞司
  • AmgN
    -
    トリップに色彩も音も要らないのか。 マヤ・デレン、覚えました。マヤ・デレン。
  • 愛は並列
    4.1
    実験は、映画の最小単位の上に横たわっている 影、運動
  • 半兵衛
    4.2
    実験映画は大抵刺激が先行してエキセントリックな味わいが強くなるのに、本作は表現自体は鮮烈ではあるがそれがオブラートに包まれ優美で丸みを帯びた印象になっているのは監督が女性だからなのかそれとも彼女の個性ゆえなのか。そのため物語やテーマを把握できなくてもこうした作品にありがちな不遜な才気や自我をこれでもかと出すエゴが無くすんなり映画の世界に自然に身を任せることが出来た。 そして随所に出てくる小道具や分裂していく主人公のイメージ、男性への畏怖がこの作品に独特の刺激となっている。 『アンダルシアの犬』や『詩人の血』といった先達の作品にオマージュを捧げつつ、自分なりの作風へと昇華している点も好印象。
  • りょうすけ
    -
    「午後の網目」 マヤ・デレンによる実験映画。14分弱という短く台詞もない時間の中でシュールな世界が繰り広げられる。実験的映画は理解しようとせず、その世界に入り込むことが重要なのではないかと思わせられる。病床に臥した時の夢とはまさにこの作品の様なものを言うんだと思う。
午後の網目
のレビュー(1071件)