爆音上映が映画の面白さを広げる!爆音映画祭・樋口泰人インタビュー[後篇]

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映画の新しい楽しみ方として注目を集める「爆音上映」。2004年に爆音上映を始め、現在まで全国各地で爆音映画祭を企画・制作してきた樋口泰人さんにインタビュー。この度、福岡で開催される「爆音映画祭2015」上映作品と爆音上映の楽しみ方について伺った記事後篇をどうぞ!

『マトリックス』や「爆音調整」についても語った記事前篇はコチラから

【爆音映画祭とは】

通常の映画用の音響セッティングではなく、音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、大音響の中で映画を観・聴く試み。(引用:http://www.bakuon-bb.net/

暴れた音が炸裂する、『サウダーヂ』(2011)

サウダーヂ

これは福岡の映画祭実行委員会からのリクエストです。この映画を撮った映像制作集団「空族」が今、タイで『バンコクナイツ』という新作を撮影中で、それへの応援企画でもありますね。この映画もすごく音が面白い。ヒップホップを使って、空族のメンバーがガーッ!と勢いよくやっちゃってくれている。暴れた音ですよね。そういう面白い音作りをしていて、ノリのいい感じで楽しめますね。映画自体もすごく面白い。

―「空族」は、クラウドファンディングでの映画製作も話題になりましたね。

彼らは映画製作費に関して厳しい状況で撮影をスタートしているので、できる限りの応援をしたいという思いがありますね。

ド迫力の音だけじゃない!『地獄の黙示録 劇場公開版』(1979)

地獄の黙示録

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今回上映する『地獄の黙示録 劇場公開版』は、当時に日本で公開されたバージョンで2時間半くらいの長さです。今まで上映されている多くが、コッポラ監督のディレクターズ・カット版で3時間半くらいあるんですね。今回は、誰が観ても分かりやすく、あらすじを追えると思います。それと、コッポラ以外のプロデューサーたちがどういうことを目論んだかを確認する意味もあります。

―この映画もド迫力のシーンがいくつもありますね。

当然、冒頭のヘリコプターのシーンやドアーズの曲が流れるところ、ナパーム弾を投下するところはもの凄い。それと、この映画にはもうひとつポイントがあります。当時のハリウッドは、スピルバーグやルーカス、コッポラが出て来て盛り上がった「ハリウッド・ルネッサンス」という時代で、この映画はまさにその先駆けの作品。

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時代背景としては、近代西洋が自分の国の領地を広げるために他国を侵略して植民地化していた時代が終わって、行き詰まってしまっていた頃。『地獄の黙示録』は、その終わりを見つめた映画なんです。これだけメジャーな映画で、「西洋やアメリカの白人文化は、ダメなんじゃないか」と真面目に向き合っていて、そういった意味でも貴重な作品でもあるんですね。今年がベトナム戦争終戦40周年にあたるんで、その意味もあって今回上映します。

香港の記憶が音に刻まれている、『恋する惑星』(1994)

恋する惑星

ウォン・カーウァイ監督作は吉祥寺バウスシアターで上映して以来で、『恋する惑星』は今回が初です。この映画は、音楽もいいですし、何より香港の街のざわめきですね。この映画の頃の香港は、街なかに空港があったんです。それも街ビルのすぐ上を飛行機が飛ぶくらいの近さにあって、当時香港に行った知人が「ビルに向かって飛行機が降りてくるようで怖い」と言っていたくらい。猥雑な街と空港が香港の代名詞のひとつだった。

だから、この映画には飛行機の音がたくさん入っているんです。この空港は、映画が終わってすぐになくなっているはずなんで、もしかするとウォン・カーウァイはそのことも分かって撮っていたのかもしれない。そういった意味でいうと、この映画にも、ひとつの時代の終わりの音が入っている。

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映画は、時代を記録する装置でもあるので、いくらフィクションでも何かしら時代の何かが刻印されている。『恋する惑星』では、それが空港なわけです。

―この映画は、音楽も印象的ですよね。

そうですね。映画の中で主人公の部屋の脇をエスカレーターが走っていて、あれも実は空港につながるエスカレーターなんです。空港って言い換えれば外国でもあるので、つまり香港って外国が内部にあった街なんですよ。それで、「カリフォルニア・ドリーミング」というあの歌が響くんです。あの歌はカリフォルニアに憧れている歌だから、香港の街に暮らしながら、空港からどこか別の場所へ行きたいと思っている人たちの気持ちと重なり合うわけですね。

ニール・ヤングに初取材!『ヒューマン・ハイウェイ ディレクターズ・カット版』(1982)

ヒューマン・ハイウェイ

SHAKEY PICTURES (C) MMXIV

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この映画は、ニール・ヤングが監督した80年代の映画なんですけど、再編集されてちょうど1年前くらいにカナダの映画祭で上映された。元々僕がニール・ヤングの大ファンということもあって、これは爆音上映したいなと(笑)

映画の内容は、砂漠の街のダイナー(プレハブ型のレストラン)に集う人たちの話。田舎の街に住む彼らは世界のことなんて何も知らなくて、デヴィッド・リンチ監督の映画にも出てくるような、自分の周り30m以上のことには興味がないような人たちばかり(笑) 作品の雰囲気もけっこうデヴィッド・リンチっぽい。なので、観た後は少しボンヤリするかもしれないです。

あと、音楽ファンには、ニール・ヤングとDEVOが「マイ・マイ・ヘイ・ヘイ」を共演しているシーンを是非観てもらいたいですね。70年代までのロックとそれ以降のロックとが、ここでオーバーラップしている。その姿を観てもらえたらと思います。

―今回同時に上映される「特別映像」についても教えてください!

実は、今回の爆音上映がきっかけで、ニール・ヤングに初めて取材することができて、そのインタビューを特別映像として上映します。

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―樋口さん的にも念願!という感じですね(笑)

そう!撮影は映画監督の三宅唱にやってもらいました。インタビューでは、ニール・ヤングが当時思っていたことや今思っていることが語られていて、この映画の見方が分かると同時に、自分の見方まで見えてくる内容になっています。ものすごく面白い。自分の今とこの映画を比べながら観ることができるようなインタビューです。原発関係のこともテーマにしているので、日本の今にも通じる映画だと思います。

音楽が生まれる瞬間をカラダで感じる、『THE COCKPIT』(2014)

THECOCKPIT

(C)Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

『THE COCKPIT』は、ニール・ヤングのインタビューで撮影してくれた三宅唱監督の作品。レコードをサンプリングしているシーンが続いて、サンプリングでいろんな遊びを始めて、遊んだ挙げ句に音が世界へ広がっていく。音楽をつくる人たちのドキュメンタリーではあるんですけど、音楽が生まれるまでのドキュメンタリーでもあるし、音楽をつくるということがどういうことかがよく分かります。

爆音で観ると、音楽をつくるコックピットにいながらにして、世界とつながっているような感覚になる。単純に「サンプリングってこういう風にやるんだ」ということを知れる楽しさもありますね。

「映画は面白い時代になってきた」次なる爆音上映とは?

―全10作品の解説ありがとうございます!今回上映される作品の他に、爆音にはどんな面白味がありますか?

今回の上映作以外で言うと、爆音は雑音が面白い。普通の音響マンならカットしちゃうような音が入ってるとゾクゾクします。そういうのがむしろ爆音向き。以前に『ゾンビ』を上映した時はプリントがボロボロで、そのノイズが面白かった。プリントもゾンビだよねみたいな(笑)

ゾンビ

他には、ガス・ヴァン・サント監督作品。ガス・ヴァン・サントの映画は、デヴィッド・フィンチャー以上に細かいところにまで手が込んでいて、爆音上映のイメージなんてないかもしれないけど、実は彼の作品はどれを爆音上映しても面白い。

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それと、『シャイニング』なんて本当にもう音響作品。現代音楽家の作曲家が入って、耳では聴こえないくらいの細かい音楽まで入れている。そういう音が爆音だと聴こえてくるんです。普通の上映で観ていたら、その音をサブリミナル的に感知して「なんか変な気分だな」くらいのことかもしれないけど、爆音だとそれが顕在化されるんですね。

シャイニング

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監督としては、本当は聴こえないままで観てもらった方がいいということもあるだろうけど、一度くらい音が顕在化したものを体験しておくと、観客としても映画の見方も変わって面白いはず。

―本当に色々な楽しみがありますね。ひと昔前に比べて、爆音上映も全国的に認知されてきました。今後、どのような爆音上映を考えていますか?

派手な爆音というよりは、地味な爆音をこっそり楽しみたい欲望があるんです。最近だと、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とか『キングスマン』とか、音響設備のいいところで軽く音量を上げるだけでも楽しめる音になっている作品が多いなと思います。アメリカ映画が、サラウンドをすごく大きくしていることも含めて、そのままの上映で爆音が出るような映画が増えてきた。それとはまた違う方向性で爆音上映をやりたいですね。

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―例えばどんな作品を?

マッドマックス』の第1作は爆音のやりがいがあるんですよ。

 マッドマックス

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あの作品はモノラルなので、音を大きくするとセリフも大きくなっちゃう。そんな中で、やっぱりあのクルマのエンジン音!エンジン音をブリブリに利かせつつ、セリフも聴けるように…って、難しいけど(笑)あえて爆音でやりにくい作品をやってみたいなと思っています。

ここ10年くらいで映画を取り巻く環境が、デジタルになったことも含めて大きく変わってきました。2004年に吉祥寺バウスシアターで爆音上映を始めた頃は、映画界が不況といわれている時代で、名画座と呼ばれるタイプの映画館が名画座としての役割を果たせずに、二番館のようになっていたりする状況だった。そこで、爆音上映が名画座的にゴダール作品やヨーロッパの過去の名作をやっていました。

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でも、色々なところで「もっと工夫をしなきゃ」っていう意識が高まって、最近では名画座も名画座としての役割を担えるようになってきた。そういう意味で、映画はまた面白い時代になってきたと思います。

じゃあそこで、爆音はどうしようかと考えているところ。今は、機材が不自由で工夫するしかなかった時代の作品に着目したりして、あえて不自由なことにトライしたいなと思っています。

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―爆音映画祭2015 in FUKUOKA、そしてこれからの爆音上映、楽しみにしています!お忙しい中、ロングインタビューありがとうございました!

 

※2022年4月29日時点のVOD配信情報です。

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