フランス映画祭注目作『ヴィオレット』公開!~陰に隠れた女性作家の人生に触れる~

ミニシアター好きな大学生

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今年のフランス映画祭で上映された映画『ヴィオレット』が12月19日から一般公開されます。

この作品は『セラフィーヌの庭』でセザール賞7部門に輝いたマルタン・プロヴォ監督が、1940年代から60年代のフランスを舞台に実在の女性作家ヴィオレット・ルデュックの半生を綴った伝記映画です。

監督が『セラフィーヌの庭』でモデルとなった女性画家セラフィーヌについて書かれたヴィオレットの文章に感銘を受けたことで製作に至ったという今作。ヴィオレットの名は長らく本国フランスでもあまり知られていませんでしたが、この映画をきっかけに注目を浴び再評価されているようです。

ヴィオレット

作品のあらすじ

まずは映画のストーリーを簡単にご紹介。

ヴィオレットは1907年私生児として生まれました。私生児とは婚姻関係にない男女の間に生まれた子供のこと。彼女は母親に愛されない想いを抱き続けていましたが、幸か不幸かその想いが行き着いた先が小説を書くことでした。

その後ボーヴォワールと出会い彼女の助けを受けて処女作の出版に至ったヴィオレット。この作品で彼女は女性として初めて性について赤裸々に綴り、カミュ、サルトル、ジュネなど錚々たる作家たちから絶賛されますが、その内容は当時の社会には受け入れられられませんでした。

そのショックからヴィオレットは精神を病みながらも、ボーヴォワールの支えによって小説を書き続けますが…。

ヴィオレット  ある作家の肖像

ヴィオレットを支えた人物ボーヴォワールって?

ヴィオレットの人生を語るうえで欠かせないのが、彼女の才能を見出し支え続けたボーヴォワールですが、そもそもボーヴォワールとはどういう人物なのでしょうか?

彼女は1908年パリに生まれ、ヴィオレットとほぼ同じ時代を生きました。女性が大学に進むのが稀な時代にパリ大学で哲学を修め、のちに哲学者であり作家でもあったサルトルと契約結婚します。49年に執筆された『第二の性』では当時のフェミニズム運動に確信をもたらし、その後も多くの著作を残しています。

ヴィオレットもボーヴォワールも同時代に生きフェミニスト的な存在として自らの意見を世間に主張した点で似ていますが、ボーヴォワールは現在においてもその名が知られるほど有名になったのに対してヴィオレットは彼女の陰の存在として長い間日の目を見なかったのはなぜなのでしょうか。

芸術を通じて自分が抱える苦悩を克服することほど美しいものはない

ヴィオレット  ある作家の肖像

(C) TS PRODUCTIONS - 2013

フランス映画祭での上映後には主演のエマニュエル・デュボスさんとマルタン・プロヴォ監督が登壇しトークセッションが設けられました。私もその場に参加しお話を聞かせていただいたのですが、その中で印象的だった内容をご紹介します。

今作でヴィオレットの家庭事情に重点が置かれている点について、監督は『父親にも母親にも存在を認めてもらえなかったという家族との葛藤は、ヴィオレットが生涯かかえた葛藤で、(ヴィオレットの才能を見出した)ボーヴォワールは、ヴィオレットにとって父親代わりだったのではないだろうか』と説明していました。

このことはヴィオレットの遺作が『私生児』というタイトルで、彼女が人生のすべてをこの作品に昇華しようとしたことからも感じられます。

そして、ヴィオレットを演じたデュボスさんは『文学であれ何であれ、芸術を通じて自分が抱える苦悩を克服することほど美しいものはない』とおっしゃっていて、まさにこの言葉がこの映画の美学の基準となっているものだと思います。

映画の中でヴィオレットやボーヴォワールが口にする「文学によって救済される」という言葉も印象的でした。監督の希望で映画の中では付け鼻をして顔を醜くしたという彼女ですが、実際はとても美しくて風格のにじみ出るオーラに圧倒されました。

合わせて見たい映画『ヴィオレッタ』

ヴィオレッタ

(C)Les Productions Bagheera, France 2 Cinéma, Love Streams agnes b. productions/

『ヴィオレット』と一文字違いの映画に、昨年日本で公開された『ヴィオレッタ』という作品があるのですが、実はこれ、今作と多くの共通点があるんです。

『ヴィオレッタ』は、写真家の母の被写体として幼いころからヌードを含むモデルをさせられていたという監督の実体験をもとに映画化されたもので、その衝撃的な内容は物議を醸しました。

共通点は、まず2つともフランス映画で実在の人物が描かれていること。そして父親の不在や母親からの愛の欠如、世間から批判を浴びることになってしまう主人公など…。特にどちらも母親と娘の関係性と芸術に翻弄される女性というのが大きなテーマになっています。

『ヴィオレッタ』では主人公のヴィオレッタだけでなく、娘を愛しながらも芸術に対する想いに駆られて倫理に反する行動に出てしまう母親にも注目してほしいです。娘をヌードモデルにした母親と聞くと信じられないと思ってしまいますが、母親の行動の背景や過去を知ることで必ずしもそうとは思えなくなります。

知的で強そうに見えるけれど心に闇の部分を抱えた複雑な役柄を演じることの多いイザベル・ユペールが彼女の役を演じたことも共感できるポイントです。

傷つけられた過去を持ちながらも、この映画を通して監督自身がそんな母親への理解を示そうとしたのではないかと思うとなんとも悲しくて美しい物語です。

おわりに

映画を通じて、生きている間は日の目を見なかった人物の人生がこうやって何十年、何百年もたってから再評価される日が来るというのはとても素敵なことですよね。そう思うと、名声のためではなく本当に自分の信じることのために日々を送ることこそが一番大切で美しいことなのだと改めて感じます。

映画『ヴィオレット』、ぜひ劇場でご覧になってみてください。

(C)TS PRODUCTIONS - 2013

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