『サマーウォーズ』や『バケモノの子』など今や日本を代表するアニメーション監督細田守ですが、その名前が広く知られるようになったきっかけの映画といえば何と言っても2006年に公開されたアニメ映画『時をかける少女』でしょう。
今や度々地上波放送もされる映画ですが、本作には劇中では語られない多くの秘密が存在します。本記事ではその秘密について徹底考察していきます。
※以下、ネタバレを含みます。
タイムリープを知る“魔女おばさん”とは何者なのか
分かる人なら分かる秘密として有名なのが、『時をかける少女』でもかなり特別な人物として登場する魔女おばさんです。東京国立博物館で絵画の修復をしている彼女ですが、
真琴にタイムリープのことを教えてくれたり、真琴の悩みが行動に対して指針を示してくれる重要な人物です。なぜ彼女は、タイムリープを知っていて、真琴の身に降りかかる不思議な出来事に対して、冷静に受け応えることができるのでしょうか。
その秘密は魔女おばさんの本名にあります。彼女の本名は芳山和子。実はアニメ映画『時をかける少女』の原作である、筒井康隆さんの小説「時をかける少女」に登場する主人公の名前と一緒なのです。そうです彼女こそ、原作小説の「時をかける少女」の主人公が大人になった姿だったのです。
魔女おばさんはどんな過去を持っている?
原作小説を知らない人には、意外と思われるかもしれませんが原作小説は、アニメ映画版とは異なる物語です。主人公の芳山和子が、理科の実験室に人の気配を感じて行ってみたところ、気を失ってしまい、それをきっかけにタイムリープを体験するという物語です。
そのタイムリープのきっかけは、実は友人の深町一夫という人物。実は一夫は未来人であり、小説の最後では和子に恋心があることや、未来の法律に則って、和子の記憶を消さなければいけないことを打ち明けます。そして、また会いに来るという約束をして、和子の記憶を消して、一人未来の世界へ帰っていってしまいます。
タイムリープのきっかけが理科の実験室であることや、タイムリープの原因が友人にあり、その友人は未来人だったという展開など、アニメ映画『時をかける少女』と共通しています。自分の境遇の似ているからこそ、魔女おばさんは冷静に真琴の話を聞いてくれて、何をするべきかを示してくれたのでしょう。ただ、原作を知っている人からしたら、「記憶を消されていたはずなのに」という疑問は残ってしまうのですが、小説で描かれている物語以降に、和子の身にも何かが起こっていたのかもしれません。
劇中に登場する絵は存在する?
和子と言えば、アニメ映画『時をかける少女』ではもう一つ重要なことを語ってくれます。それは絵画「白梅二椿菊図」の話。実はこの絵画が千昭がタイムリープしてきた最大の目的であることが終盤明らかになるわけですが、修復が完了した際に、和子が真琴にどんな絵なのかを教えてくれます。
ここで、気になるのはこの絵が実在するものなのか、ということ。かなり精密に描かれているのに本当に存在しそうですが、実はこの絵画は、架空のもので実際には存在しません。演出家の平田敏夫さんが描いたものであることが過去にイベントにて監督から明かされています。
作者もわからず、美術的な価値があるかどうかもわからず、歴史的な大戦争と飢餓の時代に描かれた絵だという「白梅二椿菊図」。千昭の元の時代には人も少なく、現在の青空も観たことがなかったことが明かされますが、そんな時代になってしまったからこそ、同様に破滅的な状況で描かれたこの絵画のことをひと目観たくなったのでしょう。
黒板に書かれたフレーズは誰が書いたもの?
他にもいくつか劇中で印象的なものがありますが、その一つに「Time waits for no one.」というフレーズがあります。理科室の黒板に書かれたそのフレーズには、矢印で「( ゚Д゚)ハァ?」と書かれていました。直訳すると「時は誰も待ってくれない」という意味になりますが、果たしてこれは誰が書いたものなのでしょう。
その正体とは千昭。角川書店刊行の「時をかける少女NOTEBOOK」にて監督が「おそらく千昭が書いたんでしょうね」と語っており、ローリング・ストーンズの曲名にもなっていることがきっかけに採用されたそうです。
実は「Time waits for no one.」というフレーズはこの黒板以外にも登場します。それは真琴と千昭、功介の3人でカラオケに行ったシーン。千昭が「Time waits for no one」という曲を歌い、なんども「Time waits for no one」というフレーズを口にしています。千昭にとってはよほど思い入れの強いキーワードなのかもしれません。
とはいえ、「( ゚Д゚)ハァ?」という顔文字はアスキーアートと呼ばれて、ネット上などでよく使われていたもの。千昭らしくもない顔文字にも感じられるので、もしかしたらここだけは誰かが付け足したものなのかもしれません。『時をかける少女NOTEBOOK』に載っているロケハン写真には同様に「( ゚Д゚)ハァ?」と書かれた落書きが載っているので、そこからインスパイアを受けて、作中にも登場させたのでしょう。
「未来で待ってる」の意味とは?
そして「Time waits for no one.」というフレーズは、千昭が最後に真琴に残す言葉とも呼応します。その言葉が“未来で待ってる”。これは原作の「時をかける少女」で一夫が残す再会の約束にも似ています。
ですが、千昭と真琴の間には再会とは別に、もう一つ約束があります。それが「白梅二椿菊図」を未来に残すこと。二人にとっては未来に絵画を届けることが、未来と過去を繋げる行為であり、二人にとっての再会なのです。
ただ、叶うか分からない再会を述べる一夫とは違い、つながりを持てる可能性があるからこそ真琴は“走っていく”と応えられるのですね。受動的な結末から、能動的な結末へとアレンジされているところがアニメ映画版『時をかける少女』の大きな魅力と言えるかもしれません。
原作の他にも「時をかける少女」は、実写映画やドラマ版など数多くの作品が作られているシリーズです。こういった関連作品も併せて観ていくと、新たな発見があるかもしれませんね。知れば知るほど面白くなる『時をかける少女』。
一度観たことがある人も改めて観直すと新たな発見があるかもしれませんよ。
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参考文献:時をかける少女 NOTEBOOK(角川書店)
(C)「時をかける少女」製作委員会2006
※2021年7月1日時点の情報です。