デビュー作品から一貫してグロテスクと繊細な美麗さを共存させてきたギレルモ・デル・トロ。彼のそういった資質に魅了されてやまないファンは世界中に数多く存在。また、宮崎駿作品などのポップカルチャーの影響も受けているため、日本でも熱狂的な支持者が存在しています。
そんなデル・トロの最新作、『クリムゾン・ピーク』の魅力について紹介していきます。
(C) Universal Pictures.
相反する二つの要素が人間ドラマにも絡んでいるのです。
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『クリムゾン・ピーク』も監督自身がゴシック・ロマンスだと位置づけをしていましたが、このジャンルの基本的要素としては、純粋な心を持つ乙女が主人公であることです。
そこに貴族出身の紳士が現れ、恋に落ち異国の地へと渡っていきます。彼らは陰気な館に居を構えるものの、ヒロインのふとした行動からその闇に飲みこまれていく、という話の流れが多いものです。
代表作は過去何度も映画化された『ジェーン・エア』など。
しかし、『クリムゾン・ピーク』は旧来の型にはめるだけでなく、ある意味人間の本質部分にも切りこんでいます。
あらすじ
舞台は20世紀初頭のニューヨーク。父と二人暮らしのイーディス・カッシング(ミア・ワシコウスカ)は、小説家を夢見て執筆活動に励んでいました。
ある日、没落貴族の男トーマス・シャープ(トム・ヒドルストン)が現れ、彼女の小説に興味を持ち、イーディスと惹かれ合います。
しかし、幸せな気分に浸っていたところ、父は謎の死を遂げました。
身寄りがなくなり、悲しみにくれるイーディスは、トーマスが英国へ帰国することになった日、旅立つ彼の元へついていきます。
彼が住むのは、外見こそ荘厳でありながら中は老朽化した館、アラデール・ホール。その屋敷には、彼の姉でミステリアスな雰囲気をまとうルシール・シャープ(ジェシカ・チャステイン)も一緒に暮らしていました。
しかし、元々霊視能力を持つイーディスは、少しずつ新しい生活に慣れるにつれ、亡霊たちとの遭遇など、数奇な運命をたどっていくことに……。
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こういった筋立てを聞くと「怖くて見られない」と思う人も多くいるかもしれませんが、心配ありません。幽霊は姿形をはっきりさせて登場しますが、恐怖演出はなされていません。
本作ではビジュアル表現で人物背景や心情を語ること、そして何よりも美しいメロドラマ*に主眼が置かれています。
単に暗闇の中でのゴーストホラーではないからこそ、観客は心乱されるのです。
*片思い、あるいは両思いではあるが、何らかの足かせによってその関係性がはばまれ、それ故に生まれてくる葛藤のこと
アラデール・ホール
本作の主人公といっても過言ではありません。なんと、内装、家具、小道具だけでなく、この屋敷全体が実物のセットでできているのです。本作は構想数十年ですから思い入れが強かったはず。過去作でもビジュアルを完全にコントロールし、それを心象表現としていることは多々ありましたが、本作ではその極北に達しました。
真に詩的な表現世界です。
例えば、この邸宅は玄関大ホールの天井に穴が開いていますが、そこに住むイーディスとルシールの姉妹の心の欠損状態をと言えます。
また、地下室には姉妹のある秘密が隠されていて、そこには赤錆色の液体貯蔵庫がありますが、これは彼らの心の本質と言えます。表面上優美に取りつくろっているのとは裏腹な心象です。
ちなみに、地下室はデル・トロ作品に過去数回出てきたモチーフで、全て人間の本心や物語の核心となっています。
他にも小道具や内装など、数秒しか映らないものにまで様々なメタファーが隠されているため、紹介しきれません。
三角関係のメロドラマ
イーディスがニューヨークでトーマスとの恋に落ちる一方、彼と一緒についてきたルシールは、二人の仲睦まじい様子を見る度に嫉妬します。ルシールとトーマスも、姉弟関係でありながらいびつな恋愛感情を抱いていたからです。
その禁忌な関係からは妙なセクシーさを放っていました。
トーマスは過去何度も結婚を繰り返していましたが、それはある目的のためだけのものでした。ルシールとの関係性を壊すようなものではなかったのです。
しかし、彼は初めて純粋な愛をイーディスに抱きました。そこでルシールは関係が壊れることを危惧しました。ある秘密を守ること、そしてトーマスへの愛のために狂気の行動に出ます。対するイーディスも応戦します。
そんな三角関係の末には壮絶なラストが待っています。
ぜひ、その愛憎劇も映画館で目にしてください!