『残穢 -住んではいけない部屋-』が現在大ヒット公開中です。
(c)2016「残穢−住んではいけない部屋−」製作委員会
東京都下のあるマンションで一人暮らしを始めた女子大生が自室で起こる怪奇現象を、小説家の「私」と共に調べていくうちに、陰鬱とした呪いの世界へ踏み込んでいってしまう…… という実録怪談話の再現映像…… という体裁の劇映画です。
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『残穢-住んではいけない部屋-』監督である中村義洋氏のフィルモグラフィは『予告犯』や『ゴールデンスランバー』などのミステリー作品から、『映画 怪物くん』といった企画もの、『フィッシュストーリー』などの不思議な味わいの作品などなど、多岐に渡っています。映画好きならずとも監督の作品には一度ならず触れていると思います。
しかし、それら多くの作品の中でも、世間一般に一番知られている中村監督の“仕事”とはこれではないでしょうか?
現在、シリーズ累計65作を迎え、さらに続々と新作が発表されている『本当にあった呪いのビデオ』本編中、淡々とした調子で状況説明をした後で放たれる「おわかりいただけただろうか?」このナレーションが中村監督によるものなのです。
実は『本当にあった呪いのビデオ』(略して『ほん呪』)シリーズ、立ち上げの第1作目から7作目までの監督を務めたのが中村監督自身なのです。
実録心霊ドキュメント作品
どこのレンタルショップでも、邦画の棚の端に赤黒い背がズラリと並ぶ禍々しいコーナーがあると思います。「稲川淳二が行く恐怖の現場!」とか「呪いの心霊映像」といった実録心霊ドキュメント作品です。その中で一際多くの面積を占有しているのが『ほん呪』シリーズでしょう。
十代のやんちゃな若者が、肝だめし感覚で借りていくので長年不動の人気ジャンルになっているそうです。
参照:「話題沸騰!幽霊をブン殴る実録心霊ビデオ『戦慄怪奇ファイル_コワすぎ!』って何だ?」
毎月何本もの実録心霊ドキュメント作品がリリースされているのは、それだけ需要があるという証左でしょう。ただ、携帯電話の普及により動画撮影が一般的になったとはいえ、そんなに頻繁に幽霊が映り込むことはありません。さらに、映りこんだ心霊動画を心霊ドキュメント製作事務所に送ろうという発想も、多くの人には無いでしょう。
つまり、リリースされている実録心霊ドキュメント作品のほとんど(おそらく、収録されている動画の99%くらい)は、映画監督の演出の下で撮影された動画に、特殊効果やCGが加えられた、完全なフィクションです。
新しいプログラム・ピクチャー
需要がありながら、当の「心霊動画」は大量に撮りおろさなければいけない、という状況は若手の起用に繋がっています。この状況は「実録心霊ドキュメント」作品が映画業界黄金期のプログラム・ピクチャーと同じ役割を担っていると言えるでしょう。
決められた予算とスケジュールで、とにかく映画を作らなければならなかったプログラム・ピクチャーが澤井信一郎監督始め、滝田洋二郎監督、金子修介監督など多くの名匠を生み出したのと同様に「実録心霊ドキュメント」からも、多くの才能が生まれています。
『ほん呪』で言えば、中村監督からシリーズを引き継いだのは、『フラッシュバック・メモリーズ3D』やテレビシリーズ『山田孝之の東京都北区赤羽』でドキュメンタリーとフィクションの垣根を反復横飛びくらいヒョイヒョイ飛び越えている松江哲明監督です。
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さらに、『ほん呪』シリーズのスピンオフや映画版を手がけたのは4DX専用映画『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』や、新作『貞子vs伽椰子』公開が待たれるフェイク・ドキュメンタリーの雄、白石晃士監督になります。
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また、「実録心霊ドキュメント」が孕む高い自由度と実験性から、すでに第一線で活躍しているのにも拘わらず、立ち返る様に作品を手がける監督もいます。
武井咲ちゃん主演のラブストーリー『今日、恋をはじめます』『クローバー』を手がけた古澤健監督は実録心霊ドキュメント『パラノーマル・フェノミナン3』を手がけています。この作品では「心霊」とは違った「話の通じない存在」へ、思いもよらぬ展開が待っています。
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『リンダ リンダ リンダ』『味園ユニバース』の山下敦弘監督は心霊現象/超常現象の現場に妙な自意識を持った無神経なスタッフと連れ立って赴き、恐怖の現場をマヌケな空気に変えてしまう実録心霊ドキュメント作品『めちゃ怖』シリーズを手がけています。
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この様に、作り手次第で様々な表情を見せる「実録心霊ドキュメント」作品はオリジナル・ビデオ作品としてリリースされていることや、「投稿者から送られた映像を紹介する」という体裁であるため、フィルモグラフィから漏れていることもあり、「隠れた名作」も多いのです。
『ほん呪』が生んだ『残穢』
(c)2016「残穢−住んではいけない部屋−」製作委員会
『残穢-住んではいけない部屋-』の原作『残穢』を手がけた小野不由美さんは中村監督との対談で原作小説が『ほん呪』の影響下で生まれたことを告白しています。実際『残穢』での「投稿された心霊現象の意味不明だった音や映像が追跡取材によって意味を取り戻し、禍々しい真相に辿りつく」という展開は『ほん呪』シリーズでよく見られます。
ラスト近くで登場する「都市伝説カタログ」のような様子も、『ほん呪』シリーズを始め、多くの「実録心霊ドキュメント」では見慣れたモノたちです。これらのことからも、原作小説への『ほん呪』影響は中村監督を前にしたリップサービスだけでは無いことがわかります。
そんな「実録心霊ドキュメント」へのトリビュート的小説『残穢』が、当の「実録心霊ドキュメント」シーンを牽引した『ほん呪』シリーズほとんどの作品でナレーションを勤め、初代監督でもある中村監督の手によって映像化されたのが『残穢-住んではいけない部屋-』なのです。
小野不由美さんの冷ややかな筆致で綴られた『ほん呪』の真っ暗闇に放り出されるような感覚が、『ほん呪』で培われた中村監督の様々な恐怖演出によって再現されていく本作は、正に「ほん呪大吟醸」な作品だと言えるでしょう。
ちなみに。映画本編が終わりエンド・クレジットが始まると、劇中登場した人々の「その後」が描かれます。実はこの映像の中に、「とある現象」が写しだされています。筆者は3つ発見できましたが、みなさんは……
※2021年4月24日時点のVOD配信情報です。