あの二世たちも登場!ジョブズにも負けないスピーチをした伝説的作家の半生とは?

文芸・映像翻訳者

樋口武志

ストレイト・アウタ・コンプトン』『ザ・ウォーク』そして『スティーブ・ジョブズ』……ここ最近、見ごたえのある伝記映画が続々と公開されています。

スティーブ・ジョブズといえば、2005年にスタンフォード大学で行った「Stay hungry, stay foolish ハングリーであれ、愚かであれ」のスピーチが有名ですが、同じ年にケニヨン大学でジョブズにも負けない名スピーチを行ったデヴィッド・フォスター・ウォレスという作家がいました。実力を高く評価されるなか、2008年に46歳の若さで自ら命を絶ったウォレス。2015年にアメリカで好評を博しながらも日本では未公開となっていた彼の伝記映画が1月27日からレンタル開始されたので、ぜひともここで紹介したいと思います。

『人生はローリングストーン』あらすじ

内容はいたってシンプル。

デヴィッド・フォスター・ウォレスは、1996年に代表作「Infinite Jest」(未邦訳)を発表。それを読んで心を奪われたローリング・ストーン誌の若手記者デヴィッド・リプスキーが密着取材を申し込み、本の宣伝のためのブックツアーに同行する5日間を描く実話に基づいた物語。道中の二人の会話が作品の中心です。

the end of the tour

ウォレス役は『寝取られ男のラブ♂バカンス』や『ザ・マペッツ』のジェイソン・シーゲル。リプスキーを演じるのは『ソーシャル・ネットワーク』や『エージェント・ウルトラ』のジェシー・アイゼンバーグ。監督はこれが長編四作目となるジェームズ・ポンソルト。

写真を見ればわかる通り、ジェイソン・シーゲルはウォレス本人そっくりです!

「Infinite Jest」とは

ウォレスの代表作「Infinite Jest」とは1,079ページにもおよぶ大著で、批評家たちから絶賛され、2006年までに15万部以上を売り上げ、そして今もなお売れ続けているというベストセラーです。

がしかし、《「Infinite Jest」を読んだふりをする方法》といった記事が出るほど、読破する前に破れ去る人が多いことで知られてもいます。そして時間をかけて読み切った人は、作中のリプスキーのように作品の素晴らしさに圧倒され心を奪われるという魅力的な本でもあります。

「Infinite Jest」とは本のなかでいくつか意味を持ちますが、シェイクスピアの『ハムレット』に出てくるセリフ「際限もなく、のべつ幕なしに気のきいた洒落を言う/Of infinite jest, of most excellent fancy」の引用でもあると、「読んだふりをする方法」の記事に書かれています。

ウォレス役を演じたシーゲルが映画のオファーを受けてこの本を買いに行くと、本屋の店員から「ああ、『Infinite Jest』ね。私が寝た男たちは全員この本を本棚に入れてたわ」と言われたそうですが、アメリカでは一種の知的アイコンとなっているのが「Infinite Jest」であり、デヴィッド・フォスター・ウォレスなのです。

見どころ

見どころは何といってもウォレスとリプスキーの会話です。リプスキーによる取材は実際の出来事であり、結局最終的に記事はローリング・ストーン誌に掲載されなかったものの、取材の録音テープは残っていました。劇中の二人のやり取りは、このテープをほとんど一言一句変更せずに再現したものとのこと。

さらにウォレスとリプスキーの初対面を再現するべく、演じるシーゲルとアイゼンバーグも実際にこのシーンの撮影で初めて顔を合わせるなど演出にもこだわりを見せ、それがアルコール依存や鬱病に苦しんだウォレスのナーバスな一面を引き立たせているように感じます。

大きな事件やアクションは一切ない本作ですが、ツアー中の些細な出来事から揺れ動くウォレスの感情、そしてリプスキーに語られる人生観や不安定な心がひとつのドラマをなしていて、ハリウッドの超大作とは一味違う静かな感動や痛切さが胸に沁みる作品となっています。ウォレスはいつもバンダナをつけているのですが、作中で語られるその理由にもウォレスらしさが表れています。

ちなみに、ウォレスとリプスキーが道中で出会う二人の女性は、名女優メリル・ストリープの娘メイミー・ガマーとスティングの娘ミッキー・サムナー

メリル

メイミー・ガマーは3月5日公開の『幸せをつかむ歌』での親子共演を果たし、ミッキー・サムナーは『フランシス・ハ』での演技が高評価を得るなど、何かと話題の有名人二世たち。この二人の演技も本作の見どころのひとつかもしれません。

おわりに

『人生はローリングストーン』はウォレスの繊細さや、世界に対する考え方が丁寧に描かれた作品ですが、前述した彼のスピーチを聞くとさらに味わい深い映画になるのではないかと思います。

人生は03

自分たちが水のなかを泳いでいることに気づいていない金魚の印象的なエピソードから始まる「This is Water」というスピーチでは、水のように当たり前に存在している身の回りの「大切なことや本当のことに気づく重要性と、その難しさ」が語られています。

YouTubeではスピーチの様子や、スピーチをもとにした映像作品を見ることができるのでぜひチェックしてみてください。

『人生はローリングストーン』DVD発売中 1,280(税抜)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)2015 Entertainment Rights Holdings, LLC. All Rights Reserved.

Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】

 

※2021年12月28日時点のVOD配信情報です。

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  • オーウェン
    3.5
    人気作家のデヴィッド・フォスター・ウォレス。 その彼の新刊本のツアーに密着するローリングストーン紙の記者リプスキー。 二人の5日間の回想録を基にした映画。 二人のキャスティングが的確なので、哲学的なことではなく身近なものから会話が始まっていく。 最初は当り障りのないことから、次第に作家の人生に触れていく。 人物を書くというのは、その人となりに触れること。 それを映画に例える会話が秀逸。 若手の記者というジェシー・アイゼンバーグがいかにもな若者像を作り出しているし、作家のジェイソン・シーゲルはこれまでのコメディ作品では見せなかったようなシリアス演技を披露している。 ほとんど会話劇なのだが、5日間で人生に触れたのは間違いない。
  • kanikimchi
    3.9
    This is waterというスピーチがとても好きで、それを教えていただいた教授に勧められ鑑賞。 なんとも苦しく共感できてしまう。 また観たいです。
  • アラガン
    3.4
    吹替鑑賞
  • 淀川コーエン
    4.5
    自死した作家デヴィッド・フォスター・ウォレス。成功し脚光を浴びることで歪められていく自意識や自尊心の葛藤。 「毒性で体が硬直するほどトラウマ的な自意識」ほかグサグサくるセリフの中、J・キューザック演じる俗人に救いを感じる。
  • かめさん
    4
    DVD📀所有、再鑑賞。「ザ・サークル」のジェームズ・ポンソルト監督作品。「ソーシャル・ネットワーク」のジェシー・アイゼンバーグ、「バッド・ティーチャー」のジェイソン・シーゲル主演映画。 ポストモダン文学の旗手と呼ばれた作家デビッド・フォスター・ウォレスとローリングストーン誌の若手記者の5日間の旅路を、実話に基づいて描いたロードムービー。 ローリングストーン誌の新人記者リプスキーは、気鋭作家ウォレスの作品に感銘を受け、密着取材を申し込む。新刊のブックツアーに同行することになったリプスキーは、気さくなウォレスとすぐに意気投合。しかし旅を続けるうちにウォレスの心の闇が徐々に明らかになり、2人の間に気まずい空気が流れはじめる…
人生はローリングストーン
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