2016年1月17日(土)・18日(日)の2日間、早稲田大学の大隈講堂にて、第28回早稲田映画まつりが開催されました。8本の本選出場作品の中から、ゲスト審査員3名から授与されるグランプリ賞に、新藤早代監督の『おにぎりむすめ』が選ばれました。
新藤監督は今回、もう1本の監督作品『愉快じゃない』と2作品が本選にノミネートされています。新藤監督の映画制作への想いを語っていただきました。
(最後に上映イベント情報も掲載しています。)
【早稲田映画まつりとは】
早稲田の学生たちから集められた多くの作品の中から選ばれた8作品をコンペ形式で上映するメインプログラムと、豪華な特別企画を開催しています。昨年2015年度はなんと1,000人以上を動員。学生映画祭の中でも注目度の高い映画祭です。
今は映像も写真もどっちもカメラマンを目指しています
-このたびはグランプリ受賞おめでとうございます。今のお気持ちをお聞かせください。
前回の第27回早稲田映画まつりで『染朝』という作品がノミネートされて、そのとき、初めて映画祭で選ばれるという経験をしました。それをきっかけに、よし映画を撮るぞ、という気持ちになりました。ただ、今回の映画祭で賞を取れなかったら、もう監督はやめようと考えていました。
私はもともと、写真も映像も撮影が好きで、カメラマンを目指していました。その中で映像作品も作りたくなり、監督も一緒にやっていた、という感じでした。でも第28回の早稲田映画まつりでグランプリ賞をいただいたので、監督ももう少し頑張ろう!と思いました。
-最初は写真と映像、どちらから始めたんですか?
高校三年生くらいのときからずっと写真を撮っていました。高校を卒業してから大学に入学するまでの間、時間があったのでたくさん映画を観ました。その時、西川美和監督の『ゆれる』を観て「映画ってすごいんだな」と思って。大学に入ったら映画を撮ろうと思いました。
でも映画を撮ろうと思ってもカメラマンだけを任せてもらえることはあまりなくて。それなら、監督も自分でやるしかないな、と言う感じで映画を撮り始めました。
-早稲田大学に映画サークルがたくさんある中で、今所属されているシネマックスサイドヴァーグを選んだきっかけは?
大学に入る前に、映画撮りたいと思って、youtubeで「自主映画」と検索していたんです。
そのときに、シネマックスサイドヴァーグのいくつか上の代の先輩で、安田瑛己さんという方(2014年の森の映画祭で上映された『ルージュの転校生』の監督)がいるのですが、安田さんが学生時代に撮った作品がyoutubeに出てきたんです。その作品をすごいな、きれいだな、と思って、安田さんのいたサークルに入ってみようかな、と思って。
安田さんとはサークル在籍の時期は被ってないのですが、今は映像制作会社で働いていて、一度お手伝いに行ってから、すごく仲良くなれました。
-憧れの監督はいますか?
最初は西川美和監督が好きでした。あとは、80年代アイドルとかすごく好きなので、薬師丸ひろ子さんとかが凄く好きで。どんどん映画を観るうちに、澤井信一郎監督の『Wの悲劇』が好きになって。
あとは『Wの悲劇』の脚本の荒井晴彦さん。荒井晴彦さんの女性の描き方などはすごく影響を受けていますね。
撮影カメラマンで憧れの人は、『セーラー服と機関銃』や『あぶない刑事』を撮られた仙元誠三さんです。一番最初に影響をうけたのは、岩井俊二監督の作品などでカメラマンをやっていた、篠田昇さんです。
撮影する時は瞳の変化や目の変化を大事にしています
-今回は『おにぎりむすめ』も『愉快じゃない』も女性が主人公でしたが、女性を描く際にこだわりはありますか?
女性を撮るときは、カメラで目を捉える、ということを考えながら撮っています。瞳の変化や目の変化を大事にしています。だから、自分が監督している時には、被写体に寄っていても必ず目にピントを合わせてなきゃだめ、と、カメラマンの人にも言いますね。あと、細かいしぐさには結構こだわります。
-作品を撮るときにゆずれない部分はありますか?
写真でも映像でも人間を撮る事がすごく好きです。特に女の人を撮影する際にはすごくこだわります。「それ、あんまりかわいくないけど大丈夫?」「そこの角度じゃないかな」みたいな感じで、いかに可愛く撮るか、ごまかすかとか考えていますね。この人は笑うと魅力がなくなるので、どうやって笑わないところを撮るか、みたいな。そういうことを考えています。
-女性を撮るが好きなんですね。逆に男性を撮る事へのこだわりはありますか?
男性は、目の形を見ています。この人はきれいな二重だな、とか、この人は目は大きくないけれどまつげが長いからきれい、とか。『愉快じゃない』の村松君は一重まぶたでほくろがあって、まつげが長くて、あぁいいなぁ、と思って出演をお願いしました(笑)。
人間の些細さとか、細かい心の機微とかを切り取るのはたぶん間違ってはいない
-『おにぎりむすめ』と『愉快じゃない』は、全くテイストが違う2作品でしたね。
はい。今まで撮ったのが日常すぎたのかもしれない、と思っています。人間の些細さとか、細かい心の機微などを切り取るのは間違ってはいない、と思っているのですが、それを吸収して、ただ日常の中に戻してもあんまり面白くないのかもしれないなと。『愉快じゃない』を自分で観たときにそう思いました。
これまでは、思春期とかセンチメンタルとか、自分の中あるそういう感情を作品に出していたんですけど、なんかそれって面白いのかな、と思うようになって。フィクションをフィクションとして考えて、第三者の視点で引いて捉えないといけないな、と。
『おにぎりむすめ』の原案は他の方が考えたものなんですが、明るくてポップな作品を撮ったのは『おにぎりむすめ』が初めてですね。
いま、興味があるのはファンタジーです。『おにぎりむすめ』のように、現実離れした話を撮るのがすごく面白くて楽しかったのと、グランプリ賞を取れた、ということもあって、こういう作品が正しいのかな?と思ったりもしています。
映画は人と一緒に作ると何か化学反応というか爆発みたいなものが起きる
-次回作でチャレンジしてみたいことはありますか?
ファンタジーや映画でしか出来ない表現をしたいな、と思っています。
3月に撮る作品は、こたつと女の子の身体がくっついてしまって、“こたつむり”みたいなのを考えています(笑)。
あと自分が撮影監督も監督もやる場合に確認したいことがあるんです。
『おにぎりむすめ』は撮影監督と監督の距離感をうまくつかめた感じがしたんですけど、『愉快じゃない』ではうまく折り合いをつけられずに、無理やり撮ったようなところがあって。
他にも昨年はいろいろな人の作品でカメラマンをやらせてもらったんですけど、どうしてもうまくつかめないな、というところがありました。次に撮る作品は、完全にカメラを見ないで、監督とカメラを分担して作ったら、何かわかるんじゃないかな、と思っています。
大学に入る前までは、写真や絵など、人と作るというより、自分の中のものを一人で勝手に出していく、という作品作りをしていました。もちろん映画を撮り始めてからは、ただ単純に出しているわけではない、ということは意識はしています。
それに加えて、映画は人と一緒に作ると何か化学反応というか爆発みたいなものが起きるじゃないですか。自分の範疇以外のもっと面白いものが作れる、ということに気がついたので、そういう掛け合わせに挑戦していきたいです。
-これからJAM STAND COFFEEさんで上映があります。お客さんにメッセージをお願いします!
『おにぎりむすめ』は、えっちゃん役を素晴らしく引き出してくれた主演の斎藤萌さんの魅力にぜひ注目してほしいです。『愉快じゃない』は、普通だけど普通じゃないところかな。どちらの作品も、映像の美しさや、人間の気持ちをカメラを通してどう伝えるかということに力を入れて撮ったので、そこに注目してほしいです。
-新藤監督ありがとうございました!
■上映イベント情報
映画の配給、上映企画などを手がけるコンストラクトフィル ムワークスが運営する短編映画を上映するコーヒースタンド『JAM STAND COFFEE』は1月 16・17 日に早稲田大隈講堂にて行われた『早稲田映画まつり』ノミネート8作品を約1ヶ月間毎日 19:00 より2作品ずつ順次上映。上映作品は1週間ごとに変更。
場所:JAM STAND COFFEE(田園都市線 池尻大橋駅 徒歩10分)
(取材・文 / 菅原澪 撮影 /斉藤聖)