『スポットライト』にも負けていない!メディア報道をいろんな角度で描いた映画選

気づいたら映画ファンになっていた

松平光冬

第88回アカデミー賞において、見事作品賞と脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』。

アメリカの地方紙「ボストン・グローブ」の記者たちが、カトリック教会の数十人もの神父による性的虐待を教会が組織ぐるみで隠ぺいしてきたという、衝撃のスキャンダルを追及した実録ドラマです。

マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムス、マイケル・キートン、リーヴ・シュレイバーといった実力派キャストの共演も見ものです。

スポットライト

(C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

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こうした、メディア報道のあり方を描いた作品は、これまでにたくさん作られています。真相を追及したジャーナリズム魂あふれる内容だったり、逆に虚偽にまみれたメディア報道を追及する内容だったりと、そのバリエーションはさまざま。

そうした作品を、いくつかご紹介しましょう。

真相を追及する、ジャーナリズム魂を描いた作品

社会にはびこる不正や悪事の糾弾、隠されていた真実を白日の下に晒すといった、「ジャーナリズムこそ悪を正しえる」とするテーマを題材とした作品で、『スポットライト』もこの系統にあたります。

『ヴェロニカ・ゲリン』

ヴェロニカ

1990年代のアイルランドで、ひとり敢然と麻薬汚染の実態を追い続けるうち、ついに組織の凶弾に倒れた女性記者ヴェロニカ・ゲリンの生涯を描きます。

正に「ペンは剣よりも強し」を体現した人物として、ジャーナリストの正義とは何かを説いています。

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『グッドナイト&グッドラック』

グッドナイト

1950年代のアメリカで猛威を振るった「赤狩り」に同調するマスコミが増える中、それに大きく反発して真実の報道を貫いた大手テレビ局CBSのニュースキャスター、エドワード・R・マローを筆頭とする番組スタッフの闘いを描きます。

ニュースキャスターの父を持ち、自身もジャーナリストを目指していたジョージ・クルーニーが監督、脚本、出演を兼ねた力作です。

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『アイヒマン・ショー/歴史を写した男たち』

アイヒマン

(C)Feelgood Films 2014 Ltd.

1961年に行われた、ナチス親衛隊の元将校アドルフ・アイヒマンの4ヶ月に渡る裁判のテレビ中継の舞台裏を描きます。番組スタッフはナチスシンパの脅迫などのさまざまな妨害に負けることなく、ホロコースト(大量虐殺)という罪を初めて世界に知らしめようと奮闘します。

『SHERLOCK/シャーロック』のワトソン役で人気となったマーティン・フリーマンが、気概のあるテレビプロデューサーを演じています。

『スポットライト』と同時期に日本公開されるので、併せて観てみるのはいかがでしょうか。

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ジャーナリズムを追求するあまり…な作品

真実追及の名目のもとにメディア報道に身を置いているはずが、いつの間にかその倫理を外れた行動をとっていく…そんな怖さを描いた作品もあります。

『ニュースの天才』

天才

アメリカで最も権威ある雑誌とされた政治雑誌「ニュー・リパブリック」の若手ジャーナリスト、スティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン)による41のスクープ記事のうちの27本が“ニセモノ”だったという、衝撃事件のてん末を描きます。

DVDには、スティーブンや当時の編集長チャック・レーン本人たちのインタビューが特典映像として収録されており、スティーブン本人によるねつ造記事を書いた真意などが明かされているので必見です。

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『ゾディアック』

ゾディアック

1968年からアメリカ・サンフランシスコを震撼させた“ゾディアック(占星術の黄道十二宮)”と呼ばれる連続殺人事件をめぐる、新聞記者と刑事たちの追及劇。

犯人が新聞社に犯行声明を送りつけたり、テレビのトークショー番組で電話でホストと喋るなど、メディアを使って世間を巧みに翻弄する、いわゆる劇場型犯罪のハシリとされています。

事件に深く関わるうちに人生を狂わせる主人公たちも生々しく描いており、中でも風刺漫画家でありながら、家庭も顧みず憑りつかれたよう犯人探しに没頭するロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)の姿は、鬼気迫るものがあります。

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『ナイトクローラー』

クローラー

(C) 2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

事件や事故現場に急行して撮影した映像をテレビ局に売るカメラマンが、刺激的な映像を求めるあまりに常軌を逸していく姿を描きます。視聴率至上主義のテレビ業界を皮肉った内容として、アカデミー脚本賞にノミネートされました。

ジェイク・ギレンホールが『ゾディアック』での役どころをさらに拡大させたような報道パパラッチに扮しており、彼のやる事なす事すべてがとにかく、最低すぎて最高です。

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日本映画におけるマスメディアを描いた映画

メディア報道を題材にした日本映画も、いくつかあります。

『醜聞(スキャンダル)』

醜聞

偶然居合わせたところを写真に撮られ、雑誌によって事実無根のスキャンダル記事を書かれた若い画家(三船敏郎)と美人の声楽家(山口淑子)。二人は雑誌編集長を訴えようとしますが…

法廷を通して知る権利とは何か、言論の自由とは何かを問う社会派ドラマで、今日にも通じるテーマを60年以上も前に取り上げた黒澤明監督の先見性は、見事としか言いようがありません。

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『誘拐』

新宿や銀座といった東京の繁華街で行われる身代金の受け渡しをテレビで生中継するという、大胆不敵な誘拐事件を描きます。21台の撮影カメラと5,000人強のエキストラを導入した、本番一発のゲリラ撮影が話題となりました。

あらすじ自体はフィクションですが、犯人がテレビ中継を要求した真意など、現実に起こりかねない劇場型犯罪の象徴ともいえる作品です。

メディアのあり方を常に問う俳優

保守化するアメリカ映画界において、良心的リベラル派としても知られる俳優、ロバート・レッドフォード。

redford

出典元:https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Redford

彼は俳優としても製作者としても、メディア報道のあり方を提言する作品を常に発表し続け、その度に話題を呼んでいます。

『大統領の陰謀』

陰謀

1972年に発生したウォーターゲート事件の真相を追及した、「ワシントン・ポスト」紙の二人の新聞記者(ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタイン)を描きます。

実録ものでありながら、二人が徐々に事件概要を暴いていくという、ある種の探偵ドラマにもなっており、権力者の不正に立ち向かうジャーナリストを主人公にした点で、『スポットライト』と重なる部分が多いです。

本作のプロデューサーでもあるウッドワード役のレッドフォードは、当の記者二人に映画化をずっと打診し続けていたほど映像化に固持しました。

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『クイズ・ショウ』

クイズショウ

レッドフォードが監督に専念した、1950年代にアメリカで大人気だったクイズ番組『21(トゥエンティ・ワン)』で発生したやらせスキャンダル事件の全容を描いた作品。

「テレビの倫理を正す」という野望を持ってスキャンダルを追求する立法管理小委員会の捜査官グッドウィン(ロブ・モロー)ですが、聴問会に喚問された番組プロデューサーの、「テレビはショウビジネスであって公的事業ではない」などの証言が、彼のすべてを打ち崩します。

アメリカテレビ界の黎明期のスキャンダルでありながら、マスメディアの良心とは何かを問いた内容のため、日本のテレビ業界に籍を置く筆者としても身につまされる作品です。

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『Truth』(原題)

(C) 2015 – SonyPictures Classics

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アメリカCBSの看板ニュース番組『60ミニッツ』の名司会者だったダン・ラザーが、2004年にジョージ・W・ブッシュ大統領の軍歴詐称をレポートするも、後に証拠とされた文書が偽造された物と判明、番組で謝罪に至った過程を描きます。

この事件を機にCBSを離れたラザーと番組プロデューサーのメアリー・メイプスは今でも「ブッシュの軍歴詐称そのものは事実だった」と主張し続けており、そのためCBSがこの映画のCM放映を拒否するといった騒動も起こりました。

『大統領の陰謀』で新聞記者役だったレッドフォードがラザーを、メアリー役を『ヴェロニカ・ゲリン』のケイト・ブランシェットが、そして脚本を『ゾディアック』のジェームズ・ヴァンダービルトが担当するなど、過去にメディア報道の問題作に携わってきた面々が結集した意欲作で、日本公開が望まれるところです。

レッドフォードはこれ以外にも、ベトナム戦争への反対を過激な手段で表明していた反体制組織「ウェザーマン」として活躍していた弁護士が、若き新聞記者のスクープ記事により転落してしまう様を描いた『ランナウェイ 逃亡者』を監督、主演するなど、飽くなきリベラル精神を持ち続けています。

おわりに

最後に、『スポットライト』についてもちょっと触れておきましょう。

実は本作は、企画時は出資者が誰も現れませんでした。聖職者による性的虐待という重すぎるテーマゆえ、当初制作予定だったドリームワークスも途中で降りてしまったほどです。

メディア報道をテーマにした映画は、娯楽性が薄いという理由から製作費の調達が困難になることがよくあります。『ニュースの天才』も、あわや制作中止になりかけたのを、企画に賛同したトム・クルーズがプロデューサーに加わったことでゴーサインが出ました。

『スポットライト』も、オスカーノミネート常連俳優のマーク・ラファロが出演に名乗りを上げたことで資金が調達でき、ようやく制作にこぎつけたのです。

そうした難産を経てアカデミー作品賞という最高の栄誉を得たこの作品。授賞式で壇上に上がったスタッフたちの中で、ラファロが人一倍はしゃいでいたのも無理はありません。

『マッドマックス』や『オデッセイ』といったほかのノミネート作品と比べて確かに派手さはありませんが、ここで取り上げた作品群も含め、ジャーナリズムの現状を反映する秀作として観ておいて損はしないでしょう。

なお虐待事件については、被害者および加害者のインタビューまでも盛り込んだドキュメンタリー映画『フロム・イーブル~バチカンを震撼させた悪魔の神父~』もあるので、併せてご覧になってみて下さい。

フロムイーブル

 

※2021年7月25日時点のVOD配信情報です。

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  • ペイジ
    4
    このスキャンダル自体知っていたので後回しにしてたけど、記者の視点も入ってて普通に面白い。 6%というパワーワード。 ノンフィクションとは思えない現実の話。6%で皆が頭抱えるのが、そりゃそうだよね!って感じで印象的。 個人的にみんな非常に優秀なので、みててストレスないのも助かった。
  • りほ
    -
    終盤、グローブの記者たちが、自分たちも長年教会による性被害を看過してきたことを認め、だからこそ記事を書こうと奮起する場面がある。昨年日本で起きた性被害報道とは全く異なるジャーナリズム精神。
  • -
    ゾディアックのいないゾディアック、まさに 見るべき 新聞がベルトコンベアの上で刷られ滑っていく様、市民ケーン、そしてペンタゴンペーパーズ クソなものにクソだと言うこと
  • ToMo
    3.5
    誰もが被害者になり得たし、黙認していた構造に闇があるという問題提起。対象を攻撃するでもなく、個人を陥れるでもない。起きた事実を社会に伝えるために。鋭いジャーナリズムは静かだが、深い闇にスポットライトをあてる。 J氏の性加害問題に揺れる日本にも響く内容だ。
  • ともじぇり
    5
    「スポットライト」のメンバーの逃げない姿勢に胸が熱くなった。 (記者とは)暗闇を手探りで歩いている状態で、光が射した時に間違った道だと気づく… 局長のこの言葉が心に残った。 無宗教の私でも想像はつく。 教会は被害者たちにとっても、心の拠り所だっただということを。そこで行われていた恐ろしい事実に、スポットライトをあて、深く追求した記事により、救われた被害者も沢山いただろう。 しかしその後の人生、破滅してしまった被害者が沢山いるのも、悲しい事実だ。 生きてるだけで運がよかった…なんて… 登場人物が多いが、記者達をはじめ、被害者、弁護士など一人一人の人物像が丁寧に描かれているので、それぞれの思いが、よく分かった。 また自分自身も記者目線で物語に入り込むことができた。 だからこそラストでは手が震えた!
スポットライト 世紀のスクープ
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