『家族はつらいよ』の「つらいよ」って?過去の傑作4作品から探る松竹家族映画史

シネマは身体の一部です。

イトウタクマ

映画監督、山田洋次。1961年公開『二階の他人』を初監督してから55年もの歳月、映画を作り続けてきた日本映画界の巨匠です。『男はつらいよ』シリーズを監督し、『釣りバカ日誌』シリーズの脚本を手掛け、日本のプログラム・ピクチャーの父でもあります。

家族はつらいよ

(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

3月12日より公開される、御年84歳を迎えた監督の最新作『家族はつらいよ』は、自身の代表作でもある『男はつらいよ』を思わすタイトルが付いています。人生の酸いも甘いも経験してきた巨匠の考える”つらいよ”とは何なのでしょうか?

山田洋次監督が拠点としてきた松竹映画は数々の「家族」をテーマにした映画を生み出してきました。その中から4本の傑作を挙げ、日本映画の中で描かれた家族の姿を追いながら、改めて家族という不可思議な組織を考えてみることにします。

『隣の八重ちゃん』

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大正・昭和期に活躍した松竹の名監督、島津保次郎の代表作です。

八重子(逢初夢子)とお隣さんの恵太郎(大日方伝)は兄妹以上に仲の良い2人。そこに八重子の姉(岡田嘉子)が嫁ぎ先から出戻って来くるのですが、この姉が恵太郎に興味を持ちます。姉と恵太郎が仲良くしているのを見るとなぜか辛くなる八重子...。

島津監督は「蒲田調」とされる小市民映画をいくつも作りました。”蒲田”というのは当時の松竹が蒲田に撮影所を持っていた所から名付けられています。また”小市民映画”というのは、それまでの文芸大作や時代劇、戦争ものとは一風違った、市井に生きる人間の目線でリアリズムを描いた作品を指します。

この映画が公開されたのは昭和9年。第二次大戦前ですが、満州事変等のせいで日本中に戦争ムードが立ち込めつつあった当時に、このようなハツラツとした青春映画を生み出すことができたのは、名匠・島津保次郎の視点とクリエイティビティ、そして松竹映画の底力ゆえだと考えられます。

家族映画とも言えない家族の形を作り上げた本作、八重子と恵太郎はお隣さん同士であり家族ではないのですが、共同体として広い意味での家族であり、観客の憧れとする家族モデルを作り出したのは間違いありません。

この八重子と恵太郎の近すぎる距離が逆に恋愛への発展を妨げるようで、観客は2人の仲のぎこちない進展や、割り込んでくる八重子の姉の存在にハラハラするのですが、最後までこの「恋愛以上家族未満」の微笑ましさを保っています。

若者たちの色恋の爽やかさと理想の家族を描いた青春映画の傑作です。家族以上の家族はつらいよ!

『安城家の舞踏会』

 

島津保次郎の助手としてキャリアをスタートさせた吉村公三郎は、島津の小市民映画を踏襲しつつも、変わった家族映画を松竹にひとつ残しています。本作は近代日本の貴族である華族階級の家族の崩壊をシニカルに描いています。

ここで少しお勉強です。華族とは、明治の版籍奉還(各地の大名が天皇に領地・領民を返還した事業)によって身分制度の無くなった元・大名や公卿の方々や、明治維新後、新たに公卿となった方々のことを言います。

いわゆるエリートですね。莫大な資産とともに東京に大きな洋館などを所有していたことから、外国からの主賓を招いたパーティーなどを開き、外交関係の良好を図りました。

しかし一時期の栄華を誇った華族階級も、日本国憲法の平等主義により同じ平民扱いとなります。奇しくもこの映画が公開された1947年に新憲法が施行されたわけで、当時の観客からしたらそれはタイムリーな話題だったのでしょう。

本作は、財産や家柄で括られた華族というブランドとしての家族が崩壊した時に、家族とは一体どういう集まりだったのか? 彼らが形成していたのは本当に家族だったのか? 実は成金家族ごっこに身をゆだねていただけなのではないか? と、吉村監督はあくまで第三者の視点で整然と描いています。

滅びの美学とでも言うのでしょうか、家族関係は崩れた時にこそ家族の本来の姿をあらわにする、家族という繋がりは実にもろくはかないという、家族の本質を描いた作品です。

ちなみに余談ですが、この映画ではあの大女優、原節子の猛ダッシュ&体当たりが見られます。いつも小津作品等では座ってるか微笑んでいるかの、あの大女優のアクティブな姿が見られるのは『安城家の舞踏会』だけです!

嗚呼、華族はつらいよ!

『お早よう』

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松竹の家族映画と言えば、小津安二郎は外せません。ローポジション定点からの撮影や、赤が目を引く小道具の配色・配置、小気味良くカットした台詞の対話等、”小津調”とも言われる独特の演出方法により、諸外国、取り分けフランスの多くの映画人に愛されています。

本作の公開は1959年、NHK教育テレビ(現・Eテレ)やフジテレビ、毎日放送等民放各局が一斉に産声を上げた年です。本作の主役はテレビを買って欲しいがために親にストライキを起こす兄弟です。

戦前・戦中の小津映画の子どもたちは、大人を出し抜いて今日明日を生き抜こうとする、いい意味での”小ズルさ”を感じました。それは”戦争”という大人の世界に振り回される脇役として、子どもは映画というパズルのピースのひとつでしかなかったからだと思います。

時は移ろい戦後の子どもたちが描かれた本作、ストレートなワンパクさが清々しいです。終戦から10年以上経ち、敗戦ムードなぞどこ吹く風の高度経済成長、お隣さんのテレビに一目ぼれし、我が家の財政難もつゆ知らず、「テレビ買って」の大合唱に笠智衆演じるお父さんもお困りのご様子です。

こういった些細な争いから家族のコミュニケーションが成り立つのって、今で言えばとても恵まれた関係が作られていると思います。また、家族映画の主体が親から子どもに移ったということは、深刻な事態は過ぎ去り、次世代の担い手に注目できるようになった余裕を意味しているのではないでしょうか。

戦後家族の朗らかさを、少年たちの無邪気な笑顔から感じ取れる、とても気持ちの良い家族映画です。子どももつらいよ?

『秋刀魚の味』

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最後にご紹介するのは、先ほどご紹介した『お早よう』の監督、小津安二郎の遺作『秋刀魚の味』です。本作で描かれるのは「娘の嫁入りと残される父親」という、家族の別離です。

小津安二郎の名作に『晩春』という映画があります。『晩春』でも結婚適齢期の過ぎた娘(原節子)と年老いた父親(笠智衆)が登場し、最後には娘が嫁いでいくというストーリーです。似て非なるこの2作に、小津監督が描こうとした家族の側面があると思います。

春の終わり頃を意味する『晩春』というタイトルは、結婚適齢期の娘を指しています。嫁いでいった娘を見送り一人になった父は、寂しそうに林檎の皮をむいているのです。今までは娘がしてくれていたことを自分自身でやるようになり、娘の存在に改めて気づかされるというラストです。

小津監督は、タイトル付けやラストシーンから察するに、その人間描写に注目しています。娘と一緒にいた父親が独りぼっちになってしまうという、形成している人数から家族の豊さを計っています

対する『秋刀魚の味』は、家族団らんの何気ないおかずに注目したタイトルだと言えます(ちなみに劇中で秋刀魚は一度も食べません)。普段食べているサンマの味をタイトルに選ぶ辺り、家族の豊かさとは人間が形成していたのではなく、日常の何気ない「習慣」が形成していたと分かる、秀逸な例えになっています。

『秋刀魚の味』のラストシーンも味わい深く、父は誰もいない2階へ続く階段を見つめます。彼は娘のかつての「暮らし」を想い、見つめるのです。『晩春』とは異なり一人ぼっちではなく、まだ次男が同居しています。環境的な一人よりも心情的な独りの方が、より一層寂しさを増すものですよね。

実は大事な娘を手放し”失う”よりも、心にポカリと穴が空くように”欠ける”ほうが、ずっと寂しいという表現にたどり着いたのではないか? と推測されます。となりにいて当たり前の家族、欠けて感じる愛する家族。...娘を見送る父親はつらいよ!

終わりに

家族はつらいよ

(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

松竹映画が歴史を刻んだ家族の形。松竹に一身を投じてきた山田洋次監督は『家族はつらいよ』で、どのような家族を描いているのでしょうか? 自身の偉大なフィルモグラフィーから”つらいよ”を引用しているところから、監督の集大成なのでは? と勘ぐってしまいますが。

家族はつらいよ』は2016年3月12日全国公開です。”つらいよ”の裏側にある愛憎があってこそ、それが家族の良さなのだと再認識できるかもしれませんね。この映画はぜひ家族みんなで観ていただきたいと思います。

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  • ゆうよしかな
    4.0
    自分自身が長男の嫁で同居なもので平田家に感情移入してしまう。わかる~わかる~。平田家に訪れる悲劇、喜劇好き。 熟年離婚を巡る騒動が愉快に描かれており楽しい。なんともいえないキャスト全員好き。楽しませてもらいました!
  • FumiyaIwashina
    3.4
    三世帯の大家族に訪れた熟年離婚の危機。一人暮らしを長くしていると、こういう家族の物語に憧れを持ったりするが、各々の悩みがなんともリアル。 煙たがられる新旧サラリーマンとそのサラリーマンのわがままを我慢する新旧嫁。さらに、すぐ騒いじゃう妻とその妻に食べさせてもらってる甲斐性なしの夫。そして、家族の間を取り持ってきたけど、好きな人と結婚するため家を離れる決意をする息子など、様々な人間の群像劇が楽しめる。 橋爪功演じるおじいさんは典型的な亭主関白で、あまりにもおばあちゃんが不憫だから、自分だったら離婚を止めないなとも思ってしまった。一人暮らしの孤独も辛いけど、大家族独特の我慢の方がもっと辛そう。それでも、最後には家族の温かさや大切さが伝わってくる物語だった。
  • th
    3.0
    まあまあ。
  • usme
    -
    D39
  • yuki
    2.6
    現代の舞台に、昔のセリフと間。 不思議だなぁ、これが山田洋次かぁと思いつつ、見た映画。 ピアノの調律をする、銀縁の丸メガネの妻夫木くんが、とてもかっこいい。 ほして、エンドロールの雨の日に、寝室で布団かけてあげるのが、よかった。 しょうがないな、愛しいなって、いつものお家で布団をかけてあげる。 それが家族で夫婦ってことなのだとしたら、いい解釈だなと思った。 音楽が久石譲というのが、とてもよい。
「家族はつらいよ」
のレビュー(5909件)