『蜜のあわれ』公開間近!4つの「赤」の断片を巡る ― 二階堂ふみを探して ―

映画に夢中な書店員

ふじわらなお

「赤は強い色であるがゆえに、シーンにアクセントも生むし、使い方に個性も宿る」

-「アンドプレミアム4 映画が教えてくれること。」

日本映画の「赤」。映画が白黒からカラーに移行するとき、自然な発色をするのが赤だったことから、日本映画の名匠たちの構図には赤が効果的に用いられているそうです。

今、日本映画界のみならず、テレビドラマ、バラエティー、テレビCMとひっぱりだこの女優・二階堂ふみこそが、現代の日本映画になくてはならない「赤」なのではないでしょうか。

今回は、二階堂ふみの「赤」に着目して、複数の出演映画を巡ってみたいと思います。

1. ポップな赤『蜜のあわれ』

蜜のあわれ

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

4月1日公開映画『蜜のあわれ』。これまで数々の魅力的な女の子を演じてきた彼女が演じる役はなんと金魚

あらすじ

老作家(大杉漣)と、彼の妄想から生まれた変幻自在の金魚の姿を持つ少女・赤子(二階堂ふみ)の恋物語なのです。そこに老作家への想いを募らせる幽霊のゆり子(真木よう子)が現れて・・・。それだけでうっとりですが、芥川龍之介に高良健吾、全てを知る金魚屋に永瀬正敏、他にも韓英恵や渋川清彦、岩井堂聖子と最高のキャストたちが幻想的な世界を創りあげています。

石井岳龍監督とは

手がけたのは、石井岳龍監督。改名前の石井聰互時代の伝説的な作品『狂い咲きサンダーロード』、『逆噴射家族』は映画ファン必見です。

最近では、原因不明のウィルスで死んでいく人々の滑稽で愛おしい死に際を描いた染谷将太主演の傑作群像劇『生きてるものはいないのか』、女性の胸に見た事もない美しい花が咲くという現象に惑わされる、綾野剛・黒木華主演のラブストーリー『シャニダールの花』が特にオススメ。

原作

予告を見て、いてもたってもいられなくなったので、原作を読んでみました!

室生犀星『蜜のあわれ われはうたえどもやぶれかぶれ』講談社文芸文庫 

室生犀星は大正期の詩壇を牽引した詩人であり、『幼年時代』『あにいもうと』などの小説を発表した近代文学作家です。この『蜜のあわれ』は晩年の作品で、老作家は、金魚やめだかを愛でるのが大好きだったという室生犀星自身を投影していると言われています。

「金魚はおさかなの中でも、何時も燃えているようなおさかななのよ、からだの中まで真紅なのよ」

と赤子は言います。作家からお小遣いをもらって歯医者に行ったり金魚屋で金魚を買ったり、幽霊と仲良くなったり。自由奔放な彼女は、作家のおしゃべりの相手をし、身体の上を跳ね回るのです。

個人的な感想としては、金魚のお腹って、キュートでエロティック

室生犀星は、この作品について

「一尾のさかなが水平線に落下しながらも燃え、燃えながら死を遂げることを詳しく書いてみたかった」

と語っています。

人間と比べるととても短い命の金魚。だからこそ人生を楽しみ、そして燃え尽くすように生きる姿が魅力的です。

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2. 血の赤『私の男』

私の男

(C)2014「私の男」製作委員会

そういえば、この映画にも金魚が登場します。

あらすじ

淳悟(浅野忠信)と娘・花(二階堂ふみ)の禁断の愛を描いたこの作品。家族を知らない孤独な男・淳悟が、家族を亡くし孤児となった花を養女として引き取ります。実は彼女は、淳悟の実の娘でした。一緒に暮らすにつれて、2人は次第に男女の関係になっていきます。互いの血の繋がりを確かめるためには、その方法しかないかのように。

花は、赤の女の子です。赤いジャージ、赤いマフラー。淳悟と交わっているときに画面いっぱいに流れる血の雨。

その赤は、血縁の赤か、それとも殺人の赤か。

金魚と殺人

ある殺人を隠すため、故郷から離れて東京でひっそりと暮らしていた2人のもとに、真相を探る刑事(モロ師岡)がやってきます。刑事に問い詰められ、花のことを罵られた淳悟は逆上して彼を殺してしまいます。そのとき、乱闘の末、男の血が流れる床の上を、水槽が割れて飛び出てしまったのか、金魚が苦しそうにピチピチと跳ねています。

金魚は、生き絶えようとしている刑事の心臓を表しているようにも、その場にはいない花を表しているようにも見えます。

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3. 透明な赤『ほとりの朔子』

ほとりの朔子

あらすじ

大学受験に失敗し浪人中の朔子(二階堂ふみ)は、叔母(鶴田真由)の誘いで夏の終わりの2週間を海辺の街で過ごすことになります。そこで出会ったのは、一見幸せそうで、実はいろいろな問題を抱えた人たち。知的で美しい叔母や彼女を追いかけてきた恋人(大竹直)。違法ラブホテルを経営する、叔母の馴染みの兎吉(古舘寛治)と彼を軽蔑する娘(杉野希妃)。震災後、伯父である兎吉のところへ身を寄せ、学校に行かずラブホテルのバイトをして過ごしている甥の孝史(太賀)。

まだ大人ではないけれど、もう子供でもない。そんな朔子と孝史の時間は、人生の中で最も煌いていて美しい瞬間なのかもしれません。例えば水際を歩くこと、誰もいない明け方の線路を歩くこと、例えば駆け落ちごっこ。

そして彼らの周りを、大人になりきれない大人たちが不器用にうごめいています。

この映画は、そんな宝箱のような映画です。

川辺の金魚

赤いサンダルに赤いワンピースの朔子が川辺に立っています。彼女が川に一歩足を踏み入れると、緑がかった水面に次々と波紋が生じるのです。そばにいる孝史は思わず見とれます。

それはさながら、金魚のようで。

4. 純愛の赤『ヒミズ』

ヒミズ

あらすじ

ヴェネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞を受賞した、二階堂ふみの出世作です。

震災の後、瓦礫だらけの荒廃した場所に、小さなボート屋があります。この物語は、そのボート屋を運営する中学生・住田(染谷将太)と、彼を熱烈に慕い、どんなに突き放されても追いかけていく茶沢(二階堂ふみ)の物語です。2人とも家族から存在自体を否定され、暴力をふるわれ、それでも懸命に生きています。

照らす、赤

茶沢が最後に着る真っ赤なワンピースは、住田を守る覚悟の赤なのではないかと思うのです。「住田がんばれ」と絶叫する2人が駆けていく一本道の先が、決して希望だけではないことは、同時に映し出される震災後の風景からもわかります。それでも愛し続ける覚悟、愛で満たされている幸せ。赤いワンピースからは彼女のそんな感情が伝わってきて、色のない世界を鮮やかに照らしています。

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おわりに

同じ赤でも、二階堂ふみの赤は一色ではありません。透き通るような赤から、素朴な赤、ワインのような赤、どす黒い赤まで多種多様です。

次はどんな色を見せてくれるのでしょうか。楽しみです。

 

※2022年10月20日時点のVOD配信情報です。

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  • zzz
    -
    記録 金魚が可愛い。 MVみたいな演出の映画やっぱり苦手。 個人的に全く合わない。
  • からすま
    2.7
    世界観は好きだがダメな方でチープさが際立つ。 演出が学芸会レベル。 点々といいなと思う幻想的なシーンが挟まれるものの、全体として観るともうちょっとどうにかできたんじゃないかと思う。
  • エダ
    -
    全体的にBGMが少ないのと台詞回しが相まって映画というよりは舞台みたいだ 壊れてしまいそうな少女のあどけなさと男を惑わせる妖艶さの絶妙なバランスをこんなに上手く出せるのは本当に当時の二階堂ふみだけなんじゃないかと思う
  • のどか
    3.7
    台詞回しも雰囲気もめちゃくちゃ好きだった!! やっぱりおふみの良さが活きた作品って作品自体も好きになるよなあ ぶっ飛んだ話なのにそれを感じさせない説得力が二階堂ふみの存在自体にある 全然フィールドは違うけどおふみのプロフェッショナルは目標にしたい https://www.oricon.co.jp/news/2065950/full/
  • ダイナ
    3.2
    こんなファンタジーな 感じだとは思わなかった。 あえて画質悪くして 古い感じ出してるのかな? なんの話?と聞かれると よくわからないけど 大杉漣さんと二階堂ふみちゃんの 2人を観ているだけで 普通に面白い。 金魚のひらひらは可愛かった。 ただほんとなんの話?
蜜のあわれ
のレビュー(11200件)