これは絶対、映画館で見てほしい!
年間に公開される多くの映画の中には時に、強くそう勧めたいものがあります。
例えば、70mmフィルムで撮られた超ワイドな画の『ヘイトフルエイト』、火星の広大さと人間の小ささを痛感する『オデッセイ』、超高速の飛行戦に息を飲む『スター・ウォーズ』などなど。
そして、現在公開中の『エヴェレスト 神々の山嶺』もそんな映画の一つです。
撮影は実際のエヴェレストで行なわれ、スクリーンいっぱいに広がる雄大な映像は圧巻です!しかも、主演の岡田准一と阿部寛はスタントなしで過酷な登山に挑戦しました。極寒の山に挑む熱い男たちの山岳ロマン、ぜひご覧下さい!
(C)2016映画「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会
映像化不可能とされた夢枕獏の大ベストセラー
原作は、1994年から1997年まで小説すばるで連載された夢枕獏の『神々の山嶺』。
天才クライマー・羽生丈二(はぶ じょうじ)が、エヴェレストの最難関ルートをたどって単独登頂に挑む姿を描き、世界中で翻訳されてベストセラーとなりました。
これまでに度々映画化の話はあったものの、なんせ舞台は世界最高峰エヴェレストです。標高は富士山の倍以上高い8848m、氷点下50℃で風速50mの強風が吹き荒れる……あまりに過酷、あまりに壮大なスケールに、映像化への挑戦は何度もくじかれてきたのです。日本映画史上初、標高5200mでの撮影
映画化のオファーを受けた平山秀幸監督は「行ってみないことには何も始まらない!」と現地ネパールを訪れ、天を衝くようなエヴェレストの威容に圧倒されながらも「恐怖と興味が半々だったけれど、原作の強さが勝った」と心を決めました(ちなみに登山経験は高尾山=標高599mぐらいだったとか!)。
やるからにはリアルな景色のなかで撮りたい、と日本映画では初となるエヴェレストでの撮影を敢行。空気の薄い場所に体を慣らす高度順応のため、キャスト、スタッフともに10日間かけて標高5200mまで登り、そこで1ヶ月間にわたってロケを行ないました。
エヴェレスト初登頂は誰?消えた登山家の謎がキーに
物語はネパールの首都カトマンドゥの街で、羽生(阿部寛)と山岳カメラマンの深町(岡田准一)が出会うところから始まります。
深町は骨董屋で古いカメラを見つけるのですが、それは1924年にエヴェレスト登頂中に消息を絶った実在のイギリスの登山家ジョージ・マロリーの遺品でした。
公式な記録では、エヴェレスト初登頂は1953年、エドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイによって達成されています。しかし、もしマロリーが遭難する前に山頂に立っていたとしたら、世界最高峰を人類が制した歴史は30年近くさかのぼることに……。遺品のカメラには、その証拠となる写真が残っているかもしれません。
ところが、深町は手に入れたカメラを羽生に奪われてしまいます。金儲けをもくろみ、カメラの謎と羽生の過去を追う深町。やがて彼は、孤高のクライマーとして人から敬遠される羽生が昔、ザイルパートナーを登山中に死なせてしまった事実に行き当たります。
(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会
全編ノースタント!迫力の登攀シーン
日本を捨てた羽生はネパールで、何年も何年もエヴェレストを見上げて暮らしながら“冬季南西壁 単独無酸素登頂”という前人未到の登攀を計画していました。
補足すると、通常のエヴェレスト登山はパーティーを組み、酸素ボンベを使用しながら山頂を目指します。それでも登頂成功率は半々なのに、羽生が目指したのは、ほとんど真っ垂直な氷の壁を登る最難関のルートをたった独りでたどることでした。
羽生の挑戦を見届けるため、深町はカメラを携えて山に入ります。はたして彼らは生きて帰れるのか……。映画の後半はほとんど登攀シーンですが、岡田准一と阿部寛は強風の雪原にも氷の壁にも自ら身をさらしました。例えば、俯瞰のシーンでは、カメラから歩いて2時間の場所に岡田本人が行き、行ったり来たりを繰り返したそうです。
一カ所だけ本人ではないシーンが……
雪焼けした真っ赤な肌、ひげは伸び放題、涙も鼻水も垂れっぱなし……2人が全身全霊をかけてエヴェレストに挑む姿は一種のドキュメンタリーのようです。唯一、「絶対に阿部寛じゃない」場面があるのですが、それは2人の“再会”のシーン。なぜ「本人じゃない」とわかるのか……ぜひご自身でお確かめ下さい!
ちなみに、過酷なロケでスタッフもキャストもみな体重を減らしたそうですが、なぜか紅一点の尾野真千子だけは逆に体重が増えて帰国したそうです。エヴェレストで撮影することが出演のネックになるどころか決め手になったといい、本作でいちばんタフだったのは彼女なのかもしれません。
名言続出!「なぜ山に登るのか?」「それは…」
ジョージ・マロリーと言えば、「なぜエヴェレストに登るのか?」と聞かれて、「そこに山があるからだ」と答えたことはあまりに有名です。
山に挑む登山家たちは数々の名言を残していますが、羽生もその例に漏れません。マロリーと同じ問いに対し、羽生は「ここに俺がいるからだ。俺がいるから山に登るんだ」とズバリ言い切ります。
自分にカメラを向ける深町に「俺を撮れ。俺が逃げ出さないように」と言って自ら退路を断ち、嵐の極限状態の中でも「休む時は死ぬ時だ。休むな」「体力がひとしずくでも残っているうちは休まないぞ」と力を振り絞ります。
鬼気迫る羽生の執念は、彼を追って山に入り、死の危機に瀕した深町に乗り移ります。「足が動かなければ手で歩け……手が動かなければ、指でゆけ……」 指も動かなければ歯で雪を噛み、歯もダメなら目でにらめ。目もダメになって本当に何もなくなったら、「思え。ありったけの心で思え。想え……!」
これでもか!と押し寄せる熱い言葉の数々。それは神々の山でちっぽけな人間である2人をつないだ生への大きな意志でした。深町は羽生の言葉を支えに、麓のベースキャンプへ一歩ずつ足を踏み出していきます。
映画に記録された大地震前のカトマンドゥの風景
いかがでしたか。小細工のない、ど直球の山岳ロマン『エヴェレスト 神々の山嶺』。エヴェレストの存在は圧倒的すぎて、もはや主人公はエヴェレストそのものと言ってもいいかもしれません。
一方で、そのすぐ足元で営まれる人々の日々の暮らしもまた美しく、かけがえのないものです。
2015年4月25日、ネパールをマグニチュード7.8の大地震が襲い、カトマンドゥは世界遺産の寺院などが倒壊して深刻なダメージを受けました。くしくも『エヴェレスト』の撮影隊はその前にロケを終えており、映画の中には失われる前の街の風景が記録されています。
約9000人が犠牲になった未曽有の大地震からまもなく1年。スクリーンに映る生き生きとしたカトマンドゥの街にも、ぜひ注目してみて下さい。