橋口亮輔監督が語る『ぐるりのこと。』から『恋人たち』までの7年間の思いとは?

2016.04.14
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数多くの映画賞を授賞した『ぐるりのこと。』から7年。

絶賛公開中の新作『恋人たち』では第89回キネマ旬報ベスト・テン第1位授賞、多数の賞に輝いた橋口亮輔監督。最新エッセイ書籍 『まっすぐ』の刊行を記念して橋口亮輔監督トークショー&サイン会が、2016年3月25日(金)に代官山 蔦屋書店で行われました。 本書についてのことはもちろん、橋口監督の映画作品や監督自身の人生を読み解く貴重な夜となりました。

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最新エッセイ書籍『まっすぐ』は、7年の沈黙をやぶり新作『恋人たち』を発表した橋口亮輔監督による、2013年3月からweb連載している内容を再編集したエッセイ集です。この日のトークイベントは2008年に製作された『ぐるりのこと。』のその後から2015年公開作品『恋人たち』のプロデューサーとの出会いまでの話からスタートしました。

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橋口亮輔監督(以下橋口監督):
ぐるりのこと。』撮影後の7年間本当にさまざまなことがありました。まるで『恋人たち』の主人公・アツシのように悪いことの連続で、その時は映画を撮ること自体がバカバカしく思えてしまい仕事も手につかない状態になりました。そして、それまでは文章を書くことが得意な方だったのですが精神的にも疲弊してしまい文章が組み立てられず、簡単なメールすら打てないくらいまで陥っていました。
その人生のどん底の時に『恋人たち』のプロデューサーである深田誠剛さんが毎日私の家に「橋口さん映画を作りましょうよ」と辛抱強く通いつめてくれたことで少しづつ立ち直っていき、復帰するきっかけとなりました。本当に彼には救われました。

『恋人たち』が生まれるきっかけとなったワークショップ

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少しずつどん底から立ち直っていった橋口監督。深田さんに「映画をすぐに作るのは無理かもしれないでしょうけどまずワークショップやりましょうよ」と言われ、その言葉をきっかけにワークショップ企画を立ち上げました。その1回目は『ぐるりのこと。』をテーマにした演技ワークショップ。若手俳優、舞台人、映画人、学生、演技未経験者など多彩な面々が参加しましたが、その中に『恋人たち』に登場する篠原篤さんや成嶋瞳子さんが参加していたそうです。

橋口監督:
自分ではすごく心が動かされた、感動した!ということをそのまま撮ってるはずなのに人には伝わらない。 ”私”と”あなた”という距離を埋めるのが”表現”なんだということに17歳で気づき、それをずっとやり続けてきました。 そんな人間が『ぐるりのこと。』の後、人にものを伝えるって意味がないことだと悲観にくれていました。
しかし、このワークショップ企画を通して「やっぱり人にものを伝えるって意味があることなんだ」「伝えたことによって美しいもの、面白いものが返ってくるんだ」ということに再び気付かされました。 この企画をきっかけにもう一度映画が撮れるかな。もう一度を演出やれるかなと思うようになりました 。

リハビリとしてはじめたWEB連載

少しずつ表現することに前向きになってきた時に映画界往年の巨匠・木下恵介監督の名作『二十四の瞳』Blu-rayの予告編を依頼され、そこでの出会いがこのエッセイをうむこととなります。

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橋口監督:
二十四の瞳』Blu-rayの予告編や特別映像の制作の依頼は名作中の名作である作品の話で本当に荷が重いと感じました。ただこの時はとにかく目の前の仕事をやってこっぱみじんになった自分の自信を取り戻さなければいけないと思い、お話を受けました。
ある時、『二十四の瞳』の特典映像の撮影のために小豆島に行き、田中裕子主演版『二十四の瞳』のオープンセットがそのまま残っている二十四の瞳映画村という場所を訪れました。そこの館長さんがとても良い方で、身の上話をしていくうちに「映画村のホームページでエッセイの連載しませんか?」という話をいただいたのがこのエッセイのきっかけです。

その当時はメールの文章も書けないくらい自信喪失していた橋口監督。連載の文字数は2000字ほど。普段の橋口監督であればネタさえ決まっていれば一時間でかけるような文字量が第1回目の文章を書けるまでに1か月かかったそうです。

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橋口監督:
『まっすぐ』の文章はもう一度台本を書けるようになるまでのリハビリだと思ってはじめさせてもらいました。「こういうことが書けた!」「少し面白いことが書けた」というように毎月の連載が本当にリハビリになっていました。

橋口監督にとっての『まっすぐ』な思い

橋口監督にとって『まっすぐ』の連載はリハビリとしてはじめた連載ですが連載を続けていくうちにさまざまな思いが芽生えたそうです。

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橋口監督:
いろいろなことがあった7年間を踏まえて「もう自分の人生を他の誰にも汚されたくない、踏みつけられたくない」「嘘、偽りを書きたくない」と思うようになりました。その内容をそのまま書き記すと暗くなってしまいますので、読んだ人が嫌な気持ちになる文章にはしたくないという思いもありました。
ものを伝える側は「不幸の手紙」みたいなものを絶対に作ってはいけないと昔から思っています。これを読んだ人が嫌なものを受け取らない連載にしよう、そして自分の人生にはネガティブなことだけではなく、美しく、楽しい側面もあったはず、それをずっと書いていこうと思い連載を続けました。
ただ、”世の中は善意で溢れている”みたいな綺麗事を並べた嘘くさい文章にはならないよう、本当の自分のこと綴った「まっすぐ」な文章になったらなと思って作っていきました。

 

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最後に橋口監督は今回の書籍と映画への思いについて語ってくださいました。

橋口監督:
今回の『まっすぐ』は出版担当者の方が「『ぐるりのこと。』と『恋人たち』 の空白の7年間を結ぶいいテキストになると思うんです」と連絡をくださったことで、書籍化が実現しました。
自分の中では力を入れて書こうと続けた連載が今回一冊の本となり、またこれからも頑張って書いていこうという思いにつながりました。
そして、全部は説明しきれていませんがこの本を読んで「映画のあの場面は不器用な監督がいろんな思いがあってこういう風に撮ったんだな。もう一回映画を見てみようかな。」というふうに文章を読んでまた映画へと循環するようになればいいなと思っています。

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トークショー終了後には質問タイムやサイン会が開催され、監督は丁寧にサインや握手、写真撮影に対応。監督自身のまっすぐな人柄が滲み出たイベントとなりました。一つひとつの日常を積み重ね、素直に、真摯に現実と向きあい表現を続ける橋口監督に今後もますます目が離せません。

 

(取材・文・撮影 / 鸙野茜)

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  • 架空のかいじゅう
    5.0
    この作品から邦画にのめり込んでいった。
  • リップヴァンウィンクル
    4.0
    リアルで痛い でも笑ったらいい
  • sokwtkhr
    4.6
    「人生は何かを獲得することではなくて、何かを失っていくこと。」 という言葉を思い出した。本か映画のセリフだと思うが、詳細は思い出せない。 今この瞬間も、どこかでなにかと向き合ってる人がいて、辛くても逃げずに生きている人がいる。 辛いことがあると、つい自分だけが辛い思いをしているように感じ、周りが見えなくなる事があるが、そんな時「自分だけではない」と少しだけ希望を持てるかもしれない。 実際、全てがうまくいく人生なんて有り得ないし、辛いことがない人間なんていない。 人生は失うことだ。 違いあるとすれば、それと向き合うか、逃げるかである。と感じた。 青空を見上げる主人公にこんなに共感する気持ちは初めてかもしれない。 落ち込んでいた表紙のシーンは夜だったし、対になっているのかな。 余韻が残るいい映画だった。 ワークショップで出会ったアマチュアに近い俳優陣を起用したとのことだが、とても緊張感あるいい演技だったと思う。 監督は、彼らが限界を超えるようなものにならなければ、彼らの未来に繋がるものにならない。と考え、台本はみんな、あて書きで、書き終えるまで8ヶ月かかったとのこと。 この強い想いが俳優にも伝わり、力強い映画になったのだろう。 腕のない上司と部屋で話すシーンか印象的。 やりきれない思いが爆破しそうな緊張感と、沈黙に時計の針の音だけが響く演出。彼の耳の良さともリンクしていて、すごく良かった。 ハッシュのときに、ホン・サンスを思い起こさせるような長回しのカットがあったが、本作では早いズームもあり、すこしニヤッとしてしまった。 個人的には、エンディングの表題と同時に、サニーデイの「恋人たち」が流れてたら最高だった。 でも、スーパーカーのAOHARU YOUTHみたいなエンディングも良かった。 監督コメント 飲みこめない想いを飲みこみながら生きている人が、この日本にどれだけいるのだろう。今の日本が抱えていること、そして"人の感情"をちゃんと描きたい。
  • よしゅう
    4.2
    まず画がとても良い。画があまり良くない日本映画が多いせいか、際立って良く見えた。 日本(あるいは地球)に住んでいる人なら誰にでも起こりうる、起こったことのある、あるいは身の回りで起こっている出来事、どこにでもいる人々があまりにも淡々と「普通」に描かれる。ここで描かれる人々が決して特殊な例ではないということを強調するために、あえて「普通」と表現したい。 彼らの姿は見ていてあまり気持ちの良いものではない。痛々しく、時に汚い。その姿が美しい映像によって描き出されるというギャップに言い得ぬ喜びのようなものを感じた。これは市井の人々に対する優しい肯定なのかもしれない。 思えば自分はここまで「普通」の映画を観たことがないかもしれない。オフビートを気取っている感じも全くない。「普通」すぎて「普通じゃない」映画。 書きたいことはたくさんあったけど、うまくまとまらないからもうやめよう。モヤモヤするけど、この映画を観て「ダメでも良いから生きていこう」と思えたからそれくらい大丈夫。
  • きゃめろん
    3.5
    あんまり期待せずに観たので、そのぶん良かった。 弁護士イヤなヤツだと思ったけど一途なトコロがあって憎めなかったよ。る
「恋人たち」
のレビュー(7549件)