プロデュースの天才!映画『世界から猫が消えたなら』原作作者・川村元気の謎に迫る

映画に夢中な書店員

ふじわらなお

 これは”からっぽの人にしか書けない小説なのだ!からっぽであること、喪失すること、消えること自体を書いている。中森明夫「世界から猫が消えたなら」(小学館文庫)解説より

 

コラムニスト・中森明夫秀なプロデューサーは 、からっぽだからこそ映画原作を探して、中身は監督や俳優たちに作らせるのだ」と小説 『世界から猫が消えたなら』の巻末解説に書いています。

売れっ子映画プロデューサーが、今度は小説を書いた。LINE公式アカウントに連載するという前代未聞の形で。その小説が2013年に本屋大賞にノミネートされ、遂に映画になるという。(映画は2016年5月14日公開)

ふむふむ、うさんくさい。でも・・・・、気になる。

ひねくれものの私は、眉を寄せながら平積みになった猫が表紙の本を一冊、手にとりました。

世界から猫が消えたなら

(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

 

世界から猫が消えたなら』あらすじ

余命わずかと診断された主人公・僕(佐藤健)の前に突然現れた、自分と同じ顔をした陽気な悪魔。彼は悪魔と「この世界から何かを消す代わりに、1日だけ命を得ることができる」という取引をします。

彼の命と引き換えに世界からモノが消えていきます。電話、映画、時計、それから・・・。

それらは彼にとって、大切な人たちとの思い出であり、人生の全てでした。

もし、世界から映画が消えたなら

この物語は、主人公が何かをなくすことで、その何かの大切さを知っていく物語です。そして、その何かにまつわる彼の記憶と、関わった人を辿っていく物語でもあります。

中でも衝撃的だったのは、世界から映画が消えるというエピソードです。

もし、世界から映画が消えたなら。

そんなのやめてくれと、全身に鳥肌が立ちました。たった一人のたった一日の延命のために、消えていいものじゃない。映画がなくなったら、私は何を求めて生きていけばいいのだ、これまでたくさんの映画を愛する人が築きあげてきた歴史はどうなるのだと。

第一、映画館で働くかつての恋人(宮崎あおい)やレンタルビデオ屋で働く映画マニアの友人(濱田岳)など物語の登場人物たちは、職を失って生きがいも失ってしまうじゃないですか。

でも、それを書いているのは、映画を作ることを生業としている映画プロデューサー・川村元気なんですよね。

間違いなく、映画がなくなっては困る理由を身をもって知っているはずの人。ということで、プロデューサー・川村元気の仕事を見ていきましょう

ネット発ネットが舞台の、リアルな現在を新しい方法で描いた映画『電車男』

実際の2ちゃんねるの書き込みが、小説や映画、テレビドラマ、漫画や舞台に発展するという異例の社会現象を巻き起こした作品です。そして、川村元気が26歳の時に企画し、興行収入37億円のヒットを記録した出世作でもあります。

あらすじ

ある日、アキバ系オタクの青年(山田孝之)は、電車内で酔っ払いに絡まれていた美女(中谷美紀)を救い、彼女からお礼にエルメスのカップをもらいます。彼女いない歴=年齢の彼は、そのことをネットの掲示板に書き込み、相談するのです。

青年を電車男、美女をエルメスと称し、盛り上がる掲示板の住人たち。不特定多数の人たちの応援やアドバイスによって、彼らの恋が発展していきます。

結末に賛否両論!強烈な正義と悪をポップな映像で切り取った『告白』

原作は、湊かなえの代表作。こんな結末許されるのかという声がでるほど衝撃的な結末が話題を呼びました。重い題材をあえて色鮮やかに、ポップに描いた中島哲也監督の手腕が光ります。

あらすじ

舞台は中学校。担任の森口(松たか子)がクラスルームで静かに話しだします。私の娘は、この学級の2人の生徒に殺されたのだと。それが森口の復讐劇の幕開けでした。追い詰められる生徒たち。明らかになる彼らの動機、心の闇。事件は、他の教師や親、同級生を巻き込んでさらに大きくなっていきます。

加害者・被害者それぞれを愛する人たちを複数の視点から描いた傑作『悪人』

9月に豪華キャストで公開される映画『怒り』の原作者でもある吉田修一原作。九州を舞台に繰り広げられる逃避行は、彼らを取り巻く様々な人たちの人間ドラマとも相まって、人間の本質を揺さぶり抉り出すかのような傑作です。

ちなみに2010年に『告白』『悪人』を企画・プロデュースした川村元気はその翌年、優れた映画製作者に送られる「藤本賞」を史上最年少で受賞しました。

あらすじ

ある女性保険外交員(満島ひかり)が殺されます。殺したのは、土木作業員・清水(妻夫木聡)。彼は偶然会った光代(深津絵里)と逃避行します。本当の悪人とは誰なのか。加害者の家族、被害者の家族、彼らに関わった人々から見たそれぞれの思いが交差します。

漫画家を目指す高校生の青春をスタイリッシュな映像で描いた『バクマン。』

バクマン。

(C)2015映画「バクマン。」製作委員会

 

大場つぐみ・小畑健による大ヒット漫画「バクマン。」の実写化。主演の佐藤健・神木隆之介だけでなく、ライバル若手漫画家に染谷将太、ヒロインに小松菜奈と、人気実力共に大注目の若手俳優の起用が話題になりました。

なによりすごいのが、映画『モテキ』に続いての川村元気とのタッグである大根仁監督による最先端のCG・VFXカット。机に向かってひたすら漫画を書き続けるという絵としてはかなり地味な作業を、文字や絵が踊りだすかのように、躍動感溢れる動的なものへと変化させ、観客を漫画の世界に引きずり込みます

あらすじ

漫画原作作家を目指す秋人(神木降之介)から「俺と組んで漫画家にならないか」と誘われた中学3年生の最高(佐藤健)。漫画家の伯父(官藤官九郎)を持つ最高は、大好きな伯父の死が原因で、漫画家になる夢を持つことに葛藤がありました。

同級生小豆美保(小松菜奈)への憧れと秋人からの誘いがきっかけで漫画家への夢が再燃。2人はライバルや仲間たちに支えられながら、週刊ジャンプ連載を目指して青春を燃やします。

川村元気がプロデュースした作品から見る日本の現在、映画のこれから

取り上げることができなかった作品が無数にありますが、川村元気プロデュース作品に総じて言えることは、常にその時代の雰囲気を切り取ったもの、新しいものを提示しているということです。

川村元気がプロデュースした作品から見る日本の現在、映画のこれから。そんな視点で、作品を見ていくのも面白いのではないでしょうか。

プロデュースの天才が初めて作った物語『世界から猫が消えたなら』の主人公は、冒頭に引用した中森明夫の言葉を借りれば、作家と同じく「からっぽの器」のような人物です。平凡に日々を過ごしてきた普通の青年。

また、彼の名前や彼に関わった人々の名前に固有名をつけないことで、彼らの個性はあえて消されています。

そういう意味では、彼の出世作『電車男』と共通する部分があります。小説「電車男」の作者は、「中野独人」。つまりネットの不特定多数のうちの一人であり、特定の誰かを示すものではありません。だから、電車男は、10年以上たった今でも無数にいるのではないのでしょうか。誰もが、自分自身を当てはめることのできる物語だから。

つまり、主人公「僕」は、今日のあなたかもしれないし、何十年後かのあなたかもしれません。かつての恋人や映画オタクの友人。あるいは気難しい父や、明るくて優しい母。

きっと、どこかに、あなたがいるはずです。

(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

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  • 爆裂ブレインさん
    4.0
    ナイアガラの滝?のシーンが印象的です。 元彼女と少し比べてしまいます。 小説版では色彩のない白黒の服だけ着てたはずなんだけどなぁ。レタス。キャベツ。
  • 4.0
    なんだかんだ好きっす。 ケチつけながらも、何回も観とります。
  • Shark
    3.5
    記録
  • こじ
    3.4
    自分が大事、大切な人との思い出も大事、わかっているけど改めて考えることはない。テーブルに積まれたキャベツの意味、わかった。
  • mila
    3.8
    映像がすっごく綺麗だった! 太陽光の使い方と函館の景色と、こういう撮り方されてる映画は大好き! 濱田岳と奥田瑛二にもらい泣き。 終盤はぼろぼろ泣いてしまいました。 ありがとうで人生を終えたいなあ。。。 自分が死んで泣いてくれる人は何人いるだろうか、初めて死後を少し考えた。
「世界から猫が消えたなら」
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