【取材】奥深い映画演出の世界!業界10年目プロの助監督にインタビュー

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最近では「演出助手」とも呼ばれる助監督の仕事に迫るロングインタビュー後編。東映で、名監督と呼ばれる方たちのもとで助監督を務めた加藤卓哉さんが、現場で学んだ演出とは? 映画監督をめざす人必読の後編をどうぞ!

【インタビュー前編】助監督ってどんな仕事をしてるの?

ゲーム機開発のエンジニアから映画助監督へ

−加藤さんは、エンジニアから助監督へ急転身されたとお聞きしました。

はい、助監督をやる前は、実はソニーでゲーム機の開発に従事していました(笑) 大学は理系に進んだんですけど、昔から映画が好きで、映像の仕事をやりたいという思いはずっとあったんです。

−就職活動で映画会社は受けなかったのですか?

映画会社も受けました。でも、宣伝部や配給関係に配属されて、製作に関われない可能性もあったんですよね。その点、ソニーだったら映画製作事業もやっているし、エンジニアとしてモノづくりをしながら映像へ進むルートがあるんじゃないかなと。ALWAYS 三丁目の夕日山崎貴監督のように、CG制作から演出分野に進むみたいな。

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© 2005「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会

でも、なかなかそんなに甘くなくて5年が経ってしまった。このままじゃいかんと転職を考えていたときに、たまたま東映が経験不問で助監督を募集していたんです。これだ!と思って応募しました。27歳の時ですかね。

−念願の映画業界とはいえ、異分野に飛び込んで、苦労されたことも多かったのでは?

一般的に仕事って、きっちりやることが良いことじゃないですか。エンジニアで言えば、バグが発生しないとか、誰がどうやって使っても壊れないとか、そういうことに重きが置かれる。でも、映画はうまくボヤッとさせるのが大事なんですよ

−ボヤッとさせる、ですか。

たとえば、食事シーンのメニューは、台本を読んでサード助監督がひとつひとつ決めていくんですね。(「サード助監督」については記事前編をご参照)

そのときに僕は、メインがカレーライスだったら飲み物はコーヒーにして、それもアイスで、シロップは何個で…、という風に事細かに考えて、全部メモして監督に聞こうとしたんです。でも、それは助監督の仕事としてはちがう、と。

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大事なところだけ監督に聞いて、他のスタッフの意見も聞きながら、ぼんやりとカタチにしていくのがいいんだと。自分で限定して考えて、細かく詰め過ぎてもダメなんですね。

−それはちょっと意外でした。てっきりキッチリ作り込むものかと。

映画はお芝居ひとつで全てが変わる、言わばナマモノなので、製品をつくるのとはちがうわけです。ギチギチに作り込み過ぎると、役者さんの芝居を制限することになっちゃうんですね。そういう力の入れどころ、抜きどころの感覚を掴むのに1〜2年かかりました。

現場で学んだ演出のいろは。自分ならではの演出方法とは何か

−これまでの助監督歴の中で、最も思い入れ深い作品は何ですか?

やっぱり、木村大作監督劔岳 点の記』ですね。

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(c)2009『劔岳 点の記』製作委員会

東映に入って初めての超大作で、僕は駆け出しのサード助監督でした。山小屋に泊まり込みで自炊して、撮影して、テントで寝たり、夜明け前から9時間歩いて撮影したこともありました。

−それは大変ですね!山や自然の中での撮影は本当に過酷だと聞きます。

撮影では、僕は俳優さんたちと一緒に山の上にいて、監督兼キャメラマンの木村さんが下にいるっていう場合がほとんどだったんです。で、監督に「もっと右に行けよ!」と怒鳴られて、でもその先は絶壁で「もう地面がありません!」って返したら、「それをなんとかするんだよ!馬鹿!」と怒鳴られる、みたいな(笑)

−すさまじい世界ですね(笑)

『劔岳』では、100年前に測量隊が実際に登ったのと同じルートを通って、その現場に役者さんを連れていって、「この山に登った時の気持ちを、カメラの前でやってください」というのが、木村さんの演出だったと思うんですね。だから、この映画の芝居は、本当に山を登ったからこそ生まれる、言わば“素のお芝居”なんです。

(c)2009『劔岳 点の記』製作委員会

僕はサード助監督でカチンコを打つ役目だから、カメラよりも近い距離でその芝居を見ることができた。山の頂上に登る直前に、浅野忠信さんと香川照之さんが言葉を交わすシーンがあるんですけど、思わず涙が出ました。

役者さんの生のお芝居を見て感動した作品は、すごく記憶に残ってます。他にもいくつかありますが、フィルムを通さずにそういうものを見られたっていうのは、助監督の醍醐味のひとつだと思います。

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−木村監督からはどんなことを学びましたか?

本当にたくさんのことを学びましたが、木村監督の春を背負ってのときは、毎日自分なりのカット割を考えていたんですよ。撮影の前日に「このシーンは自分だったらこう撮る」っていうのを台本に書いておいて、翌日に撮影現場で「木村さんはこう撮るのか」と答え合わせをするような感じで。自分の考えたカット割りと比べていました。

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全然ちがうときもあれば、まったく一緒だったときもあって。木村さんは日本一のキャメラマンと呼ばれる人ですから、挑むような気持ちで毎日やってましたね。

−木村監督は、実際にどのような演出をされていたのですか?

木村さんは黒澤組で育った方(木村監督はかつて黒澤明監督の数々の映画に参加していた)なので、5カメとか多重カメラを使って一発で撮る。本番一発にキャスト、スタッフすべての集中力をもっていって研ぎ澄ませるっていう演出の仕方なんですよ。テイクもほとんど重ねません。

その一方で、八日目の蝉ソロモンの偽証成島出監督は芝居のテストを繰り返して、目の動きとか呼吸とか、微妙なニュアンスをすこしずつ修正していってテイクを重ねて、いちばんいい芝居を最後に撮るっていう演出の方法なんです。

八日目の蝉

(C) 2011「八日目の蝉」製作委員会

まったくタイプがちがうおふたりの演出方法を目の当たりにして、自分だったらどうするかっていうのをいつも考えていました。本当に勉強になりましたね。

企画から仕上げまで。ダメだしも糧に、頭と体で覚えていく

−成島監督の作品では、『草原の椅子』や『孤高のメス』に助監督として参加されていたんですね。

『草原の椅子』では、アフレコや音入れ、編集を行う「仕上げ」にもつかせてもらいました。

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(C) 2013「草原の椅子」製作委員会

監督になるんだったら、企画のはじまりから仕上げまで、映画一本ができるまでをちゃんと知っておかないといけないっていうことで。音入れの作業では、成島監督から「このシーンにお前が思う音楽をつけてみろ!」と言われまして。

−それは嬉しい反面、かなりドキドキですね。

いろんなサントラや音源を聞きながら考えて、次の日監督が来る前に編集さんに時間をいただいて、「この芝居の終わりからこの音楽をかけてください」って付けてもらった。それを監督に見てもらったんですけど「全然ダメだな!」と一蹴されて(笑)

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「クソー!」と思いましたけど、そうやって試してくれるんですよ。練習をさせてくれる。その次には、「エンドロールを写真で構成するとして、お前だったらどうやるか見せてみろ!」と言われて必死に編集したんですけど、やっぱり「全然ダメだな」と(笑) でも、そのエンドロールは今でも僕の方がよかったと思ってますよ。

−考えて、練習して、頭と体で覚えていく感じですね。

そうですね、理不尽に怒られることも多い業界ですが(笑)

自分の色を作品に出していくことがいちばん大事

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−ちょっと場所を変えて、東映の東京撮影所内で一番大きなスタジオにお邪魔させていただきました!

ここでは、最近までTVドラマの撮影が行われていましたね。この積んであるのは「箱馬」といって、ライトや大道具の位置調整とか、踏み台などに使われる撮影には欠かせない道具です。こんな風に腰掛けたりも。

−便利ですね(笑) 助監督は映画一本でどれくらいの日数、制作に関わるんですか?

撮影前の準備に大体2ヶ月、撮影自体は1ヶ月から40日間くらい。仕上げにも入れば、一本で1年近く関わることもありますね。

−毎日どんな生活パターンなんでしょう?

撮影前の1ヶ月は準備でほぼ休日というものが無くなり、撮影が始まると完全に仕事一色です。家に帰ったらお風呂に入って倒れるように寝る、もしくはお風呂にすらたどり着けず玄関で寝る、みたいな生活になっちゃいますね(笑)

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−すごい!相当ハードですね。

よく他の助監督とも話すんですけど、映画が好きでこの業界に入ったのに、仕事をやればやるほど映画が観られなくなっていくという(笑)

−そのジレンマは他の業種・仕事にもあてはまることかもしれません。

ある日突然、成島監督に「この1週間で映画何本観た?」と聞かれたことがあったんです。僕が「1本観ました」と答えたら、「俺は映画を10本観て、歌舞伎を見て、舞台を見て、温泉にも行った。その差が演出の差になっていくんだぞ」と言われたんですよ。

それはその通りだなと。それからはその教えを活かして、どんなに仕事が忙しくても、インプットする時間をなるべくつくるようにしています。

−ズバリ、加藤さんが助監督をする上で大切にしていることは何でしょうか?

いろいろあるけど、自分を持つことだと思います。この台本だったら自分はこう思うんだっていうのをちゃんと考えて、プレゼンして、根回しして、コミュニケーションをとって、自分の色を作品に出していくこと

それができなかったら、最終的に監督にはなれないと思いますし。自分を出すことだと思いますね。それも嫌味なく出すこと(笑) ゴリ押しするんじゃなくて、それとなく、うまくやるっていうのが肝ですね。

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−ちなみに、女性の助監督もいらっしゃるんですか?

いますよ。最近は女性も多いですね。男性とはちがった気づかいができるし、現場の空気を和ませるのが上手な人も多い。西川美和監督をはじめ、女性の監督もたくさん活躍されていますよね。

−最近は、芸人さんなど別分野の方が監督をすることも多いですが。

困ったことなんです(笑) というのは、はるか昔、“撮影所黄金時代”と言われている頃は、助監督としての下積みを経て監督をやれる文化があったんですけど、今はそうじゃない。助監督でも、企画を応募するとか、自主映画を撮って賞を獲るとか、そういうところからチャンスを掴んでいかないといけない時代です。厳しいですが、僕もチャンスを活かして頑張っていきます。

−次にお会いするときは、ディレクターズチェアに腰掛けている加藤監督、ですかね。

いやー、箱馬にしておきます(笑)

−加藤さん、お忙しい中たくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

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加藤卓哉監督デビュー作 現在製作中! 

「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM FILM2015」で見事準グランプリを獲得し、資金支援のチャンスを掴んでいよいよ製作される、加藤卓哉監督の映画第1作!

TCP

タイトル:『裏アカ』

あらすじ:SNSを使う若者の3割が持つという裏のアカウント、通称「裏アカ」。そんな裏アカを持ってしまった30代の女性・真知子は、若い男とのセックスに溺れる一方で、元夫との後悔にもがくが…。欲望と理性の間で彷徨いながらも生きていく女性を描いたラブストーリー。

『裏アカ』は原作もなければ、監督も無名。だから、キャスティングでインパクトを!」と語る加藤監督。“女優を口説ける本”にするため、現在鋭意脚本直し中とのこと。一体どんな女優さんが主人公・真知子を演じることになるのでしょうか!? 乞うご期待!

映画『裏アカ』加藤卓哉監督インタビュー 「40歳までにデビューできなかったら、この業界から足を洗おうと思っていました」

【エントリー受付中】「本当に見たい映像作品企画」急募! TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM2016

【加藤卓哉さん プロフィール】1978年生まれ。東映株式会社 東京撮影所 第二製作部所属。大阪府立大学を卒業後、ソニーに就職し、エンジニアとしてゲーム機開発に従事。東映に転職後、『劔岳 点の記』『孤高のメス』『わが母の記』『あなたへ』『くちびるに歌を』『プリンセス・トヨトミ』など数々の作品で助監督を務める。現在、初監督作品となる『裏アカ』を鋭意製作中。

(取材・文 / 斉藤聖 撮影 / 辻千晶)

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  • Nodoka
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    説明的
  • ハロー
    3.2
    山登りはしたことはあります。とはいえ自分から積極的にしたことはありません。山登りといっても登山みたいな大層なことはしたことはありません。富士山に一度くらいは登ってみたいなぁなんて思ったこともありましたが、今じゃ微塵も考えていません。そんな私でも登山って凄いなぁって思いました。 美しい山🏔️
  • てぃんぽくん
    3.3
    つまらない。 テーマは秀逸、俳優は豪華、ロケもちゃんとやってるのにどうしてこんなにつまらないのか、、、 ぶつ切りの編集、地味すぎる演出がダメな気がする。 登山趣味で劔岳登頂経験もあるが、それでも見ていて苦痛だった。 これが日本アカデミー賞監督賞?ふざけんな。
  • じゃお
    4
    見聞がひろがった
  • MiYA
    3.5
    久々の視聴。剣岳がいかに難攻不落か。頂上は急峻な崖の上にあり、どこからもアクセスできない。しかもろくな装備も情報もない明治時代。これは立派な不可能ミッションです。 自然の脅威をとらえながら、地図を作るという崇高な使命を持つ誇り高き男たちの姿のしっかり描かれます。木村大作監督による映像も美しく、申し分ありません。 ケチをつけるならば、どこに突破口を見つけて登頂するのかという「不可能ミッション」に対する回答が弱い(それなら最初からそうすれば?という呆気なさ)。軍の手のひら返しがありえなくない?とか、手旗信号のメッセージ長過ぎない?とか、ディテールの不自然さも気になりました。ちょっと勿体ないな。
劔岳 点の記
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