森田剛がシリアルキラーを怪演!『ヒメアノ~ル』が描く狂気は僕たちの隣に潜んでいる

2016.05.30
邦画

コミュニケーション不可能なものほど恐ろしい

つい最近の出来事ですが、東京都・小金井でタレント活動をしていた女子大生がストーカーに刺傷される事件がありました。マスメディアでもインターネットでも非常に関心が高く大きく取り上げられました。

事件発生当初は彼女をアイドルと報じるメディアが多かったですが、徐々にタレント活動をしている女子大生と呼び方が変わっていきました。この呼称の変化とメディアの報道の問題点について吉田豪さんは以下のように語っています。


そもそも、地下アイドルでも女子シンガーソングライターでもどこのジャンルでもそうだけど、世の中には他人の感情を理解できない、常識も通用しない、自分のことしか考えていないタイプの人間が一定数紛れ込んでいて、今回の事件はそういうある種の病を抱えた人間によるストーカー犯罪だから、「やっぱりアイドルの接触ビジネスには問題がありますね」みたいな話に着地させてもしょうがないんですよ。(アイドルでもないしヲタでもない!小金井刺傷事件の報道に感じるモヤモヤ|ほぼ週刊吉田豪より)

吉田豪さんの論点は、この事件はSNSなどによって距離感を間違えたアイドルとファンの間にのみ起きうる特殊なケースではなく、例えばカフェの店員であっても、どこでも誰の身にも振りかかる可能性のあるものだ、ということです。
社会には一定数コミュニケーション不可能な、理解を超えた行動をしてくる人間が確実にいます。それに対してわかりやすい答えを求める気持ちは誰にでもあると思います。なんでもいいからわかりやすい理由があった方が安心できるからです。理解不能なものほど恐ろしいものはないからです。

本作『ヒメアノ~ル』は常人には理解の及ばない連続殺人を描きます。本作の主な登場人物は、ビルの清掃員やカフェの店員などありふれたものばかりでアイドルのような「特殊な人」は登場しません。特殊な世界の、特殊な人たちの物語ではなく、僕たちの隣人とも言えるような人達が連続殺人に巻き込まれていく様を描いています。
ヒメアノ~ル1

原作で描かれる森田の内面描写を削ぎ落とした映画版

本作は古谷実の漫画が原作。シュールな笑いと乾いた殺人が一つの世界に同居する原作のエッセンスを、きっちり取り込んでいます。ストーリーこそ原作とは違うオリジナルの展開を見せますが、その世界観はかなり原作のそれに迫っています。
映画化にあたり最も重要な脚色のポイントは、森田剛演じる連続殺人鬼・森田の内面描写でしょう。原作では森田のモノローグや過去のエピソードなどもふんだんに描かれ、森田単独のエピソードも数多いですが、映画はそうした森田の内面描写を極力抑えています。その理由として吉田恵輔監督はこう語っています。


原作では森田の内面部分をかなり描いているのですが、それは映画的ではないと思ったし、それを中途半端に語ってしますと、殺人犯を擁護してしまうものになってしまう恐れももある。分からないものは分からないし、共感できないものは共感できない。(プレスシートのインタビューより)

原作では、読者も森田に、ある程度理解の可能性を感じるのですが、映画ではとにかく得体の知れない男として描かれます。どういう思考回路になっているのか、動機は何なのか、理解するための十分な情報が提示されず突き放した態度で描かれています。

ストーカーとは一方的な動機によるコミュニケーション不全から起こるものだと思いますが、そうした姿勢は本作の森田にも通じるものがあります。単純な会話でも一見キャッチボールが成立しているようで、どこか別のことについて語ってしまっているようなズレたような印象を抱かせます。

そうした理解不能な人物を今作が単独での映画初主演となる森田剛が見事に演じています。かつて蜷川幸雄に「野ねずみのようと評された(*1)こともある森田剛ですが、本作を見るとその意味がよくわかります。この社会に確かに存在するどこにでもいそうな男なのに、社会に居場所を持たない野良のような雰囲気を醸し出しています。それが無理なくとてもリアルに感じられるのです。

森田剛は、舞台でもテロリストや人斬りなどアウトロー的な役どころを演じることが多く、テレビドラマなどでも他の役者が躊躇するような難しい役どころもこなしています。本人も「人としてダメな人を描く作品が好きだ(*2)、とも語っていますが、彼の役者としての特性が存分に発揮された作品と言えるでしょう。

日常と非日常が表裏をなす構成の妙味

本作の最大の特徴は、デートや仕事のような日常と殺人のような非日常が表裏となっている点です。
監督は「殺人事件のニュースが流れる裏で、バラエティが放送されているような紙一重というか、バランスの悪さを意識した(プレスシートより)」と語りますが、本作はタイトルコールが映画中盤に置かれていて、それを境に、まさにチャンネルを突然切り替えたかのようにガラリと雰囲気が変わります。

ヒメノアール01

前半パートはラブコメディのような雰囲気が一転、後半では陰惨な殺人の連続となります。この切り返し方に吉田監督の振り幅の広いセンスが伺えます。塚本晋也監督の現場を経験した後、監督としてデビューした当初は狙った底意地の悪い作品を撮りながら、最近はハートウォーミングなラブコメディも撮ってきた監督の二面性が垣間見え、そんな表裏を意識した演出が本作の随所に見られます。

実際に僕らの過ごすこの日常も一皮むけば欲望のかたまり。普段平和に過ごしているけれども、実は得体の知れない危険はそこかしこに潜んでいて、何かの拍子に出会ってしまうこともあるのかもしれません。
そうした理不尽な狂気も理解可能な理由があれば、少しは救いがあるかもしれません。しかし、森田に対するそうした理解はクライマックスの最後の最後まで観客には明かされることはありません。

本作は決して僕たちの日常から遠く離れた場所の出来事には思えない作りになっています。むしろ我が事のように受け止めるサイコスリラーであり、自分たちの日常も何か得体の知れないものに思えてくる、感性を侵食してくるサイコスリラーです。

ヒメノアール03

『ヒメアノ〜ル』

ヒメアノ~ル

5月28日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開

(C)古谷実・講談社/2016「ヒメアノ~ル」製作委員会

(*1)舞台『血は立ったまま眠っている』初日会見(女性自身)
http://jisin.jp/serial/エンタメ/エンタメ/14281

(*2)V6森田剛を殺人鬼役に起用した理由――映画『ヒメアノ~ル』監督・吉田恵輔×森田 剛(日刊SPA)
http://nikkan-spa.jp/1118192

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    きつい。グロい。理解できるものがなにひとつない。吉田監督作品だから見ましたけど。
  • tomijun
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    記録
  • チャイティーラテオールミルク派
    3.3
    ヒメアノ~ルから、、 吉田けいすけ監督の作品を溯って鑑賞したくなりamazonで購入。中年男が女子高生に恋?(ストーカー的に)する映画。 完璧アウトな愛情表現だが、途中はいい奴に(刺してるけど)なっているが、最後でまた歪んだ部分が出てしまう。 これで恋が成就するようであればいかにもドラマ的だと思わせておいて、最後はサッと一瞬。
  • mmmmmichan
    2.5
    吉田恵輔監督の映画ぞわぞわ レンタルがなくて、レンタル落ちの中古DVDを買ってみた
  • niconico
    3.1
    エログロ含むコメディタッチなストーカーホラー? こんなオッさんが近くにいたらコワイ。 いやー、蒼井そらさんの彼氏のサイテーっぷりも吉田監督らしくて良いなあ。 この時から、どうしようもないメンズを描くのが上手いんだ。
  • 岸ヰ了
    -
    吉田恵輔監督のデビュー作。いやはや、これには本当に参りました。この時点で、こんなに色々と揃っていたとは……! ブレなさと進化/深化の綯い交ぜ加減がえげつないッス。 中盤辺りで、「この後、どうなっちゃうんだろう?」と思っていたら、マジで衝撃的なラストで、まるで背後からいきなり……みたいな気分に。何とも、解釈を委ねられているなぁ、と。
  • TomoyukiSuwa
    3.5
    カーテン越しのロマンに尽きる!
  • 片腕ファルコン
    3.0
    あぶなーい!! 蒼井そら、うしろー!!(志村ー、うしろー!風) 偶然にも今話題の問題作『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督のデビュー作なのね!! という事でスケベ心でこの映画を選んだワケではなく 吉田恵輔監督だから参考作品として見た、という事にしておこう。。 何がスゴイってストーカーの域を超えた変態、痛い系グロ、両方既に備わってるじゃないか!!この監督、変質者を撮るのがウマイですね。。 セーラー服の女装癖もある中年男は同じ電車に通う女子高生・蒼井そらに恋して無謀にも手紙を渡し即撃沈。そこから電車内で暴挙に出るワケですが、そこからとんでもなく痛いハプニングと偶然が重なり合いとんでもない結末を迎えます…!! このオッサンが『ヒメアノ〜ル』の森田君とムロさん両方を担ってるワケですね。。。 60分弱の作品だしチープだし薄っぺらくはあるのですが…後半から予想不可能な展開を打ち出してるので見てて飽きはきません!!純愛ストーリーと言えなくもないです。。たぶん。 ※まさかの蒼井そら・・・おっぱい出しません!!お子様も安心。(絶対安心ではない..)
  • kitanoG
    4.2
    記録 33
  • 3.3
    同じ電車に乗る女子高生杏子に片思いしている益雄。 隠し撮りした杏子の写真を自室の壁一面に貼り眺めている日々。 ある日、妹に告白出来ないでそんな事をしている人はストーカーと言われ、キレた益雄は杏子に盗聴器を仕込んだぬいぐるみを杏子に渡し告白する。 盗聴器から聞こえてきたのは益雄の悪口だった。 ショックを受けた益雄はナイフを片手に電車の中で杏子に痴漢をするがアクシデントで杏子を刺してしまう。 病院で男女同室は無い様な? 盛り上がりに欠けているものの、益雄の気持ち悪さはすごい。 吉田監督の、周りにいるよねこういう痛い人はデビュー作から健在。
  • あいり
    2.4
    吉田監督はじめじめした気持ち悪さ?出すのうまいな〜〜 きのうの夜寝る前にこの映画をみて、朝起きてまだ気持ち悪かったのでさわやかさを求めて君に届けみたくらい気持ち悪かった。
  • きもちわるいやまさき
    3.0
    吉田監督がずっと描いてる人のダメさと愛おしさと、あとフェティッシュなエロさ、と言う点はデビュー作であるこの作品からブレてない印象。
  • キイチ
    3.7
    結構好きでした、吉田監督は女の人撮るのうまいな〜と思った。 中学の頃、みんなの夜のヒロインだった蒼井そらが主演だけど、この映画は全然エロくないから凄い! 中年オヤジの狂った思春期の熱とジメジメした夏の感じもまたイイ
  • トカゲロウ
    3.6
    吉田恵輔監督のデビュー作。 なかなかDVDが見つけられなくて観ることを諦めていました。 数年前のこと、少し離れた所のミニシアターが閉店するとのことで、何気なく取ったパンフレットを見るとなんとこの作品がラストに上映されるという。 観に行くと最後の一日だからか、思い入れある地元の紳士淑女で席が埋まっており若い人は私だけでした。 身なりの良い服装の紳士淑女たちは映画が終わる度に拍手で映画館に感謝を伝えます。うーん、部外者の自分には居心地悪い。 さて、今作品ですが「主演蒼井そら」でわかるように普通の作品ではありません。怪作ですね。 女子高生に恋したピュアな男性が純粋故に狂気に囚われていく話です。 この頃から吉田恵輔監督の映し方が決まっていますね。男目線から見た女性の身勝手さ、何気ない日常のエロス、男の性欲と純真さ、湿度のある照明、乙女のような恋する描写、ホラーとコメディの表裏一体の様。 まぁ、中々に気持ち悪い映画ですが相変わらず見終わった後、棘が刺さったような感覚が胸に残ります。 B級作品を良く観る人には薄く感じてしまうかもしれませんが、この監督さんの作風は人のどうしようもなさあるあるなので常識的な人にはすぐそばにあるような居心地の悪さを感じるかと。 終わった時、何故かこの映画にだけ紳士淑女の拍手はありませんでした。 閉幕にコレを持ってきた映画館の度量に疑問を持ちながらも拍手したいですね。
  • Cezan
    -
    純愛ストーカー映画。 これはとてもいいですよ、蒼井そらが出てるのにエロくない。 むしろ同世代に相手にされない、まともな恋愛のできない現代の情けないロリコン男を痛烈に描く社会派ムービー
  • シュンギク
    3.0
    吉田恵輔監督のデビュー作。 どこかしら「イタい」部分があって非常に人間臭い登場人物を描く上手さは今作から健在。 蒼井そらの女子高生のハマりっぷりも良かった。 吉田恵輔監督の作品だと女優さんの色気というか、性の匂いが艶めかしくリアルに演出されてより魅力的になる。 60分程度で気軽に観られるのも良い。
  • わたし
    2.7
    病院でお菓子を交換しあうところのお菓子の銘柄とか漫画とか細かい部分がありそうな感じで好みだった。 吉田監督の男の人ってみんなどうしようもないけど、これはほんとにどうしようもない。相手のことをよく知らないで雰囲気だけで、結局すべてが幻想なんだよね。
  • kaname
    2.5
    ある変態男の歪んだ愛の形を描いた物語。 所々、笑える部分はあるんだけど…基本的には気色悪さが際立つ何とも救いのない内容w 特に成長する訳でもない主人公が、ある意味清々しい気も…それはないかぁ…w
  • 映画感想日記
    3.0
    吉田恵輔監督のデビュー作ということでこの頃から男の背徳なところを突いてくる作風はでてました。 「さんかく」「机のなかみ」「純喫茶磯辺」に比べるとちょっとシュールでスタイリッシュだったような気がする。 蒼井そらってのが深夜感を強める。60分ないので退屈にならずに観れた。
  • ysak
    3.6
    吉田恵輔デビュー作。居心地の悪さみたいなものがテーマなんだろな。あんまエロではないです。
  • moriko
    1.5
    こわい
  • ナオフェッサーX
    2.9
    切ない!
  • TomokiTakeuchi
    2.0
    最近お気に入りの吉田恵輔のデビュー作。相変わらず気持ちいいキモさ。蒼井そらが可愛い。実際やるかやらないかで、こういうことはみんな考えるんだろうな。
  • 鎌谷
    2.5
    (主人公が魅力的かは一回置いておいて)人間味溢れるキャラクター造形が上手い、吉田監督のデビュー作。 (最新作「麦子さんと」まで吉田作品に続けて出演されている)三島ゆたかさんの演技力によって、男性視点でエロティックな話なのに、なんだか哀愁がただよってきます… それでも、痴漢は許せませんよ!少しグロあり(オーバーな表現として)
「なま夏」
のレビュー(76件)