話題作が相次ぐ発表会も世界配信
日本アニメは長年世界で人気があるのだが、ここ数年その勢いが加速している。これまでも『ドラゴンボール』や『ポケモン』、『NARUTO』など人気アニメのキャラクターを海外の街角で見かけることは多かった。しかし今や海外では『ソードアート・オンライン』や『ユーリ!!! on ICE』など、「こんな作品まで!」といった少し濃いめの作品も日常だ。
アニメの人気の広がりに、大きな役割を果たしているのが映像配信プラットフォームである。なかでも世界最大級の動画配信サービスNetflixの動きは活発だ。2015年の日本上陸以降、次々と日本アニメをラインナップに投じる。
10月27日、六本木で開催された「Netflix アニメフェスティバル 2020 ~君とみるアニメの未来~」は、そうした現在のNetflixの勢いを感じさせた。イベントは2部構成。午前中に2020年後半から21年に向けた新作ラインナップの新情報を一挙に発表し、夜からは人気アーティスト・声優を多数ゲストに招いてライブ&トークを実施。「豪華!」の一言だ。いずれの様子もYouTubeを通じて全世界へ配信したのは、アニメファンがグローバルに広がっていることを如実に現している。
イベントでとりわけファンを驚かせたのは、新作タイトルの多さだ。この場が制作発表になった『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』、『天空侵犯』、『極主夫道』など新規5作品を含めて16作品が取り上げられた。そのすべてが全世界独占配信である。
Netflixはこれまでにも機会があるごとにアニメの配信作をまとめて発表会してきたが、一回に発表される数としては格別だ。「アニメ業界におけるNetflix」、「Netflixにおけるアニメ」、それぞれで存在感が高まっている。
“ゴジラ”から“パシフィック・リム”、“リラックマ”まで
発表タイトルからは、Netflixアニメならではの傾向がいくつか見られた。ひとつは大型IP重視だ。『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』はその代表だ。日本の特撮のアイコン「ゴジラ」が完全新作でTVアニメシリーズになり、しかもそれがNetflixアニメというのはかなりのサプライズだろう。アニメーション制作が『鋼の錬金術師』のボンズと『BEASTARS』のオレンジ、アニメに詳しい人ならふたつの著名スタジオのタッグだけでもググっと来るに違いない。
シリーズ累計出荷本数1億本以上の人気サバイバルゲームからアニメシリーズとなる『バイオハザード:インフィニット ダークネス』、巨大ロボット兵器イェーガーとKAIJUとの闘いを描いたハリウッド映画『パシフィック・リム』の初のアニメシリーズ『パシフィック・リム:暗黒の大陸』も、大型IPである。人気コンテンツをさらにアニメで拡大していく、そうしたNetflixの戦略が窺える。
人気のシリーズをさらに続けていくものも多い。視聴者のニーズに最大限応えるというわけだ。今年夏、全世界での人気が話題となった「刃牙」シリーズは、早くも第3部の『範馬刃牙』に突入。Production I.Gによるクライムサスペンス『B: The Beginning』のセカンドシーズン『B: The Beginning Succession』も場面写真を公開と、いよいよ姿を見せてきた。
ストップモーションで人気を博した「リラックマ」の新シリーズ『リラックマと遊園地』の制作発表も今回の目玉のひとつだった。新作に合わせて、作品のブラッシュアップも進める。本作では脚本に人気劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠と角田貴志が参加する。
Netflixアニメは、ジャンルも国境も越え始めた
2017年の『BLAME!』をスタートとするNetflixアニメは、当初は「アクション」や「サスペンス」、「SF」、「ファンタジー」といったイメージが大きかった。ハイティーンから20代のヤングアダルトを主なターゲットにした刺激の強い作品である。Netflixは実写ドラマ・映画でこうした分野を得意としてきたので、アニメでもそうした作品が期待されていたのだろう。
実際に『DEVILMAN crybaby』を筆頭に、当初のヒット作にはこのジャンルの傑作が多い。その流れは健在で、今回の発表でもSF漫画の傑作を原作とする『スプリガン』や、人類とヴァンパイアの対立する世界を舞台にする『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』といった期待作がある。
しかし10月27日の発表タイトルには、新しい流れも見えてきた。例えば原作者のヤマザキマリ氏が自から登壇し意気込みを語った『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』だ。古代ローマ帝国の浴場設計師ルシウスが現代日本にタイムスリップして日本の風呂文化を学ぶというコメディ漫画のアニメ化だ。また『極主夫道』は、伝説のヤクザが専業主夫になるという日常をアットホームな笑いと共に描く。
「楽しく、笑えて、温かい気持ちになる」、Netflixアニメにはそんな作品も並ぶ。これまでも『アグレシッブ烈子』や『斉木楠雄のΨ難』といった笑えるヒット作もあり、「コメディ」、「ギャグ」はNetflixアニメの人気ジャンルのひとつになりつつある。
ジャンルの広がりは「コメディ」に限らない。今年夏にはファンタジックな青春映画『泣きたい私は猫をかぶる』が独占配信された。2021年配信予定のSFファンタジー『エデン』は、小さな子どもや家族でも楽しめる作品になりそうだ。
Netflixアニメは急速にラインナップのジャンルを拡大し、“アニメ”とよばれる作品全体をカバーしようとしている。ヤングアダルトだけでなく、誰もがアニメを楽しめる状態を準備する。
日本でサービスを開始したのはわずか5年前、当時と現在のNetflixではその短い期間にもかかわらず、アニメへの取り組みかたが大きく変化している。Netflixアニメは、絶えず変わり続けているのだ。
さらにNetflixならではの作品もある。「ボーダレス」といった言葉で表現したいタイトルたちだ。例えば『エデン』では、プロデューサーはアメリカ、監督やキャラクターデザイン・脚本は日本、アニメーション制作は台湾、さらにフランス、オーストラリア、中国からといった様々なスタッフが参加する。もはや作品の国籍をどう表現していいかもわからないグローバルな体制で作られている。
日本の戦国時代に実在したアフリカ出身のサムライを主人公にする『Yasuke -ヤスケ-』はアメリカ人の監督に日本のスタジオMAPPAがアニメーション制作を担当、『パシフィック・リム:暗黒の大陸』もハリウッドの人気IPをポリゴン・ピクチュアズがCGアニメにする。『異界探偵トレセ』は、フィリピン人のクリエイターがフィリピンで制作したアニメスタイルという異色作である。才能があれば、国境など考えない。そんな姿勢がある。
日本アニメはこれまでもグローバルで人気があったし、アニメーション制作での海外との協力も長く存在した。昔からグローバルであったが、その多くは海外から日本への制作発注、日本から制作工程の海外外注とどこか垂直な関係あった。作品人気の波及も日本から海外へのほぼ一方向だった。
しかしNetflixアニメでは、双方向でインタラクティブな関係でアニメを作り、文化も広がる。世界中のアニメを愛するみんなで、アニメ文化を育ていこうというわけだ。
Netflixで変わるアニメ、アニメで変わるNetflix
アニメの増加、ジャンルの拡大には、もちろん理由がある。とにかくアニメはNetflixでよく見られている。「Netflix アニメフェスティバル 2020」でNetflixアニメの現状を報告したアニメ チーフ・プロデューサーの櫻井大樹氏は、その驚くべき数字を紹介した。
ひとつは世界におけるアニメである。全世界のNetflix契約世帯のうち1億世帯以上が、過去一年間にアニメを再生したという。2020年9月末現在で、Netflixの全世界契約世帯数は1億9500万世帯だから、契約世帯の半分以上がなにかのかたちでアニメを視聴したことになる。さらにアニメを視聴した世帯数は過去一年間で50%も伸びた。認知度が高いだけでなく、急速にアニメのニーズが広がってもいる。
日本国内でもアニメは最も人気の高いジャンルのひとつだ。もしNetflixのユーザーであれば、日々公開されるTOP10の上位をアニメが占めていることに気がつくだろう。実際に国内500万の契約世帯の半分以上が月に5時間以上のアニメを視聴している。これがNetflixでオリジナルアニメが増える理由だ。
Netflixの配信は新たなアニメ視聴者を生みだし、その視聴実績がさらに作品拡大につながる。Netflixはスパイラル状にアニメを世界に広げていく。
視聴者も作品数も増えるなかで、最近は「Netflixは日本のアニメを変えたのか?」といった話題がよくあがる。「グローバルの視聴者を意識した作品」、「アニメ予算の高額化」や「資金調達の多様化」、あるいは2018年にスタートしたアニメスタジオとの包括的業務提携による制作体制の変化など、様々な答えがある。
そうした質問の一方で、もうひとつ重要なテーマが見落とされている。アニメジャンルが成長するなかで、Netflixも「アニメ」によって急速に変わりつつある。Netflixは日本で生まれた「アニメ」というジャンルの人気と潜在ニーズの大きさに気づき、メインカテゴリーのひとつに押し上げた。
いまやNetflixは「アニメ」における世界の主要プレイヤーとみられている。5年前であれば、それはNetflix自身も想像もしていなかったはずだ。
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文/数土直志