1979年の年末に、ルパン三世の劇場用長編映画第2弾が公開されました。その作品こそ、幅広い層に知られるあの『ルパン三世 カリオストロの城』です。
なんども繰り返し観ているという人も多いであろう、『ルパン三世 カリオストロの城』は、実は今や大巨匠である宮崎駿が監督を初めて務めた長編映画。本作は当時の宮崎駿を取り巻く様々な作品から影響を受けていることがわかる映画でもあるのですが、それを知っているとより『ルパン三世 カリオストロの城』の面白さが増すので、今回はそんな『ルパン三世 カリオストロの城』の知っているとより楽しめる秘密を紹介していきます。
『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)あらすじ
モナコの国営カジノから大量のお金を盗み出して逃げ切ったルパンと次元。喜んだのも束の間、その大量の札束は精巧に作られた偽札“ゴート札”であることに気づく。
ゴート札の出処と噂されるカリオストロ公国に向かったルパンと次元だったが、入国早々にドレスを着た少女が黒服を着た男たちに追われている所に遭遇する。なんとか、男たちを撃退して、少女の救出に成功したルパンだったが、新たな追っ手によって少女は結局さらわれてしまうのだった。
ルパンは少女の残した指輪から、彼女がかつて自分を救った恩人であったことに気づく。
ルパンは恩人“クラリス”を救うべく、彼女のとらわれた城への侵入を試みる……。
※以降、『ルパン三世 カリオストロの城』のネタバレを含みます。
カリオストロのルパンも一つの顔でしかない?
複数回TV放送なども果たしている映画なだけに、ルパン三世の劇場版シリーズでもっとも有名な作品が『ルパン三世 カリオストロの城』であることは間違いないでしょう。
とはいえ、ルパンファンによっては、本作こそルパンの代名詞的な作品となるのは複雑な気持ちになる人も居るのも確かです。なぜなら、原作を含め数多くのメディア展開を果たしてきたルパンは、その作品によって作品全体の作風も、ビジュアルも全然異なるからこそ。
そもそもルパン三世は、漫画家モンキー・パンチによって、「漫画アクション」で連載されていた大人向けの漫画でした。殺人を犯したりといった過激な描写や、いつもは手玉に取られている不二子に対して逆にぞんざいな扱いをしていたりと、『ルパン三世 カリオストロの城』で描かれるルパンの印象とは、かけ離れたキャラクターとして描かれています。
変装が得意でいくつもの顔を持つルパンは、作品という枠ごとにも顔を変えて活躍する存在なのです。
ルパンが緑ジャケットを着ているワケ
そんな複数のシリーズが制作されてきたルパンシリーズは、シリーズごとに異なるジャケットの色を着ているのは有名な話。1970年代初頭に放送されたTVアニメの第1シリーズでは緑、70年代末期〜80年代初期に放送された第2シリーズでは赤、80年代中期に放送された第3シリーズではピンク、そして近年制作されている2016年以降のシリーズでは青のジャケットを着用しています。もともとは、企画会社の違いを明確させるために生まれた違いだったのですが、いつの間にかシリーズや時系列を表すアイコンとして定着していきました。
そんな放送時期からもわかる通り、『ルパン三世 カリオストロの城』は、TVアニメの第2シリーズが放送されていた時期に公開されたので、本来であれば赤色のジャケットを着用しているはずです。しかし、なぜかこの映画では緑色のジャケットを着用しています。なぜなのでしょうか。
そこには監督である宮崎駿のこだわりがあるのかもしれません。
もともと、宮崎駿監督がTVアニメのルパン三世に携わっていたのは緑ジャケットの第1シリーズ。第2シリーズの制作にも参加はしているものの、照樹務という別名義で参加していることや、参加したエピソードである第145話『死の翼アルバトロス』ではルパンは、ほとんどジャケットなしの半裸姿であったり、第155話『さらば愛しきルパンよ』では、本編の大半を偽物のルパンが出演していたりと、赤いジャケットのルパンをなかなか描かないでいます。宮崎駿にとっては、緑色のジャケットのルパンこそが自身の描くルパンであることを示していたワケです。
自由人であるルパンの痛快さ
そんな宮崎駿の描いた『ルパン三世 カリオストロの城』のルパンの魅力はなんと言っても、その自由人として生きる姿ではないでしょうか。
偽札とはいえ、大量の札束に囲まれた状態からスタートしたルパン。もはや始まって間もなく大勝利の状態なのですが、それが偽札であることが分かるとたちまち顔色を変えて、その大量のお札を捨ててしまいます。精巧に作られた偽札であれば、それが本物でなかろうと喜んでしかるべき瞬間(使用することができるため)なのですが、そこに満足しないルパンからはすでに、お金による成功という経済体系からは外れた世界に居る姿を描いています。
そんな大金を失ってまで出向いた先で、なんの為に奮闘するかと言えば、偽札の製造元を壊滅させるという、もはや正義の味方とも言えるような活躍をします。しかしそれは決して、正義心からではありません。あくまでも偶然出会えた恩人を救うことが第一。クラリスを救うべく命を懸けて戦い、カリオストロに残された謎を解き、結果的に大勝利を掴みとります。
ハッピーエンドを迎えたルパンたちは、結果的に物質的な何かを得たわけでもなければ、その地に残って末長く幸せに暮らすわけでもありません。その地に残る必要がないと分かれば、次なるスリルを求めて、颯爽と次の地へ向かって行きます。
定住し、ある決まった集団の中で暮らし続けると、ついその社会がしがらみに感じられてしまうもの。そんな時にはなおさら、ルパンたちの足取りの軽さが羨ましく感じられます。そう言ったところでも、長きに渡り本作が親しまれる秘密が残されているように思います。まさに“気持ちのいい連中”なんですよね。
カリオストロに影響を与えた映画が存在する?
『ルパン三世 カリオストロの城』のヒーローぶりを観て、想起させられるアニメーション映画があります。それが『王と鳥』(1980)です。
本作は傲慢な王様が支配するタキカルディ王国で、絵画の中から逃げ出した煙突掃除の青年がその王様と戦い、ついには王国自体を崩壊させ、人々を自由に導くという物語。
それだけのストーリーであれば、類似した作品は数多くあるでしょうが、わざわざこの映画を思い出すのは、作中に登場する意匠の多くが『ルパン三世 カリオストロの城』のものと類似しているから。スイッチを押して抜ける床、城の城壁に沿って備えられた長い階段、明らかに宮崎駿が影響を受けているであろう演出が散見できます。
『王と鳥』は1980年製作の映画なので、『ルパン三世 カリオストロの城』よりも製作年は後じゃないか、という人も居るかもしれませんが、『王と鳥』という作品は、その多くのシーンを同じくする前身の『やぶにらみの暴君』(1952)という映画が存在しており、宮崎駿は本作を以前に鑑賞していることを明らかにしています。物語や登場人物こそ多くが異なる作品ではありながらも、そのディテールからは明らかに『ルパン三世カリオストロの城』が『やぶにらみの暴君』の影響下にあることが、かなりわかりやすく表れているので、必見です。
偽札で世界を転がしていた伯爵の悪事を暴いたルパンの姿は、『やぶにらみの暴君』で国を支配していた傲慢な王を倒した煙突掃除の青年の存在とも被ります。ある意味、『ルパン三世 カリオストロの城』はそんな『やぶにらみの暴君』の日本版リメイクのような存在とも言えるのかもしれません。
残念ながらこの『やぶにらみの暴君』は監督の意向によりお蔵入りとされていますが、『王と鳥』で多くの類似した描写を確認することができます。『ルパン三世 カリオストロの城』が面白かったという人は、ぜひこの『王と鳥』も観てみると、新たな発見があるのではないでしょうか。
※2023年4月28日時点の情報です。