アナログの職人技を見よ!テンポ・間・表情。『セトウツミ』で見直す会話劇の贅沢

「なあ、このポテト長ない?」

菅田君のこの呟きから始まる予告&特報の威力!

これを見て、見に行くつもりなかったのに行っちゃったよ、という人も多いのではないでしょうか。かく言う私もそのタイプ。

そんな『セトウツミ』は思わぬ(失礼!)いやいや、見事大ヒットとなっているようです! 大ヒット御礼として、特報3の「スタンディングオベーション」に1シーン追加した特別版が公開になりました。

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2人の高校生が石段に座って「喋るだけの青春」を楽しむだけの映画

『セトウツミ』の主な登場人物は高校2年生の、ちょっとアホでツンツン頭の瀬戸(菅田将暉)とクールでインテリな内海(池松壮亮)。クラブをやめてヒマな瀬戸と、学校から塾までの時間つぶしを探している内海は、毎日放課後の1時間半、石段に座って「喋るだけの青春」を楽しむ。

それだけ。ホンットにそれだけです。

基本ほとんどが、菅田君と池松君が石段でダベッてます。しかも内容もいたって平和。世間話や自分の家の話、好きな女の子の話。

短編をつなげる構成で飽きないし、車が通る音や、信号のピッコーンピッコーンという音も、絶妙なBGM。無駄にドラマティックな音楽(ボレロ的な?)も素晴らしい!

とはいえ、これを製作するのは、かなり賭けだったはず。密室劇ではないのですが、シチュエーションがほぼ固定されています。原作漫画ファンの友人も、映画化の情報を聞いたとき首をかしげておりましたもの。

「これ、映画として成り立つん?」と。

成り立ちましたね、しかも見事に!!(笑) こういった会話を中心とした映画は、実は名作が多いのです。飾らない分、俳優と脚本が本領を発揮するから。

セトウツミ ポスター画像

(C)此元和津也(別冊少年チャンピオン)2013 (C)2016映画「セトウツミ」製作委員会

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贅沢1)俳優の演技合戦にロックオン!

菅田君と池松君、二人とも10月公開の『デスノート Light up the NEW world』に出演しますが、『セトウツミ』の姿はカケラもないです。もはや別人です(泣)。予告を見くらべると、いやはや、二人の演技力の凄さが分かりますね。

『セトウツミ』の勝因は、間違いなくこの二人のキャスティングにあったと思います。

 

(C)大場つぐみ・小畑健/集英社 (C)2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS

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『セトウツミ』と同じく、主役2人ががっぷり組んで話が展開していくパターンの名作といえば『笑の大学』。

好評だった三谷幸喜の舞台を映画化したもので、舞台では、検閲官を西村雅彦、劇作家を近藤芳正という芸達者コンビで見事「丁々発止」な掛け合いを見せていました。

滑稽な検閲のやりとりに私たちはクスクス笑い、友情が見えて心がほんわりしたところに、苦い結末が。死人も出ず、爆撃のシーンもありませんが、二人の会話から戦争が浮き彫りにされ、そして泣かされます。映画では、検閲官を役所広司、劇作家を稲垣吾郎が演じています。

笑の大学

何をやらせても安心100%な役所広司はともかく

「ご、吾郎ちゃん大丈夫か?」

そう思った方も多いのではないでしょうか。出ずっぱり、しかも膨大なセリフ量。役所さんと比較される心配も含め…。

しかし、彼は役所広司という名優相手、しかも逃げ場のない「会話劇」に引っ張られ、ネックだった滑舌の悪さを見事クリア。舞台の近藤さんとはまた違った、とても愛嬌のある劇作家を作りだしていました。

贅沢2)脚本家のホンキに鳥肌!!

さらに、会話劇は当然ながら脚本家の本気が見えます。その最たる例が『キサラギ』。

キサラギ

ほとんどが一つの部屋の中、しかも男性5人のやり取りで進んでいきます。

香川照之やユースケ・サンタマリアなどの曲者俳優を、小栗旬が「フツーの良心的な人」を自然体で演じつつ、全員を牽引していて見事。さらに、彼が軸となり、アイドル如月ミキの死の謎に迫る会話のテンポの素晴らしさ! 会話で張られる伏線。会話によるそれの回収。まさに「お金払って聞く価値のある台詞の応酬」です。

脚本はTVドラマ「リーガル・ハイ」の古沢良太で、彼の持ち味が炸裂しています。推理の面白さ、俳優さん達のヲタ芸熱演も併せて(笑)、何度でも見られる極上のエンタメになっています。

ちなみに『セトウツミ』の脚本は、監督の大森立嗣が兼任。こちらは此元和津也の原作をできるだけ活かしていて、それが吉と出ています。

贅沢3)共感ハンパなし!「日常あるある」

『セトウツミ』はひたすら喋るだけの映画ですが、親の離婚問題や塾漬けなど、それぞれ深刻な家庭事情も見え隠れします。けれど、そんな内容を瀬戸と内海の二人は「しゃあないやん。参ることもあるけど、それも日常やん」とフツーに喋ります。

そのやりとりがとても健全で優しくて、ホッとします。オチのない、「大阪の高校生あるある」。戦ったり悩んだり引きこもったり、若者ならではの青春の忙しさ、残酷さを見るのも刺激的ですが、そうではなくあえて日常のフツーの彼らをボーッと眺める気持ち良さもあります。

『セトウツミ』のユルさが好きな方は、行定勲監督が描く、8人の大学生の他愛ない一日がふんわり心地いい『きょうのできごと a day on the planet』もおすすめです。こちらは「大学生あるある」が描かれています。話の約半分ほどは、世間話や恋バナで、まさに内容が「きょうのできごと」をなぞる、それだけ。

けれど、それがいい。共感の極みです。

きょうのできごと

アナログの職人技に浸るべし

映画館に足を運ばなかったらを後悔するような、壮大な未来ストーリー、恐怖やサスペンスにSFX満載のドキドキ大迫力映画が素敵なことは言うまでもありません。

ですが秀逸な「言葉の応酬」から紡ぎ出される世界に酔うのも、また一つの映画の醍醐味と言えるのではないでしょうか。

テンポ・間・そして表情。映画館に足を運んだあと、DVDでも充分楽しめ、しかも繰り返し見ても飽きない。『セトウツミ』はそんな魅力に満ち溢れた作品です。

ハリウッド大作とはまた違う、アナログの職人技を堪能してください!

『セトウツミ』に関しては、以下の記事でも解説されています。合わせて読んでみてください。
なにも起きない!河原で2人の男子高生が喋るだけの放課後映画『セトウツミ』がすごい

 

※2022年2月20日時点のVOD配信情報です。

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  • みya
    4.2
    ゆるくて最高。意味を持たないものに意味ができる感じ
  • Negai1
    -
    《過去視聴済》
  • 3.6
    舞台見たので映画も。 相変わらずゆるーい会話劇と顔芸が面白い!
  • tsukiko
    4
    ゆるい、もっと観たい
  • ちびたん
    5
    数年ぶりに観た。6回以上は観ている。 神妙な面持ちの顔とか、フシがある選手権とか、いちいちセンスの良さにやられる。 映画の後に漫画を読んだらまんまだった(1、2巻)。漫画はだんだんとディープでダークになっていくけど、映画はそこはかとない切なさがちょうどいい。 最初に見た時、菅田将暉くんと池松壮亮くんの制服姿ってもう見られんやろと思ったけど、その後何回も見てる気がする(大好物)。
セトウツミ
のレビュー(72963件)