小さな一歩が、背中を押す。3.11後の福島を描く日本版『スタンド・バイ・ミー』

ハルをさがして

震災後の福島県を舞台に、誰もが経験したことのある、ひと夏の経験を通して少年少女たちの「成長」を描く『ハルをさがして』が、8月6日(土)より東京・下北沢トリウッドにて公開されました。

本作は、日本版『スタンド・バイ・ミー』とも言える青春ストーリー。福島県を舞台に、誰もが経験したことのある、ひと夏の思い出が描かれています。今回は、監督・脚本を手がけた尾関玄さんと、ヒロイン役の佐藤菜月さんにお話を伺いました!

また、作品の応援団として主人公を含む男子3人組を演じた小柴大河さん、小泉凱さん、橋本一輝さんも駆けつけていただきました!映画『ハルをさがして』の魅力をたっぷりとお伝えいたします!

『ハルをさがして』あらすじ

ハルをさがして

2012年、夏。都内で暮らす中学3年生のノボルと仲間たちは、秘かに想いを寄せるチエコからある依頼を受ける。東日本大震災後、家族と共に福島から自主避難してきていたチエコは、その際に残してきた愛犬“ハル”を一緒に探しに⾏って欲しいというのだ。ノボル達は淡い期待を胸にチエコとの同⾏を決め、ハルを探す4人のひと夏の冒険が 始まった─。

3.11の震災後、子供の立場になって作品を撮りたいと思いました

―監督をされるようになったきっかけ、また本作で企画・製作・宣伝・配給を行う「ISHIO」を立ち上げたきっかけを教えてください。

尾関監督:昔から映画が好きでした。現在「ISHIO」でプロデューサーをしている内藤くんは中学時代の同級生で、母校である石尾台中学校の名前をとって「ISHIO」と名付け、専門学校時代に自主映画を撮っていました。

ハルを探してインタビュー02

その後、お互い映画や映像の職に就いて商業映画を撮るようになったので、もう一度「ISHIO」として二人で映画を撮ってみないかと話し、今回一緒に映画を作ることになりました。

―本作が初の長編映画制作とのことですが、本作を撮ろうと思ったきっかけ、舞台を福島にした理由を教えてください。

尾関監督:まず「ISHIO」として一緒に映画を撮るなら、中学生をテーマにした作品を撮ろうというのが先にありました。それは、内藤くんとは一緒に中学時代を過ごした仲だったというのと、中学生や子供を主人公にした日本映画を最近見かけないなと感じていたので、そういう映画を撮れたら良いなと思いました。

3.11の震災が起き、いろいろ思うところがあって。福島は危ないとか、むしろ安全だっていう人とかいろんな人がいるけれど、僕はそれを子供の立場で撮りたいなと思いました。仮に僕が福島の子供で、友達を置いて自分だけ東京に避難してしまったのであれば、もう一度友達に会いに行くんだろうなという想像をして、映画を作りました。

ひと夏の経験が小さな一歩となり、観た人の背中を押してくれる

—今回のキャスティングはオーディンションだとお伺いしていますが、決め手となったポイントなどがあれば教えて下さい。

尾関監督:男子3人組の中で、主人公以外の2人を際立たせる際に、主人公とは違う手段で印象付ける必要があると思い、ヒロキ役はお芝居が上手だったのとアフロ感のキャラがいい橋本さんを選びました。マサル役の小泉さんは、オーディションの時から他の誰よりもテンションが異様に高く「こいつ面白いな」っていう直感です(笑)

主人公のノボル役は何人か厳選したんですが、小柴さんは自分なりにお芝居をしてくれるし、言われたこともその場で柔軟に対応していました。あとは、イケメンはキャスティングしないと最初に決めていました(笑)

ハルを探してインタビュー03

小柴さん:嬉しいけど、ちょっと複雑です…(笑)

逆に、ヒロインは絶対に可愛い子にするって決めていました。佐藤さんはカメラ通した時にとても画面に映えて、映像で動いている彼女を見て、即決しました。

―本作で一番こだわったポイント、伝えたいポイントを教えてください。

この作品は、原発事故後の福島の様子を描いている作品ですが、今回は、あくまでも中学生が主人公の青春映画、“3.11後の福島を生きざるをえなかった中学生“というのを撮りたかった

ハルをさがして05ひと夏の冒険を通してその子がちょっと大人になる。その大人になる変化は他人から見ると本当に小さな一歩だけど、その小さな一歩が映画を観てくださった方の背中をちょっとでも押せるような作品になっていればなあ、と思います。

自分が感じたまま演じた、東京のチエコと福島のチエコ

—女優のお仕事をされるようになったきっかけ、これまでの略歴について教えてください。
 ハルを探してインタビュー04
佐藤さん:女優を目指したきっかけは、地元の浜松映画祭のオーディションを姉と一緒に受けて、賞をいただいたことです。受賞記念でweb CMに出演したのですが、撮影時はすごく人見知りをしてしまい、言われた通りに動けなかったんです。でも逆に、姉はすごく上手にできていて、悔しさを感じた部分もあり、お芝居に興味を持ちました。

映画の出演作品は『ハルをさがして』が2本目で、初めて出演したのは『楽隊のうさぎ』という作品です。その時はまだ全然お芝居のお仕事をしていなかったのですが、浜松で撮影だったこともあり、自分自身でオーディションに応募しました。
その後、知り合いの知り合いの方の紹介で、今の事務所に入りました。

ハルを探してインタビュー05
 
―チエコをどのような人物だと感じましたか?また、演じた際に意識したことはありますか?

佐藤さん:東京に来てからのチエコは、心を閉ざしてしまって、素直になれない印象がありました。多分、仲の良かったトモミと一緒に花火をしたりハルの散歩をしたりしている、福島にいた頃のチエコが、本当のチエコなんだろうなと感じましたね。

ハルをさがして04

今回、監督と役について話すことはあまりなかったので、自分が台本を読んで感じたようにチエコを演じました。あと、チエコの若干気が強いところは、私にも似てるところがあると感じました。(笑)

—本作の中で佐藤さんのお気に入りのシーンはありますか?

佐藤さん:自分で観ていいなと思ったのが、スナックのママと話しているシーンと、一番最後、4人で歩いて行くシーンです。

ハルをさがして08

—最後のシーンは監督もかなりこだわられたのではないでしょうか?

ハルをさがして07尾関監督:そうですね。この作品は4人とも歩くシーンがすごく多いのですが、歩く順番であったり、並び順はこだわりました。最後のシーンまで、4人を並んで歩かせないと決めていたので、最後の最後に初めて4人が並んで歩く、そこがラストシーンになる、というイメージを持っていました。

—みなさん、ご一緒にお仕事されていかがでしたか?

ハルをさがして06

▼左から、小柴大河さん(ノボル役)、橋本一輝さんヒロキ役)、小泉凱さん(マサル役)

小柴さん:主役での出演は初めてだったので、本当に緊張しました!でも撮影もとてもいい雰囲気でしたし、本当にいい経験ができたと思います。

橋本さん:同学年の男の子たちと合宿形式で撮影に挑むのが初めてでした。14日間の撮影の間、一緒に過ごすのは貴重な体験でしたし、仕事の面でもメリハリをつけて挑めました。

ハルを探してインタビュー06

小泉さん:僕は、映画に出演するのが初めてだったので、いろんな人に支えられながらの撮影でした。また、祖母が福島県いわき市に住んでいるのですが、3.11以前と比べ、海に堤防ができていたり、街にあった建物がなくなっていたりして、街並みや情景の変化を感じていました。そういう体験もあり、本作には縁を感じていました。みなさんに支えられながら楽しく過ごすことができて良かったです。

尾関監督:さっきも話してたんですが、僕みんなと撮影期間ほとんど話してないんだよね。
佐藤さん:そうなんですよ!演技指導とかでは話したんですが、オフになってるときは一言も…(笑)尾関監督:やっぱりプライベートでも仲良くなっちゃうと、意識がダレちゃったり、僕もきつく言えなくなっちゃうので…申し訳ないけど、小柴くんにはきつく言っちゃった時もありましたね(笑)
 ハルを探して09
 

―監督のマイベストムービーと、今後撮りたい作品を教えてください。

尾関監督:5本くらい挙げてもいいですか…?(笑)
アンダーグラウンド』、やっぱり『スタンド・バイ・ミー』、イ・チャンドンの『オアシス』、原一男の『ゆきゆきて、神軍』、あとマーティン・スコセッシ監督映画!割とドキュメンタリーとかも好きですね。

公開中『ハルをさがして』を応援しよう!

8月6日より東京・下北沢トリウッドにて公開の『ハルをさがして』。ただいま、クラウドファンディング中です!本作や、監督の今後の活動に興味がある方は、以下クラウドファンディングにて応援し、監督との新たな輪に加わってみてはいかがでしょうか。

▼    【震災後の福島を舞台にした映画「ハルをさがして」を1人でも多くの人に届けたい!!!

▼尾関玄(おぜきげん)監督プロフィール
1984年1月生まれ。愛知県春日井市出身。2006年日本映画学校(現:日本映画大学)卒業。在学中より中学の同級生、内藤諭とISHIOを立ち上げ自主制作映画を制作し始める。以降、数々の商業映画(『麦子さんと』『猫侍』など)の制作に携わる。本作『ハルをさがして』は初めての監督長編作品となる。

▼佐藤菜月(さとうなつき)さん
1999年2月17日、静岡県生まれ。2013年、第26回東京国際映画祭・スプラッシュ部門出品作品『楽隊のうさぎ』(監督:鈴木卓彌)にて初出演ながらその存在感が認められ、本作品ではヒロインのチエコ役に抜擢される。

▼小柴大河(こしばたいが)さん
1999年12月10日、東京都生まれ。本作品ではオーディションで主人公のノボル役を勝ち取る。

▼小泉凱(こいずみがい)さん
2000年1月30日、東京都生まれ。本作で念願の初めての映画出演。オーディションの頃から存在感を示し、本作品ではマサル役を演じる。

▼橋本一輝(はしもとかずき)さん
1999年8月28日、千葉県生まれ。個性的なキャラクターを活かし、本作品では軍事オタクのヒロキ役を演じる。

(取材・文:堀田菜摘/辻千晶、撮影:柏木雄介)

(C)2015 ISHIO

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS

  • リュカ
    2
    恋や友情の甘酸っぱさに 震災や原発や、 動物の生命を そして大人の都合を ミックス。 主題が弱まった感が残念。
  • みもねる
    4.1
    見たことある役者は2人くらいで、あと主役級は皆オーディションらしいが、みんなほんとに中3ぽくて笑えた。ヒロインの子が堀北真希みたいに超かわいかった! 中3の子供たちだけで福島に数日いく、というところに無理があるが、何となく見えてた展開でも、なんかとっても良かった。震災後の原発問題も絡めながら、ハルを通して別れた親友と仲直りでき、ハルを取り戻す以上のことがゲットできて、最後の写真はとってもいい笑顔で映っていたことでしょう。 ちょっと気になったのは、ハルが昔の飼い主を全く忘れていること。イヌ違いだったのか、または低予算で演技の上手い犬を雇うことができなかったのか(笑) ジャケットにも書いてあったけど、まさに日本版スタンド・バイ・ミーですな👍🏻 ほのぼの系、私は好きです。
  • ゆう
    3
    避難した人、残った人の思いを描く。子どもたちの演技と、ストーリー展開にたまに違和感はあるが、重くなりすぎずに震災について考えられる。
  • gmgn
    3.5
    震災で自主避難してきたヒロイン(知恵子)が、同じクラスの冴えない男子3人と、福島で飼っていた犬を探しに行く物語。 思い当たるところはたくさんあるけれど、ラストシーンの主題歌が流れると、この映画は完結する❗️
  • モンキー
    3.8
    若い監督さんと同世代のプロデューサーに よる作品でした 確かに犬を探しに福島へ行くと言うプロットでした けれど見て行くうちにこれは「福島」を忘れないでと言う製作者の気持ちが現れているのではないかと気づきました 確かに若い世代のロードムービーであり全体に荒削りな所はあるものの監督さんの 熱心な演技指導の賜物か若い出演者が後半では生き生きと画面に焼き付けられてきました現地の風景も上手く撮られていました それと何と言っても特筆すべきは主人公の女性のヒロインです 途中からその存在感に段々と圧倒されていきました この女優さんの起用でこの映画は成功したとさえ思えました 映画は2本目との事ですがこの役にピッタリとはまっていましたこれからが楽しみな女優さんです 最後のシーンでドローンを使ったと思われるシーンも若い監督さんのアイデアだと 思われ納得のラストシーンでした 音楽も良かったですね
ハルをさがして
のレビュー(68件)