8月26日より公開になった新海誠監督の最新作『君の名は。』。興行通信社発表の全国映画動員ランキング(2016年9月3日〜9月4日)によると、2位の『シン・ゴジラ』、3位の『ペット』を抑え、公開2週目も首位を守り、2日までの8日間で興行収入27億円突破という大ヒット作になりました。
では、どうしてこの作品がここまで人々を魅了するのか……。その理由について考えてみました!
※後半でほんの一部ネタバレを含みます。鑑賞前の方はご注意ください。
まずは『君の名は。』のあらすじ
千年ぶりに肉眼で見えるほどの大彗星が訪れる1ヶ月前。
岐阜県飛騨にある田舎町に住む女子高校生の三葉(上白石萌音)は、疎遠になっている父の選挙運動や神社の家系ゆえに古くからある風習を守らなければいけないことに嫌気がさし、都会での生活に憧れていました。
そんなある日、東京の男子高校生になった夢を見ます。
一方、男子高校生の瀧(神木隆之介)も行ったことのない田舎町で、女子高校生の生活を送る夢を見る日が続き……。
抜け落ちている記憶とその間に起きた出来事をまわりから聞くにつれ、三葉と瀧はお互い不定期に入れ替わっていることに気づきます。
それからというもの瀧が憧れているアルバイト先の先輩・奥寺ミキ(長澤まさみ)との仲を三葉がサポートしたり、町長である父のせいで一部の生徒から冷たい視線を浴びる三葉の代わりにその不満を訴えたり、お互いの人生を楽しんでいた2人。
そんな中、ある日を境に入れ替わりが途絶えてしまいます。まだ記憶に残る三葉が生活していた場所をスケッチして、それを頼りに彼女へ会いに行く瀧。
しかし、そこで思わぬ事実がわかり……。
男女の入れ替わりから導かれる予想外のストーリーに惹かれる!
おそらく、同い年の高校生の男女が縁もゆかりもない土地に住んでいるのに入れ替わってしまう……という予告CM・動画を見て、つい「男女の入れ替わりから巻き起こるドタバタラブコメ」かと思った人もいるかもしれませんが、この作品はまったく違います。
瀧が三葉に会いに行ってわかる事実は予想外なこと!
鍵となるのは千年ぶりに訪れた彗星。これが原因で三葉がこの世に存在するのかしないのかまで、話は発展していきます。そんな窮地に陥った三葉を助けるために瀧が奮闘するところがこのストーリで一番の山場!
ちなみに2人の入れ替わりの記憶というのは曖昧なもので、時間と共におぼろげなものとなり、お互いの名前すら忘れてしまうという設定。
それがあるからこそ、男女の入れ替わりや距離だけではない入れ替わりの特徴など、非現実的な要素のある物語であっても、心のどこかで三葉は瀧を瀧は三葉を追い求めているということにリアリティを感じ、ストーリーに共感する人が多いのではないかと感じました。
そんな予測できない展開と物語への共感にも人々が惹かれる理由があると思います。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】過去作品のモチーフが散りばめられている
見た人の中にはもちろん新海誠監督作のファンも多くいるはず。映画を見てファンが熱くなることと言えば、過去の作品にも含まれていた要素を発見したときだと思うのです。
そんな期待に応えてなのか、「話題の新鋭アニメ映画監督・新海誠が手がけた注目作品まとめ」にも書いてある通り、監督自身の個人サイトで『君の名は。』には過去の作品のモチーフが盛り込まれていると述べています。
ちなみに、私が個人的に過去作と照らし合わせて共通の部分やモチーフとしていると考えたところは、作品ごとに見ていくとこれらの点です。
『ほしのこえ』
『ほしのこえ』では宇宙と地球の遠距離間をミカコとノボルが携帯のメールでやりとりしています。
『君の名は。』でも田舎町と東京の遠距離で2人がコミュニケーションの手段としているのはスマホ。
モバイル機器を使うこと、そして遠く離れた男女からなる物語であることが2つの作品の類似点だと思います。
『雲のむこう、約束の場所』
『雲のむこう、約束の場所』は眠りから覚めない病に冒されたヒロインのサユリがその間ずっと「夢」を見ていて、彼女を目覚めさせるのに巨大な塔が関係しているという描写があります。
『君の名は。』では入れ替わりはお互いの「夢」であり、それは彗星に関わるある出来事を予期するために起こっていると思われる表現も……。
「夢」と、それがあるモノや出来事と何か因果関係があるという点がどちらも似ています。
『秒速5センチメートル』
『秒速5センチメートル』は主人公・貴樹が小学生から社会人になるまでひとりの人を思い続けた物語が描かれています。
『君の名は。』でも、三葉と瀧は最終的には夢で見たようなとてもとても浅い記憶になってしまっても、長い間お互いを思っています。
しかもそれがどちらの作品もストーリーの中で重要な意味を持っているところが共通しているところ。
『星を追う子ども』
『星を追う子ども』は地下世界アガルタで死者を生き返らせる「神」がいる場所として描かれているのが崖の下。
『君の名は。』は三葉の家が代々守ってきている宮水神社の「御神体」が祀ってあるところが崖の下。
またどちらも登場人物が生と死に正面から向き合わなければならないシーンがあります。
『言の葉の庭』
『言の葉の庭』のヒロイン・ユキノが『君の名は。』にも同じキャラクターとして登場します。
また、どちらも古典の言葉からストーリーを着想しているんです。
『君の名は。』については、
着想のきっかけはいくつかありましたが、ひとつは小野小町の有名な和歌です。
と監督が解説している文章があり、『言の葉の庭』についても、
そして、「恋」は「孤悲」と書いた。孤独に悲しい。七百年代の万葉人たち───遠い我々の祖先───が、恋という現象に何を見ていたかがよく分かる。
と、古典にモチーフを求めた旨が記載されています。
ちなみにこれまでの新海監督が手がけた作品のダイジェスト動画があるので、これを見るとイメージがつきやすいかもしれません。
おそらく私が挙げたもの以外にも、概念的な部分から細部に渡って過去作を感じさせる表現があると思います。それを探しながら見てみるのもきっとおもしろいはず!
今まで新海作品に触れたことがある人ならより作品を味わえるシーンがあるところも、魅力なんだと感じます。
“思い続ける”ことが希望につながるというメッセージ性が魅力!
これまでの新海誠監督の作品を見てみると、物理的な距離や心理的な面も含めて誰かと離れてしまう話が多く、そこから距離を近づけるのではなくただそれを受け入れる・受け止めることを伝えている作品が強い印象でした。
しかし『君の名は。』はむしろ、最初は離れていたものが徐々に近づいていくというストーリー。
しかも入れ替わる中で三葉と瀧の間に生まれた絆のようなものが途切れてしまっても、それをただ受け止めるのではなく“思い続ける”ことで再びその関係性を再生できると感じられる描写もあります。
もちろん、これまでの作品のように別離や喪失を受け入れることも生きていく上で大切な要素ではあるのですが、何かの思いをずっと持ち続けることも希望につながるのではないかということが伝わってきます。
そういうポジティブなメッセージが含まれていることにも、見る人々を引き付ける力があるのだと思いました。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】新海作品らしいアニメーションの美しさとRADWIMPSによる音楽もポイント!
ストーリーだけでなく、新海誠監督らしさあふれる空模様や町並みなど鮮やかに表現されるアニメーションの美しさも見逃せません!
緻密に描かれた東京都心のビル群や架空の町とはいえ、どこかにありそうな田舎の風景に見ているだけで心奪われるはずです。
またこの作品は主題歌と劇伴を人気バンド・RADWINPSが担当。
脚本のイメージからRADWIMPSが作った曲があり、その曲を聴きながら僕は絵コンテを描きビデオコンテを作り、それを見た洋次郎さんがまた曲を書き、それを受けてまた演出を変える、そういうことを重ねてきました。
と監督が語っている通り、楽曲も映画に合わせて丁寧に作られたものだけあって、ストーリーや登場人物の気持ちにピタリと寄り添い、より深く『君の名は。』の世界観に浸れるようになっています。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】ぜひ劇場で体感してみてください!
『君の名は。』が多くの人を惹きつけ、大ヒットしているのは
・予想外のストーリーとそこに隠されたメッセージ
・散りばめられた過去作品のモチーフ
・アニメーションの美しさと作品に寄り添う音楽
といった要素がポイントになっているのではないかと感じました。
もちろん考え方は人ぞれぞれなので、すでに見た人であればこれらの点に同意できないこともあると思います。でもそれも含めて作品を振り返ってみてください。反芻すればするほど味わい深くなる映画だと実感できるはずです。
まだ見ていないという人はぜひ劇場で『君の名は。』ワールドを体験してみてはいかがでしょうか?
(C)2016「君の名は。」製作委員会
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