【トークイベント】岩井俊二×真鍋昌平が『リップヴァンウィンクルの花嫁』を紐解く!

映画と現実を行ったり来たり

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独自の美学でファンを魅了し続ける、岩井俊二監督。

小説家、作曲家など、多彩な顔を持ち、最近は海外にも活動の幅を広げています。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』BD、DVDも発売され、また今年の東京国際映画祭にて同映画を含む岩井俊二監督の作品の特集上映も行われるなど、今もなお監督の映画が注目されています。今回、代官山「蔦屋書店」にて対談形式のトークイベントが開催された模様をお伝えします。

対談者には「闇金ウシジマくん」シリーズの原作者でもあり、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』が公開中の漫画家の真鍋昌平さん。

共通の友人でもある脚本家・北川悦吏子さんを介して知り合い、お酒も酌み交わした事のあるほどプライベートでも親交のあるお二人。現代を切り取った作品を生み出す二人が両者の作品に対してどう観ているのか?熱烈したトークイベントの様子をご紹介します。

誰でも主体性を持って生きているというわけではない

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岩井俊二監督(以下岩井監督):僕、本当にウシジマくんのファンなんです。最初読んだ時は衝撃を受けました。1年後くらいにもう一度読み返したのですが、「LGBT」をテーマにした内容があり、これはやられた!傑作だと感じました。一見闇金のヤンキーものに見えつつ、実はとてもデリケートな人間観察と人間描写を含んだ奇跡のような作品に魅了されました。

真鍋昌平さん(以下真鍋さん):今、サングラスの中で泣いてますよ(笑)中学校を卒業し、漫画家になる事は決めていたけれど、親や教師に高校だけは卒業した方が良いといわれ、工業高校に通いましたが、そこに僕の居場所はありませんでした。周りは不良のようなクラスメイトばかりで、毎日勝手に弁当食べられたり(笑) 

あるとき勇気を出して、本気で抵抗しました。その時相手には鼻で笑われてしまったのですが、その後からはいやがらせがなくなりました。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観ましたが、黒木華さん演じる主人公の七海って、主体性がなく、どう生きていいか分からない中で、綾野剛さん演じる安室にどんどん巻き込まれていくじゃないですか。

父親はあまり口うるさく言うタイプではないし、母親は天然で、いつも親の顔色をうかがいながら、自我を出さずにバランスを保って生きてきた。

そんな状態で社会に出て、人に合わせる事でなんとか生きていくしかない感じ、人に利用されてしまう感じが、七海だからって言うよりは誰にでも起こり得ることだと思いました。本人は主体性を持って生きているって思うのだけれど、本当はそうではない。

岩井監督:まさしくそうです。この映画を観た一定層の方で、“なんで彼女はこんなにも主体性が無いのかとイライラした”って言われますが、僕が観察している限り、実は世の中のほとんどの人が、大学受験にしろ、結婚式にしろ、葬式にしろ、それが自分の人生の大切な節目であったとしても、自覚なしに、うっかりいろんなサービスにのっかって生きてしまっていると思います。

大企業の社長だって何か重要な決定事項を霊媒師に聞いてしまったりもするだろうし、そういう弱さって誰もが持っていると思うんですよね。

真鍋さん:僕も占い師にみてもらって、運気を上げる為に白いタキシードをきて花で書道した事あります(笑)

岩井監督:その描写ってウシジマくんにもありますよね(笑)人ってみんなそれくらい弱かったりするんですよね。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』のタイトルの由来とは?

岩井俊二監督トークイベント1

真鍋さん:「リップヴァンウィンクル」て、元々アメリカの小説の主人公ですよね?慣用句だと【眠っている人】とか、【時代遅れの人】とか…その言葉には、具体的なイメージはあったのですか?

岩井監督:はじめは特にイメージとかはなくて、ふと看板で見かけた言葉を切り取って、とりあえず書いてました。『野獣死すべし』という映画作品の中で、松田優作さんが刑事に銃を突きつけながら、そのアメリカの小説の「リップ・ヴァン・ウィンクル」を語るシーンがあるのですが、その内容において浦島太郎的な部分など、重なるイメージがあり、作品を書き終わった後にリンクする部分が見つかりました。

真鍋さん:後から、それが繋がったのですね!

岩井監督:この作品ってお酒を飲むシーンがいくつかありますが、元々他の作品で描いていたお酒を飲むエピソードのモチーフを持って来ています。お酒のシーンをきっかけにその都度世界が変わっていくような所はすごく繋がったと思います。最初から何かをシンボル化するのは難しくて、制作していくうちに偶発的に見えて来ることってあるんです。

【ネタバレ注意!】『リップヴァンウィンクルの花嫁』の気になるあのシーンの意図とは?

リップヴァンウィンクルの花嫁

(C)RVWフィルムパートナーズ

真鍋さん:お酒と言えば、とても印象的なシーンがあって、僕の勝手な解釈なのですが、安室がお酒を飲みながら裸になるシーンについて、はじめは笑っていますが、途中から泣いているじゃないですか。

そもそもあの人物自体は悪魔的な存在で、いくつも偽名を持っていて、どういう人間なのか分からないような感じだけれど、あのシーンで彼自身が自分自身をさらけ出したような印象を受けました。僕はあのシーンで七海と安室と母親が通じ合ったように感じたんですが、実際はどういう意図でつくられていたのですか?

岩井監督:元々、あのシーンは泣くとは決まっていたものではありませんでした。撮影を進めていくうちに綾野君のことをよく知るようになって、もしかしたらこのシーンで彼は泣くかもしれないと感じ、それをそのまま彼に話してみました。そしたらそのことについて彼もしっくりきたみたいで。物語中には描かれていない安室の過去が見えるような気がしていて、そこの解釈は観客に委ねている部分もあります。

この作品自体が四季の流れを描いているので、そういった部分で、撮りながらいろいろ話し合って変えていく事も出来た所は良かったです。

今の時代に合った技術で、求められているものを作ること

岩井俊二監督トークイベント2

真鍋さん:実写は制約が多いんですよね?役者のスケジュールや、プロダクションの考え方を受けとめたりといろんな制約がある中で、作家性を持つことは重要だけれど、そういう過程も含めて実写制作が出来る人と出来ない人の差は何でしょうか?

岩井監督:何をもって作家性というかにもよるのですが、分かりやすいのは、自分で物語を考えているかどうかという部分だと思います。

僕は、ウシジマ君のLGBTの話は心を込めて1カットカット撮れますよ(笑)「ウシジマ君」もそうですが、漫画を実写化する時に人間の絵と背景の絵をどういったレンズ感でみせるかという課題があるのですが、実写の場合はワイドレンズで背景がいい感じにぼけてくれますが、漫画でうかつにそれをしてしまうと何も伝わらなかったり、なくなってしまうから、やっぱり描き込むしかない。だから、その1場面1場面を実写化するとき、制作者がどれだけそこを理解しているかってとても重要です。

真鍋さん:すごい!そのとおりです。また涙出そうです(笑)今回の岩井さんの作品は場面に応じて背景の印象を大きく変えている印象でした。それは意図していたのですか?

岩井監督:最近はカメラの機能が良いから、その部分はうまく写るんですよね。昔は奥行きを出す為に現場でいろいろ工夫して、鏡越しに撮っていました。世界的には当たり前のことでも日本の場合は技術音痴なところもあって、あまりそういった部分を考えていない人も多いと思います。新しい技術の勉強会などでも、そういう場所で全然興味を示さない技術者も多かったんです。

真鍋さん:機材の進歩に現場の人間が追いついていない部分があるのですね。

岩井監督: 新しい編集のソフトも、「周りが使い始めたから使うか」って感じで、実写の世界はオタク性が弱くて、オタク性の強い人はアニメの業界にいってしまっている感じがします。

ただ、アニメ業界にも問題はあって、『花とアリス殺人事件』っていう作品を作ったのですが、それも4Kの表現って今では普通に出来るのに、日本で使ったのは僕が初めてでした。機械的には問題なくできるのですが、昔ながらの慣習みたいなものがあって難しい部分もありました。

真鍋さん:撮る技術が変わっていく中で、作品を伝える方法に変化はありますか?

岩井監督:個人的にはお客さんがどこに集まるかという部分にこちらが対応していくしかないと思います。劇場が減っている中で、お客さんが求めている物、集まる場所に対して私たちが濃密な物をその場所に送り込んでいく事が大事だと思います。

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普段は異なるフィールドで活躍する二人の貴重な対談は、終始ユーモアを交えながらも、それぞれの制作への熱い想いが垣間見える貴重な時間となりました。今後もお二人それぞれの今後の活躍から目が離せません。

リップヴァンウィンクルの花嫁』はBD&DVD発売中。『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』大ヒット上映中。

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  • ベタポニー
    3.6
    違う、私は違う。 
七海(黒木華)は不器用で、教員としても生徒からからかわれ、もともと学業の成績も優秀でもなく、人付き合いもうまくなく、そのため教員としては臨時扱いで、なので生活のために身なりを隠してコンビニでパートするが、同僚にはあっさり見破られてしまう始末。ツイッター風SNSでのつぶやきは本心を吐露していて、結婚の報告は ネットで買い物するみたいに、あっさりと・・・・ ・・・・ワンクリックで と自虐的なものであった。彼女は自分の弱さを嫌という程自覚しているのだ。そして彼女は女であることもよく分かっていて、それで自覚的にか無自覚にか、男に頼ってしまう/あるいは信じてしまう、ないしは信じようとしてしまうのだ。

SNSで知り合った男とあっさりと結婚する。 彼女は弱く、不器用で、流されて、いつの間にか騙されて利用されてしまうが、それも半分は事態に気づかないぐらい、愚かでもある。 いや、分かっていて騙されて利用されて抱かれたりしているのか。あまりにも不思議なくらい脆い。 見ていて頼りなさにイライラする。私的には、身近にいたら、世話したくなるタイプ?いいえ、私はそういう子、見捨てる。 彼女は声が小さくて生徒からからかわれたのだった。私も声帯の問題で声が小さい。肺活量も小さいので、必要な時は、無理して大声で喋ってる(と周囲にはなんとか聞こえる)。似ている?違う、私は七海じゃない。 
彼女はもともと成績も優秀ではなかった。私とは大違い。 要領の悪さが明らかで見ていてハラハラする。なので画面から目が離せない。私は要領が良いはず。察知して、先回りして、対処する。「それ、もう終わりました。」とか。 彼女はつまらない体裁のために簡単に嘘をつく。もともと大した価値の無いプライドのために。 私は簡単にバレる嘘はつかないし、私は価値があるから相応のプライドがある。私とは違う。 そんな嘘が元で男に騙されるようになる。それも、自分が弱いから頼り信じきってしまう形で。役者もやっているという男に。彼女は、本当に騙されてるのか、分かっていても騙されているのか。 私は人に身も心も頼るなんて嫌だ。仕事はもちろん持ちつ持たれつで「依頼」し合うことはあるが、本心から信頼して頼るなんて私は決してできない。警戒感が身についてしまっている。私は基本、人を信じない。「事実のみが大事なので」と言って相手の神経無視で追及する。私と彼女とは全く、違う。 それで彼女は結婚を機にやめようとしたスカイプ?経由の家庭教師も、その母に嘆願されて続けることになってしまう。 そして見せかけだけの披露宴となってしまうが、それが見せかけだけであるというのも自業自得だとわかっているし、夫には直前に冷めたことを言われるし、結婚式も終始浮かない顔になってしまうが、必死に笑顔を取り繕うとする。 私は戦略的な意味がある時しか、人に笑顔を見せたりしない。彼女とは全く違う。 彼女は「役者もやっている」と言った男から、またも誘われ、相談してしまい、信頼してしまい、そして頼ってしまう。まるで「友達を作るには、恋をして、愛しあい、婚約して、そして結婚してかせずにか、別れて、しばらくして、そして本当の友達になれるの。」という逸話を本気で信じてるのか、別れてそして友人になった「かのような」男を信頼して、頼ってしまう。 役者もやっている、というのは映画でも物語の上でも壮大なネタバレだというのに。彼女は一向に気づかない。あるいはやはり、気づかないふりをしているのか。いずれにせよ、私はこんな女の態度は許せない。あえて騙されるのも、弱くて人に頼るのも、嫌だ。私は一目見て、…は流石に言い過ぎか、5分でも話しを聞いたら相手が本物か嘘の塊か、必ず気づく。 役者の男は「騙す」ビジネスで稼いでいる。1回2〜30人ぐらいのアルバイトを使って、1回し10万円ほどを稼ぐようだ。それを1日2回し、1ヶ月15日やって300万円ほどの個人収入といったところか。それに合わせて花嫁を探すビジネスもやっている。その一つが「リップヴァンウィンクル」の花嫁だった。一口1000万円だそうだ。年に6口ぐらい世話しているのだろう。しめて年収1億円というところか。なかなかのやり手である。 彼女はその「騙す」ビジネスに加担するようになり、そして「リップヴァンウィンクル」に気に入られ、そのリップ…の彼女もカリソメの姿であるとは気づかずに、惹きこまれ、まんまとはまっていく。 彼女は弱く、不器用で、流されて、そして騙されて利用されてしまうのか、わざと騙されているのかまでは画面からは分からないが、そうだとしてもそんな状況を利用せねば生きていけないくらい、弱く、不器用で、愚かである。 私とは違う。 彼女はつまらない体裁のために、見せかけだけの笑顔を取り繕うとする。 私とは違う。 彼女は自覚している不幸な状況から抜け出そうと幸せな結婚を夢想して無理やりあまり好きでも無い男と結婚し、そしてその化けの皮が剥がれて(剥がれたのは彼女か、旦那の方か?)、とことん不幸になっていき、知らない道を彷徨う。 私はそんな事はしないし、そんな事態にならない。 やがて彼女は最愛の人と夢のようなひと時を過ごすが、その直後に永遠の別れを味わい絶望することになる。 私はそんな不幸な状況になったことは…無い。 彼女のツイッター風SNSでのつぶやきは本心を吐露していて、結婚の報告は ネットで買い物するみたいに、あっさりと・・・・ ・・・・ワンクリックで と自虐的なものであった。彼女は自分の弱さを嫌という程自覚していた。そして彼女は女であることもよく分かっていた。

私とは違う…。 「真白さん」の葬儀の場で、「騙し仲間」が「家族」として焼香する瞬間を見た時、彼女はようやく今まで分かっていた、自分に・人に「騙していた世界」が、本当に「騙していた世界」でしか無かったことに気づく。 現実に、気づく。 彼女はそれで、さらに泣く。泣くが、騙し仲間が、あくまで騙しの世界をよく自覚して生きているらしい会話を聞いて、さらに気づく。 現実に、気づく。 彼女は本当に愚かだ。 私とは違う…。 役者の男も、堂々と彼女の前で手口を見せるようになっていく。もう彼女の役目は終わったので、捨てる前提なのだろう。彼女はそれを目の当たりにして、若干戸惑いながらも、その事実をまじまじと見つめる、とても冷めた目で、おそらく、乾いた心で。 真白の母は「強いですね」という男の評価に、「強く無いよ」と即答した。彼女は本物である。 私とは違う…。 そしてとても聞きたく無い真白の半生を聞かされる。そしてとても嫌なものを見せつけられる。始終、不幸の塊のような人生を送る、七海の物語…。ただただその愚かな不幸を見せつけられる、3時間。 私とは違う。全く違う。 全く共感できない。同情できない。 とてもつまらない映画だ。 とてもつまらない映画だった。 私とは違う。 違う。 私とは違うと分かっているのに、なぜだか私、涙が止まらなかった。 真白の母が本気で泣き、役者の男が嘘泣きし、七海が取り繕っているシーンで、涙が止まらなかった。 何故だか悔しくて、それを止めたかったが、 止まらなかった…。
  • mai
    -
    ヤバすぎる 途中1時間半くらいから 展開が読めてくるからつらかったーー
  • m
    4.0
    七海と真白がウェデングドレス姿で過ごす一晩(美味しいものを食べて、踊って、キスして抱き合って)が、最高に綺麗で儚くて良かった。あと、真白の母に挨拶に行った時の、裸で飲んで泣く綾野剛がほんとに最高でした…泣き笑いで焼酎おかわりする黒木華が可愛い。最後に題名の意味が分かった時、少し泣いてしまいました。いろいろと理不尽で、味方がいるようでいなくて、主人公の足元の覚束なさに見てて辛く歯痒くなるけど、真白との出会いで何か芽生えるものがあったのだろうな、最後は主人公が少し強く見えた。これは、見てよかった。
  • あおいろ
    4.5
    繊細で綺麗だった
  • ken
    3.2
    長い
「リップヴァンウィンクルの花嫁」
のレビュー(27554件)