『怒り』は女優の凄さを全身で感じる作品〜日本映画界における重要な女優たち〜

ARC監督/脚本/映画祭ディレクター

篠原隼士

友人に連れられ鑑賞した『怒り』。劇場をあとにして感想はどうだったかと聞かれたが、私の記憶に強く残ったのは広瀬すずという女性が映画女優へと変貌したことで、この事実を多くの人に伝えねばならないということだった。

今回は、本作の魅力を女優という角度から紹介していきたい。

怒り

(C)2016映画「怒り」製作委員会

ただの犯人探しではない、これは「人生」の映画

東京都八王子市で起こった殺人事件。「怒」という血文字を残し現場を去った犯人、顔の整形を行い今も逃亡している。それから1年後、田代(松山ケンイチ)、直人(綾野剛)、田中(森山未來)という3人の男たちをとりまく人々を描く本作。我々はまずこの中に犯人がいるのではないかという「犯人探し」のお決まりミステリーものかと思わされるが、開始早々その推理は外れる。

生きることが「素晴らしいものとは思えない人々」がそれでも生きていく姿をスクリーンで見せつけられ、鑑賞後人生とはどこまでも果てしなく、どこまでも残酷で、感情の置き場を失ってしまう。映画の持つ力の本領を発揮したと感じた

(C)2016映画「怒り」製作委員会

女優の持つ力を全身で浴びることになる

広瀬すず=泉

怒り サブ画像4

(C)2016映画「怒り」製作委員会

親の事情で沖縄県に引っ越した泉は、友人の辰哉(佐久本宝)に連れられ無人島へ遊びに行く。そこで日本中をリュック一つで旅する田中に出会い、彼に興味を持つ。

2015年1月放送ドラマ「学校のカイダン」で連続ドラマ初主演を務め、同年、『海街diary』が第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にエントリーされた。この当時から、ただならぬ演技力を見せつけていた広瀬。その後も活動の幅を広げ2015年7月公開の劇場版アニメ『バケモノの子』で声優に初挑戦。2016年3月公開の『ちはやふる 上の句』ではついに映画単独初主演を務める。今ではCMやバラエティ番組での活動も多く、彼女を見ない日はない。

そんな彼女の今後の女優としての人生を変えたのではないかと思わせた作品が本作『怒り』だった。正直なところ、私は「広瀬すず」という名は今後の日本映画史にとても重要なポジションで刻まれると思っている。

特にラストシーン、私は彼女の芝居を通り越した何かに涙した。誰かにこの映画を一言で言うと何かと問われたら「広瀬すずが映画史に名を残す瞬間を目撃することになる」と伝えるだろう。

海街

(c)2015吉田秋生・小学館/「海街diary」製作委員会

宮﨑あおい=愛子

怒り サブ画像3

(C)2016映画「怒り」製作委員会

普通の子ではないと父親(渡辺謙)に思われている愛子は、父親の職場で働く若い男・田代に出会い、恋をする。しかし田代には訳あって本名を使えない理由があり、愛子は愛と不安の中を葛藤する。

2001年、映画初主演の『害虫』で、第23回ナント三大陸映画祭コンペティション部門主演女優賞を受賞。2003年アニメ「魔法遣いに大切なこと」で声優に初挑戦しその後も、多くの声に関わる仕事をしている。2005年、中島美嘉とダブル主演を務めた『NANA』が、興行収入40億円の大ヒットとなりブレイク。2006年、NHKの連続テレビ小説「純情きらり」でヒロインを演じ、その後2008年、NHK大河ドラマ「篤姫」で、主演=篤姫役に大抜擢。老若男女に愛される女優になった。

本作『怒り』では彼女が日本の映画界に絶対的に必要であると感じさせられた。父親役である渡辺謙との掛け合いは、他人事ではない「家族」という永遠のテーマを見事に表現し家族の複雑さ、そしてスクリーンからはみ出す愛を感じることになる。

NANA

また、宮﨑あおいと共演する池脇千鶴は女性としての美しさを見事に表現し、本作のなかで最も「誰かのために生きている」ように感じた。それは我々に唯一安心感をもたらし、時として導いてくれるのだ。

そして綾野剛演じる直人のことを知る重要な女性・薫を演じたのが高畑充希だ。直人と同居し、彼に特別な感情を抱く優馬(妻夫木聡)に優しく静かに直人のことを話す高畑は溢れ出す感情を喫茶店に座った状態で演じ、目の前で泣きじゃくる優馬を包み込むのだ。彼女からもまた「女性にしか存在しない確かな愛」を感じた。

このように、本作に登場する女優は同じ世界に生きる女性と同じようにたくましく、美しくあり、映画という世界で表現し続けることで我々に力を与えている

日本映画界に重要な人々

李相日(監督・脚本)

大学の卒業制作で監督した『青 chong』でぴあフィルムフェスティバルのグランプリを受賞。その後『69 sixty nine』監督に抜擢され、『フラガール』『悪人』と数々の名作を生み出し、国内外でも高い評価を得ている。

悪人

吉田修一(原作)

1997年、「最後の息子」で、第84回文學界新人賞を受賞し、小説家デビュー。2002年、「パレード」で、第15回山本周五郎賞を受賞し、同年に「パーク・ライフ」で、第127回芥川賞を受賞。その後も『悪人』『さよなら渓谷』『横道世之介』など数々の作品を生み出し映画化も多い。

坂本龍一(音楽)

戦場のメリークリスマス』『トニー滝谷』『星になった少年』を始めとする数々の映画音楽を手がけ、映画界に重要な人物。コマーシャルやテレビドラマなど活動の幅は計り知れず、世界的な音楽家と知られる。

映画館のなかで日本映画の力を突きつけられる

この記事を書くにあたり何度も登場したのは「日本映画界に重要な」といったニュアンスの言葉。これは仕方がないことだ。この映画は本当に今の日本映画の力、そして本来の映画の持つ魅力を体感できる素晴らしい一作なのだ。

重なってしまうが、私が最も感じたのは「女優の力」だ。今の日本にはこんなにも素晴らしい人々がいて、映画という文化と共に生き続けているのだ。是非劇場で彼女たちの魅力に引き込まれて欲しい。

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  • てばちき
    4.2
    良い邦画を観た。 犯人の、簡単に信じすぎって笑いながら言うセリフがすごくムカついた。 信じるってすごく難しいことなんだぞ!!
  • アスパラガス
    3.0
    原作読んでからもう一度見たい。 面白かったけどちょっと物足りなかった
  • lotus
    3.6
    この映画にはそれぞれの怒りが込められている。 それぞれの話ががラストシーンで繋がり爆発する瞬間、信じること疑うこと愛すること、そんな混沌とした感情が湧き上がりました。 信じていた強さが強ければ強いほど憎悪に変わる強さも増す。 生きることの難しさを痛感した映画でした。
  • うり
    3.3
    二度と観たくないのにもう一度観たい
  • Ovin007
    4.2
    最後の方まで気味の悪さが残り続けるため、緊張感を持って見れた。最後の終わり方も、後味の悪さが一定程度あるものの、良い部分もあり、内容の割には見終わった後スッキリする
「怒り」
のレビュー(83436件)