『ダ・ヴィンチ・コード』が映画ファンの間で物議を醸した理由とは?

2016.10.27
洋画

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

「ロバート・ラングドン」シリーズの第三弾『インフェルノ』が10月28日から全国公開されることに合わせて、その記念すべき第一作『ダ・ヴィンチ・コード』が同日に「金曜プレミアム」(フジテレビ系列)にて地上波放送されます。

ダ・ヴィンチ・コード2

思い返すと『ダ・ヴィンチ・コード』は、トム・ハンクスオドレイ・トトゥジャン・レノという米仏のスターを揃えて世界中で大ヒットを記録した一方、最低映画を決定するゴールデンラズベリー賞の最低監督賞にノミネートされてしまうなど、映画ファンの間で物議を醸した映画でありました。

この問題を突き詰めて考えていくと、そもそも本作は映画化が極めて困難な題材だったことが浮かび上がってきます。本稿ではこの「ダ・ヴィンチ・コード」問題を、筆者なりの私見を交えながら検証していきたいと思います!

映画は、“観客が時間をコントロールできない”メディア

2003年に発表されたダン・ブラウンの原作は、世界で7000万部を売り上げた大ベストセラー小説。

実際に読んでみると、「レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作『最後の晩餐』に隠された謎とは?」とか、「カトリック教会を母体にした秘密結社とは?」とか、「聖杯伝説の謎を解き明かす!」とか、圧倒的な西洋美学とキリスト宗教学の知識の洪水に溺れそうになります(筆者もかくいうその一人)。

ダ・ヴィンチ・コード

出典 : 「ダ・ヴィンチ・コード〈上〉」 : ダン・ブラウン : Amazon.co.jp

書籍メディアの優越性は、実はここにあります。読者が内容をぱっと咀嚼できなくても、自分が理解できるまでじっくり読み込んでみたり、前のページをめくって事実関係を整理してみたり、読書体験の時間をコントロールすることができるのです。

それに比べ、映画は時間が不可逆のメディア。上映時間が120分であれば、観客は120分以内に全てを理解する必要があります(もちろん、自宅鑑賞時はDVDを巻き戻して事実関係をチェックしてみることもあるでしょうが)。時間をコントロールできないまま知識の洪水にさらされてしまうと、観客は「なんだか難しくてよく分からん!」という不満をもらす結果になるのです。

原作のコアとなる宗教学&芸術学のトリビアが、映像化にあたってはネックになってしまうことに…。『ダ・ヴィンチ・コード』映画化の困難さは、そもそも映画という表現形式に起因しているのです。

映画は、“ミステリーと相性の悪い”メディア

もうひとつの問題は、“ミステリー”というジャンルと映画との相性です。映画の歴史のなかで最も偉大な映画監督のひとり、アルフレッド・ヒッチコックの言葉を引用しましょう。

「(ミステリーとは)一種の知的なパズルゲームにすぎない。謎解きはある種の好奇心を強く誘発するが、そこにはエモーションが欠けている」
『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』より)

映画術

出典 : 「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」 : フランソワ トリュフォー / アルフレッド ヒッチコック : Amazon.co.jp

サスペンスの巨匠と崇められたヒッチコックですが、ミステリーに対しては懐疑的な態度をとっていることがよく分かる発言といえるでしょう。

よく混同されますが、サスペンスとミステリーは全くの別物です。例えば喫茶店に爆弾が仕掛けられていて、それが5分後に爆発することが観客に示されたとします。その爆弾に気づかずにカップルが喫茶店にやってきて、テーブルに腰を落ち着けて他愛もないおしゃべりをしたらどうでしょう?

これだけでも、観客はハラハラドキドキです。「おい!その喫茶店には爆弾がしかけられているぞ!早くそこから出ろ!」と思わずスクリーンに向かって叫びたくなることでしょう。

サスペンスとは、観客を登場人物の心理になるべく同調させ、危機的状況をつくることで手に汗を握らせる手法のこと。まさにエモーション=感情がほとばしった映画的表現といえます。

では、ミステリーとは一体何なのか? さきほどの例でいえば、喫茶店が爆発したあとに探偵がやってきて、様々な証拠から爆弾をしかけた犯人を探し出す、その思考プロセスに重きを置いたものが該当します。

シャーロック・ホームズや金田一耕助など、名探偵ものはほとんどがミステリーといえるでしょう。しかし、そこにエモーションはありません。『ダ・ヴィンチ・コード』は、まさにヒッチコックのいうところの「一種の知的なパズルゲーム」なのです。

困難なミッションに挑んだロン・ハワードの戦略

「ロバート・ラングドン」シリーズの演出をすべて手がけているのは、『ビューティフル・マインド』で第74回アカデミー賞監督賞を受賞したロン・ハワード

ロンハワード

出典 : https://en.wikipedia.org/wiki/Ron_Howard

しかしこの名匠をもってしても、『ダ・ヴィンチ・コード』の映画化には相当手を焼いたようで、さるインタビューでは「映画化にあたって物語をスリム化するために、さまざまな決断を強いられた」と語っています。

ロン・ハワードの戦略は、フィナボッチ数列だの、クリプテックスだの、アナグラムだのといった“非映画的”な暗号解読シーンは簡略化し、原作にはない派手なカー・チェイスをインサートするなど、“映画的”な作品に仕立て上げることでした。

しかし完成した作品は、原作のキモであるトリビア要素が薄まった“中途半端なミステリー映画”。原作ファンからも映画ファンからも、どっちつかずの作品として不評を買ってしまうことになります…。

ロン・ハワードは別のインタビューで、「『ダ・ヴィンチ・コード』が世界中で物議を醸したことについてどう思うか?」という問いに対し、「この原作を映画化することは、物議を醸すからやめたほうがいいとある人からアドバイスをもらったが、そもそも世界中の全ての人々を喜ばすことなんか不可能だ!」という諦めにも似たコメントをしています。

まさに彼の偽らざる想いではないでしょうか。

そして『天使と悪魔』、『インフェルノ』へ

続いて製作された第二作『天使と悪魔』は、前作の反省が活かされた映画といえます。

天使と悪魔

物語を簡単に要約すると、

「次期ローマ教皇の最有力候補である枢機卿4人が誘拐され、秘密結社から1時間ごとに枢機卿を殺害するという予告が届く。ラングドン教授は、科学の四大元素である土、空気、火、水に関連した場所で枢機卿が殺害されると予想。殺害時間までにその場所を特定して先回りし、事件を防ごうとする」

という感じ。相も変わらず難しいトリビアは横溢していますが、“タイムリミット・サスペンス”という仕掛けが施されている点で、『ダ・ヴィンチ・コード』よりも映画的に成功しているといえるのではないでしょうか?

では果たして最新作『インフェルノ』は、映画としてさらに進化しているのか? テレビ地上波放送で過去作品をチェックしつつ、期待に胸をときめかせながら、公開を待ちたいと思います。

インフェルノ

(C) 2016 Columbia TriStar Marketing Group, Inc. All Rights Reserved.

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • kusano
    -
    record
  • さきこ
    3.7
    とっても宗教 めっちゃ宗教 おじいちゃん……!って感じでした
  • イチカ
    3.5
    記録用
  • midori
    -
    記録
  • Yuko
    3.8
    何回見ても難しい、、 原作読んだり、歴史もう一度勉強してから見たら、もっとしっかり理解できるんだろうなあ。。
「ダ・ヴィンチ・コード」
のレビュー(32531件)