映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』元々はスクリューボール・コメディだった?繰り返される“父殺し”モチーフとは?【ネタバレ徹底考察】

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

「スター・ウォーズ」屈指の人気キャラクター、ハン・ソロ。故郷の惑星コレリアで、彼はどんな人生を送っていたのか? 相棒のチューバッカとはどのように知り合ったのか? 元々はランド・カルリジアンが所有していた愛機ミレニアム・ファルコン号を、彼はどのように手に入れたのか?「スター・ウォーズ」の正史(カノン)とは一線を画す番外編としてつくられたのが、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』だ。

だがその製作にあたっては、監督降板劇などドタバタの連続だった。という訳で今回は、製作の裏側を中心に『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』をネタバレ解説していこう。

なおこの稿ではシリーズ作品を下記で呼称します。

■旧三部作

スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)
スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(80)
スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(83)

■新三部作

スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99)
スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02)
スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05)

■続三部作

スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)
スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(19)

映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18)あらすじ

犯罪組織の末端として下働きをしていた、若き日のハン・ソロ(オールデン・エアエンライク)。そんな生活から抜け出すために、恋人のキーラ(エミリア・クラーク)と共に惑星コレリアから脱出する計画を実行する。しかし脱出寸前のところでキーラが捕まってしまい、ハン・ソロは彼女を救い出すために帝国軍に入隊。パイロットの腕を磨いて、コレリアに戻るチャンスをうかがっていた……。

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※以下、映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』、並びに「スター・ウォーズ」シリーズのネタバレを含みます

フィル・ロード&クリス・ミラー VS. ローレンス・カスダン

ディズニーがルーカスフィルムを40億5000万ドルという天文学的金額で買収したのが、今からおよそ10年前の2012年。続三部作の製作を発表して、世界中の映画ファンを熱狂させた。だがディズニーがこの大いなる遺産を3作品だけで終わらせる気は毛頭なく、続いてスピンオフ作品の製作も発表。アンソロジー・シリーズ第一弾『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)に続いて企画されたのが、この『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』だった。

監督として指名されたのは、『くもりときどきミートボール』(09)、『21ジャンプストリート』(12)、『LEGO ムービー』(14)などで知られるフィル・ロード&クリス・ミラー(ミラーはもともと特撮工房ILMのインターンで、『帝国の逆襲』の追加撮影時にストームトルーパーを演じた縁もあった)。

二人は当時、DCコミックの『ザ・フラッシュ』のシナリオ開発をしていたが、その作業を一時中止して「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」に着手する。脚本には、「帝国の逆襲」、「ジェダイの帰還」の旧三部作シナリオを担当し、「フォースの覚醒」で久々に「スター・ウォーズ」シリーズに復帰したローレンス・カスダンと、その息子ジョナサン・カスダンが選ばれた。

だが、フィル・ロード&クリス・ミラーとローレンス・カスダンの組み合わせはあまりにもミスマッチだった。『21ジャンプストリート』にせよ、『LEGO ムービー』にせよ、フィル・ロード&クリス・ミラーの真骨頂はハチャメチャなコメディ感覚にある。既存の文法を破壊してしまうくらいに自由奔放な爆発力こそが、彼らのストロング・ポイントなのだ。一方のローレンス・カスダンは、きっちりと作品を積み上げていくオールド・スクールなタイプ。どう考えても水と油だ。

その予感は、現実のものとなる。フィル・ロード&クリス・ミラーはカスダンの脚本を勝手に改変し、アクション活劇だったはずの『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』をスクリューボール・コメディにシフトチェンジ。カスダンをはじめ他の制作部門の責任者たちが烈火のごとく怒りまくり、ルーカスフィルム社長のキャスリーン・ケネディに直接文句を言ったという。結局、フィル・ロード&クリス・ミラーは「製作ビジョンの不一致」を理由に降板させられてしまう。

だが、2017年2月より始まっていた撮影はまだ完了していなかった。現場の混乱を収拾し、ルーカスフィルムが求める作品に作り変える、手練れの監督が急遽必要になったのである。そんな緊急事態時に白羽の矢が立ったのが、ロン・ハワードだった。

全体の80%を再撮影した名将ロン・ハワード

ロン・ハワードのインタビューによれば、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の話は突然ルーカスフィルムから振られたそうな。しかも、わずか3日間で監督をやるかどうかの決断をしなければならなかったという。『バックドラフト』(91)や『アポロ13』(95)、『ラッシュ/プライドと友情』(13)などのヒット作を手がけ、『ビューティフル・マインド』(01)で第74回アカデミー賞監督賞・作品賞をゲットした巨匠の彼にとっても、なかなかにハードな決断であったことは想像に難くない。

実はロン・ハワード、ルーカスフィルムとは浅からぬ縁があった。いや、「浅からぬ」どころか「ズブズブの仲」と言ってもいいだろう。

両親ともに俳優だったこともあり、小さい頃から子役として活躍していた彼は、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』(73)に出演。ルーカスが製作総指揮を務めた『ウィロー』では監督を務め、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99)の監督も当初彼がオファーされていた。そう、思いっきり「ルーカス組」なのである。ロン・ハワードは憧れの「スター・ウォーズ」に参加できることに喜びを感じ、監督のオファーを受諾する。

フィル・ロード&クリス・ミラーが撮影した素材のどの部分が本編に採用され、どの部分がロン・ハワードによって撮り直しされたのか、詳しいことはわかっていない。だがハワードは全体の80%を再撮影したというから、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』はほぼロン・ハワード色に塗り直された作品だと言っていいだろう。

ちなみに監督協会の規定では、映画の90%の撮影に関わった人物が監督としてクレジットされることになっている。80%では足りない訳で、このままじゃ誰も監督として名乗れなくなってしまう。その妥協案として、フィル・ロード&クリス・ミラーは製作総指揮、ロン・ハワードが監督としてクレジットされることになった。

実は、ディズニー体制になってからの「スター・ウォーズ」は、監督とのトラブルが続いている。ギャレス・エドワーズが監督した『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)は、トニー・ギルロイが大幅な再撮影を行なっているし、「スカイウォーカーの夜明け」(19)は、コリン・トレヴォロウの降板によってJ・J・エイブラムスが「スカイウォーカーの夜明け」に続いて再登板。ジョシュ・トランクが監督を務める予定だったスピンオフ作品もオクラ入りになってしまった。

いやーホント、「スター・ウォーズ」の裏側はトラブルばっかり! ある意味で、ロン・ハワードが『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の監督を受諾することは「火中の栗を拾う」ような行為だったといえるだろう。

保守と革新。いびつすぎる「ハン・ソロ」の座組

紆余曲折を経て完成した『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』。だが、興行成績は期待はずれだった。オープニング興行はおよそ1億300万ドルで、シリーズ史上最も低い成績に。最終的な興行収入も4億ドル弱にとどまっている。一部のファンからは好意的な意見があったものの、批評的にも今ひとつ。シリーズ化構想もたち消えになってしまった。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は輝かしい「スター・ウォーズ」の歴史の中で、失敗作の烙印を押されてしまっている。

個人的なことをいえば、筆者は本作をSFアクションとして十二分に楽しんだし、ビッグバジェット・ムービーとして一定の水準を満たしていると思っている。ただ、「せっかくジェダイが登場しない「スター・ウォーズ」番外編を作ったわりに、えらく保守的な話だな」と思ったことは事実だ。

敵か味方か分からないヒロインのキーラ(エミリア・クラーク)や、ドロイドなのに女性の権利を声高に叫ぶL3-37など、現代的にアップデートされたキャラはたくさんいるのだが(ランド・カルリジアンを演じるのは、ラッパーのチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーだ!)、肝心のストーリーに新規性が感じられないのである。

そもそも、ローレンス・カスダンとその息子ジョナサン・カスダンがシナリオ開発に当たって参考にしたのは、その多くがハリウッド映画の古典的作品ばかり。

『コンドル』(39) 監督/ハワード・ホークス
『過去を逃れて』(47) 監督/ジャック・ターナー
『黄金』(48) 監督/ジョン・ヒューストン
『恐怖の報酬』※オリジナル版(53) 監督/アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
『恐怖の報酬』※リメイク版(77) 監督/ウィリアム・フリードキン
『荒野の七人』(60) 監督/ジョン・スタージェス
『ワイルドバンチ』(69) 監督/サム・ペキンパー
『ゲッタウェイ』(72) 監督/サム・ペキンパー
『突破口!』(73) 監督/ドン・シーゲル
『ゴッドファーザー PART II』(74) 監督/フランシス・フォード・コッポラ
『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(81) 監督/マイケル・マン
『ヒート』(95) 監督/ マイケル・マン

さらに補足すれば、ミンバンの戦いにおける塹壕戦は、第一次世界大戦を描いたスタンリー・キューブリックの『突撃』(57)の影響を受けていることは明かだろう。革新的なストーリーを提示できるはずのアナザー・ストーリーで、カスダン親子はあまりにも型にはまったフォーマットに落とし込んでいるのである(逆に言えば、マス受けするということなのかもしれないが)。

筆者が最も違和感を感じたのは、ストーリーよりも映画のルックだ。撮影監督を務めたのは、ブラッドフォード・ヤング。『セインツ -約束の果て-』(13)、『グローリー/明日への行進』(14)、『メッセージ』  (16)などで知られる俊英。どこか湿ったような感じのダークな質感は、カラッとした『スター・ウォーズ』の世界観にはどうしてもそぐわない。ここに保守的なファンが強烈な拒否反応を示したのだ。

保守的なストーリーを、革新的な監督(フィル・ロード&クリス・ミラー)が降板して保守的な監督(ロン・ハワード)が演出し、それを革新的な撮影監督が撮る。この食い合わせの悪さは尋常ではない。繰り返すが、こんな座組で作品を完成まで導いたロン・ハワードはマジ偉いと思うんである。

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』トリビア

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のトリビアも紹介しておきましょう。もちろん、ここで紹介するのはほんの一部。「スター・ウォーズ」世界の一旦を感じて欲しい。

『ゴッドファーザー PART II』オマージュ

ハン・ソロが帝国アカデミーに入隊するとき、名前を聞かれて「ハン」とだけ答えるシーン。採用担当官は、身内がいないという理由で彼に「ソロ」という名字を名付ける。実はコレ、『ゴッドファーザー PART II』のオマージュ。エリス島の税関職員が、コルレオーネ村出身のヴィトー少年に「ヴィトー・コルレオーネ」という名前で登録するシーンがあるのだ。『スター・ウォーズ』シリーズの引用元が、まさかの『ゴッドファーザー』とは!

『レゴ・ムービー』

フィル・ロード&クリス・ミラーは、実は『ハン・ソロ』以前にハン・ソロ、チューバッカ、ランド・カルリジアンが登場する映画を撮っている。コンピュータアニメーションによるコメディ映画『レゴ・ムービー』(14)だ。降板をしていなければ、彼らにとって二度目のハン・ソロ登場作品になっていたハズ。

ランコアの巣穴

地下の監獄に突き落とされたハン・ソロが、チューバッカと初めて出会うシーン。この監獄のビジュアルが、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』のランコアの巣穴ソックリなのだ。コアなファンはランコアが登場すると思い込み、実は登場するのがチューバッカだった、というサプライズ構造になっている。

ダース・モールの再登場

『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』で、オビ=ワン・ケノービに胴体を真っ二つにされたはずのダース・モールが、まさかの再登場。実はTVアニメーション『クローン・ウォーズ』で、何とか生き延びていたことが明かされている。ひょっとしたら別の『スター・ウォーズ』で、ダース・モールの華麗なる格闘シーンが拝めるかもしれない。

「悪い予感がする」

ハン・ソロの口癖といえば、「悪い予感がする(I have a bad feeling about this)」。本作でもこのセリフが随所に登場。どこでこのセリフが出てくるかは、改めて本編を観てチェックしてみて欲しい。

DL-44重ブラスター・ピストル

ハン・ソロ愛用の武器、「DL-44重ブラスター・ピストル」。ヴァンドアでの列車強盗作戦前夜、ベケット(ウディ・ハレルソン)から渡されるのが実はソレだ。

ハンのサイコロ

旧三部作でも、ミレニアム・ファルコンのコックピットにぶら下がっていたサイコロ。実はハン・ソロとキーラの思い出の品だったことが、今回の『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』で明かされる。元カノを想い出すアイテムをずっと飾っておくのって、意外とハン・ソロって昔の恋愛を引きずるタイプ?

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「スター・ウォーズ」で繰り返される“父殺し”モチーフ

最後に、「スター・ウォーズ」で繰り返される“父殺し”モチーフについても言及しておこう。旧三部作は、ジェダイ最後の希望であるルーク・スカイウォーカーが父親のダース・ベイダーを倒すことで、銀河の平和を取り戻すための物語だった。主人公が成長するための重要なモチーフとして、“父殺し”という神話的テーマが導入されていたのである。

今回の『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』にも、ハン・ソロを導く精神的父親としてベケットが登場する。しかもクライマックスで二人は対峙し、ハン・ソロは彼を殺めてしまうのだ。単なるアウトローでしかなかったハン・ソロが、後に反乱軍のエース的存在になるにあたっての、これは明かな通過儀礼だろう。

そして最も興味深いことは、将来ハン・ソロ自身が息子のベン(カイロ・レン)によって殺されてしまう、という事実だ(『スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒』)。このことが、暗黒面からベンを救い出す遠因となる。“父殺し”の数珠つなぎによって、『スター・ウォーズ』はカノンを形成しているのだ。

この作品の根底には、しっかりとした「スター・ウォーズ」の源流が横たわっている。その意味を噛み締めながら、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』を心ゆくまで堪能して欲しい!

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