『ダ・ヴィンチ・コード』、『天使と悪魔』に続くロバート・ラングドン シリーズ第三弾『インフェルノ』が絶讃公開中です。
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以前筆者は、『ダ・ヴィンチ・コード』が映画ファンの間で物議を醸した理由とは?という記事で、
1. 映画は、“観客が時間をコントロールできない”メディアであり、トリビアが横溢する作品には適さない
2. 映画は、謎解き要素に主眼を置いたミステリーに不向きなメディアである
という論旨のもと、いかにこの作品が映画化困難であったかを論じました。
最新作『インフェルノ』は、製作スタッフが過去の反省を活かして、「いかにサスペンス映画として機能させるか」に腐心したことが伺える作品となっています。「記憶喪失」「本当の敵」「マクガフィン」という3つのキーワードから、それを紐解いていきましょう。
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キーワード1 : 記憶喪失
世界が地獄と化す悪夢にうなされるラングドン(トム・ハンクス)はフィレンツェの病室で目を覚まし、数日の記憶が失われていることに気づきます。「主人公が記憶喪失」という設定は、映画の定番プロットといっていいでしょう。ゼロ年代以降だけでも、
『メメント』(2000年/クリストファー・ノーラン監督)
『マジェスティック』(2001年/フランク・ダラボン監督)
『ボーン・アイデンティティー』(2002年公開/ダグ・リーマン監督)
『ペイチェック 消された記憶』(2003年/ジョン・ウー監督)
『アンノウン』(2011年/ジャウム・コレット=セラ監督)
などなど、その枚挙に暇がありません。
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ポイントは、ラングドンが「短期記憶傷害」であるということです。
例えば前述の『ボーン・アイデンティティー』や『マジェスティック』の主人公は「長期記憶障害」で、自分が何者すら分からない“自分探し”に奔走します。
一方『メメント』、『ペイチェック 消された記憶』、『アンノウン』の主人公は「短期記憶傷害」で、数日間の記憶が失われているがために、かすかな記憶と証拠を頼りに自分の足跡をたどっていきます(『メメント』に至っては、主人公の記憶は10分しかもちません!)。
もちろん作品によって例外はあるでしょうが、「長期記憶障害」はよりドラマティックに、「短期記憶傷害」はよりサスペンスフルにドラマに奉仕する、といえます。『インフェルノ』ではラングドンが病室で目を覚ますオープニングから、サスペンスとしての仕掛けが起動しているのです。
本作では、この「短期記憶傷害」が副次的にもうひとつ効果をもたらしています。「ロバート・ラングドン」シリーズ最大の問題は、ラングドンがあまりに博学であるゆえに、常人の思考をはるかに上回るスピードで謎が解き明かされ、観客が物語に追いついていけないことでした。
しかし今回は、ラングドンが思考を巡らせるたびに「うう…アタマが痛いよぉ…」となるため、結果的に謎が解き明かされるスピードが弱まるのです。オツムの弱い筆者もこれで安心!文字通り怪我の功名といえるでしょう。
キーワード2 : 本当の敵
これまたサスペンス映画の定番プロットとして、「本当の敵が分からない」というものがあります。
より正確にいうなら、「状況によって敵・味方が次々と入れ替わるため、主人公が誰を信用していいのかが分からない」といったほうがいいかもしれません。
ロバート・レッドフォードが主演した1975年の映画『コンドル』は、その分かりやすい例といえます。密かに情報収集を行っているCIAのスパイ支部が何者かに襲撃され、命からがら逃げ延びたコードネーム“コンドル”は、身柄を保護してもらうように上層部に要請。しかし指定された避難先でも命を狙われ、「誰が本当の敵なのか、なぜ命を狙われるのか」がさっぱり分からない…というお話。
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本当の敵が分からない状況が続くと観客は一息つく間も与えられず、心理的に宙づりの状態が続きます。そもそもサスペンスとは、サスペンド(宙ずり)から生まれた言葉。宙づり状態とは、まさにサスペンス映画の骨格そのものなのです。
では果たして、『インフェルノ』はどうなのか?
女性医師のシエナ、WHO(世界保健機関)事務局長のエリザベス、WHOフランス支部職員のブシャール、大機構(民間警備会社)CEOのシムズといったキャラクターが本作に登場しますが、「本当の敵」というキーワードを踏まえつつチェックしてみると面白いかもしれません。
キーワード3 : マクガフィン
マクガフィンとは、登場人物が行動するための動機付けとして、作劇上重要な仕掛けのこと。特にサスペンス映画を語るにあたっては重要なキーワードのひとつです。
『ダ・ヴィンチ・コード』の場合は、キリストが最後の晩餐に使ったとされる聖杯がマクガフィンになっていました。宗教学上最大の謎をめぐって、敵味方が入り乱れる構造です。
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しかし聖杯伝説そのものよりも、「マグダラのマリアは実はキリストの配偶者だった」といったような、仮説・トリビアがそれを覆い隠してしまい、マクガフィンとしてはあまり効果的に作動していませんでした。
続く『天使と悪魔』は、核エネルギーを凌駕する反物質がマクガフィンとして登場。しかしこの作品も、反物質を探し出すというよりも、誘拐された枢機卿4人を救い出すための謎解きゲームが主軸になっていて、いつのまにか反物質がどーでもよくなっているような印象を受けます。
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そして今回の『インフェルノ』のマクガフィンは、大富豪にして天才遺伝学者ゾブリストが、人口増加抑止としてつくったウイルスです。
「未曾有の危機を救うために、このウイルスを発見して葬り去らなければならない」と考える者、「人口増加の抑止策として、このウイルスを散布することが最終的に人類の延命に繋がる」と考える者、「このウイルスを第三国に売り渡し、巨万の冨を得よう」と考える者。
ウイルスがストーリーの強力なトリガーとなって、様々な登場人物の動機付けを規定しています。本作は、マクガフィンが最もマクガフィンらしく作動している作品といえるでしょう。
結論、『インフェルノ』はシリーズ最高傑作!
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一般論においてシリーズ映画というものは、第一作を頂点として後には尻すぼみになるケースがほとんどですが、この「ロバート・ラングドン」シリーズは回を重ねるごとに前作の弱点が補強され、サスペンス映画としての強度が増していくという、珍しいタイプの作品といえます。
『インフェルノ』はシリーズ最高傑作といって差し支えないでしょう。
一作目から順番に見返していけば、サスペンス描写が次第に洗練されていくことが分かるはず。シリーズ最高傑作をぜひ映画館で体感してみてください。
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※2022年2月26日時点のVOD配信情報です。