―『エコール』の監督が贈る、最も美しい“悪夢”―
秘密の園の少女たちを描いた『エコール』(04)で世界各国の新人賞を受賞したルシール・アザリロヴィック監督の最新作『エヴォリューション』が、2016年11月26日(土)より渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国にて公開中である。
© LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
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本作で描かれるのは、まるでグリム童話やアンデルセンのような、無垢で美しく、魅惑的な恐怖。
子供が成長するときに抱える根源的な不安が、絶海の孤島に広がる眩い海と荒れ果てた丘、朽ちかけた病院を舞台に描き出される。
大人たちの世界を、とある秘密を知ったその瞬間に、胸に生じるのは海のように広がる無限の可能性か、息もできないほどの底なしの恐怖か?
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主人公の少年は、時の移ろいを留めることができないのと同じように、女たちから心理的に、肉体的に追いこまれ、その場から走り出すか、身をゆだねるか、選択を迫られる……。
2015年サン・セバスチャン国際映画祭審査員特別賞・最優秀撮影賞をW受賞した、この類まれなる美しい映像と、背筋も凍る悪夢のような物語を、ぜひ劇場でご堪能いただきたい。
倫理や道徳を超えた81分間の美しい“悪夢”。禁断のダークファンタジー
© LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
<STORY>少年と女性しかいない、人里離れた島に母と暮らす10歳のニコラ。その島ではすべての少年が奇妙な医療行為の対象となり、そのことに疑問を抱いたニコラは、夜中に出かける母親の後をつけ、海岸へと辿り着く。
そこで彼が目にしたものは、母親が他の女たちと行う「ある行為」であり、ニコラの日常はその夜を境に、次第に悪夢のような日々へと変わっていくのであった……。
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なぜこの島には男の子しかいないのか?彼らに施される医療行為とは何なのか?女たちの目的とは?
そして、病室から次々と周りの少年たちが姿を消していく中、ニコラの身体にとある異変が生じ始める。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】「成長したら自分はどうなるの?」原始的な不安を独特の映像美と異色のストーリーで描き切る
監督・脚本:ルシール・アザリロヴィック
photo by Masataka Miyamoto
1961年5月、モロッコ・カサブランカ生まれ。17歳のときにパリに移住。美術史を学んだ後、IDHEC(高等映画学院/現Femis)で映画を学び、在学中にギャスパー・ノエと出会い、プロダクションを設立する。
1996年に制作、脚本、編集、監督を務めた52分の作品『ミミ』が、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映され、数々の賞を受賞。
2004年に監督した長編映画『エコール』では、サン・セバスチャン国際映画祭にて最優秀新人監督賞を受賞したほか、多くの映画祭で受賞した。
両作品とも、子どもを主人公に据え、死への恐怖と潜在的な性の目覚めを描き出しているところに特徴があり、その独特の映像と音楽は、まるでおとぎ話の一編のように、観る者を束の間の不安と恍惚の世界へと誘う。
※2014年に監督した短編『ネクター』は、現在アップリンク渋谷、新宿シネマカリテほかにて、映画『エヴォリューション』と限定併映中。
(C)De Films en Aiguille visa d’exploitation 138 319
森の中に暮らす女王蜂とメイド蜂たちが織り成す密やかな儀式を艶かしく幻想的なタッチで描いた異色作である。
夢か現実か、幻想的な世界観を支えるロケーション
カナリア諸島・ランサローテ島(スペイン)
credit : Gernot Keller, London (www.gernot-keller.com) – Canon 5D
ランサローテ島は、イベリア半島から南西へ、アフリカ大陸の北西より大西洋沖に位置する、カナリア諸島を構成する島のひとつである。人口は約14万人。島の主な経済は観光とワイン。長年の噴火の繰り返しにより溶岩台地とクレーターが見られる典型的な火山島である。
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本作では、サンローテ島の自然に精通したドキュメンタリーのカメラマンが海中のシーンを撮影し、時に雄大に、時に不気味に、朝な夕なに様相を変える神秘的な海と、長い年月の風化を感じさせる岩礁を、夢と現実の狭間で揺れ動く画面の中で見事に捉えている。
10年越しの映画化。分からないものの先に生まれる想像・創造
アザリロヴィック監督が本作を製作するにあたり、一番困難を要したことは資金集めだったと語る。常に「よく分からない」と言われ、何度も脚本を変えたり説明を加えたり受け入れられやすくなるよう工夫を凝らしたと多くの場で述べている。
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しかし、それでも、この映画の若き主人公が、何が起こるか分からず、目に見えるあらゆるものを疑うように、観客も少しずつ自分が置かれている立場を失っていき、少年と同じように不確かな、刺激的な場所で自分を見つけだすことを望んでいると、アザリロヴィック監督は完成後のインタビューで力強いコメントを残している。
「初期クローネンバーグを思わせる!」「ルイス・キャロル、グリム兄弟、アンデルセンの死体を掘り起こした」
世界各国から絶賛のコメントが寄せられる本作。美しくも不気味な世界観に酔いしれると共に、成長する少年の心の葛藤に根源的な不安を想い抱くことだろう。そこはユートピアか、ディストピアか。何を頼りに、何を信じて、生きればいいのか。夜の闇は深く、しかし月の明かりは遥か上空で輝いている。