俳優の内谷正文さんは、自らと弟の薬物依存の実体験を元にした一人舞台「ADDICTION 今日一日を生きる君」を12年間、続けてきました。薬物の怖さをさらに多くの人たちに知ってほしいとの想いで、映画化の企画を始動。現在クラウドファンディングサービス、GREEN FUNDING by T-SITE にて制作資金を募っています。
▼12年間、一人芝居で訴え続けてきた薬物依存症をテーマにした作品を 映画にして一人でも多くの人に届けたい! 百瀬朔 小澤亮太 出演「まっ白の闇」映画制作プロジェクト
自身だけでなく、大切な弟をも巻き込んでしまったこと、そしてそこから回復し、ライフワークとも言える一人舞台を立ち上げ、訴え続けてきた内谷正文さんと、共同監督の大島孝夫さん、主演の百瀬朔さんに、映画化への思いを語って頂きました。
薬物に手を出したきっかけ
—今回の映画の企画、そして今までやってこられた舞台は、内谷さんご自身の薬物の実体験を元にされているそうですが、薬物に手を出してしまったきっかけは何だったんでしょうか。
内谷正文(以下内谷):きっかけは単純なんです。暴走族仲間からシンナーを誘われたのがきっかけで、断るのがかっこ悪いとかみっともないとか、タバコを吸い始めるのと同じような軽はずみで入り込んでしまいました。
—弟さんに薬物を勧めてしまったのは内谷さんなのですか?
内谷:はい。僕らの地元は、同級生の中に兄弟もたくさんいて、みんな仲間というような感じでした。僕らと一緒にいることで、弟も中学3年くらいから荒れてきました。僕は、役者をやるようになって都内に行くことも多くなっていきましたが、弟は地元で仲間と一緒に、覚醒剤を常用するようになっていました。
よく言うのですが、薬物依存に陥る人は、心やさしい人が多いと思います。やっぱり人のことまで考える人のほうが、依存症の症状がひどい。弟も幻聴や幻覚が始まりました。
—そうした弟さんの様子を見て、当時どのようなことを思われましたか。
内谷:やばいなと思いました。とにかく治したい、クスリをやめさせなきゃと。ただ、その時は弟のことを思っていたわけじゃないんです。苦しんでいる弟を見て、自分もつらかったし、あと自分も使ってたことが親にバレるのが嫌だったんです。講演でもよく言うんですが、僕は本当に中途半端な人間です。
ライフワークとしての一人芝居
—今まで12年間、一人芝居を続けてこられたのはどうしてでしょうか。
内谷:弟は全部捨てて、北九州で一人で暮らし始めました。そういう弟を見ていて、新しい生き方を見つけなきゃいけないと思いました。そうじゃなきゃ、また戻ってしまうと。演劇は22歳の頃からずっと続けていたし、一人芝居をずっとやりたいと思っていました。芝居は、薬物の世界に戻らないために続けているんです。
—舞台を始めた頃、観客の反応はどうだったんでしょうか。
内谷:最初は今のバージョンよりももっと長かったんですね。ラストはナイフで腹をかっさばいて死んでたんです。まずは家族会(薬物依存症の家族を抱えている家族の会)で始めました。ある時にあるお母さんが泣きながら握手してきて、「よかったです」と言ってくれて。「向き合って見れた、自分も回復してる証拠だわ」って。それを聞いてドキッとしました。薬物依存の子どもを抱えている人たちに、薬物依存の男が腹かっさばいて死んでくシーンを見せていたわけですから、普通だったら苦しくて見れるわけがない。
そういうラストにしていたのは、子供たちに絶対悪として見せたかったんですが、今は、最後に首を締めて生きるか死ぬか、見てる人に想像してもらえるように変えています。
同じ体験を持った人と映画化への道を歩む
—今回、映画にしようと思ったきっかけがより多くの人に見てもらうためでしょうか。
内谷:それが一番ですね。あとは同じ想いを持った今回の共同監督である大島さんと出会ったことですね。
—内谷さんがご家族をダルク(薬物依存症リハビリ施設)にお連れしたときに、家族もまた共依存症という、ある種の病気にかかっていると言われたそうですが、こういった共依存症についても映画の中で描いていく予定ですか。
内谷:そうですね。共依存症はすごく理解が難しいと思います。薬物自体も依存性が高いですが、そこには必ず人がいるんですよ、一緒に使ってる仲間や家族、恋人だったり。だからそこの依存の環境を変えない限りなくならない。
相手の問題を自分の問題にしてしまうのが共依存症です。特にお母さんは息子相手だと、自分の生命に変えてもと思いますよね。だから共依存が深い。だから「愛ある突き放し」という態度が必要で、あなたはあなた、私は私と切り離さないといけない。そういう距離感が守れる位置で、個々が変わっていくということが共依存の回復だと思います。
今回の映画の主演の百瀬さんにも、実際にダルクで薬物依存の方と接してもらっています。実際にそういった所に出向いてもらうことで、彼なりに上手く表現してもらえたらと思います。
どうリアリティを表現するか
—現実をよく知るお二人に囲まれて、百瀬さんはリアリティを表現する立場としてプレッシャーはありませんか。
百瀬朔(以下百瀬):最初は薬物を使った人のリアリティにこだわっていたんですが、内谷さんたちとお話しして、それよりも等身大として、僕個人でやってほしいというように言ってくださったんです。あまり気負わずフラットにやることができたらと思っています。
内谷:よくドラマで薬物中毒者が暴れるような描写がありますけど、薬物患者って基本的に怯えるんですよね。包丁持つのは相手を刺すためじゃなくて、見えない何かから自分を守ってるんです。かっこよく描くつもりもないし、クスリをどうやって使うかというリアリティにも固執するつもりもありません。それよりも、薬物を使っている人にも家族がいて、苦しむのは家族なんだってことを描きたいんです。
—今回、百瀬さんを弟役にキャストした一番の理由はなんでしょうか。
内谷:ああ、朔がやりたがってたからかな。笑
—百瀬さんの方から手を挙げたんですか。
百瀬:以前から、内谷さんと一緒に仕事をしたいと思っていました。
—今回の役どころは非常に難役ですよね。脚本を読まれた最初の印象はどうでしたか。
百瀬:めっちゃしんどかったです。もちろん薬物の恐ろしさを世間の人に知ってもらうという意義も感じています。クスリによって狂っていく話なので暗い印象もあるし、お話の結末を知っていながらも、やっぱり脚本を一気に読むことはできませんでした。
—しんどいけれど、自分としては何か得るモノがあるという感じですか。
百瀬:そうです。自分でも得るものがあると思ったので、やらせていただきたいと手を挙げました。
—いろんなダルクに行かれたりしてると思いますが、実際に依存症の方と接してみて、どんなことを思いましたか。
百瀬:もっと怖い人だと思っていましたが、思いの外良い人ばかりなんです。そこがびっくりしました。人のことを考える優しい人がそういったことに陥ってしまうということを実感できたことが一番大きかったと思います。
薬物の問題に関わる全ての人の希望になるような映画に
—今回映画のタイトルは「まっ白の闇」という、芝居とは違ったタイトルですね。このタイトルはどんな意味や意図を込めているんでしょうか。
内谷:まっ白というのは、純白な気持ちとか純粋とかもあるし、白い粉という意味も込めています。闇って実際には黒だと思いますが、薬物に苦しんだ人って「白い闇」を見たことがあると言う人が結構いるんです。
—これから撮影が始めると思いますが、撮影にあたって大島監督はどんな意気込みでしょうか。
大島:ダルクに言った時に、施設長の方に開口一番に、「お前ら金儲けのためにやるのか?」と言われましたが、「薬物に関わるいろんな人たちの希望になるようなものにしたい、そういう気持ちで来ました」という話をしたところ、快く取材をさせていただきました。薬物の問題に関わっているいろんな人たちの希望になるような作品になるようにと思っています。
—これから演じられるにあたって百瀬さんは、どんな風に弟役を演じたいなと思いますか。
百瀬:ダルクに行かせてもらったりと、実際に自分の目でみた体験をたくさんさせてもらっていますし、こうやって演じようと考えるというよりも、フラットに自分を見せることが一番かなと思っています。体験を通じて感じたことをもとにして、撮影の現場で見せていきたいです。
—最後に内谷さん、今回映画の制作に向けて意気込みなどあればお願いします。
内谷: 完成した作品は、映画館でも上映したいです。その後、これを一人芝居のように、いろいろな所に行って見せたいです。上映後は、体験談なども話したりして。今までとは違う形のアプローチで、この映画をいろんな人に見てもらいたいなと思います。
そして、薬物乱用防止の目的もありますが、最終的に、薬物で苦しんでいる家族に、光があたればと思っています。
—制作にあたって、参考にする作品などはありますか?
内谷:映画自体を参考にするっていうのはないですね。僕の場合、周りにドラマみたいな人生を送っている人間はたくさんいるので。ただ『トレインスポッティング』が好きなので、ああいった作品描写は気になります。
—『トレインスポッティング』の名前が出てきたのはちょっと意外でした。あれは内谷さんから見てドラッグの描写などはどう見えるんでしょうか。
内谷:僕は、そこよりも地元の「仲間関係」の描写が面白いと思いました。ベグビーや先輩後輩とか、映像ももちろんクールで面白いですが、仲間の地元感というか、そういう点が面白かったですね。いつまでもつるんで、その中でクスリもやめられないようというような関係が考えさせられます。
—なるほど、内谷さんならではの視点ですね。今日は本当にありがとうございました。
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(取材・文:杉本穂高、撮影:柏木雄介)
※2022年9月29日時点のVOD配信情報です。