今年の映画を振り返ってみると、とかく邦画に目がいっちゃう。『シン・ゴジラ』とか、『君の名は。』とか、『この世界の片隅に』などは言わずもがなで、クズとか下衆とかディスとかケンとか暴れる映画もたくさんあったし、カルタとったりパンツかぶったり漫画原作もたくさんあったし、深田監督はカンヌ受賞だし、ここほれワンワン思い出される。
ただまだ今年の「BEST10」を決めるには早すぎるのかもしれない。まだまだ12月も注目作がたくさんあるのだから――。
男と女とプロレスと。痛くても、その痛みを信じて生きていく
『いたくても いたくても』
(C)東京藝術大学大学院映像研究科
「きっと、何かが変わるはずだ」
経営難にある通販会社の社長が突然思いついた、商品を紹介しながらプロレスをする“エンターテイメント通販番組”。青汁を口から吹きつける毒霧。筒状のカーボンヒーターで首を絞め上げる決め技。社員たちは社長の台本に戸惑いながらも試合をこなし、番組づくりは続けられていく。
そんな一見くだらない闘いの中に何を見い出したのか?やられ役にも関わらず、次第にプロレスにのめり込んでいく下っ端ADの主人公。それを理解できずに不満を漏らす同僚の恋人。そんな二人の間に割って入ろうとする好敵手役のメインMC……。
(C)東京藝術大学大学院映像研究科
仕事に恋愛にプロレスに、目の前にリングがあるのなら、飛び込むことが肝心なのか?それが例えどんな結果になろうとも、痛みを伴うことになろうとも、その痛みを感じるからこそ、自分がこの後どうしたいのか、目の前の相手をどうしたいのか、思いを巡らせることができるようになるのかもしれない。
思いをぶつけて、ぶつけられて、気持ちを一身に受けて立つ!未だかつてない奇天烈な闘いからこぼれ落ちる汗は、見たこともないほど純粋な輝きを放つ。
(C)東京藝術大学大学院映像研究科
本作の監督を務めたのは、『ハッピーアワー』の濱口竜介など、気鋭の新人監督を生んでいる東京藝術大学大学院映像研究科出身の堀江貴大。第16回 TAMA NEW WAVEでは主演男優賞&主演女優賞&グランプリと3冠受賞を果たした。
劇場情報
12月3日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトショー。劇場情報はこちら(『いたくても いたくても』公式HP)
人は“あなた”という役を降りることはできない。
『貌斬り KAOKIRI 戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より』
(C)2015 Tatsuoki Hosono / Keiko Kusakabe / Tadahito Sugiyama / Office Keel
役者やめますか? それとも人間やめますか?
これは舞台か、映画か、現実か?実際に起こった日本映画史上最強のスキャンダル、絶世の美男俳優の顔斬り事件の考証を題材に、2015年1月8日から高円寺の明石スタジオで行われた舞台「スタニスラフスキー探偵団」の全8回公演の映像を用いつつ、その舞台裏で巻き起こる不可解な事件の謎解きを、役者が役者として爆ぜるその生き様を、多重構造で描き出す。
(C)2015 Tatsuoki Hosono / Keiko Kusakabe / Tadahito Sugiyama / Office Keel
大入りの千秋楽、貌斬り事件の当事者、関係者たちの心境に立ち、自分自身の内側からどんな感情が沸き起こるのか、そして体はどのように動くのか、リアルな仮説を導き出していくという舞台を演じる役者たち。
本当に相手の顔を切ってしまえよ? ニヤつく演出家。役を辞退する役者。逃げ出す役者。薬を盗まれて息も絶え絶えな役者。今日の舞台を最後に引退する役者……。舞台上で、楽屋裏で、貌斬り事件の真相に迫るその瞬間、台本を超えた“何”かが起る。
(C)2015 Tatsuoki Hosono / Keiko Kusakabe / Tadahito Sugiyama / Office Keel
監督は、90年代日本映画ベストワン と絶賛され未だに話題を提供し続ける傑作『シャブ極道』の細野辰興。主演は『アワ・ブリーフ・エタニティ』の草野康太、 『SHARING』『悪人』の山田キヌヲ。
劇場情報
12月3日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開。劇場情報はこちら(『貌斬り KAOKIRI 戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より』公式HP)
あきれるほどに、馬鹿だった
『14の夜』
(C)2016「14の夜」製作委員会
Rakuten TVで観る【登録無料】クソみたいな日常にサヨナラだ。居ても立っても居られなくなって飛び出した、14の夜。
1987年の田舎町。とある噂が子どもたちの間で話題になる。町に一軒だけあるレンタルビデオ屋に、AV女優がサイン会にやってくる!?家でも学校でもぱっとしない中学生のタカシら柔道部員の4人は、来るか来ないかも分からない彼女に会って胸を触らせてもらおうという夢を求めて、夜の町へと繰り出す決意をするのだが……。
(C)2016「14の夜」製作委員会
いつの世にもくだらないことに必死な中学生男子の悶々を描いた性春映画。しかしその妄想と葛藤こそが、後の人生をも大きく変えるきっかけになることだってある。
田舎ヤンキー、怪しいおっさん、タカシを囲む障害物。自分のふがいない父親のようにはなりたくないと、このまま女性に乳房を触らせてもらえないようなダメ男にはなりたくないと、くだらないけれども、未来を睨む主人公のタカシの瞳が印象に残る。大人になっても、燃える瞳を忘れてはならない。
(C)2016「14の夜」製作委員会
監督は、『百円の恋』で第39回アカデミー賞・最優秀脚本賞を受賞した足立紳。本作にて監督デビューを果たす。映画を盛り上げる主題歌を、大人気バンド“キュウソネコカミ”が担当する(10/26発売『わかってんだよ』)。
劇場情報
12月24日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開。劇場情報はこちら(『14の夜』公式HP)
まだまだあります!期待の邦画!
『イノセント15』
(C)2016「イノセント15」製作委員会
雑誌にTVに映画監督に、多分野での活躍に各業界から大きな注目が集まる20歳、小川紗良をヒロインに、居場所をなくした少年少女の逃避行を描いた青春ストーリー。近づくほどに胸がうずくのは、愛を得る喜びか、いずれ失う悲しみか……。
12月17日(土)よりテアトル新宿ほか順次公開。劇場情報はこちら(『イノセント15』公式HP)
『ねぼけ』
(C)壱岐紀仁/映画「ねぼけ」製作委員会
映画の製作費を募るクラウドファンディングでおよそ190万円の支援を得て完成された期待の1作。売れない落語家を中心に、すれ違う思いや人生のやるせなさを、昭和のよき時代の映画を彷彿とさせる丹念なタッチで描いた笑いと涙の感動作。
12月17日(土)より新宿K’s cinemaほか順次公開。劇場情報はこちら(『ねぼけ』公式HP)
『はるねこ』
『Helpless』『EUREKA ユリイカ』を手掛けた青山真治監督とプロデューサーの仙頭武則 が共同プロデュースをする注目の1作。監督は、 山本政志監督、橋口亮輔監督、瀬々敬久監督など数多くの作品で助監督を務めた甫木元空。本作が初長編デビュー作となる。
12月17日(土)より渋谷ユーロスペースほか順次公開。劇場情報はこちら(『はるねこ』公式HP)
2016年の年末も、勢いにのる邦画作品をぜひ劇場で味わってみてくださいませ。
そして、2017年はどんな映画の年になるのでしょうか?
※2022年10月31日時点のVOD配信情報です。