年末最後に観たい青春の青臭さが混じった《熱い》映画『太陽を掴め』、現在絶賛公開中です。中村祐太郎監督に単独でインタビューを行った記事[後篇]をどうぞ!
■参照:人生に迷った人に観て欲しい《熱い》映画が誕生!『太陽を掴め』インタビュー[前篇]
『太陽を掴め』の出発点は?
ー主演・吉村界人さんの第一印象はいかがでしたか。
界人君には会う前から、SNSでは知っていたんですけど、彼がそこで発しているメッセージや写真からは、「自分の命を燃やしている」というイメージを覚えていました。それは僕が大好きな、尾崎豊とも重なる部分があると感じたんですよね。
そこで会った時に「尾崎豊に似てるよね」と彼に言ってみたんですよ。すると界人君が、「俺も尾崎が好きだ」と僕に答えて、そこから音楽を軸とした映画を作りたいという話になりました。だから界人君と出会ったことが、『太陽を掴め』という映画の出発点でしたね。
舞台とキャラクター
ー基本的には『アーリーサマー』など地方を舞台にした作品が多い中村監督ですが、今回は初めて、渋谷という都市を舞台にしていますね。
たとえば、界人君演じるヤットが歌うライブハウスとか、若者が何かをする最初の地点が渋谷という街で、僕自身もよくお茶したりとか映画を見たりとか、一番親近感がある町が渋谷で、だからこそ渋谷という街を映したいという想いがありました。
ーヤットのキャラクターですけど、基本的な言葉遣いは「うるせえ」とか「まじ」とかあまり上品とは言えないですけど、その反面、たとえばカップラーメンを食べているところで、誰もいないのに「いただきます」と口にしたりとか、夜寝る前に本を読んだりとか、すごく繊細なものも感じられます。彼のキャラクターはどのように作られたんですか。
界人君とプライベートで会ったときの印象などを脚本上に落としたのと、また界人君に「ヤットってどういう奴なの?」と言われたとき、こういう感じのまっすぐで、自分の信念を曲げられることが大嫌いでという話し合いをして、ふたりでヤットを作っていきました。ヤットはまんま界人君でも僕はよかったので、アドリブで彼のキャラクターを活かすことも撮影中は積極的に行っていました。
ー他のふたり、タクマとユミカはどうでしたか?
ふたりの場合はまた違って、浅香君と岸井さんのことを知らずに脚本を書きあげたので、お芝居ができるふたりでよかったです。また、ふたりの性格にもある程度合致するものがあったので、結果的にプラスに作用したということはありました。
撮影時の裏側・エピソード
ー撮影の中で印象に残るエピソードについて教えていただけますか。
撮影の中盤くらいだったんですけど、喫茶店のシーンがあって、そこで親睦を深めがてら、界人君と僕と岸井さんの3人でお茶したことが思い出に残ってますね。その時まで岸井さんとは打ち解けられていないんじゃないかという不安があったんですけど、はじめてお互いに心うちを明かしあえたというか。
話した内容としては、「写真の撮り方講座」みたいな感じでした。岸井さんのInstagramに乗っけている写真がかわいいので、界人君がどうやって撮るのとか、いろいろ聞きまくってて(笑)
また、岸井さんがウインナーコーヒーを頼んだんですけど、すごくかわいかったので、僕がその写真を撮ったら、彼女がその日のうちにInstagramにあげてて、なんか嬉しかったな(笑)
ーご自身の映画に出られた俳優さんと、それ以降疎遠になったりということもあるんですか。
それはないですね。今まで自主制作ばっかりですけど、みんな仲良くて。名古屋で撮ったときの、脇役で来てくれた女の子とかは距離的になかなか会えないですけど、だいたいは連絡を取り合っています。また今後も自分の作品に出て欲しい、という話もしたりしています。
ーヤットたちの親世代というか、主要人物と年齢が離れた「大人」は本作にはあまり出ておらず、出てきてもそこまで重要な存在ではないですね。また、タクマの愛人が中絶するかしないかということも含め、「親と子の断絶」のようなテーマもこの映画にはあると感じたのですが、いかがでしょうか。
そうですね。メイン・キャストの3人は20代前半で、彼らは歳が近いので現場でもすごく仲が良かったんですけど、それくらいの年齢になると、「親との問題―最終章―」というか、大人の考えを理解したうえで、親との衝突や別離が避けられないときは来ますよね。
いろんな確執やその清算も含め、映画で描きたいという想いはありました。それは自分自身が大人になる、ということとも関わっていますけど、より普遍的な「成長」を描きたかったんです。3人はおそらく、壊れやすそうなピュアな子どもたちで、彼らが親を含めた大人たちと対峙して一歩突き抜けていく姿が映画映えすると思いました。自分の興味もそうですが、彼らがキャストだったからこそ、こういうテーマを選んだという理由もあります。
「負けたくない」という想いが映画に込められている
ーヤットがユミカに対して「俺、負けたくないんだ」という台詞を言いますよね。それは吉村さんの俳優としての意気込みでもあるようで、すごく印象的でした。
界人君は「勝つ」ということを日頃から言うんですよね。自分を鼓舞するためということもあると思うんですけど、同世代の俳優が多数出演しているなかで、界人君は飛びぬけて「勝ちたい」という意欲があったと思います。
最後に「塗り替えるのは僕らの世代」というメッセージもありますけど、そこには界人君はもちろん、他の俳優さん、僕や制作陣の意気込みも含まれてます。映画を越えたメッセージです。
ー映画の本質と外れるかもしれないんですけど、中村監督とも仲の良い、中川龍太郎監督の『走れ、絶望に追いつかれない速さで』を思い出しました。あの作品は最後に飛翔のシーンで幕を閉じますけど、「もっと上の方へ飛んでいきたい」という意味では、お互いに相通じるところがあるのではないかと思いました。
そうかもしれないですね。変に縮こまるよりは、イキがってみようというか。
ーいま中川監督の話を出しましたけど、中村監督自身が目標にする、「負けたくない」という監督はいらっしゃいますか。
うーん、悩みますけど、小林勇貴監督(監督作に『孤高の遠吠』など)ですね。先日UPLINKで僕の作品の特集上映があって、彼はトークショーのゲストで呼んだのですが、そこで話した内容がすごく面白くて。また、彼は最近雑誌の取材を受けたんですけど、その対談のゲストとして、僕を呼び返してくれたんですね。
そのように「共闘」していることもあって、お互いに切磋琢磨したい監督で言ったら、彼ですね。負けないということもそうだし、自分で口に出すのはイタいですけど、ともに邦画の未来を担う監督として、頑張っていきたいという思いがあります。
ーもともと影響を受けた映画監督はいらっしゃいますか。
自分にとってレジェンドなのは、山田洋次監督ですね。映画を編集するときには、山田監督作品を見返します。たとえば90年代に撮った映画で、なんでこのショットが生まれるんだろうみたいな奇跡がかなりあるんですよね。すごく秀逸な絵の運び方をされる方です。『学校』とか『たそがれ清兵衛』をはじめとした時代劇とか。
ー今後ご一緒したい役者さんなどはいらっしゃいますか。
西田敏行さんです。叶うか分かりませんが、自分の映画で演じられるのを観たいです。よく考えたらおじいちゃん、おばあちゃんを作品に出したことがないこともあって。友情出演という形でもいい、いつかご一緒できたらすごく嬉しいですね。
ーいま、考えている企画はありますか。
いま作り出しているものがあって、ピンク映画なんですけど、来年の春くらいにクランクインする予定です。テーマとしては「クソ畜生」です。やりたいことをやりまくる予定ですので、ぜひ期待してください!
▼本作プロデューサーの髭野純さんと監督とのツーショット
「負けたくない」―それは言葉だけではなく、この映画全体から強く感じられます。人間として、映画監督として、さらなる高みを目指そうという。今回はじめて商業映画を制作した中村監督。新境地に到達したとともに、「まだまだ新しいものがやれる」という強い意気込みを確かに感じられました。
中村監督の尊敬する山田洋次監督が、70代になってはじめて本格的な時代劇に挑戦したように、中村監督も次作をはじめ、さらに多彩な題材に挑戦してほしいと強く感じます。本作『太陽を掴め』は次世代の巨匠中村祐太郎の、記念すべきひとつの出発点として多くの人の心に残ることでしょう。
本作『太陽を掴め』は、テアトル新宿、名古屋シネマスコーレほか全国順次公開中!
(C)2016 UNDERDOG FILMS
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(取材・文:若林良、撮影:宮田克比古)
※2022年12月23日時点のVOD配信情報です。