東京国際学生映画祭グランプリなど学生時代から数々の賞を受賞し、大林宣彦監督などにその才能を絶賛された俊英、中村祐太郎監督の劇場デビュー作となる『太陽を掴め』が12月24日(土)より公開中です。
都会に生きる現代の若者たちのヒリヒリした情熱を感じさせる渾身の一作。
公開直前に中村祐太郎監督と主演の3人、吉村界人さん、浅香航大さん、岸井ゆきのさんにインタビューし、映画の内容同様、熱い想いを語っていただきました。とても息の合った4人で現場でのチームワークの良さも伝わってきます。
吉村界人との出会いから生まれた映画
ーまず中村監督にお聞きしますが、本作の構想のきっかけを教えてください。
中村祐太郎(中村監督):『雲の屑』という作品を以前作ったんですが、それが僕の卒業制作作品でした。それを上映する機会があって、その時に吉村(界人)くんがプライベートで観に来てくれて。それで打ち解け合って「映画一緒に作りたいね」という話になって、まず彼を起用して話を作りたいというところからこの映画の構想が始まりました。
主演3人は、自身が演じるキャラクターをどう見たか?
ー「太陽を掴め」は自主制作ですが、今日来てくださった主役の3名をはじめ、豪華なキャストを揃えています。それぞれのキャスティングの決め手はなんだったんでしょうか。
中村監督:タクマは頭は切れるんですが、どことなく可愛げがあって、愛について迷走するんです。そういう役に浅香(航大)くんの中性的な佇まいがピッタリだったんです。
ユミカは、どことなくほっとけない女の子というか、「あいつ俺がいなくちゃダメだよな」みたいに思える女の子。岸井(ゆきの)さんは芝居も上手いし、見た目の印象と役がハマりました。
ー脚本を読んでみて、それぞれご自身の演じるキャラクターについてどう思われましたか。
岸井ゆきの(以下岸井):台本を読んで、自分とは違うタイプだったこともあり・・なかなか感情移入するのが難しいなぁって思っていました。でもユミカも自分自身のことをそんなに好きじゃなくて。そのことがだんだん分かってきて、すごくいい按配で演技ができた気がします。
ー浅香さんはどうでしたか。
浅香航大(以下浅香):タクマは、ヤットみたいに真っ直ぐになれない自分に対してジレンマを感じているんです。長いものに巻かれるじゃないけど、そういったことは誰にもある葛藤だと思いますし、脚本を読んだときは彼に感情移入して胸が痛かったですね。
ヤットは、自分にはないものを持っているタクマに対して憧れを持っていると監督は言ってましたが、僕はタクマがヤットに対しての抱いている憧れの気持ちの方が強いと思いました。まっすぐ生きて、ライブやって格好良くて。その反面、タクマは、大人に取り入れながら上手く生きているが、それは何か違うと迷っている。タクマにしてみれば、自分ができないことをやっている憧れの対象がヤットなんです。
ー吉村さんが演じられたヤットは、タクマをどう見てるのでしょうか。お互いがお互いに憧れあってるのに、ふたりはすれ違っているというのが切ないですね。
吉村:そうですね。僕はやっぱり、タクマは格好いいと思います。ヤットって滑稽じゃないですか。上手くいってない部分もいっぱいあって。でも彼の真っ直ぐで熱い想いをそのまま行動で現れている点が、他から見たら格好いいと思うのかもしれません。ただ自分の気持ちに真っ直ぐでいたいということが、実はみんなが求めるような理想なんですよね、きっと。
ーヤットはご自身とは近いキャラクターですか。
吉村:近くないです。ヤットは、言いたいことは絶対言うみたいな男じゃないですか。僕は、普段あんなに喜怒哀楽を表に出したりできないし、もっと保守的ですよ。
ー監督はこのヤットってキャラクターを吉村さんをイメージして作ったんですよね。彼のどういうところを見てキャラを作っていったんですか。
中村監督:彼は、保守的って言いますが、出会ったときの吉村界人は、すごくヤットに見えました。自分に正直に生きている点や、素直な気持ちで仲間と対峙しているところなども、吉村くんを見ているように思えます。今は、いい意味で落ち着きが出てきたと思いますけど。
ヤットとタクマには恋人よりも強い絆がある?
ーヤットとタクマって、友だちよりも恋人っぽく見える時がありました。そういう意図はなかったですか? タクマが中性的で、ヤットが男らしい設定からそう見えるのかもしれませんが。
吉村:恋人とは思ったことはないですね。(浅香さんに)ある? 恋人とか思ったこと。
浅香:いや恋人みたいには思わないけど、すごい仲良いとさ、ちょっと異性でもなくても嫉妬するじゃない。「連絡こねえ」「他の奴と遊んでるのか」とかさ。仲良くなると、相手のことを把握したくなるっていうのはあると思う。
中村監督:そう、束縛したくなるんだよね。
浅香:タクマとヤットはそれに近い感覚は多分あったと思います。お互いに対しての尊敬だったり、憧れが前提にあって、その上をいくような仲だったと言えるかもしれません。
ーただの友情じゃない感じだし、すごく不思議な三角関係ですよね。お互い認めあって、尊敬もあるし、三角関係のどの方向にも愛情はあるんですよね。
中村監督:今思ったんですけど、例えば、ヤットとユミカどちらも死んだら、タクマは、ヤットに対して涙を流すかもしれない。ユミカの死ももちろん悲しいけど、ヤットの死のほうがもっと悲しいんじゃないかな。逆にヤットもタクマとユミカが死んだとしたら、タクマの方に対して涙を流すかもしれない
ーユミカの立場が。(笑)
岸井:でも、分かる気がします。
浅香:じゃあユミカはどっちに涙するの?
吉村:タクマでしょ。
中村監督:いや、ユミカはこの2人が死んだら自分に対して泣くかもしれない。このひとりぼっちになってしまった自分自身に対して。
岸井:えーーーーー
中村監督:「なんでタクマもヤットも死んじゃうんだよ」と一人残された自分はかわいそうって、タクマの上着を着て、ヤットの曲を聴きながら泣いてそう。
(一同爆笑)
ー独占欲強いですね。(笑)岸井さんはどう思いますか。
岸井:今監督に言われたことが、何だか、しっくりきてしまう自分がいます。
サマースクールのような雰囲気の撮影現場
ーみなさんはいろんな映画やドラマに出演されていますが、今回自主制作映画ということで、いつもの撮影現場との違いはありましたか。
中村監督:学校みたいな感じって言ってなかった?
吉村:サマースクールみたいな。担任が中村監督で。必死というか…バタバタしてましたね(笑)。
中村監督:バタバタが好きなんですよね。頭がグルグル回転するのがすごく大好きで。
岸井:一生懸命助監督の方が上手くやろう、上手くやろうって回してくれて。
吉村:でもみんなも言いたいこと言っていて。何でもいい合える現場だったのかもしれません。
ー今回はプロのスタッフも多数参加されています。撮影監督の鈴木一博さん、録音の山本タカアキさんなど。実際にご一緒に仕事をされてみていかがでしたか。
中村監督:まだまだと感じていらっしゃった部分はたくさんあると思いますが、僕は純粋に楽しかったですね。僕は今までずっと自分でカメラも回して、ほとんど全部やっていたのもあり、手の届かないところを掻いてくれる大人をやっと見つけたという感じでした。
人生に迷った人に見てほしい
ー最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。
吉村:この映画に出てくる人たちは快楽にしがみついていないと生きていけない弱い人間の集まりです。でもそういう弱い人間を批判するというわけではなく、そういう人たちの支えになるような映画になったらとても嬉しいです。
岸井:いろんな世代の人が観ていろんなことを思ってくれたらいいなと思います。どんな年代にもこの映画の人たちみたいな思いを抱えている人はいると思うし。まっすぐなことって格好いいと思うから、そういう気持ちを思い出したり、やっぱりそれでいいんだって思ったりしてもらえたら嬉しいなと思います。
浅香:僕は大人の人にこそ観てほしいと思っています。タクマ的な目線になりますが、この映画を観て、自分自身に置き換えて胸が痛いとか何かを感じて、若い頃の、熱くて純粋だった気持ちとか思い出してくれたらとても嬉しいです。お金に目を眩むのでもなく、長いものに巻かれてばかりじゃなくて、自分に素直になろうと考えてくれたら嬉しいです。
中村監督:まっすぐに生きることは、悪いことではありません。この3人含め全キャストが自分の意見を曲げずに、向き合った成果が映画によって生み出されたと思います。「まっすぐ生きている人たちがすごく素敵なんだね」ということが伝わるといいと思います。人生に迷いがある人がこの映画を観て、自信を取り戻してくれたらと思います。
本作『太陽を掴め』は、テアトル新宿、名古屋シネマスコーレほか全国順次公開中!
中村祐太郎監督独占インタビューは[後篇]へ。
■参照:人生に迷った人に観て欲しい《熱い》映画が誕生!『太陽を掴め』インタビュー[後篇]
(C)2016 UNDERDOG FILMS
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(取材・文:杉本穂高、撮影:柏木雄介)
※2022年11月28日時点のVOD配信情報です。