どうも、侍功夫です。
連載2回目。本当は映画文法において最も重要な手法であるモンタージュについて書こうと思っていたのだが、せっかく年始の節目なおめでたい時期なので、ピッタリなテーマにしようと思う。
ブルース・リーだ。
多くの人々が、好きな人に告白する前日や、会社に辞表を叩きつける直前などにリーの出演作品を見て気合を入れたことと思う。そうやって、いまだに多くの人生を左右し続けているブルース・リーだが、その一方で大きな勘違いもされている。彼の一番有名な一言。「考えるな! 感じろ!」が、である。
インプロビゼーションは1日にしてならず
『燃えよドラゴン』序盤。国際情報局からの使者を待たせ、まだ幼い弟子に稽古をつける場面。蹴ってみろと言われた少年弟子は何度も蹴りを入れるが、ダメ出しの連続で叱られてしまう。何度も蹴りを入れている間に、全く無心に良い蹴りを放ち、ようやくリーに認められる。
「どう感じた?」
急な質問に心地よい疲労と無心から引き戻された少年は、どうしたものか? と取り繕ってアゴに手をやり「う~~ん。考えさせて……」と言ってまた叱られる。
「考えるな! 感じろ!」
人類の歴史において、最も重要な言葉が映画のフィルムに焼き付けられた瞬間だ。
さて。この言葉、そのまま字面通りに受け取るとすれば「その場その場で感じたことを感じたままに受け取り反応せよ」というインプロビゼーション(即興性/アドリブ)の推奨に思える。しかし、まずは感じる前によく考えてみるといい。たとえばジャズのインプロビゼーション(即興演奏)をするプレイヤーは、死ぬほど練習したプロばかりであることを。
証言:ジェームズ・コバーン
リーがアメリカで道場を開くとスティーブ・マックィーンやシャロン・テートなどのセレブな生徒を抱えることとなる。そんなセレブ生徒の1人、ジェームズ・コバーンはリーの自宅に招かれて練習をつけてもらった際のことを、こう懐古している。
いわく。リーほどの格闘家の練習はどれほど先鋭的なものかと思っていたら、延々と続くストレッチに基礎体力作りのベンチプレスなどが終わると、これまた基本的なサンドバッグ打ちと蹴りを延々と繰り返し、終わってしまった。そうだ。
コバーンがリー自宅で練習をする風景はドキュメンタリービデオ『ブルース・リー 最強格闘技ジー・クン・ドー』に収められている。あのジェームズ・コバーンが本当に延々とサイド・キックだけを蹴らされている。その光景は『燃えよドラゴン』少年弟子の稽古ロング・バージョンの様相と言えるだろう。
歩くように殴る
赤ちゃんが歩き出す時、そこに論理は無い。初めて歩いた日の苦労の記憶も無い。おそらく、その記憶を持っている人はいないだろう。しかし、立ち上がったり歩くのに苦労しなかった赤ちゃんもいないハズだ。まだしゃべれない赤ちゃんは、何度も失敗しながら感覚的にバランスの取り方を覚え、何度も転びながらようやく歩けるようになった。
もしも、赤ちゃんが歩くよりも先に言葉を覚えていたなら、「右足を重心ごと前に出し、地面についた反動と勢いで左足を前に振り出す。」というように、「歩行」を言語化しただろう。
言語化された「歩行」は「思考」となり「考察」される。「考察」によって「歩行」は限定的な意味を持たざるをえなくなる。とかなんとか、ムズかしいように聞こえるかもしれないが、感覚的には理解できるだろう。要は歩くときにいちいち「右足!左足!」とは考えない。
そして、ブルース・リーは「歩くように無意識に相手の急所へ攻撃が加えられるまで修練を積め。」と言っているのだ。
これこそ「考えるな! 感じろ!」の真意である。
ブルース・リーと功夫
ここで、ジャッキー・チェンの名作『酔拳』や『蛇拳』、また『ベスト・キッド』や、リメイク版『ベスト・キッド』を思い返してみると、同じような練習を積んでいることが解るだろう。
特に新旧『ベスト・キッド』では生徒自身が何をしているのか理解しないまま、同じ動作を延々と繰り返させられ、いざ攻撃を加えられると自然と払いのけている場面がある。
これが「功夫」である。
「功夫」とは格闘スタイルの名前では無く「修練」の意味があるそうだ。大ヒットゲーム「バーチャファイター」をプレイしたことがある人ならチャイナ服の女性ファイターに負けて「あなたには功夫が足りないわ!」と言われたことがあるだろう。あれは修練不足をなじられていたワケだ。
ブルース・リーが立ち上げた格闘スタイル「ジー・クン・ドー」は古い形式ばったやり方への懐疑と否定が、その精神の礎になっているが、その一方で良いものならば何でもどん欲に取り入れることもヨシとされている。実際、ジー・クン・ドーでは空手、ボクシング、テコンドー、タイ式キックボクシング、フェンシング、柔道などの武道から、果ては噛みついたり、金的(キ●タマへの攻撃……)までも「攻撃手段」として認められている。しかし、それらも無意識に繰り出せるようになるまで、まずは修練を積め! というのがブルース・リーの教えなのである。
ここで、もうひとつブルース・リーの残した言葉を紹介しよう。
「1万種類のキックを1度づつ練習した者は恐れないが、ひとつのキックを1万回練習した者を恐れる。」
さて。上記したジャッキー・チェンの「拳もの」作品や、『ロッキー』シリーズに代表されるスポーツ映画には、音楽をバックに細かなカットの積み重ねで修練を見せていく場面がある。あれが「モンタージュ」で、次回のテーマである。
うまくまとまったところで。今回はおしまい。アチョー!
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