2021年4月9日に公開され、各劇場で満席続出のスマッシュヒットを記録している映画『街の上で』。『愛がなんだ』や『アイネクライネナハトムジーク』の今泉力哉監督が、下北沢を舞台に作り上げたオリジナル映画だ。
下北沢の古着屋で働く青年・青(若葉竜也)。恋人の雪(穂志もえか)にフラれてしまった彼のもとに、「自主映画に出てほしい」という美大生・町子(萩原みのり)がやってきて……。古書店の店員・田辺(古川琴音)、町子の現場のスタッフ・イハ(中田青渚)、朝ドラ俳優・間宮(成田凌)を巻き込み、青の淡々とした日常は緩やかに動き始める。
Filmarksのスコア4.3(4/9取材当時)と非常に評価が高く、注目度も日増しに拡大している話題作は、どのようにして作られたのか?このたびFilmarksでは、今泉監督・若葉・穂志の3人による「ネタバレOK」の座談会を開催。約1時間にわたって、たっぷりと語ってもらった。前後編でおくる。
――映画を観た後にワクワクして下北沢に遊びに行ったのですが、観賞後も余韻や楽しみが続く作品ですよね。
今泉:この映画に関しては、全部下北沢に本当にあるんですよね。家のシーンとかは美術が入っていますが、お店の店名も変えていないし、役者も隣に住んでいそうな人たちだし(笑)。現実と地続きの感覚で作っていたので、「観た後に下北に行った」といったような感想は嬉しいです。
若葉:それは思いますね。この前、今泉さんと水蓮(居酒屋)に行ったら「いまカニあるから食べます?」と言われてご馳走になったんですが、『街の上で』に流れているあの“温度”が、しっかりと下北自体にあるんですよね。全部本当なんです。
――作品が街に溶け込んでいますよね、本当に。
今泉:当て書きした店が実際に撮影で使えたっていうのも大きかった。普段だと結構駄目なことも多いんですよ。俺が常連だっていうこともあるかもしれないけど(笑)。
穂志:確かに! 全部撮影できましたね。
若葉:珉亭(中華料理店)が映画に登場するのは、初なんですよね。
穂志:え? そうなんですね、驚いた……。
今泉:そうそう。あんなに歴史があるのにね。テレビには出ているけど、映画は初めてらしい。
若い世代の監督と映画を作る醍醐味
――今の皆さんの掛け合いを観ていても思うのですが、本作はスタッフとキャストの世代も近く、そういったグルーブ感も大きかったのではないかと思います。若葉さんと穂志さんは、世代の近い監督と作品作りをする機会が増えてきたと感じていますか?
若葉:次発表する作品は、3本くらいは若い監督と作った作品です。若手の監督の現場だと、まだうまく言語化できない、僕ら俳優部に伝えられないけどこれがほしい!というオーダーに応える必要性が出てきます。何本も撮られているベテランの方たちとは違った筋肉を使う感じがあって、すごく面白いんですよね。
昔ながらのやり方で、助監督を経てから監督する人たちと、フィルムからデジタルに移って発表の機会が多くなってきたことも含めて、助監督の経験なしに監督をする人たちとでは、アプローチの仕方は違うように感じます。
穂志:『街の上で』もそうですが、スタッフさんに若い人が多いと全体としてとても仲良くなれるんですよ。音声さんやスタイリストさん、カメラマンさんと撮影が終わった後もつながって、他の現場でまた一緒になったときも声をかけあったりコミュニケーションを取れたりするのは良いですね。
『街の上で』は、みんなで一緒にくたくたになって気を遣いあってサポートしあって……そうした空気が作品に出ている気はしますね。
若葉:アイデアを出しやすいしね。俳優部でも、主演が高圧的だと、若い俳優が「本当はこういうことやってみたい」と思っていても委縮してできなくなっちゃうこともあると思うんです。自分自身もそういう経験はあるし、自分が主演を務めるときはそうじゃなくて、言葉は良くないかもしれないけど馬鹿みたいに、やりたい事をやってほしかったんです。
チャレンジが失敗したとしても、うまくいったとしても、稚拙なアイデアだとしても、何でもいいからみんなが投げかけ合える現場にしたい、という思いはありました。『街の上で』はスタッフィングも含めてそういったことを許容してくれる人たちだったし、そんな空気は作れたんじゃないかと感じています。
穂志:今回は10代の子や、映画が初めての子もたくさんいて、より若葉さんの言葉の通りだと感じました。気を付けてくださっていたこともあるし、元々の人柄もそうだと思うけど、気遣いがすごかったですね。みんなのびのびやれていたし、若葉さんを好きになっていた(笑)。尊敬されている空気を、若葉さん自身も感じていたと思います(笑)。
若葉:そんなことないよ(笑)。遠藤(雄斗)とか、口では言ってても絶対尊敬してないから(笑)。
今泉:(笑)。初めて映画の現場を経験するような“これから”の人たちの芝居って、声の大きさとかテンポとか間尺とか、見つめすぎたりとか(笑)、その温度が全員バラバラなんですよね。若葉さんは今回、基本“受け芝居”だから、全てを新鮮に受け続けてくれてました。
穂志:それ、観たかったな(笑)。
若葉:ただただ、びっくりし続けてた……(笑)。台詞を言う相手が違う、とかもありましたしね。本番でそれが出ちゃうと、青としても対応せざるを得ない。とはいえ、そういった新鮮な空気が、この映画を作り上げていったところはあると思います。
今泉:若葉さんの受けの芝居はほんとすごくて。古着屋の3ショットのシーンとか、ほとんどの役者はもっとリアクションをしちゃうと思うんですよね。改めて本編を観て「あんな静止画みたいに芝居を受けられる人ほかにいる?」って思いました(笑)。
今泉監督が全く予想していなかったクライマックス
――若葉さんと穂志さんの共演シーンに関しては、いかがでしたか?
穂志:私はすごく緊張しちゃって、勝手に自分で自分を追い込んで控室で膝を抱えてました……。だから、若葉さんとは現場ではそんなにお話しできなかったんですよね。ただ、若葉さんを信頼しきっていたので、撮影においては「私がおかしなことをしてもどうにかしてくれる!」と思って(笑)、思い切りやりました。
若葉:呼吸が乱れていたし、めちゃくちゃ緊張してるなとは感じてた(笑)。ただ、そっちのほうが役者として理想形だと思うんです。役者が何かをキャッチして役を掴んだ瞬間から思い込みになっていくと思うから、不安で「大丈夫かな」と思いながらやっているくらいがちょうどいい。僕は逆に、現場慣れしている役者のほうが信用できないし、危険だと考えています。
今泉:でも、終盤のとあるシーンでは、想像もしていない素晴らしい芝居を見せてくれた。穂志さんが演じてくれなかったら、相手が若葉さんじゃなかったら、あの芝居は決して生まれなかったと思うんですよね。
今回はネタバレOKだからぜひ聞きたいんだけど、あの玄関先のシーンってお互いどんな気持ちで演じてたんですか?
<後編へつづく・・・>
取材・文:SYO
撮影:甲田和久(mumo)
ヘアメイク:FUJIU JIMI/スタイリスト:TOSHIO TAKEDA (MILD) <若葉竜也>
ヘアメイク:新井克英/スタイリスト:前田勇弥 <穂志もえか>
衣装協力(若葉竜也着用):
ジャケット:ワンダーランド(ノット ワンダー ストア)
シャツ:キクスドキュメント.(HEMT PR)
<問い合わせ先>
ノット ワンダー ストア(TEL)06-6110-5466
HEMT PR(TEL)03-6721-0882
映画『街の上で』は、2021年4月9日より全国順次公開中
出演:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌(友情出演)
監督:今泉力哉『愛がなんだ』
脚本:今泉力哉、大橋裕之
公式サイト:https://machinouede.com/
(C) 「街の上で」フィルムパートナーズ