1960年初頭の「東京」を見る!日本映画名作5選

映画のミカタ、ここにアリ!

青空ホナミ

私たちの住む東京は、日本の首都として数多くの映画の舞台に設定され、これまでに当時の風俗や流行、社会問題といった話題を先取りした場所として描かれ続けています。

一方で高度経済成長を遂げたのち劇的に流れてゆく時代のなかでさまざまな変化を遂げてきた場所でもあります。

2020年には東京オリンピックの開催が決まり、これからも東京は新たな様相を帯びて来ることでしょう。今回は1964年の東京オリンピックを間近に控えた1960年前後の「東京」の見える名作日本映画を選んでみました。

川島雄三『女は二度生まれる』(1961)の九段下

女は二度生まれる

日本映画黎明期を支えるなか、さまざまな街を舞台に映画を撮り続けたのが川島雄三という監督です。とりわけこの作品ではあらゆる男たちを虜にする芸子・小えん(若尾文子)の魅力さながら、彼女とともに昭和の九段下界隈を駆け抜けていくようなロケーションの素晴らしさに圧倒されます。

ちなみに現在、映画館「角川シネマ新宿」では「若尾文子映画祭 青春」が開催されており、この『女は二度生まれる』も上映されます。この機会にぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。

「若尾文子映画祭 青春」公式サイトはこちら

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成瀬巳喜男『秋立ちぬ』(1960)の銀座

田舎の山梨から銀座へ母とともに上京する少年・秀男(大沢健三郎)によるひと夏の物語。この映画でとても驚いてしまうのは、秀男が母の働く旅館の一人娘である順子(一木双葉)から「海を見に連れてってあげる」と誘われる場面です。

銀座松阪屋(現在は閉店)の屋上から身を乗り出したふたりの前には、はっきりと東京湾の姿を目にすることができます。当時の銀座とは、まさしく「海の見える街」だったのです。

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小津安二郎『秋日和』(1960)の丸の内

秋日和

冒頭からそびえ立つ東京タワーの壮大さはもちろんのこと、この映画にも当時の東京の姿が映っています。たとえば新婚旅行へ向かう同僚が乗った列車を見送るため、アヤ子(司葉子)と百合子(岡田茉莉子)がオフィスの屋上から手を振るシーン。するとふたりの目の前には、今はなき都電と、赤い京浜急行が並行に走っているのです。

ささやかではありますが、こうした同時刻を見計らっての瞬間と都会を象徴する些細な風景を切り取ることこそ、小津安二郎なりの演出とも言えるでしょう。

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渋谷實『もず』(1961)の有楽町

新橋裏手の小料理屋「一福」を舞台にした作品ですが、ここでも当時の東京の姿を垣間見ることができます。それは松山での結婚生活に失敗し、松山から美容師を目指して上京したさち子(有馬稲子)が、小料理屋の常連である藤村(永井智雄)に連れられて車で江戸川へと向かう場面です。

彼らを乗せた車が走るのは1951年に開通した東京高速道路。この場面ではその車窓から高架上の銀座周辺を望むことができます。また劇中で江戸川方面へ向かう車がやや急な右カーブを曲がることからも、これらの風景は当時の有楽町付近だと見当がつくでしょう。

中平康『泥だらけの純情』(1962)の新宿と渋谷

泥だらけの純情

当時の日活スターである浜田光夫と往年の名女優・吉永小百合の若々しさに満ちた本作は、まさに東京ならではの慌ただしいロケーションの中で撮られていることを随所に感じます。

冒頭に令嬢の真美(吉永小百合)がチンピラに襲われる場面では、背後に「MILANO」のネオン看板を確認することができます。これは昨年の12月31日に惜しまれつつ閉館した新宿の映画館「ミラノ座」の象徴であり、周囲には今はなき「オデオン座」や「新宿コマ劇場」の建物群にも気づくことになるでしょう。

また次郎(浜田光夫)と真美のデートの場面では当時の渋谷駅周辺のハチ公前をはじめ、銀座線の改札口、最近は復刻ブームで見かけるようになった緑一色の山手線なども姿を現します。さらにふたりの愛の逃避行が展開され、目撃者が電話をかける場面ではふたたびミラノ座の看板が夜のネオンの中で煌びやかに輝きを放てば、道玄坂付近の路面帯もこの一連の場面で確認することができるのです。

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映画の中の東京について考える

今回取り上げた作品の他にも、東京の見える映画はたくさんあると思います。しかしここに挙げた名だたる日本の映画監督たちとは、そうした当時の東京の変化や状況に敏感であり、東京の地理に詳しかったことをも物語っています。だからこそこれらの名作は今なお見直され、私たちもまた繰り返しそれらを確かめることができるのです。

そうした都市の面影を念頭に、今と昔の東京を映画のなかで比べて見ることも、今後映画を見るための大きな醍醐味となっていくのではないでしょうか。

 

※2021年12月23日時点のVOD配信情報です。

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  • タカヤマ
    3.2
    戦後を逞しく生きる女性の姿が描かれている。今では考えられない男尊女卑の社会の中で、順応しながらも、自分らしく生きている姿が美しい。戦争の傷跡もそこかしこに描かれている。ただ、映画としての面白みが僕には感じられなかった。誰にも魅了を感じず、誰にも共感できない。ウィットもユーモアもあまり感じられない。スリルもサスペンスもない。それを補うくらいの若尾文子の美しさ、とまでもいかない気がする。
  • 晴海通り
    3.5
    うわー上高地行きのバス!!当時からめっちゃ混んでる!!(笑) 遊び人の“パパさん”、真面目で1番いい男そうだったリリー・フランキーじゃなくてフランキー堺、神様みたいだったけどケチだった“父さん”、イガグリみたいな17歳のコウちゃん、あとハンサム風だけど地味にひどいことする若者…という色とりどりの男性の間を、蝶のように飛び回る若尾文子。思いっきり男女の映画でした。当時の性事情ってよく分からないけど、待合はもろラブホだったり芸者衆もまぁ線引きが曖昧だったり、現在とそんなに変わらない気もする。結局は女も手に職つけて身を立てた方がいい。「断っていいのかい?(怒)」と迫る置屋のおかみさんの怖さ。やり手婆と変わらない。しかし『流れる』然り、置屋の人間関係は情と金が煮詰まってめちゃくちゃめんどくさそうだ(笑) ひとり、しましま駅のホームで佇む若尾文子。もらった腕時計も手放した彼女はどこへ行くのか。父さんの本妻役が山岡久乃で出番少なくて勿体ないです(笑)
  • しろくろ
    -
    女は二度生まれる ここまで靖国神社が出てくるのもなかなか珍しいかも 境内での極端なアングルのショットがキマっている 性依存症のように言われるくだりがあるが実際はどうだったんだろうか それらは男からの偏見で実際は女を巡る環境がそうさせていることも描かれているはず
  • ay
    3.6
    芸者→キャバ嬢→2号さん→また芸者へ。 男に頼り搾取されることでしか生きていけないのか…落ち着いた態度で男をあしらっているように見えて実はやはり家父長制に絡め取られ利用されているだけなのか…
  • めー
    -
    好色女あやや堪能映画だった。ポワポワと男と生きてる単純な感じ、ちょっと引っ掛けるだけで男の気持ちを掻き立てる…これはあややにしかできないな!てか山村聰も優しかったり怖かったりって迫力あるよね笑。ストーリーとしてはタイトル通りなんだけど、全てがうますぎ!さすがだな〜画面から目を離せないな〜あの祭りの画面はすごく好き
女は二度生まれる
のレビュー(1052件)