ロック好きは絶対ハマる!デヴィッド・フィンチャーの「不穏」を音で描くトレント・レズナーの音楽【サントラに耳を傾ける】

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

映画監督・デヴィッド・フィンチャー

デヴィッド・フィンチャー。出世作『セブン』に代表されるようなミステリー要素の強い作品に定評のある映画監督ですが、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』や『ソーシャル・ネットワーク』などのドラマ作品も手がけています。

色調を抑えた暗めの映像が特徴で、色彩、音楽、構図、演出、演技など、それらが見事に統制された精緻な映像には独特の美学を感じます。デヴィッド・フィンチャー監督の作品に感じられる、映像の隙のなさはこれが理由ですね。

トレント・レズナー&アティカス・ロス

『ソーシャル・ネットワーク』から、フィンチャー作品の音楽を手がけている、トレント・レズナーとアティカス・ロス。レズナーは、ナイン・インチ・ネイルズ(以下より、NINと表記)の中心人物で、ロスはNINのスタッフでもあります。NINの音楽からは騒々しさと美しさの両面が感じられます。これらの特徴は劇伴でも活かされ、不協和音と心地よさのあいだを揺らめくその音楽は印象的です

レズナーが手がける劇伴は、アンビエントやドローンと呼ばれるジャンルの音楽が中心です。おそらく、多くの方に馴染みのないジャンルでしょう。アンビエント・ミュージックとは、環境音楽のこと。環境音楽と言われても、ピンとこないと思いますが、個人的な解釈では「空気のような音楽」だと考えています。音楽そのものを楽しむというよりも、空間の表現のために用いられる音楽ですね。

フィンチャー監督の作品は、不穏な空気感に包まれた作品が多いです。とりわけ、レズナーらが音楽を手がけている作品は、どれも不安をあおる描写の連続だと思います。それらの雰囲気を音像で語るには、彼らの生み出す音楽はもはや不可欠だなと思います。冷たくて、硬質な、隙のない映像とハマる、静謐なアンビエント・ミュージックにも耳を傾けてみてください。

以下では、レズナーとロスが劇伴に携わった作品をご紹介。
ぜひ、音楽にもご注目を。

ソーシャル・ネットワーク(2010)

social

Facebookの創設者であるマーク・ザッカーバーグらを描いた作品。主演は、ジェシー・アイゼンバーグ
公開当初は地味なテーマを選んだなと思ったのですが、実際は、非常にフィンチャーらしい作品でした。わたしが彼の作品に惹かれる理由のひとつに、物語を多面的かつ、重層的に描いてる点が挙げられます。『ソーシャル・ネットワーク』は切り口が多く、どの人物の視点から今作を捉えるかで印象が変わると思います。

世界最大のSNSを作り上げた代償に孤独になった、ザッカーバーグ。その元恋人、エリカ。マークの唯一の親友であり、Facebookの共同設立者、エドゥアルド。Facebookを「アイディアの盗用」と訴える、ウィンクルヴォス兄弟など、魅力的な人物ばかり。才能を持ち、非情にも思えるマークへの感情移入は個人的には難しかったのですが、時折見せる人間味には心を動かされました。ラストの未練がましさとも切なさとも言えるマークの行動に胸を打たれた方は少なくないと思います。

『ソーシャル・ネットワーク』は実話がベースの作品ですが、すべてが事実とは言い難く、本作をエンターテイメント性の高い見事な作品に仕上げているのは脚色の力が大きいでしょう。たとえば、イケてる奴(ウィンクルヴォス兄弟)と、イケてない奴(ザッカーバーグ)の対立が描かれますが、ザッカーバーグ本人がそんな劣等感を抱いていたのかははなはだ疑問で、映画のための強調なのかなと個人的には思います。

監修にエドゥアルド本人が関わってるものの、物語は中立的な立場で描かれ、なおかつ、映画全体の雰囲気も非常にグレーゾーンな作風。ザッカーバーグの批判でもなければ、擁護でもありません。映画の構成もFacebookの立ち上げから発展を描いた回想と訴訟の手続きが交互に連なりますが、食い違いもしばしばで、わたしたちに不信感を与えます。しかし、どちらが正しいかは描かれず、答えを出しません。映画全体から醸し出される、このグレーな印象は『ソーシャル・ネットワーク』特有の空気感だなと思います。

【iTunesで視聴する】
The Social Network (Soundtrack from the Motion Picture)

ドラゴン・タトゥーの女(2011)

dragontatoo

ドラゴン・タトゥーの女』は、スティーグ・ラーソンの推理小説「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の実写化作品。失意の経済ジャーナリスト=ミカエルの元に舞い込んだ、40年前に起こった少女失踪事件の真相究明の依頼。ミカエルは、背中にドラゴンのタトゥーのある天才的なハッカー=リスベットとともに捜査を進めるなかで、依頼者のバンゲル家の闇に踏み込むことになる。

オリジナルの「ミレニアム」シリーズは、すでにスウェーデンで2009年に公開。それに次ぐハリウッドでの映画化です。主なキャストは、ダニエル・クレイグルーニー・マーラ。先日、ついに続編の情報も解禁されました。しかし、監督は『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレスとのことで、クレイグ、マーラの続投も不明ですが、こちらも公開が楽しみですね。

フィンチャーの持ち味のひとつは、冷たくて、硬質な映像だと書きましたが、その美しさがもっとも表れてるのが本作だと思います。オープニングのダークな映像からもそれは伝わるでしょう。映像はもちろん、音楽、人物、ファッションなど、どれもがクールで、MacBookを操る手さばきだけでも非常にスタイリッシュ。劇伴はシンプルなピアノのものから、不協和音のようなものもあります。心情の描写と相まりつつも、人工的で温度も感じられない音楽は今作にぴったりだなと思います

また、マーラの役作りも象徴的なものになってると言えます。ピアスだらけの顔面、ドラゴンのタトゥー、真っ黒なファッションと真っ白な肌。そのルックスは『ドラゴン・タトゥーの女』という映画に鮮烈なイメージを与えます。『ソーシャル・ネットワーク』でエリカを演じた女性と同一人物が演じているとは一目では気づけないでしょう。

『ドラゴン・タトゥーの女』はショッキングなシーンも多く、万人に受ける作品ではありません。情報量も多く、一度観ただけでは登場人物の把握で精一杯だと思います。何よりも『セブン』にも通ずるバイオレンスな展開に加え、痛々しい性描写など、嫌悪感を抱く方もいるでしょう。しかし、フィンチャーの描く美学に惹かれるものを感じる方には、ぜひとも薦めたい一本です。

【iTunesで視聴する】
The Girl with the Dragon Tatoo (Original Soundtrack)

ゴーン・ガール(2014)

gonegirl

ゴーン・ガール』は、ギリアン・フリンの同名小説の実写化作品。傍目には幸福に見えるとある夫婦だったが、結婚記念日の朝に妻が突然の失踪。警察の捜査、過激化する報道からの圧力。それらが温厚なはずの夫のイメージを崩し、彼の浮気と不確かな行動が相まって、世間は共通の疑問を抱く。妻を殺したのは、この男なのではないかと。

フィンチャーの現時点での最新作ですね。『ソーシャル・ネットワーク』からの流れを汲む、フィンチャーらしいとしか言いようのない映像表現が極まった作品かと思います。原作者のフリンは本作の脚本も担当。2015年に公開の『ダーク・プレイス』も彼女の作品ですね。こちらも優れたミステリーでした。

主なキャストは、ベン・アフレックロザムンド・パイク。前作『ドラゴン・タトゥーの女』の主人公、ミカエルも少々情けないキャラクターでしたが、『ゴーン・ガール』のベン・アフレックもダメな男を好演。ロザムンド・パイクの美しさは言わずもがな。氷のような冷たさを感じる美しさはフィンチャーの作品のヒロインにぴったりの配役です。

今作の音楽は『ソーシャル・ネットワーク』や『ドラゴン・タトゥーの女』よりもアンビエント色が強めで、抽象的な劇伴に仕上がってます。きれいな楽曲も多いのですが、短めの電子音などの絶妙な違和感が混じり、拭い去れない不安な気持ちにつきまとわれてるようなイメージです。また、サントラのCDを聴くのと、映画を観ながら音楽に耳を澄ますのではやや印象が異なり、後者はくぐもって聴こえ、不安に拍車をかけます。

『ゴーン・ガール』のおもしろさは、どこを切り口に語ってもネタバレに繋がりかねないので、まっさらな状態でご覧になるのがベスト。ぜひ、情報を入れずに楽しんでいただきたいです。物語に触れずに本作を薦める理由を書くならば、それは構成の素晴らしさでしょう。サスペンスの多くは結末にどんでん返しとも言える展開が使われますが、この作品では中盤にそれが起こり、そこから物語の様相、それぞれの登場人物の見方が一気に変わります。
『ゴーン・ガール』は、良質なサスペンスですが、ここで描かれるのは「結婚とは何か?」という普遍的なテーマで、その結末には考えさせられます。人にはそれぞれの結婚観があるかと思いますが、フィンチャーが今作で描きだすそれはある種の真理でしょう。たとえ、そこにロマンや愛がなかったのだとしても。

【iTunesで視聴する】
Gone Girl (Soundtrack from the Motion Picture)

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • nnk
    3.3
    期待していたほどではなく…。 ニックはクズだけど、エイミーは悪魔。 お互い歪んだ関係を死ぬまで続けていくのだろうか。
  • たねくま
    4.5
    今回、初めてゴーン・ガール鑑賞しました。 率直な感想を述べますと、 最高! そして、最高! 更に言うと今回初めて観て 逆に良かったとも思える 作品だと個人的に感じました。 現在の私は、二十代後半の年齢で 先を考えるパートナーもいます。 そんな状況の中で観ると 考えさせられるところ、感じるところがありました。 よくあるのが、家でDVD、ブルーレイの映画を観た後に なんで劇場で観なかったんだー! と後悔することが多いのです (ガーディアンオブギャラクシーとか) ゴーン・ガールに関しては 劇場でも、観たかったなぁと 思いましたが 初めて観るタイミングが現在の年齢、状況であったことが嬉しくもありました。 公開直後の5、6年前? だと、多分観ての感想も違ったと思います。 (女怖ぇー、結婚怖ぇーくらい) 昔と今の感想を比べるのも面白いかもしれませんが、 つまり、この映画は ある程度の社会経験、恋愛経験などした後に観た方がより心に刺さる、 大人のエンターテイメント! だと感じました。 なので、二十代後半以降の方にオススメです! 後、クソ野郎な男と最近、出会った女性の方々にもオススメです スッキリしますよ
  • Chihiro
    3.5
    やっとみた 話の長さを感じないテンポで、終盤にかけてどんどん狂気にみちてく感じ 女って怖いとかそんなレベルじゃなかった(笑)
  • もち
    3.5
    怖い
  • 辺里
    3.6
    うーん、この。 なんとも言えない胸糞感…。 女って怖いなっつーより、やっぱ結婚ってクソやな!って言葉が出そうになる笑
「ゴーン・ガール」
のレビュー(86839件)