陰と陽、どちらの顔にも心奪われる村上虹郎の魅力『武曲 MUKOKU』【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

武曲

「柔軟」。村上虹郎をもし一言で表現するならば、それに尽きる。インタビューを単なるQ&Aで終わらせず、たとえわずかな時間であれ、会話を楽しもう、胸の内を真摯に伝えたい、というコミュニケーションを大事にする人間特有の屈託のなさ、品のよさがにじみ出ていた。形式張っていない柔軟な彼は、ストレート、かつクレバーに、時折悩んだ末に言葉を重ねたりして、出演映画『武曲 MUKOKU』での経験について言葉を紡ぐ。センセーショナルな映画『鬼畜大宴会』で鮮烈デビューを果たし、武骨な男たちを描かせたら右に出る者はいない熊切和嘉監督、そして作品ごとに綿密な役作りでいつも我々を鮮やかに裏切ってくれる俳優・綾野剛とのタッグは、村上にとって、ありあまるほどの幸福な時間だったようだ。ロングインタビューで語った。

――演じた羽田融は剣に魅せられていきます。村上さんは、もともと剣道をやっていたんですよね?

少しやっていました。

――でも、初段ですよね?

初段は少し頑張れば取れると思います。僕は中学生までで、ちょっとしかやっていないので。大人になってからやるよりは(覚えが)早いし、残ってはいると思います。

武曲

――今回、融のオファーを受けての感想はいかがでしたか?

「これは僕だ」っていう感じでした。ほかの誰がやるよりも、僕がやりたいと思いました。

――性格的なこと、剣道のことも含めて、ということですか?

そうです。剣道や音楽とか、自分に似たカルチャーを兼ね備えているキャラクターだったので。原作を読んだときも、小さくて、矢田部研吾(※綾野演じる)に見下ろされている感じの設定だったんです。身長も含めて、大きい人にはできない役だと思ったので「余計、これは僕だ」って(笑)。

武曲

――内面的なものも、村上さんに近しい部分があるキャラクターだったと?

僕とも共鳴するし、共存するというか。僕はラップ自体には詳しくないですし、あまり知らないですけれど、音楽はすごく身近だと思っているんです。あと、融が全編において雪駄を履いているのも好きです。

――靴ではなく、雪駄ですよね。

はい、制服に雪駄という。僕も雪駄が好きで夏によく履きますが、今回は自分が持ち込んだものではなく、最初から雪駄のイメージだったみたいで。衣装合わせに行ったら、雪駄しかなくて。雪駄の種類がたくさんあって「どれにする?」と。最初から楽しい感じでした。

武曲

――劇中では、綾野さんとの絡みが非常に多かったですね。

綾野さんは先輩なので、芝居のことは僕が語るようなことではないですが、本当にやりやすかったです。フィールドを作ってくれました。僕が演じた融はライバル心があって、とがっているし、生意気でも、今回は関係なく「コミュニケーションを取ろう」としてくれる先輩でした。あと、僕が突き指をしたときに、どのスタッフさんよりも早く「アイシングのセット、用意して!」と言ってくださったのが綾野さんでした。そういうサポート能力や気配りは、さすがだなあと思いました。

――研吾との運命的な関わりを経て融は変化をしていきますよね。特にどのあたりを大切に演じていたんですか?

この映画において、一番最後の剣道のフォーマットの中で、人と人とがしっかりと向き合うことがゴールなんです。その先もまた楽しいとは思いますが、ゴールに向かっていくことがすごく大事でした。最初の融を見ていたら、剣道にまったく興味がない。そこに、どう山谷を作るか、何を経て最後の場面にいくんだ、という。もちろんストーリー上は見えていますが、演じている側としては、そこに脚本以上の大事なものが込められていないと、たどり着かないと思うんです。ただ、絶対に面白いものになると信じてやっていたので、特に心配はなかったです。

――クライマックス10分間にわたる台風の夜の決闘シーンが非常に際立っていたんですが、現場でのエピソードはありますか?

あのシーン、実はすごくカットがたくさんあって時間はかかりましたが、スタッフさんが僕たちが暴れるだけという環境を用意してくださったので、割とスムーズにいったのではないかと思うんです……あ、でも指をケガしました(笑)。

――笑っていますが……えらいことでは……?

指を少しエグってしまって、けっこう深くまで切ってしまったんです。でも、アドレナリン全開だったから全然気にならなくて。

武曲

――役に入っているからならではというか、村上さん自身、極限状態にいてそれが快感になることはありますか?

僕にとって俳優という仕事が、まさにそうだと思います。基本的に楽しいよりは苦しいことが多いので、それが快感だと思う職業だと思っています。苦しみがあるから、僕はこの仕事を続けています。のらりくらり過ごせる仕事ってあまりなくて、何だって厳しいんだろうけど。

――大変、ですか?

大変なときもあります。あまり寝られないし、寒いし、季節関係なく撮影を行うこともありますし(笑)。

――今回もありましたか?

海に入りました。9月だからギリギリですけど、夜は寒かったです。。クラゲに刺されました。でも、全部含めて楽しかったと収めていますけど、こう話していると……、意外とありましたね(笑)。

武曲

――熊切組に参加して、村上さんが得たものや感じたこと、どういうものが残りましたか?

印象に残るシーンをたくさん残してもらっているように思いますが、僕は家族の話だと思いました。研吾が父親を昏睡状態に追いやってしまう、そのことに事細かく向き合えないという。研吾が親父と向き合うということが、お互いを解放する儀式みたいなものだったんです。結果、息子は親父の愛には勝てないと僕は解釈していますが、そこまでやらないと人間はわからない。それは、現実世界にすごく通じるものがあると思いました。

――通しで観て、映像的にはいかがでしたか?

熊切監督もそうですけど、脚本の高田(亮)さん、撮影の近藤(龍人)さん、照明の藤井さん、録音の小川さん、美術の井上さん、皆さん、日本を代表する映画を手がけている素晴らしい方が集まっていらっしゃったんです。だから、その人たちのこれまでの作品を超えたいという思いがありました。僕はほぼ初めての方々だったのですが、もちろん皆さんの作品を観ていたので。ご一緒させていただいてすごく勉強になったし、ワクワクしました。

――もともと熊切組には出演したいと思っていたんですよね。魅力はどこにありますか?

はい。熊切監督の作品は人の泥くささというか、人間の弱さを逃げずに描いていて、身体表現としても、決して物静かではなく……、何て言えばいいんだろう。表現が難しいです。

――まずは、熊切さんの作風がお好きだと。

そうですね。映画って観るときのテンションがあると思うんです。ハリウッド映画がいいとか、アニメを観ているときが楽しいとか、今はちょっとドキュメンタリーは観られないとか、そういうタイミングがあると思うんです。そんな中でも、熊切監督の作品は「今、何か衝撃をくらいたい」っていうときに、絶対的に必要な映画で。僕は『私の男』を観たときに「うおっ!」と思ったんです。熊切監督の映画の中では、人はすごく泥くさく醜く生きているけど、でも美しいんです。熊切監督の映像の美意識と重なると、映えるんでしょうね。

武曲

――お話されたように、いつも気分に応じてオールジャンル作品はご覧になるんですか?

そうです。僕はひとつの作品をいつだってずっと観ている、とかはないです。ただ、音楽だとエンドレスリピートしてしまう人なんです。

――だけど、映画はそういう観方をしないで。

はい、映画は。音楽は結構好きなものが限られてくるんです。音楽はジャンルがいろいろあるけど、自分はこのあたりのジャンルが好きだな、あまり好きじゃないな、とはっきりわかるんです。でも映画はもっと幅広い。映画だと、もちろんジャンルもいろいろあって、結構観ているつもりですが、知らない作品が多すぎる。音楽って、国境も超えやすいし、言葉がわからなくてもすぐに通じやすい気がします。映画も本来であって欲しい。『武曲 MUKOKU』は国境をこえて世界の人々に届いてほしいと思います。日本人的な考え方があるし、テーマとしてはすごく面白いと思うので。

――興味深いお話をありがとうございました。ところで、綾野さんもですが、村上さんもお話が上手ですよね。

僕、綾野さんほどではないです(笑)。熊切監督からすれば、おしゃべりが二人そろってしまって、驚異的らしいですが、僕ら現場では抑えました。綾野さんと僕が一緒に取材すると、僕:綾野さん=1:10くらいな感じです(笑)。(取材・文:赤山恭子/撮影:市川沙希)

武曲

映画『武曲 MUKOKU』は6月3日(土)より全国にて公開。

武曲
(C)「武曲 MUKOKU」製作委員会

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • ミライ
    2
    見た
  • ヨッシー
    3.5
    記録用
  • gustave
    2
    内容以前に、音響のバランスが悪すぎた。劇伴の音量は普通なのに、セリフはMAXにしてやっと聞き取れる位。 音量調節に気を取られて全く話に集中できないまま迎えたクライマックスの決闘シーンは、狂気が一周してギャグにしか見えなかった…
  • akie
    3.6
    綾野剛も村上虹郎も良き
  • ただのすず
    4.2
    不立文字。 言葉になる以前の心と心。 舞台は北鎌倉、浄智寺、建長寺、稲村ヶ崎。 剣の道。父と子、師と弟子、決闘。 受け継がれる禍々しい漆黒の木刀と、 志を踏み付けるように次々とへし折られる竹刀。 防具を外して打ち合うと途端に殺し合いと変わらないものになる。 人を殺してしまうかもしれない力を学ぶ、という怖さを改めて感じた。 時代は現代。 なのに時代劇を観ているような迫力と錯覚。 こんなことが出来るんだという驚き。 ラップ好きの男の子が竹刀を蹴飛ばして絡まれたとこから剣道をはじめ、 アル中狂人ざんばら髪で侍のような綾野剛と決闘するまでの話。わかり易い。 小林薫、柄本明、囲む役者もとんでもなく豪華。 村上虹郎という役者さんが特にとんでもなかった。 けど、何より画面の色彩が美しくて好き。 心情を表したように全体が暗く硬質で冷たい。 鎌倉の深い緑、朽ち果てて雑草が生い茂る夢の跡のような生家。 雨の中の決闘と死の入り口に立った時の青や紫の妖しい光。 泥に塗れ狂気と亡者と向かい合う。 どのシーンもしっくりくる。野性味溢れて格好いい。 姿も形もない恐怖と向き合うということ。 只管一人で竹刀を振り続ける姿が身悶えするほど美しい。 そして繋がったのが手紙で言葉であったというのも好き。 熊切監督って原作が小説であるものが多いので。 今後も追いかけたい。
武曲 MUKOKU
のレビュー(2319件)