血のつながった家族と、血のつながらない家族―。人間のエゴや価値観のズレを突きつけられる映画『幼な子われらに生まれ』は、親子関係の脆さと尊さも包み隠さずに描いた1作だ。本作にて、主人公のサラリーマン・田中信(浅野忠信)と、再婚した妻・奈苗(田中麗奈)の間に連れ子として共に生活している不機嫌な長女の薫を演じたのが、新星・南沙良だ。映画初出演、さらには演技初挑戦ながら、浅野と田中というベテラン俳優を相手に、不安定な薫という物語のキーパーソンを等身大で堂々と演じた。「ずっと女優になりたかった」と意欲を見せる南に、初めて尽くしの現場で受けた洗礼を教えてもらった。
――元々、女優をやりたい気持ちはあったんですか?
はい。小さい頃から、ずっと女優さんになりたかったんです。
――約200人のオーディションを勝ち抜いたそうですね?
そうなんです! お芝居をして、三島(有紀子)監督と面接をしました。演じる薫についての話をしたんです。「原作を読んでどう感じたの?」と聞かれたので、「すごく複雑な子だと思いました。親子関係や夫婦関係など、いろいろな家族の形が描かれていますね」と答えました。重たい話ですけれど、すごく温かみのある作品だと思って読んでいたんです。
――複雑な環境下の中で生まれる鬱屈した気持ちや、思春期特有の揺れを繊細に演じていらっしゃいました。南さんは、薫をどう受け止めて演じていたんですか?
私は原作を読んで、(感情を)うまく表現できない不器用な子だなと思っていました。無愛想だったり、ぶっきらぼうだったりするけど、その中に薫なりのやさしさ、素直さ、正直さなどが実は存在しているんですよね。薫の演技については、三島監督とすごく話し合いを重ねました。
――具体的に、どのような話し合いをされたんですか?
薫の不器用な性格において、どうやって、やさしさや素直さを表現するかということを、すごく話し合いました。家族について、お父さんについて、薫は一体どう思っているのか。薫の考えていることが、「表情や動きで表現できるといいね」ということになり、リハーサルを何回かやって、確かめてから本番に行く、みたいな流れでした。あとは順撮りだったので、気持ちが入りやすくて、すごくやりやすかったです。
――演じた薫は実年齢に近いですよね。家族に対する思いで理解できるところもありましたか?
薫が義父に対して反抗的な部分がありますけど、私も当時、父とそんなに仲良くなかったんです。喧嘩したり、言い合いになったりしたので、そこは共感できました。でも、喧嘩の内容はくだらなくて……、私に似合わない洋服を買ってきたとか、テレビのチャンネルの奪い合いとか(笑)。
――ダークな内容ではなくてホッとしました(笑)。薫の不器用さの面で、何かしら自分と通じるところはありますか?
私も感情を上手に表現することがあまりできないので、そこは共感できました。
――あまり表に出さないんですね。
出さないわけではないんですけど、どう表現していいかが、よくわからなくて(笑)。
――例えば「うれしい!」と思ったときは言えますか?
ああ、はい! 言えます! 反対に「嫌だなあ」と思ったりしたときは、あまり言えないんです。
――撮影現場でつらいときとかも、胸の内にしまっていたんですか?
それが、なかったんです。撮影は本当に楽しかったです。
――初めての現場で、緊張もしなかったんですか?
スタッフさん、共演者の皆さんが本当に温かくて、優しく接してくださったので楽しかったです。雰囲気が本当によくて、リラックスして演技できました。
――義理の父親役の浅野さんの印象はいかがでしたか?
本当に透明感がすごいんです! 浅野さんは透けているんじゃないかっていうくらい。最初すれ違ったときに、透けていて一瞬気づかなくて(笑)。
――そうなんですか(笑)!? スクリーンでは存在感として映えますが、お芝居で圧倒されるようなことはなかったですか?
三島監督に「お芝居をするよりも、キャッチボールを大切にしてね」とすごく言われました。浅野さんは、本当にコミュニケーションも取ってくださいました。私がやって、返されたものに対して、素直に感じたものを表すように心がけていました。
――カメラが回っていないところでも、コミュニケーションを取ったり?
そうです。浅野さん、すごく優しいんです。私が撮影期間中に誕生日だったんですけど、浅野さんや三島監督がケーキを用意してくださって!う れしかったです。しかも誕生日プレゼントも用意してくださって。スニーカー、浅野さんのバンドのキャップとトートバッグ、私がすごく好きな声優さんのライブDVDまで、たくさんもらいました。妹役の(新井)美羽ちゃんもプレゼントを買ってきてくれて……。皆、とっても優しかったです。
――いっぱいいただいたんですね(笑)。母親役の田中さんは、いかがでしたか?
麗奈さんは本当に明るくて、面白い方でした。休憩中もすごく話しかけてくださって、一緒にお話をしたり、写真で遊んだり(笑)。あとは麗奈さんが現場でお料理を作ってくださったので、そのお手伝いをしたりもしました。
――本当の家族みたいですね。素敵な共演者の皆さんと挑んだ完成作、初号は皆さんでご覧になったんですか?
そうです。三島監督とは終わってから少しお話をして、「お疲れさま、本当にありがとう」と言ってもらえて、すごくうれしかったです。またご一緒したいです。
――自分の演技については、いかがでしたか?
いやぁ……もう、自分のところは恥ずかしくて全然観られなかったです(笑)。「私ってこんな風に映るんだ……」って思いました。客観的に見つつも、「自分がいる……」と。
――とはいえ、客観的に見られた面もあったんですね。率直に、どんな感情が残りましたか?
作品を観る前は、親子や夫婦、兄弟、家族はひとつの形だと勝手に思っていたんです。ただ、この作品を観ると、家族の形はたくさんあって、表現も一通りではないですし、温かいものなんだと改めて思いました。いいものだなあ、って。
――これから女優としてキャリアを重ねていくと思いますが、目標は立てていますか?
ひとつの型にはまらないでいたいと思っています。たくさんのイメージを持っていただけるような女優さんになりたくて、本当に、今は何でもやりたいです。(取材・文:赤山恭子/撮影:市川沙希)
『幼な子われらに生まれ』は8月26日(土)より、テアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
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