オリジナル作品で成功した英国出身の鬼才エドガー・ライト、ハリウッドの「今」語る【インタビュー】

2017.08.17
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

銀行強盗をして逃げるというシンプルなオープニングを、疾走感あふれるカーチェイスと軽快なBGMで魅せ、冒頭から「間違いなく面白い作品だろう」と確信させてくれる映画『ベイビー・ドライバー』。メガホンを取ったのは、イギリスが生んだ鬼才エドガー・ライトだ。ライト監督自身、大の映画好き&マニアであることを告白しており、様々な名画のオマージュやこだわりが作品内に点在する愛あふれる切り口も、映画ファンの熱い支持を受けている。その才能は、クエンティン・タランティーノギレルモ・デル・トロといった才気溢れる監督陣も認めるほど。すでに公開された全米では大ヒットを記録しており、待望の日本公開が待たれるなか、ライト監督が来日、本作の見どころをFilmarks読者に向けて語ってもらった。

エドガー・ライト

エドガー・ライト

エドガー・ライト監督、期待の新作『ベイビー・ドライバー』を引っさげ来日

――アクションと音楽の融合が完璧な映画です。どのように全体のトーンを決めていかれたんですか?

監督の仕事というのは、撮影の日々の中でトーンというものをコントロールすること、現場できちっと保っていくことじゃないかなと思っています。アクションのリアリティー、音楽のチョイス、キャラクターがどんなリアクションをするのか、役者の演技の大小まで、世界観とトーンのコントロールは監督がやるべきことです。とは言っても、僕の場合は本能的な部分がすごく大きくて、撮影する前から「こういう映画になるだろう」と作品のあるべき姿が見えているんです。想像したものに仕上がっていきました。

ベイビー・ドライバー

――見どころのひとつ、カーアクションではほぼCGなしで撮ったそうで、脱帽しました。

ベイビー・ドライバー』でなるべく物理的にアクションをやったのは、やっぱりリアリズムに寄与するからなんです。作るほうも、観るほうも、実際にリアルでやっているほうがワクワクしますしね。もしも観客がVFXに対して理解度が全くなかったり、CGに全然詳しくないとしても、映像がリアルかどうかっていうのは観ていて分かるものなんです。だから、本当にやっていると、やっぱりリアルなものとして観客に伝わるという利点があります。それから、僕自身、カーチェイスを作るのに、実際の道路で撮らないで全部デジタルでやるのは、なんか奇妙な感じがしたんですよね。実際にやりたかったっていうのもあったんだけれど。

ベイビー・ドライバー

――今のお話もそうですし、コメディやスリラーなど様々なジャンルをミックスしたり、名作映画のオマージュを織り込んでいたりして、常に観客を楽しませる視点がありますよね。監督のスタイルを作った原点はどこにあるんでしょうか?

原点って「これです」と答えるのに、すごい難しい質問ではあるんですよね。僕はもちろん映画や音楽が大好き。さらに、文学や、いろいろなアートへの愛情、それからやっぱりその人の人生経験というものがプラスされて、人の感性が作られていったり、磨かれていくと思うんです。様々なものを見ているし、インスピレーションも受けるんだけれど、確かに自分というフィルターを通して、吸収しているわけで。そういったことを考えると、自分の手掛けた作品、そして特に『ベイビー・ドライバー』に関しては、いろいろな自分の愛するものや、パッションをひとつにしている作品なのかもしれないね。

ベイビー・ドライバー

――劇中、主人公ベイビーと、お相手デボラの恋愛パートもすごく素敵で、中でもコインラインドリーの色彩の豊かさが気分を盛り上げます。ああした演出のヒントはどこから得ているんですか?

ベイビーがデボラといるとき、世界観がより色彩のあるものになるのが、すごく面白いんじゃないかと思ったんです。デボラが勤務しているダイナーというロケーションは、もともと色彩がある場所でもあるし、そういうことも意識していたんです。コインランドリーのシーンのことは、それぞれ回っている洗濯物の色が違うところを言っているんだよね?

ベイビー・ドライバー

――そうです!

あれは面白いんじゃないかと思ってやってみたことではあったんだけれども、映画の中でミュージカル的要素があるとすれば、あのシーンが一番、色濃いんじゃないかなと思うんです。『シェルブールの雨傘』とか、ジャック・ドゥミとか、ジーン・ケリーとか、MGMの作ったミュージカルとか……、いわゆるミュージカル映画らしいシーンに仕上がっているんじゃないかと思うし、そういうことをするのであれば、この作品の中でロマンティックな部分でやるのがいいのかなあと。

ベイビー・ドライバー

――カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』とも評されていますよね。ライト監督にとって、映画と映画音楽の関係とは、どのようなものになりますか?

映画と音楽が、共にすごくうまい形で作用している作品が、僕は大好きなんです。ただ、そのやり方はいろいろあると思っていて。例えば、素晴らしいモーション、スコアがある場合もあれば、まったくその音楽を使っていないという作品もあるし、今回の作品のように既存曲とスコアを一緒に使っている場合もあるわけですよね。『ベイビー・ドライバー』において、すごくいいなと思っているのは、全部その物語の中で理由があって、ちゃんと物語と合致した形で曲が存在していることなんです。つまり、関係なく曲が流れているわけじゃない、ということ。やっていてすごく、面白いところでした。

ベイビー・ドライバー

――近年のハリウッドでは、ベストセラーやフランチャイズ系の物語が多く、『ベイビー・ドライバー』のような完全オリジナル作品は貴重だと思います。オリジナル作品を作る意義、重要性をどう思っていますか?

オリジナル作品がすごく重要だという気持ちは、今も昔も全然変わっていません。シリーズものと同じくらい、オリジナルのアイデアは映画として存在するべきだと思っています。ハリウッドのスタジオがシリーズにかける時間を、新しい作品にも同じくらいかけることができれば、もっと多様性のある映画界になるはずなんですよね。

ベイビー・ドライバー

――そして、今『ベイビー・ドライバー』が興行的にも内容的にも高い評価を得ていることは非常にうれしいことですよね。

オリジナルものを作って、どういうふうに受け止められるかは正直わかりませんでした。特に、プレス(映画記者)の方は、オリジナルのアイデアでちょっと上手くいかないと、「いやー、観客はやっぱりオリジナルのアイデアなんて観たくないんだよ」って書かれちゃうので……。オリジナル作品であることのプレッシャーは、すごく大きかった。

その分、夏のシリーズ大作の中にありながらも、オリジナルのアイデアである『ベイビー・ドライバー』が非常に興収を上げていて、評判も非常にいいっていうことは、それだけ成功しているということで、すごくうれしくもあります。もし自分の作品ではないとしても、オリジナル作品がこれだけ頑張っているっていうことが、僕はすごくうれしく思っていたと思う。それだけオリジナル作品の存在は、重要なことです。

ベイビー・ドライバー

――ライト監督は元々英国出身で、現在はロスに拠点を移されていて、ふたつの国のカルチャーから刺激を受けていると思うんですが、ロスにはどのようなよさがありますか?

都市によってアート、映画、写真、コメディ、音楽など、強みがいろいろありますよね。やっぱりニューヨークやロンドンだと、劇場のお芝居がとても強い都市です。そう思うと、ロスはお芝居は強くないんだけれども、実は映画以外にも面白い場所があって、音楽とコメディがすごく成功して、活き活きとしているシーンがあるんです。街ごとにオプションは変わってくるんだなあ、という認識です。

エドガー・ライト

――コメディもなんですね。ロスで生活していて、コメディセンスも磨かれたな、的瞬間はありますか?

そうでもないかな(笑)? どちらかと言うと、やっぱり旅をすることで、より違ったユーモアに触れて、そのことによって自分のセンスというものが幅広くなる、という感じに近いかもしれません。今はインターネットやTwitterがあるよね。それらのすごくよいところでもあり、強みだと思うのは、例えばイギリスから離れて暮らしていても、現地で起きていることが、人のちょっとユーモラスなツイートを見るだけでフォローすることができること。僕自身が好きなのは、いろいろなことをたくさん知っていること、常にたくさんの情報に触れているっていうことなんです。(取材・文:赤山恭子/撮影:市川沙希)

『ベイビー・ドライバー』は8月19日(土)より、新宿バルト9 他全国ロードショー。

ベイビー・ドライバー

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  • おくま
    4.0
    ツッコミどころの多い話ではあったけど、 最初から最後まで全速力で突っ走る爽快感は最高! 爆音上映で観たので一層音楽に入り込むことができ、テンション上がりっぱなしでしたー! 観た後イヤホンでサントラを聴いて気分はすっかりベイビーです。
  • あおき
    4.0
    ワイスピを4DXで観てサイコーだったのでベイビードライバーもそうしよう、と思ってたら上映期間すぎてて諦めてたけど、新宿ピカデリーで爆音上映してたから鑑賞。 爆音って慣れるんじゃないか、って思ってたけど爆音は音楽のところだけなのかな?爆音で流れる音楽がシーンとマッチしてるからめちゃくちゃテンション上がってサイコーだった…。 チェイスのシーンもめちゃくちゃカッコよかったしハラハラしたしキャラひとりひとりもかっこよくて観終わったあと自分も謎に気が大きくなってました。
  • St6
    3.8
    犯罪組織の“逃がし屋”として活躍する若きドライバー、通称【ベイビー】。子供の頃の事故の後遺症で耳鳴りの激しい彼は、iPodに入れた音楽を聴くと、天才的なドライビング技術を発揮する...。 数多く名作の存在する“犯罪映画”というジャンルの中でも上位に入る面白さだったが、それ以上に魅力ある俳優が魅力ある演技で魅せてくれた。 もはや他に適任の見当たらない主演アンセル・エルゴートのハマりっぷりに感動し、 控えめに言って天使の、“元シンデレラ”リリー・ジェームズの可憐さに癒され、 強烈な印象を残すヒールを演じ切ったジョン・ハムの怪演に感嘆し、 色気ムンムンのエイザ・ゴンザレスのセクシーさに興奮し、 久々にクソみたいな役を演じるジェイミー・フォックスを見て新鮮さを感じ(?)、 そして結果的に一番美味しいところを持っていったケヴィン・スペイシーの演技の安心感に切なささえ感じた。 (この撮影の1年半後、過去のセクハラを告発されハリウッドから事実上追放されることになるケヴィンだが、この役は彼にピッタリの役柄だったし撮り直しにならなくて良かった。本当に惜しい...なんでセクハラなんてつまらん事したんだケヴィン...) 似た感じの内容の作品でライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』があるが、あちらとは色んな意味で真逆の造り。悲哀と残酷さを押し出したあちらと、クールとスタイリッシュを押し出したこちら、どちらもテイストこそ違えど、楽しめる内容だった。 何より“レコーダーに録音した他人の音声を使って曲を作る”とか、“犯罪の時間に合わせて再生した音楽をリアルタイムで微調整する“とか、そんなこと思いつく作り手のセンスが凄い。 終盤のベイビーVSラスボスのカーバトルのクオリティも圧巻。その他のアクションシーンに関しても非の付けどころの無いものばかりだったように思う。 そして、好きな子とドライブをしたかっただけという純朴すぎる主人公で良かった。これが若気の至り全開の、金も女も欲しいぜヒーハー的な主人公だったら、この作品をきっと好きにはなれなかった。 養父を気遣い、一般人を犯罪に巻き込まないように行動するという優しい性格も、終盤でちゃんと報われる場面が出てくるし、不思議と鑑賞後はほっこりした気持ちになれた。 ...と良いところはいっぱいあったけど、正直あまりノレなかった作品だった。 『キングスマン』ほどアクションと音楽が融合しきれていなかったように感じたし、俳優たちの演技は完璧でも、映画の中の登場人物としては魅力に欠ける、というか主人公以外あまり深く内面描写を掘り下げないので、悪人にしか見えなかったヤツが、終盤で突然カッコよく散っても、違和感の方が強く残ったかな...。 ストーリーも重みが無くて淡々と流れていた印象が強く、また見返したくなるような気持ちにはなれなかった。残虐な描写もそれなりにあるしね。 ※ちなみに『“ベイビー”があなたの名前?ならこの世の曲、全てがあなたの歌よ、永遠にドライブできるほど曲があるわ』『ガス欠になっちゃうよ』ってやり取りが、なんだか好きです。
  • みえこふ
    3.9
    映画館を出ると外は寒いが、高揚感のある映画を観た後は、心と体がホカホカしてるのか、帰り道はあまりつらくなかったw よく行く店のバーテンダーさんがイチオシで、音楽好きならハマるかもとおススメしてくれたので、気になって観に行ってきた。 音楽に乗って、一見おっとりタイプなフツーの青年が、巧みなハンドルさばきと猛スピードで追手をガンガンぶっちぎるカーアクション。女子もキュンキュンしますよー! 70年代〜90年代くらいの、ロックやソウルやヒップホップなど、場面や動きに合わせて、ときにミュージカル風な演出もはさみながらいろいろなジャンルの音楽がつながっていく、音へのこだわりが効いた作品。 会員様なのでギンレイホールで観たけど、やっぱ新宿ピカデリーの爆音で観られた人はいいなぁ! さらにアガるよねぇ、きっと。
  • TK
    3.8
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「ベイビー・ドライバー」
のレビュー(32726件)